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207話 これからの予定其の四




 オフェリル様との話がひと段落すると、それを待っていたかのようにフェイが口を開いた。


『それはそうと、艦長マスターに姉さん、実を言うと二人に説明しなくてはならない事があるのです』


 その言葉に必要以上にドキリとさせられる。


「な、何? なんか面倒な事じゃないよね?」


 正直、これ以上何も起きてほしくないのです。お願いだから、ゆっくりと休ませて……。

 そんな切実な願いを込めていたのだが、フェイは淡々と話しを進めた。


『状況が状況でしたので、またしても私の独断で進めてしまったのですが、実は重力コントロール装置の修復が出来たのは、ルークだけの力ではないのです』

「お、おう……」


 そう言えば、確かスミスも協力していたんじゃなかったかと思い出す。

 あれ? そもそもスミスはサポートAIであるから、艦外に出ての活動は出来ない筈。ではどうやって?


『では、二人とも出てきてください』


『はい……』

『やれやれ、めんどくせぇな』


 と言って岩山の後ろより現れたのは、二つの人影。

 一人は、眼鏡をかけた背の高い痩せ型の男。もう一人は、浅黒い肌をした筋骨隆々の男だった。

 どちらも、見覚えのない顔つき……だが、二人ともアルドラゴのユニフォームを着込んでいる。痩せ型の男は紺色がメインカラーとなっており、マッチョ男は黄土色だ。一体、何者?

 ……いや、痩せ型の男はよくよく見ると見覚えのある顔つきをしている。


 髪型が違うし、眼鏡をしているため印象が違ったが、この男は……確か……


「ア、アーク?」


 俺はたった一度しか会っていないのだが、この男は確かにアウラムの部下として行動していた、アルドラゴの元サポートAI……アークの筈だ。

 なんで? なんでこの男が此処に?


『どうもお初にお目にかかります、マイ艦長マスター。私は、設計士アーキテクトのサポートAIです。何やら、私の同型がご迷惑をおかけしたようですが、どうかご容赦ください』


 と、アークに似た男は優雅に頭を下げて自己紹介をした。


 はえ? 同型? どういうこっちゃ?


『はい、彼は我々と敵対したアークではありません。いえ、本人であると言えば本人なのですが、少なくとも同じ存在ではありません』


 フェイの言葉に、俺は改めて目の前のアークらしき男を見据える。

 まぁ確かに見た目で言えば少し違う印象を受ける。でも、フェイの言いたいことはそういう意味ではないのだろう。


『地下の動力室で対峙した際、彼のデータの一部を奪取する事に成功しました。記憶を含めたデータの復元には至りませんでしたが、元々の設計士アーキテクトのAIのデータは無事でしたので、そこからデータを初期化して再起動しました。今は、こうして遠隔操作で戦闘用アンドロイドのボディを動かしている状態です』


 なんでも、このボディ自体はアークに遭遇してから、当人がいずれ戻ってくることを想定して、密かに作っていたものらしい。

 中身的には、烈火吹雪と特に変わりは無いらしいとの事。言ってみれば、二人のスペアボディのようなものらしい。ただ、フェイスマスクだけは元のアークとほぼ同じにしてある。こちらの造形加工は、割と簡単にできるらしい。


『本来ならば艦長の判断を受けてから起動するべきものでしたが、相談している時間がありませんでしたので、私の独断で起動させた次第です。

 というのも、重力コントロール装置の修復には、どうしても彼の力が必要だったものですから……』


 アークの本来の役目は設計士。破壊された重力コントロール装置の破損個所を計測し、代用出来る部品を作り出すためには、メカニックだけの力では無理だったのだ。

 まぁ、その甲斐あって修理がうまくいったのだから、俺から文句が出ることは無い。

 とりあえず俺がはっきりさせておきたい事は一つだ。


「つまり……あっちにもアークは居るが、こっちにも居るって事?」


『まぁ……そういう事ですね』


 ふ、複雑。

 だが、アークがこっちに来てくれたこと自体は素直に嬉しい。だって、元々こっちのものが奪われたんだものな。だから、こっちにあるのが正しいのだ。

 尤も、あちらサイドにも同じ存在が居るってのは、ちょっと残念でもある。あちらのアークは、これからも不本意な行動をさせられるという事だ。


 最後に遭遇した際の彼の横顔が思い出される……。


「じゃあ、やっぱりあっちのアークもしっかり助けてやんないとな」

『『え?』』


 ポツリと呟いた俺の言葉に、フェイとこっちのアークの声が重なる。


「だって、あっちとこっちは同じ存在であっても、あくまで別人なんだろ? だったらあっちも助けてやんないといけないだろう」

『いえ、あちらがデータを消去すれば、自然とこちらのアークだけになりますから、わざわざリスクを冒す必要性は無いと思うのですが……』

「良いんだよ。そんなの俺のただの気の持ちようなんだ。それに、まだあっちにも利用されているAIが居るかもしれないしさ、助ける事には変わりないさ」


 俺がそう言うと、何故かポカンとしているアルカ、ルーク、フェイ、そしてこっちのアークのAI組4人。

 ……そんなに変な事言ったかな?


 そう思っていると、こちらのアークが俺の前に立ち、バサリと片膝をついた。


「うおう!」

『私の同型が迷惑をかけたというのに、その懐の深さ……感銘を受けました。改めて、貴方に忠誠を誓います。マイ艦長マスター、これより私は貴方の剣となりましょう』

「……微妙に拙者とキャラが被っているでござるな……」


 なんかゲイルが何か呟いたような気がしたが、声が小さくてよく聞き取れなかったな。


『私は設計士アーキテクトのAIにつき戦闘は専門ではありませんが、このボディをフル活用して必ず役に立って見せます』

「いや、無理して頑張る必要はないでござる。益々拙者と立場とキャラが被る―――」


 またゲイルが何か呟いているが、はっきり言わないとよく聞こえないのですよね。

 ともあれ、今はこちらのアークである。


「ともあれ、君の力が無ければ重力コントロール装置の修復は出来なかったんだろう? だったら、お礼を言うのはこっちの方さ。

 それに、あっちのアークの力は十分見せてもらった。あの力が味方になるのなら十分すぎるくらい戦力に―――」


 ん?

 あっちのアーク、こっちのアークといちいち呼称が面倒だな。

 いっそ、こっちのアークにも固有名称を与えてやるべきか。


設計士アーキテクトのサポートAI……君には、アークMarkⅡ……通称“マークス”の名を与える。その力、アルドラゴで存分に発揮してくれ」


 マークツーを人の名前っぽくしたのでマークスである。


『マークス……それが私の名ですね。御意……この命、艦長マスターに預けます』

「いや、そんなに大げさな事でもないんだけどね」


 俺としては、もうちょっとフレンドリーというかアットホームな感じを目指したい。


 とりあえず、これで新たな仲間……マークスが入り、こちらの陣営は強化されたといっていいだろう。ただ、あちらにもまだアークは居るようだから、結局のところ戦力的には変わらない。

 それでも、同じ存在では無いにしろ、あのアークがこちらの仲間になったというのは素直に嬉しい。


 さて、残るは一人だ。

 もう一人の浅黒い肌のマッチョ男は、全く俺の知らない奴だぞ。何者や。


『ほら、貴方からも何か言ったらどうですか?』


 フェイがマッチョ男に近づき、その男の脇を肘でつつく。


『いいや言いたくない。そもそも緊急事態だからという理由でこのボディに入る事を了承したんじゃ! 役目が終わったのなら、早々に帰らせろ!』

「!!?」


 んん!?

 この声……聞き覚えがあるぞ。

 まさか……まさか……


「お、おやっさんなのか?」


 恐る恐る俺が問うと、浅黒い肌の男は「チッ」と舌打ちしてそっぽを向いた。


 その反応、マジか? マジなのか!?

 という事は、この謎の男の正体は、アルドラゴのメカニック担当……スミスその人であるという事になる。


「なんで? なんで人の身体してんの!? しかも若いし! ……って、ああこれもアンドロイドのボディか。でも、なんでまたおやっさんが……」


 ずんぐりとした円柱ボディでのスミスしか知らないので、その違い様にびっくらした。

 というか、スミスの年齢はイメージでは50~60代という感じだった。それに引き換え、今の姿はどう見ても30代程度。流石に若すぎる気がする。


『仕方ねぇだろうが。艦外で活動するためには、こっちのボディに乗り換えねぇといけぇんだからよ。全く、動きにくいわ、窮屈だわで散々だ』

「あ、そういうものなの?」


 俺としては生まれてこの方この身体のままなので、その辺の感覚は分からない。


『このボディは、別にスミス専用という訳ではなく、ある程度の年齢を重ねた外見……という者をイメージして作ったものです』


 フェイの説明によると、あまりにも若い人間ばかりがチームメンバーであると信用を得るのが難しかったり、トラブルに巻き込まれる率が高くなるので、今回テストもかねて加齢ボディなるものを作ってみたとの事。


 なるほど、新たに手に入れた遠隔操作技術があれば、スミスたちサポートAIもこのようにアンドロイドボディを使って艦外活動が出来るのか。

 思い返せばナイアだってこの遠隔操作技術によって《アリエス》を稼働させている。

 そして、戦闘用として作られた烈火と吹雪……この事実は俺の中で燻っていた問題に、一つの回答策を与えたのだった。


「そうか……戦闘用アンドロイド……それだ!!」


 突然叫んだ俺へと、多くの視線が集まる。


「これからの予定を発表します!」


 俺の言葉に、アルカ、ルーク、ゲイル、フェイ、ヴィオのクルーメンバーが気を付けの姿勢をとる。最早条件反射だな。

 今ここで? という疑問が皆の表情から見て取れるが、今思いついた事は今言いたいのです。


「アウラムの奴は、俺たちに対抗して自分だけのチームを作ると言っていた。でも、既に知っている通りアウラムは強く、その仲間である奴らも厄介だ。だから、俺たちももっと戦える味方を作らなくちゃいけない」


 それに、今回みたいなことが起きると、やっぱりチームメンバーももうちょっと増やした方がいいと思うようになった。

 敵が数で攻めてくるとなると、現行の少人数体勢では限界がある。


『それで、アンドロイドですか?』


 俺たちの問題にこの世界の人間を巻き込むのは、やはり気が引ける。

 それに、いずれこの世界から去るつもりの俺たちが、この世界の人間を仲間に引き込む訳にはいかない。やはり、そこの線引きはするべきだろう。

 その点アルドラゴのAIたちならば、既に信頼関係は構築されている。彼らが戦闘用アンドロイドを使って戦闘に参加してくれるのならば、色々な問題が解決する。


「烈火に吹雪、そしてマークスとおやっさん。更にナイアも《アリエス》を使えば前線でのサポート体制も万全に行える。そしてノエルのおかげでアルドラゴも普通に飛べるようになった。これなら、アウラムの奴が何をしてこようと十分迎え撃てる!」


 まあノエルに関しては、あいつの意見も聞かないとダメなんだけどな。

 俺の中ではノエルは既に暫定的な仲間だ。


 また、今の俺の言葉を聞いていたアンドロイド組はそれぞれに態度を示す。


 まず目を輝かせて俺の前に立ったのは、いつの間にやらアルドラゴより降りていたらしい最初に加入した双子だ。


『い、今の言葉……って事は俺たち、これからも一緒に居ていいのか?』

「何言ってるんだ。既にお前たちも立派なアルドラゴのクルーだろ。ただ、俺たちの戦いに参加する以上、失うのは腕だけじゃない……もっと悲惨な事になるかもしれないぞ。それでもいいのか?」

『何言ってやがる! 良いに決まっているだろう!!』

『ああ! 先生の力になる事こそ、我々とオリジナルの悲願なのだ!!』


 もう涙も流さんばかりの感激の様子だ。ここまで嬉しそうな顔を見ると、なんだかこっちも嬉しいし、ほんの少し申し訳なさがあるな。

 彼らは元々のアルドラゴAI組と違い、ミカとジェイドの人格をインストールされた……言ってみれば、記憶も何もかも失った二人のクローンのようなものだ。

 彼らが俺の前に現れた時、最初こそわだかまりを感じたが、こうして接するうちに、あの二人とは違う新たな存在だと認識することが出来た。

 だからこそ、戦いに巻き込んでしまう事にちょっとした抵抗はある。彼らは死や消滅すら覚悟の上だというが、もしそうなったら俺が耐えられそうにない。


 ……いや、だからこそ俺も強くなる必要がある。

 こうして増えた仲間たちを、誰一人として失わない力を身につける必要があるのだ。


 そうして新たな決意を胸に俺はアークMarkⅡことマークスへと向き直った。

 

「アークが使っていたあの兵隊を生み出す力……君も使えるか?」

『データを見る限り、アレは魔法と私の能力との複合技……習得にはそれなりの時間が掛かりそうです』


 出来るとは思うが、時間はかかるという事か。

 あっちのアークの能力に対抗するためには、こっちも同等の力が必要となる。

 ……いや、そもそもあっちの猿真似をする必要もない。こっちには、メカニックAIのスミスも機械操作の管理AIたるルークも居るのだ。あっちのアークには出来ない事だって出来る。


 ふふふ……何やら、アイディアが湧き出てくるぞ。

 こいつは面白い事になりそうだ!


『何やら、よからぬ事を考えている顔ですね』


 気が付けば、アルカが隣に立っていた。

 こちらを見て、何やら呆れ顔をしている。


「よからぬ事とはなんだ。アイツらに対抗するための、起死回生のアイディアだぞ」


 アルカはふぅと息を吐くと、にっこりと笑みを浮かべた。


『まぁ、良いですけどね』

「どうせ、付いてきてくれるんだろ?」


『当然です。私は貴方のものですからね』

「!!」


 その言葉に思わずドキリとしたぞ。

 いやいや、確かにそれはそうなんだけどさ。何か変な意味合いに受け取れるから止めてくんないかね。


『ねぇねぇ、ぼくも当然一緒だからねー』

「拙者も仲間外れにするつもりではないでござろう?」

「アタシも、あのヤロウの顔をぶん殴らないと気が済まないからねぇ。当然付き合うぜ」


 とまぁこんな感じで後ろからわちゃわちゃとした声がする。


 あぁ……やっぱり、こういうのって良いな。

 この島に来てから、やっと心の底から安心出来た気がするよ。


『ところでよぉ……さっきから既定路線みたいに言ってるけどな、ワシゃこの身体で戦うなんざゴメンだかなぁ!』


 すると、スミスからそんな声が飛んできた。


「ええー? そんな、一緒に戦ってくれよぉ!」

『ワシはメカニックだ! 戦闘に参加なんてまっぴらだ!!』


 ぷりぷりしながらアルドラゴへと帰還しようとするスミスの後を追いながら、俺は思わず空を見上げていた。


 アウラムの奴は、また何処かでこの様子を見ているかもしれない。

 しかしこうして存在を知る事が出来、敵として改めて認識出来た以上、もうただ黙ってやられているつもりはない。

 戦力を整えて準備が出来たら、今度はこっちからやってやろうじゃないの!!




 長かった5章もようやく終わり……ではないのです。実は、もう一話だけあったりします。すいません、流石に入り切りませんでした。

 アークのデータを入手するに至った事情が判明します。

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