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204話 追撃・強奪

 今回、少し短いです。




 フェネクスの背より飛び降りたクリエイター。

 そのクリエイターを追って、ゲイルは《サジタリアス》を駆ってアルドラゴより出撃したのだった。


 《サジタリアス》はフライングボードであり、空を自由に飛ぶことが出来、対するクリエイターも背中の翼……肉体の元の持ち主である狂騎士ルクスが魔獣の鎧を纏っていた際に出現していた……を使って飛んでいる。

 二つの飛翔体は、幾度となくぶつかり合いながら、眼下の大地に向かって距離を縮めていた。


「くそ! なんでこの高速落下の中、ここまで正確に狙えるんだアイツは!」


「チッ、当たっているのに手応えが無い。バリアというものは本当に厄介にござる」


 この超スピードでの移動……いや落下の中、ゲイルは全ての矢をクリエイターに命中させていた。

 だというのに、その全てがクリエイターの肉体を捉えていない。

 その理由はクリエイターの身を包むバリアである。いくら矢を撃とうとも、その全てが弾かれてしまうのだ。

 以前帝国の防護服を破る際に使用した、一転集中で貫くという技法も試した。であるが、その希望をもってしても一向にバリアを貫く気配はない。

 かつてヴィオがやったように、バリアを破壊するには更に高密度なバリアをぶつけるという手法が最適であるのだが、残念なことにゲイルはバリア系の武装を持っていない。


「……仕方ない。風丸かぜまるよ、合体にござる」


 そう呟き、ゲイルは勝手に風丸と愛称を付けて呼んでいる《サジタリアス》より足を離し、フライングボード形態より巨大弓形態へとその形を変える。

 更に風王丸を《サジタリアス》にセットし、その完成した巨大弓の名を叫ぶ。


十字風神丸クロスブラスター!」

 

 誰も聞いていないのに、こうして強化された武器の名を叫んでしまうあたり、すっかりゲイル自身も艦長の趣味に毒されてきているようだ。


監獄滅弾プリズンシュート!」


 十字の弓より合計で十一もの光の矢が放たれる。


「な、何ィ!?」


 その矢はまるでクリエイターの身体を取り囲むように展開し、檻のような形状となる。四方全てを取り囲まれ、前後左右のどちらへも逃げ出せないようになった。バリアのおかげで光の檻にぶつかったとしてもダメージは無い。だが、これでは本当に檻に閉じ込められているのと同じことだ。

 ならばと唯一塞がれていない上空へ逃れようとするクリエイターであるが、その最後の逃げ道を塞ぐべく、より巨大な光の矢が頭上から降り注いだのだ。


「ぬ……ぬおおおお!??」


 クリエイターの身はバリアによって守られたままであるから、その身が傷つくことは無い。しかし、無敵のバリアも運動エネルギーを殺すことは出来ない。クリエイターの身体は、光の矢によって押し付けられるように大地に高速落下していくのだった。


 そして、空中で武装の合体を解除したゲイルは、《サジタリアス》でその後を追った。




◆◆◆




 神聖ゴルディクス帝国、十聖者の一人……拳聖ブラウ。

 彼はまだ生きていた。


 高濃度の魔獣化ウィルスを含んだ血液を口に含んだのだ。人間の身であるならば、即座に死んでもおかしくない筈だった。

 だが、彼は生き延びた。

 その鍛え上げられた強靭な肉体と、内包された膨大な魔力がその身を守ったのだ。


 ……だが、果たしてそれは彼にとって幸運だったのか否か……。

 生き延びたと言っても、今の彼は死の一歩手前でなんとか踏みとどまっているに過ぎない。全身に激痛が走り、身体は全く自由が効かず指先すら動かせない。

 もし、彼の肉体があと10年ほど若ければ、なんとか歩けるレベルにまでなっていたかもしれない。

 ……残念なことに拳聖ブラウの肉体年齢は58歳。

 帝国最強の肉体を持つ彼であっても、肉体の老化は防ぐことは出来なかった。


(……何故、我は生きている? これほどの苦しみ、味わったのはいつ以来か……それでいて、死ぬことも出来ん。

 何故だ? せめて一思いに死なせてくれれば楽になれるのに……。

 これも、祖国を……陛下を危機に晒したことの咎だとでも言うのか……)


 朦朧とする意識の中、ブラウは数分前……だが彼にとってはもう何日も前であるかのような……出来事を思い出していた。

 自らの行いのせいで神の逆鱗に触れ、祖国に危機が及んでいる。

 この身を差し出して神の怒りが晴れるのならば喜んで差し出そう。

 だが、それとは関係のないところで自分は毒を食らい、こうして動けないでいる。

 せめて、祖国に帰って危機を知らせたい。……それも、この身体では叶わない。

 あぁ……なんたる苦しみ。

 死ぬ事も出来ず、帰る事も出来ない。

 何か……何か自分に出来る事は残されていないのか……。


「いやはや、なんとも情けない姿だねぇ、拳聖ともあろう者がさ……」


 かろうじて聞こえる耳に飛び込んできたのは、聞き覚えのある声……そして薄ぼんやりとだが、まだ見える視界に入ってきたのは、金色の髪に奇妙な仮面をつけた男の姿だった。


(この男は確かアウラム……そうか、まだこの男が居たか。なんとか……なんとかしてこの男に伝えなくては……)


「わ……我の……はな―――」


 話を聞け……。

 渾身の力でその言葉を絞り出そうとしたブラウであったが、突如としてその声は途切れてしまった。

 目の前の男が、ブラウの頭部を蹴り飛ばしたのだ。


「ああゴメン。ついイラッとしたもんで。いやいやアンタには、首を掴まれた記憶があったもんでさ。その時の恨みがまだ残ってたみたい」


 だが残念なことにその声はブラウの耳には届かない。

 不意のダメージによって、彼の命のゲージはさらに減り、それを繋ぎとめるのに必死だったのだ。


「うわしぶとい。こんなんでまだ生きてるよ。本当に、肉体だけなら世界最強だよね、このジジイ。

 まぁいいや。さぁやっちゃいな。この身体こそ、君が欲しかったものだろう」


 そう言ってアウラムは手にした“肉塊”のようなものをブラウの口元へと押し込んだのだった。

 突然の異物にむせ返りそうになるブラウであるが、その異物はまるでそれが意志を持っているかのように喉の奥へと入り込んできたのだ。


(なんだ……なんだこれは!? 息が出来ん。なのに苦しくは無い。まるで、身体全体が呼吸器官にでもなったような感覚だ。そして、まるで……まるで肉体の内側が裏返るようなこの感覚……一体何だというのだ? 我の身体はどうなったというのだ!?)


『それは……俺好みの身体に作り替えているからだぜぃ』


(何!? 我の中からまた別の声だと!? 貴様……貴様一体―――)


『あらあらぁ。俺の声を忘れちまうとは悲しいねぇ。いくら臨時の騎士団とは言え……この副団長の声をさ……』


(副団長? 貴様……貴様……まさか……ブラット!?)


『大当たりぃ!! ひゃーはっはっは!! 核さえあれば生きていられるこの身体に心底感謝するぜぃ!! そして、俺が望んでいた世界最強の肉体が手に入るなんてなぁ!!』


(肉体を手に入れる……だと!? まさか、貴様!?)


『当たりだ! てめぇの身体は魔素によって全身が侵され、十分俺でも乗っ取れる状態だ! さぁ、その身体とっとと明け渡せ!!』


(身体を明け渡せだと!? ふざけるな! この身体は我のもの! 貴様なんぞに渡せるか!)


『ハッハッハ! てめぇが使ったままだとこのまま死ぬから、俺に渡せって言ってんだ! 後は俺が良いように使ってやるよ。だから、安心して―――消えろ』


 脳内に響くブラットの言葉……。

 その言葉を最後に、ブラウの世界は黒く塗りつぶされていった。


(ぬおおおぉぉぉぉ……我が……我が……消える……へ、陛下……申し訳―――)


 やがて、ブラウだった筈の肉体はぎこちない動作で立ち上がろうとする。

 そして、身体の関節があり得ない方向にガキリガキリと曲がりくねりながらも、完全に二本の足で立ち上がるに至ったのだった。


 そして、大きく手を広げ背後に立つアウラムへと身体を向ける。


「やぁやぁ、いまいちしっくりこねぇなぁ。それも慣れかな?」


「ん? やっぱりその顔にするのかい?」


 いつの間にか、ブラウだった筈の男の顔は無精髭を蓄えた30代前半の男……ブラットの顔へと変化していた。


「細胞変化……やはりこの身体でも使えるようだ。それなら、あんなジジイの顔よりも、元のチョイ悪オジサン顔がいいね」

「ちょい悪ねぇ。……その辺の感覚は僕には分からないかな」


 アウラムは肩をすくめると、その場から真後ろへと振り返った。


「とまあ、こういう流れとなるわけだよ。……ケイ」


 そして、そこに浮かぶ小さな球形の物体に向かってそんな言葉を吐いたのだった。




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