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203話 ロストブラスト・オルタナティブ



「ロストブラストだ」


 すると、隣の座席に座るアルカがこちらに顔を向ける。


『え? 今、何とおっしゃいました?』

「は? い……いや、なんでもない。気にするな!」


 俺は何を……何を馬鹿な事考えたんだ。

 よりによって、あんな怖い兵器の事を思い出すなんて。

 ぶんぶんと頭を振るい、邪念を振り払う。


 だがアルカは顎に手を添えて1秒ほど考えこみ、やがて口を開いた。


『ロストブラスト……あのアウラムが使っていた武装ですね。確かに……防御回復不能のあの力なら、不死鳥相手でも通用します』

「おいおい、何本気で考えてんだ。そもそも、アレはアイツが独自に作った武器で、俺たちには使えないだろう」

『……いえ、出来ます』

「え?」

『私の視覚から手に入れた情報と、烈火吹雪が受けた傷口の情報を重ね合わせ、ロストブラストの成分を分析しました』


 予想外の言葉に間抜けな声が出た。

 そんな俺へ、アルカは説明を続ける。


『あれは……言うなれば極小ブラックホールです』

「ブラックホール?」


 ブラックホールってアレか?

 一度入ったら出て来られないっていう宇宙の穴……。

 子供の頃、図鑑で読んでむっちゃ怖かった思い出がある。


『まぁその認識でも間違ってはいないですが、おおまかに説明しますと、極めて高密度で強い重力のために物質だけでなく光さえ脱出することができない天体の事を―――』


 正直、ここでブラックホールについてクドクド解説しても本筋と関係ないので、割愛する。

 とにかく、俺が気になったポイントは一つ。


「強い重力? それってまさか……」

『そう。アウラムが使っていたグラビティブラスト。あれを更に強力にしたものが、ロストブラストの正体です』


 なるほどブラックホールか。

 それならば、防御が不能という特異性もなんとなく理解出来る。

 攻撃を受けた部分を吸い込んで……というか取り込んでしまうのだ。回復不能の部分はよくわからんが、そこは今の俺には理解できない理論が作用しているのだろう。……そこ、深く追求しないように。


「どっちにしろ、グラビティブラストが俺たちには無い。だから、無理だ」

『いえ、グラビティブラストは再現可能です

 元々、重力コントロールはアルドラゴではよく使われている機能です。それを応用すれば、再現自体は可能です。ですが……ブラックホールを作り出すほどの高重力場の作成は、即興では無理です。せめて一日……早くて5時間ほどの時間が必要です』


 なぁんだ。やっぱり無理なんじゃないか。

 全くアルカめ。思わせぶりな事言いやがって……


『ですが、他のエネルギーを利用して、疑似的なブラックホールを作り出す事は可能です。どうしますか?』


 いや、どうしますかって言われましても……やっぱり、可能なんですね。

 そして、最終的な決定権はやっぱり俺か……。いや、艦長だもの。仕方ないんだけどさ。


 でも、あのロストブラストを俺たちの力で作り出すってのは、どうも気が引ける。

 いや気が引けるというか、嫌悪感がある。

 というのも、かつてシグマとの戦いでフェイが戦闘不能になった光景や、烈火吹雪が腕を破壊された光景がトラウマになってんだよな。


「ほ、他に方法は!?」

『あるにはありますが、どれも用意するには時間がありません。具体的に聞きたいですか?』

「う、うむ。一応……」


 アルカより、フェネクス対応策のいくつかを聞いた。

 ……なるほど、装備の換装の必要があったり、場所が悪かったり、倒せるけども時間が掛かるっていうのね。

 今にも落ちそうな下の島の事を考えると、多少危険であっても、この作戦を取るのが一番の近道か……。


「分かった。やろう! 具体的なプランを教えてくれ」

『了解です』


 そうして、俺はアルカよりロストブラスト再現の為の方法を教えられる。


「……厳しいな」

『ええ、でも……』

「このアルドラゴなら出来る!!」


 俺はメインモニターに映るフェネクスを睨みつけた。


 いいだろう。

 アルドラゴが、どうしてこんな姿をしているのかは分からない。

 それでも、アルドラゴがただの戦艦とは違う所を見せてやる!


「総員! アルドラゴはこれより格闘戦に入る!」


 すると、生身の人間組二人から驚きの声が上がった。


「か、格闘戦にござるか?」

「これって船だろう? そんな事出来んのかい!?」


 疑問はごもっとも!

 確かに、このアルドラゴは船であり戦艦である。どこの世界に格闘出来る戦艦がありますかって話……いや、俺が知らないだけで実はあったらごめんなさい。

 しかし、このアルドラゴ……外見を見れば誰でも思うだろうが、ドラゴンである。

 ドラゴンには、立派な爪もあれば尾だってあるのだ。


「烈火吹雪! ルークが居ない今、お前たちが操作担当だ。やれるか!?」


 突然名前を呼ばれ、身体をビクッと震わせた二人だったが、互いに顔を見合わせ、不敵に笑ったのだ。


『……へっ! 誰に向かって言ってるんだよ』

『ルーク様の代わり……存分に務めさせてもらいます!』


 その笑みを見て、俺は強く頷いた。


「よし、ドラゴンアーム展開!」


『よっしゃ!』


 俺の号令と共に、吹雪が自身の座席にあったレバーを引く。

 すると、今までは地上に機体を停める際に使用するだけだった金属アームが飛び出し、それが更に戦闘用に展開される。


 それこそ、正に鋭利な爪を備えた竜の腕であった。


「続いてドラゴンテイル展開!」


たまわった!』


 烈火がレバーを引く。

 すると艦尾部分より、まるで多節鞭のような形状の……竜の尾が出現する。


 爪に尾……見た目も完全にドラゴンになったアルドラゴがそこにあった。


 この姿になる機能を知ったのは、この空の旅に出るちょっと前の事だった。

 アルドラゴのマニュアルは全部頭の中に入っているが、それは頭の中に説明書をしまっているだけのようなものなので、最初から最後まで中身を知っているわけではない。

 ぶっちゃけ、内容的には理解できない部分も多いので、指揮する上で必要なこと以外は目を通していなかったりする。

 だが、ルーベリー王国での戦いで遂に本格的な指揮を執ることになった。

 これから先は、アルドラゴを本格的に動かす事も多いだろう。だったら、機能の事を知らなかったでは済まされない。理解できなくとも、マニュアル全てに目を通すべきだ。


 そうして見つけたのが、この格闘モードだ。


 戦艦に格闘ってどういうこっちゃ!

 と思っていたが、この姿を見て納得した。

 なるほど、ドラゴンならば接近戦でも戦える!


「フェイ! 対象に向かって急速接近!」

『了解!』


 アルドラゴのバーニアが火を噴き、超スピードでフェネクスへと接近する。

 そして、激突する寸前―――


フルブレーキ! そのまま前方回転!」


 俺の号令の通り、アルドラゴはフェネクスへ激突する寸前にピタリと動きを止め、そのまま超スピードで移動した反動で艦体が後方から浮き上がり、“前転”する。

 するとどうなるか。

 遠心力を伴って、艦尾から突き出たドラゴンテイルがフェネクスに向かって振り下ろされるのだ。


 その“打撃”を受け、フェネクスは大きく身体をよろめかせた。


 ドラゴンテイルは、言うなれば吹雪の持つストライクブラストの超大型版だ。

 つまりただの鞭ではなく、属性の力を付与する事が出来る。

 付与されているのは当然ながら冷気属性。それによって、フェネクスの身体にもダメージを与える事が出来るのだ。


「そのまま艦体を高速回転!」


 アルドラゴはまるで独楽のように艦体を横回転させる。

 するとドラゴンテイルも水平となり、フェネクスの身体に回転の度に打撃を加えていくのだった。

普通の戦艦であれば縦に横に回転すれば艦内が大変な事になるが、アルドラゴは重力コントロールによって内部が一定の重力場で保たれている。よって、いくら暴れようが俺たちが座席から放り出されたり、目が回ったりすることもない。

重力コントロール万歳である。

 

 対して、攻撃対象であるフェネクスには訳が分からなかっただろう。

 肉体が炎そのもののフェネクスにとって、殴られるなんて経験があるとは思えない。

 物理的なダメージを初めて受けたことによって、フェネクスは混乱した様子でアルドラゴより距離を取ろうとする。

 が、逃がさない!


「烈火! “掴め”!!」

『逃がさん!!』


 そのまま飛び立って逃げようとしたフェネクスの足に、ドラゴンテイルが巻き付いた。

 それによって、フェネクスはアルドラゴより逃げるという選択肢を奪われたのだ。


「ええいクソ! 情けない奴め!!」


 フェネクスの背に乗るクリエイターが罵声を浴びせる。

 そのあまりに勝手な物言いにカチンときた。

 何が情けないか! その鳥はオフェリル様が大切にしていた友達だ。それを強引に自分のものにしておいて何を言う!


「おい鳥! このまま爆散して脱出しろ! 貴様ならまた元に戻れるだろう!!」


 なるほど。

 肉体をダイナマイトのように爆発させて、拘束から抜け出そうというのだな。

 しかし、させない!!


「吹雪! 爪を立てろ!!」

『アイアイサー!!』


 号令と共にアルドラゴの爪がフェネクスへ向かって振り下ろされた。

 その肩口部分に爪が食い込み、その肉体を固定する。


「ど、どうした? 何故爆発しない!?」


 それは、アルドラゴの爪の先からフェネクスの体内へ冷気を流し込んでいるせいだ。

 フェニックスの自爆技……その理屈はオフェリル様より既に聞いている。

 心臓部分に熱を極限まで高め、臨界点に達した所で一気に放出して爆発する―――まぁそういう技らしい。

 ならば、その炉心部分となる心臓を冷やせばいい。単純な方法であるが、おかげで爆散を止める事が出来た。


 ともあれ、これでフェネクスの身体を捕らえる事が出来た。

 ならば後は―――


「艦体上昇!」

『了解!』


 フェネクスの身体を捕まえたまま、アルドラゴはその艦体を更なる上空に向けて飛び上がったのだ。

 当然フェネクスは暴れるのだが、そこはパワーでねじ伏せる。


 上空1万5千メートル……2万メートル……更に上がる上がる上がる……

 

「チイッ! もう付き合ってられるか!!」


 2万メートルを越えたあたりでクリエイターがフェネクスの背より飛び降りた。

 普通であれば眼下の島に激突して潰れる高さであるが、奴の事だから何か方法があるのだろう。


 ……一瞬迷ったが、ここで奴を逃がすわけにもいかない。


「ゲイル! アイツを追ってくれ!」


 ゲイルは驚いた顔でこちらを振り返った。


「しかし主! 射撃は―――」

「俺がやる。大丈夫だ、この距離なら外さないさ」

「……ご武運を」


 座席より飛び出したゲイルは、そのままブリッジを出て行った。

 やがて、ゲイル専用の移動用ビークル《サジタリアス》が艦低部より射出される。

 クリエイターの事はゲイルに任せよう。


 さて、高度は4万メートルを越えた。

 この高さならもう十分かな?


 そう思い、俺はモニターの外に広がる世界に目を向けた。


 青く……丸い世界が広がっていた。そして、それ以外は漆黒の星の海だ。

 地形こそ地球と違うものの、やはりこの世界も惑星なのだと認識させられた。


 所詮、俺はただの異邦人。

 この星を守るなんて大層な事を言うつもりはない。

 

 それでも、この空飛ぶ島を守り抜くと約束した。

 その為に……お前を倒す。


「アルカ……ロストブラスト用意」

『了解しました』


 隣の座席でアルカがコンソールを叩く音が聞こえる。


 すると、アルドラゴの艦低部……ドラゴンの胸部に変化が起こった。

 胸部を覆っていた装甲がパカリと十字に開き……そこから球形のエネルギー放射装置が出現する。


 バチバチと電流が走り、球形部分にエネルギーが充填されていく。


 フェネクスは必死に拘束から逃れようともがくが、決して爪も尾も放すことは無い。

 そして、フェネクスの身体を覆う炎は弱くなり、周囲には火の粉すら飛んでいない。


 だから、この場へやって来た。

 この空気の薄い超上空であれば、火の粉を飛ばす事は出来ない筈。

 もし、このまま宇宙にでも飛び出る事が出来たのならば、そこでこの戦いは終わりだろう。いくら不死鳥であっても、真空の世界で活動が出来るとは思えない。

 なのだが、そうも出来ない理由というものがある。それは後程説明しよう。

 ともあれ、これで後は本体となるフェネクスの身体を消し飛ばすだけだ。


『エネルギー充填完了。いつでも撃てます!』


 アルカの言葉通り、モニターのエネルギーゲージが100%になっている。

 続いて、俺の正面の座席よりガンコントローラーが出現した。


 ……またこれを撃つか。


「烈火吹雪! 発射と共に標的の拘束を外せ!」

『賜った!』『アイアイサー!』


 俺はガンコントローラーのグリップを掴み、モニターの正面に映るフェネクスを睨みつけた。


 君に罪は無い。

 ただ、強制的に魔獣にさせられただけだ。


 だが、元に戻す事が不可能な現状では……倒すしかない。


「ロストブラスト・オルタナティブ―――」


 これから撃つのはあくまで疑似的な再現であるから、そう名付けた。


「―――発射!!」


 その言葉と共に俺はトリガーを引き、ドラゴンテイルと爪がフェネクスより外される。

 フェネクスは急いで逃れようとするが、もう遅い。放したのは、このままだと爪も尾もロストブラストで消し飛んでしまうから一旦距離を取っただけだ。


 胸部のエネルギー放射装置より出現したのは、巨大な黒い球だった。

 バチバチと電流を走らせながらその黒い球はどんどん巨大化し、やがてフェネクスの身体そのものを飲み込んでしまった。


 周囲には火の粉が一つも残されていない。

 これで、肉体を再生させる事は不可能だろう。


 このロストブラスト・オルタナティブ……ギガブラストと違ってレーザーのように放出するものではない。重力場を圧縮し、疑似的なブラックホールを生成。……そう、生み出す事しか出来ない。だから、ゼロ距離でぶつける必要があった。

 というか、こんなおかっないものを遠くに向かって撃ち出すとか、恐ろしくて出来ませんぜ。

 必要が無くなれば、ものを出しておく理由は無い。


 やがて黒い球はぐにゃりとその形を変え、風船が破裂するように消え失せたのだった。

 これは、あらかじめ仕込んでおいたものだ。一定時間を過ぎると、疑似ブラックホールは無害な物質に代わり、空気中に溶けていく。


『対象……消失ロストを確認』


 アルカの報告を聞き、俺は力が抜けてそのままドサリと座席に座り込んだのだった。


 正直、この黒い球に飲み込まれたらどうなるのか……計測そのものが不可能なので分かっていない。

 シグマの使うゼロディバイトのように亜空間へ送ってしまうのではないかというのが可能性として一番高いのだが、真実は分からない。

 もしそうだとしたら、飲み込まれた瞬間に時間が凍結し、痛みも意識すらもない。

 それが良い事なのかは分からないが、あのフェネクスはもう二度とあの空間から抜け出る事は無いのだろう。


「……約束その一は……果たしたぞ、オフェリル様」


 残りの約束は、ルークたち次第だな。




 5章においてのクライマックスバトル終了!

 とりあえず年内に終われてホッとしております。


 後、数話ほどやって5章は終わりとなります。

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