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202話 ハイ・ブリザードブラスト




 クロによく似た猫によって魔力を回復できたアルドラゴは、アルカが指定した集落の無い座標へと瞬く間に辿り着いた。

 そのスピードたるや、今までの飛行の比ではない。

 例えるならば、レシプロ戦闘機がジェット戦闘機に進化したような感覚である。……どっちも乗った事ないので、あくまで想像だけども。


 アルドラゴは艦体を大きく旋回させ、こちらに追い付いてきたフェネクスと正面から対峙する。

 空中で睨みあう鉄のドラゴンと黒い不死鳥……。

 アルドラゴ初めての空中戦。しかも、相手は悪魔の不死鳥……フェネクス。

 ドラゴンと相対するのは不死鳥って……伝説生物界の頂上決戦という感じじゃないか。

 自分が当事者じゃなければ実に燃える展開である。

 まぁ、当事者であるからのんびりとポップコーン片手に戦いの顛末を見るなんて出来ないんだけどね。


「うきゃきゃきゃ! もう追いかけっこは終わりかな!?」


 クリエイターの挑発の声が響くが、無視だ無視。

 今の俺たちの敵は、お前じゃなくてその黒い不死鳥……フェネクスなのだ。


 さて、アルドラゴの戦闘準備は万端。懸念していたエネルギー問題も解決した。

 後は、始めるだけだな。


「アルドラゴ……レディゴーッ!!」


 俺の叫びと共に、戦闘は開始された。

 まず、アルドラゴの竜頭部分の顎が開き、そこから耳をつんざく轟音が鳴り響いた。


 GUOOOOON!!


 と、まるで生物の雄叫びである。


 ハウリングブラスト。

 超音波によって周囲の生物の神経系を乱れさせ、一時的に行動を阻害する機能である。

 これでフェネクスの動きが少しでも乱れさせれば……と期待したが、魔獣と化した存在には神経系の攻撃は通用しないのか、それとも再生したのかは定かではないが、フェネクスは動きに変化を見せず、こちらに向かって炎の塊を発射したのだった。

 その程度の攻撃、当たったところで大きなダメージ無いが、無駄に攻撃を受ける必要もない。

 アルドラゴはまるで側転でもするように機体をローリングさせて回避する。世界がくるくると回るが、ブリッジの重力場は水平を保たれているので座席から振り落とされたり、目を回す事もない。


「フリーズブラスト!」


 回転が止まった瞬間、俺の号令と共にゲイルがトリガーを引く。

 アルドラゴの両肩部にある砲塔から飛び出したのは、表現するならば白い塊である。白い塊は、フェネクスの片翼に命中する。すると、瞬時に翼の先端が凍り付き、ものの2秒も経たないうちにボンッという音を立てて弾け飛んだ。

 フリーズブラストは、その名の通り冷気の塊だ。アイスブラストが氷の弾丸を発射して対象を攻撃するものなら、こちらは対象を凍らせて破壊するものだ。破壊された傷口は、細胞が凍り付いているためすぐに回復できない。

 これならば、炎を纏っているフェネクスにも効果があるのではと思っていたのだが……


 フェネクスの翼から炎が噴き出したと思ったら、たちまち体表が黒い炎で覆われ回復……いや、再生してしまった。

 凍らせて破壊するという方法は、魔獣相手でも十分に通用する。吹雪がブラットに対して使用した際、傷そのものは修復されたが、失った体積までも回復することは無かった。

 だというのに、ほぼ一瞬で再生。流石、不死鳥の名は伊達ではないという事か。


 だが、だからと言って冷気属性以外の攻撃が効くとも思えない。炎で攻撃して元気になったら困る。

 ギガブラストならば通用するかもしれないが、あれは隙も大きいし消費エネルギーも大きい。いくらエネルギーが十分とは言え、バンバン使っていいものではない。それに……撃った後の被害を考えれば、使用に躊躇もするというものだ。

 ルーベリーにおいての戦いの際は、地形が大きく変わる結果になってしまった。それをこの浮島でやったとしたら、それこそ島が落ちるぞ。


 とにかく、今はひたすら撃ち、敵の弱点を探るしかないだろう。

 俺はそう判断し、クルーに号令をかけた。


「フェイは、とにかく敵の攻撃を避け続けろ! ゲイルはひたすらフリーズブラストを敵に向けて撃ちまくれ! ヴィオは実弾兵装で、フェネクスの背に乗っているクリエイターを狙え!」

「あのアホをかい? いいけど、あの野郎はバリアでガードしているんじゃなかったか?」

「そのバリアについてもどの程度のダメージを防御できるのか、検証したい。それに、奴がガードに徹すればフェネクスへの指示を妨害できる」

「なあるほど。んじゃ了解っと!」

「アルカは、敵の分析だ。なんとかして敵の弱点を探らないと、こっちがジリ貧になる!」

『了解しました!』


 現状、エネルギーは十分ではあるが、その供給元が正体不明な事もあってか、エネルギーを贅沢に使うのはどうも二の足を踏む。

 ならば、ケチに戦うしかあるまい。ケチに。


「で、どうだアルカ」


 指示はしたものの、アルカが戦っている最中から敵の分析は進めていた事は知っている。


『魔獣でしたら、核となる魔石があるはずです。恐らくはそれを中心として傷が再生されていると思うのですが……』

「って事は、その核を破壊できれば再生することなく倒せるのか?」


 うむうむ。再生能力の高い敵の対処法の一つだな。

 だが、アルカは申し訳なさそうな顔で首を横に振ったのだった。


『ですが……その魔石の位置が掴めません。サーモグラフィで体内を探ろうにも、対象の体温が熱すぎて何も確認できない状態です』


 まあフェニックスだものな。その名の通り炎の塊なのだろうよ。

 本当に、内臓とか脳みその概念ってどうなってんだろう。


 ともあれ、その戦法を今使う事は不可能のようだ。

 ならば、やるべきことは一つだ。


「じゃあ、再生能力の高い敵の対処法……その二だな」

『は? その二ですか?』

「どこが弱点か分からないなら、全部まとめて吹き飛ばしちまえ作戦だ!」

『ええー!? 確かにそうではあるのですが……』 


 うむ。アルカの懸念は分かるぞ。

 俺の言葉を実行しようにも、いろいろな問題がある。

 まず、最初の問題……標的のサイズがでかすぎるのだ。


 だから、ケチケチ作戦中止!


「ゲイル! フリーズブラストで対象の翼を重点的に狙え!」

「翼でござるか?」

「そうだ。それで標的の表面積を小さくする」

「……!! なるほど、了解にござる!」


 察しの良いゲイルは、今のやり取りで俺がやろうとすることを理解したようだ。


 フェネクスは炎の塊をこちらに向かって放ち続けるのだが、攻撃は単調で避ける事は容易い。

 と言っても、これは戦艦というよりは巨大戦闘機であるアルドラゴだから出来る芸当だ。アニメとかで見る普通の戦艦だったらここまで機敏に動けるはずもない。絶対に大半の攻撃を受けちまっている。


 攻撃の回避と共にゲイルはフリーズブラストを連発し、絶え間なくフェネクスの身体を凍結させていく。無論、凍らせた次の瞬間には肉体を再生してしまうのだが、少しずつその再生スピードが遅くなっていくのが確認できる。

 これは、全ての攻撃を命中させているゲイルの凄さもあるが、今までと違ってアルドラゴのエネルギーに余裕がある事が大きい。以前、サンドウォームと戦った時のようにケチなエネルギーの使い方をしていたら、ここまでの成果は出せなかっただろう。

 俺はチラリと隣でアルドラゴの動力源となっている謎の猫へ視線を向ける。

 本当に、この猫がいなかったらどうなっていたか……。いや、冷静に考えると、もう4回ぐらい助けてもらっている。マジで、コイツが居なかったら詰んでいたな俺たち。

 正体が何者なのかという事が不安であるが、ここまで来て信用しないというのは無理だ。

 こうなったら、最後の最後まで力を借りるしかない。


「ふにゃ!」


 まるで「まかせろ!」とでも言っているかのような力強い言葉が返ってきた。

 ありがとうよ! こうなったらとことん付き合ってもらうぞ!!


「アルカ、ハイ・ブリザードブラスト用意!!」

『了解!』


 アルカがコンソールを叩くと、艦首の竜頭部位の口が開く。

 主砲発射の体勢であるが、撃つのはギガブラストではない。

 切り札の一つたる武装であるが、使用するエネルギーはギガブラストの6分の1程度。実に低燃費! いや、ギガブラストが大食らいなだけであるが。


 見れば、フェネクスの身体も翼の大半を失って、すっかりと小さくなっている。普通の鳥であれば飛べるものではないだろうが、魔法の力で浮いているのだから関係ないのだろう。まぁアルドラゴも似たようなもんだ。

 ともあれ、これで十分狙えるサイズになった。

 さて、これでどうなるか!


「ハイ・ブリザードブラスト! 撃てぇ!!」


 俺の言葉と共にゲイルがトリガーを引く。

 すると、竜頭の口腔部位にキュイーンとエネルギーが充填され、巨大な白い柱がフェネクスへ向かって発射された。


 その白い柱はフェネクスの身体全てを飲み込み、その背後にあった山までも貫通してしまう。

 ……なるべく上に向けて撃ったので、島の傷は山一つ程度だと思うのだが……実は山じゃなくて重要な施設だったとか判明したらおっかねぇ。……ないとは思うけど。


 ハイ・ブリザードブラスト……吹雪の使うブリザードブラストの上位互換……と言ってもこっちはアルドラゴ搭載用の兵器だから、ハッキリ言って威力のレベルが違う。

 こちらは、言ってみれば超低温レーザー砲だ。なんでも瞬間で摂氏マイナス200℃に達するとか。ここまでくると、ちょっとでも当たった瞬間に凍り付き、そのまま砕け散る。なんとも恐ろしい兵器だ。


 さて、結果はどうなった?


 俺たちは全員正面モニターを注視していた。


 ハイ・ブリザードブラストによって起きた煙が収まり、そこに居たはずのフェネクスの姿はすっかりと消え失せている。


 ……いや、一つだけ黒い影が空中に浮いている。

 バリアによってその身を守ったクリエイターだ。


「いやはや……とんでもないねぇそのドラゴンは。赤い竜だから炎を吐くのかと思いきや、ものすごい冷気を吐くのかい」


 チッ!

 さしものハイ・ブリザードブラストでもバリアを打ち破る事は出来なかったか。

 尤も、フェネクスはもう影も形も残っていない。

 これは賭けに勝ったという事で良いのだろうか?


 そう思っていた時―――


「でも、まだまだ~~。勝負は終わっちゃいないよぉ」


 空中に舞っていた細かな火の粉がある。


 それがポツポツと光を灯し、やがてその僅かな火が次第に大きくなり、炎へと変化していく。

 その炎がまるで形を持つかのように一つに集まりだした。


 もう分かるだろう。


 僅かに残った火の粉の状態から、フェネクスはその肉体を取り戻したのだ。


「……嘘だろう」


 いろんな再生能力持ちを漫画の世界で見てきたつもりだが、あの状態から復活するってなかなかいねぇぜ。


 くそ! ハイ・ブリザードブラストでも駄目か。こうなったら後はギガブラストしか―――


 ―――いや、駄目だな。

 いくらギガブラストでも、火の粉一つ残さずに仕留めるなんて出来ないだろう。


『お、おい! どうすんだよ、あんなの! どうすりゃ倒せるんだよ!』


 モニターを見ていた吹雪が喚きだした。するとすぐさま隣に座っていた烈火がその頭を殴りつける。


『うるさい黙れ! 喚いたって何にもならん!』

『で、でもよ姉貴! 流石にこれは……』


 勝てない。

 そう言いたかったのだろうが、流石に言葉を飲み込んだようだ。


 いや、これがジェイドならそう言っていただろうな。それでも自制できたのはAIによる補正か。

 ともあれ、吹雪の言う事も分かる。

 今のところ打開策が全く思い浮かばない。


 くそ、まさかアルドラゴで戦って勝てない敵が居るとは思わなかったぞ。

 どうすりゃいい! こんな無限の再生能力を持つような敵に通用する攻撃方法なんて―――


 ―――ん?


 何か、あったような気がする。


 ふと、俺の脳裏に思い出すのも不快なある男の声が蘇る。


『そりゃそうだ。コイツは、僕がこの世界で独自に作り上げたものだからね。防御力なんてものを完全に無視して、触れたものを全て消滅させる弾丸……』


 そうだ。

 あった。


『名付けるなら―――』



「《ロストブラスト》だ」


 かつてアウラムが言った言葉の続きを、俺は口にしていた。




目次の頭部分、キャラ紹介ページにイラスト追加しました。

前のイラストを描いた際に、もうちょい可愛く描けたらな……と思っていたアルカとヴイオのイラストを差し替えです。特にヴィオさんは露出を増やしました。


そして、遂に戦艦アルドラゴのイラスト追加です。今回と次回の戦闘シーンを書く際に、あった方がイメージしやすいと思いましたので描いてみた次第です。……人間と違った難しさがありますね。

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