192話 総員アームド・オン
この変身というキーワードと共に魔法陣が出現する仕組みになっているのだが、俺は前回の使用時からちょいと変更点を加えた。
キーワードを叫んだあと、腕で弧を描くように回す。
すると、その動きに合わせるように魔法陣が出現するのだ。
うむ、世の変身ヒーローの多くが設定されている、変身ポーズというやつを考案してみたのである。
はっきり言って意味は無い!
意味は無いけどさぁ。
いいじゃねぇか、それぐらいやったってよぉ。
それに、他の皆も別に強制とかしてないんだけど、ノリノリでアクションとかつけてるじゃん。
特に、ヴィオの回し蹴りで変身って格好いいな。
ともあれ、俺たちはそれぞれキーワードと共に出現した魔法陣を潜り抜けた。
アルカは一瞬身体がその場に浮きあがり、その身を包み込むように魔法陣が回転する。実に魔法使いらしい演出だ。
ゲイルは左側面に出現した魔法陣を、手で振るう事によって魔法陣が移動しその身を通り抜ける。
ルークは足元に出現した魔法陣に両手を添える事で、陣が上へと通過する。
フェイは自分を中心として出現した魔法陣の中でふわりとその身を回転させる。
ヴィオは回し蹴りによって頭上に出現した魔法陣めがけて飛び上がる。
俺は、目の前に出現した魔法陣目掛けて拳を突き出す。
それぞれ、魔法陣を潜り抜ける事によって、既に装着されていた無色透明スーツにオリハルコンがコーティングされ、着色させる。
竜の意匠が施された赤い鎧の俺は、
HAS-01<ドレイク>
イルカ等の水棲生物の意匠が施された青い鎧のアルカは、
HAS-02<マーメイド>
大柄な体格で頭部に巨大なモノアイを持つ黄色の鎧のルークは、
HAS-03<タイタン>
額に巨大な一本角を持つユニコーンの意匠が施された緑の鎧のゲイルは、
HAS-04<ユニコーン>
変身時そのままに、狼の意匠が施された銀の鎧のフェイは、
HAS-05<フェンリル>
虎と蛇が混ざり合った合成獣の意匠が施された紫の鎧のヴィオは、
HAS-06<キマイラ>
ハイ・アーマードスーツ……6人全員が揃ったのはこれが初めてであるが、実にそうそうたる光景だ。俺としては是非とも客観的に見てみたかった。……ん、そういや《アリエス》にはカメラが搭載されていったけ。後で、ちゃんと撮影できているか確認しよう。
それと、いくらヒーローものを参考にしているとはいえ、流石に名乗りシーンはやりませんぜ。……現実には後ろで爆発は起こらないし。
「さぁて改めて言うぞ。チーム・アルドラゴ……レディ……GO!」
GOの掛け声と共に、俺たちは前後左右にそれぞれ飛び出した。
「一番槍は貰ったぁッ!」
まず、先行したのはヴィオである。
槍を持っていないのに一番槍というのかどうか不明だが、嬉々とした様子で魔獣の群れへと突進していく。
だが、
『いいえ、一番牙は私です』
ヴィオの横をするりと抜けていくのは、チームで最も速いフェイだ。
ハイ・アーマードスーツを纏ったまま狼形態に変身し、弾丸の如きスピードでフェイは魔獣どもに接近していった。
そして魔獣の一団に衝突する寸前、突然フェイの身体は二つに分かれ、それぞれが別の狼の姿となって魔獣を蹴散らしていく。
これぞ、フェイのハイ・アーマードスーツの特性……分身である。
元々オリハルコンで肉体を構成されているフェイに、オリハルコンの装甲を纏わせても意味ないじゃんという者も居るだろう。
そこで考えられた……というか俺が考案したのがこの特性である。
追加された装甲は、こうして支援メカ(この場合は分身であるが)として活動出来るのだ。これも、元の世界のアニメやら特撮やらで得たアイディアである。
分身体は、特にアルカ達のような自律型AIは組み込んではいなく、特定の動きと簡単な指示しか受け入れられないがそれでも十分な力だ。
離れた場所で二つの銀色の狼は再び一つとなり、人型へと戻った。
その後こちらを振り返り、腰を深く屈めて片手を地面に置き、もう片方の腕は威嚇するように掲げている。
どことなく四足歩行の獣をイメージさせるポージング……フェイさんノリノリじゃないっすか。きっと仮面の奥ではドヤ顔しているな。
「……ったく、スピードじゃフェイっちにゃ負けるが、パワーは負けねぇぞコラァ!」
続いて戦闘を開始したのは、キマイラを纏うヴィオだ。
ヴィオは装甲に包まれた拳を握ると、目前に迫った巨大なゴリラの如き人形魔獣……仮称ビッグフットへと肉薄する。
「オラぁ!」
ビッグフットの胸に拳が激突する瞬間、その拳はパワーアームを発動させ、一瞬だけ巨大化する。
巨大な拳で殴りつけられたビッグフットは、身体を粉々に粉砕されてしまった。
「まだまだ行くぞッ!!」
次々にビッグフットを破壊していくヴィオであるが、そのうちの一体が、ヴィオが殴りつけた瞬間にバラバラと四つに分裂する。
ゴリラから四つの猿の形に分裂した個体……仮称マシラは、四方向に散らばってそれぞれヴィオの身体に組み付こうとした。
「悪いが、その手は経験済みだ!」
ヴィオは両の拳を引き、スゥと息を吸う。
そして、一気にその拳を撃ち放った。
「超・爆砕拳!」
マシンガンの如き拳の乱打を、ヴィオは自身の正面……およそ180度の範囲に向けて放ったのだ。同時にパワーアームを発動させているので、巨大な拳がそれこそ千手観音の腕のように出現したも同然であった。
本来ならば繰り出された拳をするすると避けてヴィオに組み付く予定の筈であったマシラも、これでは避ける隙間すらない。
マシラたちは爆砕拳の拳によって打ち砕かれ、パラパラと破片へと姿を変えた。
名前に超がついているのは、ハイ・アーマードスーツで強化されているせいか。まぁ、実際素の状態で繰り出すよりもずっと強力そうだ。
ちなみにヴィオのスーツの特性……既に説明されている可能性もあるが、改めて説明しておこう。
ヴィオのスーツ……呼称キマイラは、その名の示す通り二つの生物の特性を持つスーツである。
一つは、現状の虎をイメージしたパワータイプ。
もう一つは、装甲をキャストオ……もといパージする事で出現する蛇をイメージしたスピードタイプ。
パワータイプの場合は手甲をメイン武装とした殴り合いが戦法であるが、スピードタイプの場合はメイン武装が槍となる。
ただ、ヴィオの中でスピードタイプは隠し玉扱いのようだから、めったなことでは使わないだろう。
実は、この二つとは別にもう一つの姿も考案しているのだが、現在製作途中の筈だし、今回はお披露目できそうもないな。次回を待て!
『よっし、ぼくもいっくよぉ!!』
その声に振り返ると、タイタンを纏ったルークがウキウキと身体を弾ませていた。
大人と身長が変わらない姿で子供の時と同様の動きをされると違和感が凄い。
ともあれ、ルークとしては念願の大人ボディである。そのウキウキする気持ちというのもまぁまあ理解出来る。
『来い! Bアームズ!』
その言葉と共にルークのアイテムボックスより召喚されたのは、巨大な二つの砲であった。
落ちてきた二つの砲をルークは受け止めると、その二つの砲を連結させる。更についでとばかりにタイタンの手足に装甲が追加された。
一つの巨大なキャノン砲……いやランチャーを構えたルークは、高らかに名乗りを上げる。
『完成……B・タイタン!』
大型の武器持って、外見もちょっとだけマイナーチェンジしただけなんだけど、名前変えたくなる気持ちは分かる。
ちなみに今ルークが連結させたランチャー砲……元々は、ゴゥレム《キャンサー》の両肩についていたものである。
そう、ルークのハイ・アーマードスーツの特性は、ゴゥレムの装備を自身の武装として使える事だ。ルークの専用武器であるランドセル……トイボックスとコンセプトは似たようなものであるが、攻撃力はレベルが違う。
Bアームズと呼んでいることから、今はA~Dアームズまで存在する。
ひょっとしたらすでに披露しているかもしれないが、各アームズの紹介はいずれ後のエピソードでするとしよう。
『くらえっ! バスターランチャーッ!!』
ルークが構えたランチャーより、極太のレーザーが発射される。
その光に飲み込まれ、数十体の動きの鈍い人形たちが消滅する結果となった。が、それで消滅したのはビッグフット、一部のマリオネットなどのガタイの大きい鈍重な人形だけだ。
動きの素早いゲッコーやらパイソンは左右に散らばる事でレーザーより逃れ、ルークを包囲するように迫る。
取り回しが難しい巨大ランチャーでは、取り囲むようにして迫る敵は排除できない……そう思われたようだが、仮面の奥でルークはニヤリと笑ったことだろう。
『ふふん、僕のタイタンにそんな分かりやすい弱点があるものか!』
すると、ルークは手にしていたランチャーを反転させ、今まで向けていたとは逆の砲口を正面に向けたのだ。
『バスターショットッ!!』
今度発射されたのは、まるで散弾であった。
いくつもの小さな光の筋が、扇状となって放射される。それによって包囲していた人形たちの一部が消滅。残りの人形たちはやぶれかぶれになったようにルークへと襲い掛かる。
『それならこれだっ!』
飛び掛かってきた人形たちを、ルークはランチャーをまるで接近戦用の武器でも扱うかのように振り回し、その砲身でもって次々に叩き潰していく。……結局はそれしかないよなという、当たり前の戦法だ。
続いて視線を移して探したのは、ゲイルだ。
ユニコーンを纏ったゲイルは、両腕に取り付けられた鎌を使用して自身に迫る人形を次々に切り裂いていく。
あの姿になったら、弓兵スタイルと忍者スタイルの兼用になるからな。
忍者にふさわしい素早い動きで周囲の敵を斬りつくした後は、風王丸を構えて弓兵スタイルにチェンジである。
とは言え、ただの弓兵に徹すれば、遠距離から次々に敵を射抜くのみ。攻撃力と防御力を大幅に増強させるハイ・アーマードスーツを纏ったことのメリットが無くなってしまう。
……となるはずだか、そこはそれぞれのハイ・アーマードスーツに組み込まれている特性でカバーだ。
ゲイルの纏うユニコーンの特性……それは、これからの戦いを見ていれば理解出来るだろう。
風王丸を構えたゲイルは、その弦を後ろへ引く。本来ならば、ここで狙いも定めずに矢を放つはずである。いや、狙いを定めずに……というのは語弊がある。ゲイルの言葉によると、弓を構えた時点で狙いは既に付けているのだとか。だから、矢を番える際に改めて照準をする必要はないらしい。
俺は弓道に関しては完全に素人なんだけど、改めてエルフと言うのは凄ぇなぁと認識した。
なのだが、今回のゲイルは弦を引いた時点で2秒ほどの時間をかけた。
無論、矢のエネルギーを溜めるという理由もある。だが、もう一つ理由があった。
それが、特性である。
ゲイルが矢を放つ。
本来ならば放たれるのは一条の光の矢の筈。
だが、放たれた矢は弓から放れた瞬間に幾重にも分裂し、数十体の人形たちの肉体に風穴を開けたのだった。
しかも、それは正面だけではない。放たれた矢はあり得ない軌道を描いて曲がり、ゲイルの背後に位置していた人形たちも射抜いて見せたのだ。
先に言っておくと、オート照準やホーミング機能はない。
これは、ゲイルが自身で狙いをつけたものだ。
空間把握
ユニコーンの特徴的な頭部の角……アンテナによって半径100メートル以内の情報が、装着者であるゲイルの脳内に送り込まれるのだ。
それこそ、360度……3Dで表現したかのように正確無比な情報だ。
それによって得られた情報を、ゲイルは瞬時に分析し、一発一発の矢の軌道を計算する。それをコンピューター抜きでやるのだから、ゲイルの脳みそはどうなっているのか本当に気になるところだ。
尤も、やはり負担は相当大きいようで、乱発は不可能。合計で50秒程度しか持たないらしい。
使っていない俺が言うのもなんだが、コンピューターの補助使えばもっと楽になると思うのだが、そこはゲイルなりの美学なのでしょう。
ハイ・アーマードスーツ六人衆最後の一人……アルカへと視線を移す。
「!!」
アルカのハイ・アーマードスーツについては、シグマ戦の時に俺も既に把握していた。
その特性である液状化についても、考案したのは自分である。
……だというのに、今現在行われる戦闘行為は、あの時よりも更にレベルアップしていた。
自らの肉体を鎧ごと液状化し、それこそモチーフとなったイルカのように、バシャンバシャンと地面を水面のようにして跳ね回っていたのだ。
額に水と氷で形成したカジキマグロの如き角……カジキマグロの場合は上顎なのだが……を出現させ、水面から跳びあがるのと同時に突き刺している。
更に、背中には鮫の背びれをイメージさせた氷の刃、両腕には魚のヒレをイメージさせた水の刃でもって周囲の敵を切り裂いている。その戦いようは、イルカと言うよりも元々のスーツのモデルである人食い鮫のようであった。
しかし、敵になると恐ろしい戦法だな、アレ。
……改めて見てみると、みんな格好いいな、羨ましいなオイ。
対して俺はと言えば、ブレイズブレードを三刀モードにして、ただひたすら迫りくる敵を倒すしかないですよ。
俺のスーツ……ドレイクには、残念なことに特殊能力というものが搭載されていなかった。
……だって、中身は脆弱で魔力も何も持たない人間ですもの。
更新が遅くなりまして申し訳ありません。
ここしばらく上手い描写表現が出来なくて悩んでいたので、気分転換代わりに新作の方を執筆していたりしたのです。
頭の切り替えが下手糞な人間なので、別の作品と同時進行というのが出来なく、新作の方がある程度形になるまでこちらに手を付ける事が出来ませんでした。
それが最近、評価とブックマークをそれなりにもらい、アルドラゴを期待してくれている人も居るんだという事実に気づきまして、急いで頭を切り替えてこちらを執筆した次第です。
……情けない話ですが、人間やっぱりモチベーションっていうのは大事なのですね。
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