189話 チーム・アルドラゴVSアウラム
レディゴーの掛け声をかける直前、こんな会話を拾った。
「ようアンタ、吹雪つったか?」
『へ? は……はい』
「かしこまんじゃねぇよ。今は同じ仲間だろうが」
『う……うっす』
会話の相手はヴィオと吹雪である。
いつもな感じのヴィオに比べ、吹雪は完全に委縮している様子だ。まあ、あの人見た目はおっかないお姉さんだものな。ビビる気持ちもわかる。
「スペック見たところ、近接戦闘タイプなんだろう? どうだい、いっちょ一緒にぶちかまそうぜ」
『で、でも……俺、今は片腕しかねぇし……』
「はぁ……つまんねぇ事気にするなぁ」
『え? つ、つまんない……?』
ビシビシと吹雪の右肩を叩き、今度は自分の両腕を見せつけた。
「おら、アンタは腕一本しかねぇだろうがよ、アタシは何本ある?」
『に、二本……?』
「合わせて何本だ?」
『……三本』
「だったら、腕が三本あると思えばいいだろうが。一本よりも二本、二本よりも三本だろ!」
ううむ、凄い理論だ。だが、戦意は衰えていないものの、どうやって戦えばいいのか悩んでいた様子の吹雪を吹っ切らせるには、適切な言葉だったようだ。
『う……うっす!』
「おっしゃ! じゃあ行くぞ、まずはアタシたちが先陣だぁっ!!」
レディゴーの掛け声と共に、二人が俺を追い抜いた。
そんな二人の様子を見て、アウラムがニヤリと笑みを浮かべる。
「面白い。ますは殴り合いって訳だね」
武器も何も使わない……ただ強化しただけの鋭いパンチ……それはヴィオが最も好きな戦法だ。
「うららららららぁっ!!」
アウラムに接近し、単純な拳の乱打を浴びせようとするヴィオ。が、それらは全てアウラムの高周波ブレードとバリアによって防がれ。一発たりともその身に受ける事は無かった。
「どうした、こんなものか?」
挑発するアウラム。
確かに乱撃のスピードは俺が単独で対峙した時と変わらないものだ。これならば、アウラムでも捉えられる。……最も、それはヴィオ一人だった場合のみだ。
『俺も居るぞこのヤロウ!』
ヴィオに遅れる事約5秒。片腕となった吹雪が、右腕に残されたストライクブラストをアウラム目がけて突き出したのだ。
「ぬおっ!」
なんとかバリアで受け止める事に成功するも、その隣に立つヴィオの拳も止まる事はない。
「うららららぁっ!!」『だあぁぁぁぁっ!!』
「くっ……こいつは……なかなか……」
高周波ブレードとバリアガントレットを駆使し、なんとか二人の猛攻を凌いでいくアウラム。
だが、凌げていたのは最初だけで、次第に両手の動きが追い付かなくなっていく。アウラムが攻撃を受けるのは、時間の問題になっていた。
やがて、その時が訪れる。
「隙ありィ!」
「ぬごっ!」
ヴィオの右の拳が、見事にアウラムの顔面をクリーンヒットした。
記念すべき初ダメージである。
アウラムは咄嗟に後ろに飛び、二人と距離をとった。
「いだだだ……やってくれるじゃないか、雑魚ども」
「ハッ! その雑魚相手に殴られたのは何処のどいつだアホ!」
「ふうむ。舐めていたのは事実か。そんじゃ、そっちが腕三本だってんなら、こっちは六本で勝負しようじゃないか」
アウラムが着込んでいたミラージュコートの背面部が弾け飛び、飛び出したのは四本の金属アームだった。
諸事情で名前は言えないが、まるで某蜘蛛男に出てくる蛸博士のようなシルエットだ。
つーか、アレも俺が見たことないアイテムだぞ!
「《オクトパスユニット》だ。さぁて、これで手数はお前たちの倍だ。どう攻める?」
『であるならば、こちらも更に腕を追加します!』
そう言って飛び出したのは、ユニフォームの裾から巨大な鋭い爪を出現させた銀髪少女……フェイである。
フェイはアクロバティックな動きでアウラムへ接近し、その背後より爪を振るう。
その爪自体は、アウラムの背中より伸びる金属アームによって防がれるが、フェイは攻撃の手を緩めない。爪を振るい、防がれては離れ、また飛び掛かるというヒットアンドアウェイを繰り返している。
見れば、その両脚は狼形態時のように逆関節になっているな。他者の目があるわけでもないし、フェイも全力で戦えるという事だ。
更に、正面から戦うヴィオと吹雪も攻撃の手は休めない。
正面からはヴィオと吹雪、背面からはフェイと恐るべき猛攻が繰り出されているというのに、対峙しているアウラムは特に苦戦する様子もなく攻撃を捌き続けていた。
正直言って、俺が当事者だったらと仮定すると寒気がする。あんなもん、どうやって対処すりゃいいんだ。
「ふぅむ、こんなものかな……」
一分ほどの猛攻が続き、恐ろしい事にアウラムも口を開く余裕が出てきたようだ。
「ところで……忘れているかもしれないけど、僕の腕は六本。君たちの腕はこれで五本。足とか含めると面倒だから省くけど、腕一本分僕の方が多いんだよね。その辺はちゃんと考えているのかい?」
アウラムの視線がチラリと俺を向く。
今までの攻防を俺はただ様子を伺っている事しか出来ていない。
腕が一本足りていないのならば、更にもう一人増やして七本にしてしまえばいいだけの事。それで、数の上ではアウラムを圧倒できる。
じゃあなんでやんないのかと言えば、今の状況ではこれが限界だからだ。
一人に対して接近戦の四人がかりってのは正直難しい。下手すりゃ味方の攻撃が誤爆しちまう可能性もあるのだ。経験の乏しい俺があそこに加わったところで、足手まといになるだけだ。
とは言え、こちらもただやられているだけじゃない。
腕一本足りない分は、しっかり補うつもりだ。
「やれるかゲイル」
「問題ござらん」
すると、今まで様子を伺っていたゲイルがその場から飛び出し、渓谷の壁を垂直に駆け上がった。
10メートルほどの高さのところで止まり、その足を壁へと埋め込ませて即席の足場を形成する。その不安定な体勢のままにゲイルは愛用の武器である風王丸を手にし、矢を番えた。
エネルギー問題のせいで、この浮遊島では全く出番がもらえなかったゲイルの愛弓が遂に本領を発揮する。外付けのバッテリーを取り付けたおかけで、以前ほどとは言えずとも矢を撃ちだす事は可能となったのだ。
……やはり、ゲイルには弓がよく似合う。
忍者スタイルを見た後にそう言った事があったが、ゲイルは何故か顔を赤らめてカクカクと頷いていたな。照れていたのだろうか?
矢を番えたゲイルは、吹雪に向けて振るわれた六本目の腕を打ち払った。
アウラムはギョッとして壁に立つゲイルを視認し、口を歪めた。
「やはり硬い」
これがもし魔獣の腕だったとしたら、今の一撃で腕を破壊していただろう。
だが、現状は動きを阻害するだけで精一杯。アルドラゴの装備と同程度の金属で作られたアームを打ち砕く事は容易ではなさそうだ。
「くそ、エルフめ!」
悪態をつくアウラム。
その間もヴィオ、吹雪、フェイの乱撃は続く。更にゲイルも容赦なく矢を撃ち続けるため、いかにアウラムであっても余裕がなくなっている様子であった。
六本の腕はせわしなく動き、最早防戦一方である。正直、一対四という構図であるから、先に集中力が切れても当然だと思うのだが、アウラムが疲れて止まる気配はない。敵であり、凄く腹の立つ奴だけど、本当にスゲェ。……憧れはしないが。
「ああくそ、もう面倒だ!」
やがて、そんなことを言い出したアウラムは、四本のアームを四方へ伸ばし、更に鞭のようにしならせる事で取り囲んでいた3人を吹き飛ばす。
それでも、離れた場所から狙うゲイルの矢は吹き飛ばせない。
その筈だったのだが、ゲイルが放った矢はアウラムに命中する直前で、何かに弾かれるようにかき消された。
「!」
奴はバリアガントレットを付けた手を突き出していない。バリア……ではない。いや、空中に出現した透明な壁……あれはバリアだ。
宙に浮いた小さな金属プレートより発せられた広範囲バリア……バリアビット。
やはり、奴も持っていたか。こちらとの違いは、こちらがひし形のプレートであるのだが、奴のは六角形だ。不思議と上位互換感がある。
「さぁて、ゲームの続きをしようか。今度は、全員で一気にかかってきてもいいよ」
と、煽ってきやがる。
ともあれ、遂に奴もバリアビットを出してきたか。これによって、全方位をバリアでカバーすることできる。つまり、一対多という状況でも圧倒的不利という状況とはならなくなってくる。
……筈だった。
こちらとしては、ようやく出してくれたか! という心境である。
「ヴィオ!」
「待ってましたぁ!」
先程吹き飛ばされた筈のヴィオは、俺の声に意気揚々と応えた。
満面の笑みでもってアウラム目がけて殴りかかる。その様子に危機感を抱いたのか、咄嗟にその場から動こうとする、が、それをゲイルが矢で阻害して動きを封じる。
「おらぁっ!」
ヴィオが拳を突き出すと、その腕を覆うようにして半透明の巨大な腕が出現した。
その拳がアウラムの全身を包むバリアに激突する。すると、激突した瞬間にそのバリアはピキピキとひび割れ、やがてパリンと音を立てて砕け散った。
これこそ、無敵と思われていたバリアの弱点だ。
果たしてバリア同士が激突したらどうなるか……無敵の矛と盾の逸話があるように、誰しもが思う議題だ。
答えは、密度が同じであるのならば互いに拮抗して壊れる事はない。
しかし、バリアの密度が違う場合はより密度の濃いバリアが薄いバリアを上回る。つまり、今の状況がそれだ。
なぜこんなことが出来たかと言えば、ヴィオの持つ武器……パワーアームの能力のおかげだ。パワーアームの仕組みはバリアガントレットと変わらない。ただバリアの形を変え、拳の形にしたものなのだが、その分密度は濃い。
対してバリアビットは、広範囲にバリアを張るためにその密度自体は薄い。ぶつかれば、どうなるかは歴然だ。
今にして思えば、バトル開始当初に俺がアウラムをバリアビットで封じ込めた際、奴はいとも簡単にバリアを打ち砕いてみせた。あの時はびっくりして冷静に考える余裕は無かったが、要はアイツもバリアを出現させて密度の薄いバリアビットの壁を打ち砕いたに過ぎない。
ともあれ、これでアウラムを覆っていたバリアは砕けた。尤も、ヴィオが殴りつけた前面部分のみが破壊された状態であるが、これで奴を守る壁は存在しない。
「チッ!」
今の状態に危機感を抱いたアウラムがその場から飛び退こうとするが、
『逃がさないよ!』
ルークが地面に手を置きボコボコと大地を隆起させ、アウラムの左右背後を取り囲む。無論、そんなものでアウラムを封じ込める事は不可能であるが、僅かな時間であっても奴を行動不能にする事が重要なのだ。
『行きますよ、烈火!』
『了解だ、姉上!』
その一瞬の隙を狙っていたのは、アルカと烈火だ。
右腕の無い烈火をサポートするように二人は支えあって立っていた。そして、烈火の左腕にはボルケーノブラストが、隣に立つアルカの右腕には、吹雪より受け取った二つのストライクブラストを連結させてライフルとした、ブリザードブラストがある。
『『くらえ!!』』
二人の両腕より、炎と冷気……二つのエネルギーが発射され、奔流となってアウラムへと襲い掛かる。アルカは自前の魔法でという意見もあったのだが、ここは魔力節約の為にアイテムを利用してもらった。そもそも、ブリザードブラストは片腕になった吹雪では撃てなかったから、ちょうどいいのだ。
「うおお!?」
これにはさしものアウラムも慌てたようだ。
逃げるには、正面以外の三方が塞がれている。防御しようにも、バリアは既に破壊されている。アーマードスーツの防御力を頼ろうにも、あの威力は相当なものだ。まともに受ければかなりのダメージを負う事になるだろう。
「仕方ない……ダークシャインフィストォ!!」
右腕のガントレットを変形させ、バーニングフィスト……もといダークシャインフィストでもってエネルギーそのものを相殺しようって魂胆か。
……ならば、想定通りに俺の出番もありそうだな。
エネルギーとエネルギーが激突する。
衝撃で発生した光が辺りを支配し、静寂と共に時が止まったかのような錯覚を受けた。
やがて、光が収まり……激突の結果が明らかとなる。
炎と冷気のエネルギーの奔流を黒い光で相殺しきったのか、アウラムは五体満足のままその場に立っていた。
尤も、周囲はアウラムの立つ場所以外は見事に抉り取られている。よくも、立っていられたものだ。
「……やってくれるじゃないか……」
目元を覆う仮面の奥で、アウラムがアルカと烈火を睨みつけているのが分かる。
だが、こっちチームのターンは終わってないぞ。
「まだだ!!」
残っていたのは、当然ながら俺だ。
光が収まったと同時に俺はアウラム目がけて駆け出していた。右腕のガントレットを変形させ、巨大な掌を形成する。
その掌に炎が溜まり、やがて赤い光を放つようになる。
「何ィ!?」
「バーニング……フィストォ!!」
一度目の打ち合いは負けた。
だが、二度目は……
「チィッ! ダークシャインフィストォッ!!」
攻撃態勢の俺の姿を見て、アウラムも慌てて二発目のダークシャインフィストを打ち出そうとするが、その掌に集まる黒い光は弱い。それも当然、奴のガントレットが俺と同じものならば、さっき使用した直後に連続使用なんて荒業が出来る筈もない。
出せたとしても、さっきの半分程度の威力だろう。
黒い光と灼熱の光……。
先程と同様に、二つの光を持つ二つの掌が激突した。
今度の拮抗は一瞬。
ボォン! という激音と共に光が弾け、爆発と共にアウラムの身体が吹き飛ばされた。
「よっしゃあ!!」
アウラムの身体は何度か地面をバウンドした後に、無様にゴロゴロと転がる。
それでもなんとか立ち上がろうとするのだが、それよりも早く俺たち8人は奴の周囲を取り囲み、それぞれの武器を突き付ける。
……これで詰み。
俺たちの勝ちだ。
すいません。
結局連休中の投稿は出来ませんでした。まぁ、実質今も連休中みたいなもの……と苦しい事を言ってみる。
いえ、ごめんなさい。
今の章も残すところあと少し! バトルばっかりになるかもですが、手早く投稿できるように頑張ります。




