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186話 「アウラム」




 こいつが……こいつがアウラム!

 アルドラゴからフェイを奪い、ワイバーンをカオスドラゴンに進化させ、ダンジョンコアをヒュージスライムに変え、帝国という立場から今までさんざん俺達の邪魔をしてきたアウラムなる男!


 逆さまで空に立っているという異様過ぎる登場の仕方で、まず驚きが勝ってしまったが、ようやく会えた敵の黒幕的な存在だ。コイツに問い質したいことが山のようにある。


「お前がアウラムか。俺は、Aランクハンター……チーム・アルドラゴのレイジだ」

「ああ、うん知ってるよ。本名は彰山慶次だろ」


 さも当然のように俺の個人情報を吐きやがった。

 自分の名前の筈なのに、かなり久々に他人の口から聞く。

 ふと、俺はある事を思い出した。今は懐かしきエメルディア王国でのBランクハンター試験でのこと……。あの時、俺達を狙ったハンターは、確かにその名を口にした。

 この世界において、その名を知る者が何人もいる筈がない。というか、俺の知っている限りアルカだけなのだ。

 何故、その名前を知っているのか……


「お前からは、聞きたいことがたくさんある」


 俺が怒りに満ちた眼差しで睨みつけると、アウラムはにこにこした顔つきで聞き返した。仮面で顔の上部分は隠れているが、とにかく笑っている。


「うんうん、なにかなー」


 明らかに馬鹿にした口調。

 腹が立つ。

 とりあえずぶん殴って、コイツの知っていることを吐かせたい。


「が、のんびりしていられる時間はない」

「へ?」

「だから……今は動けなくして、後でゆっくり聞くことにした」


 いつの間にか、アウラムの周囲をバリアビットが囲っていた。四つに分かれたバリアビットは、三角錐状のバリアを作り出し、その中にアウラムを封じ込める事に成功。

 アウラムは、逆さまになったまま、コンコンとバリアの壁を叩いて感触を確かめている。


「悪いが、そこで待っていてもらうぞ」


 後ろ髪引かれる思いだが、物事には優先順位というものがある。

 俺はさっさとアウラムから視線を外し、移動を再開しようとした。

 その横顔に、言葉が投げつけられる。


「おいおい、こんな重要人物を放っておくのかい?」

「だから、後で聞いてやるから、しっかり待ってろ」

「う~む。悪いけど、やだね」


 アウラムはそう言って拳を後ろに下げ、一気に正拳突きの形で突き出したのだ。

 すると、パリーンという音を立ててバリアビットで作り出したバリアはいとも簡単に砕けてしまった。


「は?」


 俺は思わず間抜けな声を出す。

 バリアが砕かれた?

 それもただの拳でだ。


 アウラムは呆けたままの俺の目の前にストンと着地すると、ニヤリと笑みを浮かべた。


「悪いけど、もうちょい付き合ってもらうよ」

『ケイ!』


 ドンッと真横に居たアルカが俺を突き飛ばし、同時にアウラム目がけて鎌を振り下ろした。

 だが、それはアウラムが片手で掲げたステッキのようなものによって受け止められていた。

 アルカは渾身の力を込めて鎌を振り下ろしているわけだが、対するアウラムは涼しい顔だ。

 いくら膂力りょりょくは低いアルカと言っても、普通のハンター以上のパワーはある。それをびくともせずに受け止めるとは……。

いや、まさか、この男の着ている服は……。


「うむ。君たちと同じ、アーマードスーツだ」


 すると、今度はその場から姿を消した。まるで、空気に溶けるようにスーッと色が消えたのだ。

 この特性……当然ながら覚えがある。


「今度はミラージュコートか!」


 俺は危機を察知して何もない空中に向けて左の剣を振り上げた。

 すると、キィンという金属を弾く音が響き、今度は空気に色が付くように姿を消していたアウラムが現れる。

 アウラムは、ステッキから抜き放ったと思われる直刀を振り下ろした体勢であった。

 そして、この直刀……よく見れば刀身が細かく震えている。


「その剣―――」

「うんその通り。高周波ブレードだ」


 やはりか。

 咄嗟に左の剣で受け止めて正解だった。

 左手に持つブレイズグレートブレードは、元々俺が使っていた高周波カッターを改造したものだ。同系統の武器だからなんとか受け止められたが、ヒートブレードを改造したブレイズロングブレードだったならば破壊されていたかもしれない。


 くそ……。あまり考えたくない事だったけど、ここまで来たら認めざるを得ない。

 このヤロウ、俺達と同じアルドラゴのアイテムを持っていやがる。


「お次はこれ!」


 アウラムは、アルカに向けて剣を持たない方の掌を向ける。

 すると、突然アルカの身体はその掌に向けて引き寄せられたのだ。抵抗するアルカであるが、それは叶わない。

 何故ならば奴の左手にはグラビティグローブが装着されている。引力と斥力を発生させるアイテム。それによって対象を引き寄せたり、弾いたり出来る。


 そのままであれば、アルカはアウラムの手に引き寄せられ、その身を掴まれていたことだろう。

 だが、捕まる直前にアルカは自らの肉体を瞬時に液体化させ、その拘束より逃れる。

 そして、離れた場所に肉体を再構成しようとしたのだが、それをアウラムは狙っていた。


「アルカ! 逃げろ!!」

『え?』


 再び実体を取り戻したアルカに、アウラムは手にしていたステッキ……いや剣の鞘の先端を向けている。

 ……いや、それは鞘でもあるがもう一つ別の姿がある。

 ライフルだ。


 そのライフルより放たれるのは、冷気の弾丸であった。

 肉体を実体化させる瞬間の隙を狙われ、アルカはその冷気をもろに受けてしまう。

 アルカの上半身は氷によって包まれ、受け身も取れずに地面を転がる結果となる。

 いくら冷気魔法を得意とするアルカであっても、自らの肉体を構成する水そのものを凍らされてしまえば、何も出来なくなってしまう。

 とはいえ致命的なダメージを受けるわけでもない。この場合はあくまでも一時的な戦闘不能状態。アルカならば、時間さえあればあの程度の氷はなんとでもなる。


 しかし、そのライフルはなんだ?

 これまでアウラムは俺と同じ武装を使って見せてきた。だが、このライフルみたいな武器は見たことがない。だが、ライフルより放たれたのはアイスブラストだ。

 これを撃つ事が出来るという事は、俺の持つトリプルブラストと同系統の武器なのか?


「う~ん、これが気になるかい? コイツは≪ヘキサブラスト≫。トリプルブラストが三つの属性弾丸を装填できるのなら、コイツは一度に六つの弾丸を装填できるのさ」


 へ、ヘキサブラスト!?

 俺の知らない武装だ! アルドラゴにある武器は全て俺の知識にあるから、その中にないこの武器は、アルドラゴの武装に含まれていないという事だ。

 だが、ちょいと疑問。


「3でトリプルなんだから、この場合はセクスタプルじゃないのか?」

「言いづらい。それに語感的に格好いいからヘキサブラストにした」


 即答された。でも気持ちは分からないでもない。でも、何故にギリシャ数字をチョイスしたし。

 でも格好いいから悔しい。


「じゃあ、こんなのも見た事が無いだろう」


 アウラムはニヤリと笑みを浮かべ、ヘキサブラストの弾倉部分を回転させる。

 違う属性の弾を撃つ気か!?

 今逃げれば身動きのとれない状態のアルカが狙われる。仕方ないと判断し、俺は前面にバリアを展開して攻撃を防ごうとした。


 残念ながら、その行為は意味がなかった。


 弾が撃ち出された途端、俺の身体は吹き飛ばされ、背後の岩壁へと打ち付けられる。

 ……そして残念なことにそれで終わりではなかった。

 打ち付けられた俺の身体は、ミシミシと音を立てて壁へとめり込んでいく。なんとか這い出そうとするのだが、まるで自分の身体が巨大な手によって押し込まれているかのようで、ちっともいう事を聞いてくれない。

 これは、衝撃波とかそういうのじゃない。

 こいつは―――


「そう……グラビティブラスト。高圧力の重力波を撃ち出す弾さ」

「!!」


 くそ、やはり知らない武装だ。

 俺の身体はそのまま岩壁を砕きながら通り抜け、渓谷の谷底へと落ちていった。

 アーマードスーツのおかげで痛みはかなり軽減されている筈なんだが、かなり痛い。これってスーツなしだったら確実に死んでいたな。

 まあ谷底に落とされれば誰だって死ぬか。


 それにしても、敵にしてはっきりと分かる今までの俺達の理不尽さ。

 ……アーマードスーツに始まり、バリアガントレット、高周波カッター、グラビティグローブ。戦い素人の俺でもなんとか生き残れるようにと厳選した装備一式だったのだが、それを敵が持っていると考えたら、どうやって対処すりゃいいのだと混乱する。


 そうやって頭の中で必死に対抗策を考えていると、周りのギシギシという音から、ようやく俺は敵の人形に囲まれていたのだという事に気付いた。

 だが、人形どもは遠巻きにこちらを見ているだけで襲ってこようとはしない。

 理由は不明だが、そうさせている原因が、俺の目の前にふわーっと降りてくるアウラム自身だという事は分かった。

 俺はなんとか立ち上がり、渓谷の岩壁を背にしてアウラムを睨みつける。

 とはいっても、頭の中は真っ白なんだが。


「どうした? ここで終わりなのかなぁ?」


 にちゃあっと底意地の悪い笑みを浮かべてこちらを挑発してくる。


 ええいもう!

 こうなったらやるだけやってやる!!


 俺はトリプルブラストを取り出すと、目の前のアウラム目掛けてファイヤーブラストを撃ち出す。

 当然それはバリアによって防がれるが、奴のはあくまで普通のバリアガントレット。前面にバリアを張る事しか出来ない。

 俺は壁を蹴り、更にジャンプブーツを発動させて一瞬でアウラムの背後へと回り込んだ。

 そんな無防備な背中めがけて、右腕のハードバスターを発射する。極太の光がアウラムを直撃した。

が、光が収まった後、アウラムは健在であった。更に、俺をまた挑発するかのようにハラリとコートの裾を払う。

 く・そ・が!

 着地した俺は、二刀を構えてアウラムに接近する。


「だあぁぁぁっ!!」


 戦術など、何も考えずにただひたすらに剣を振るった。

 本来なせばこれで大抵の敵は対処できるはずだが、その振るう剣の全ては奴の持つ直刀の高周波ブレードと瞬間的に発生させるバリアによって防がれていた。

 映画やなんかで見る、無駄のない最小限の動きで攻撃を受け流す達人みたいな動き! くそう、実際にやられると本気で腹立つな!!


 だったら……防御できないレベルの大技で仕留めるしかない。

 ブレイズブレイザーは溜めにかなりの時間を要する。ならば、片手で出せるアレしかないな。尤も、あれもちょっとした時間が掛かる。そこは、頑張って稼ぐしかあるまい。


 俺はブレイズブレードを一刀モードにすると、上段から一気に振り下ろした。

 当然、あの細い剣では受け止めきれまい。アウラムはバリアを張って俺の一撃を受け止めようとする。

 その為に視界が一瞬俺から離れた。

 一撃がバリアによって防がれた瞬間、俺は剣の柄から右手を放し、拳を後ろへ引く。右腕を覆っていたガントレットがガチャガチャと形状を変え、巨大な掌を形成する。掌からは炎が激しく噴き出し、接近戦での俺最大の技の準備が整った。


「バーニング……!!」


 灼熱の掌底を撃ちだそうとしたが、いつの間にか……アウラムの右手もその形を変えていることに気付く。

 黒い光を放つ……俺と同じ巨大な掌だ。

 アウラムは心底楽しそうな笑みを浮かべながら、口を開いた。


「ダークシャイン……」


 ええいくそ! こうなったらやるしかない!!


「「フィストォォォォッ!!!」」


 黒い光と灼熱の光……。

 二つの光を持つ二つの掌が激突した。


 その直後の事は、正直言ってあまり覚えていない。記憶に残っているのは、激しい閃光と爆音。

 数秒間は耐えたと思うのだが、気が付けば俺の身体は吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がる結果となっていた。


 くそっ! なんでアイツがアレを使えるんだ!!

 あれは、ハンドバレットリングの応用技から俺が思いつき、スミスに新しく作ってもらった新規の武装の筈だ!


 混乱している俺の耳に、アウラムの声が聞こえてきた。


「アハハッ! やはり、ライバルキャラってのはこうあるべきだよね。主人公と同じ姿に同じ武器……それでも、更に一歩先を行っている。ついでに色は黒。ド定番だけど、燃えるよねぇ!」


「ライバル? ……一体、何を言っている」

「何って、僕の姿をよく見なよ。黒いスーツに仮面、いかにもライバルキャラって属性盛沢山じゃないか。本当は赤にしたかったけど、君が既に使っているから、僕は黒にしたよ。仮面って言ったら赤なんだけど、まぁ黒も格好いいよね」


 アウラムはペラペラと力説をしている。

 何を言ってるんだコイツ? いや、言葉は分かるんだが、その意味が分からない。


 ライバルキャラって言ったら、赤で仮面。ヒーローものになるなら、黒っていうのは理解出来る。理解出来すぎる。

 でも、なんなんだよライバルキャラって。そんな単語、自分で言うものじゃないだろう。それは、あくまでも作り手の言葉―――


「作り手?」


 今までの奴の行動……言動を思い返してみる。

 これまでの奴は俺たちの冒険の影で、常に暗躍していた。まるで、ここでイベントを起こそう……ここでボスキャラを放り込もうという製作者サイドの指示のような行動。

 そして今の言葉。

 まさか、アイツ……


「あ、気付いた? そう、改めて自己紹介しようか。

 僕こそ、主人公たる君の行動を今までお膳立てしてきた、この物語の“作者”さ。

 そんでもって、今は君のライバルキャラを担当するアウラム。

 っていう訳だから、ヨロシク♪」




一応釈明しておきますと、メタネタでも作者の自己投影キャラでもないです。

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