185話 合体技
「行くぞ、アルカ!」
『はいっ!』
俺は手に握ったアルカの手を大きく振り回し、真下にて蠢く魔獣どもに向かって投げつけた。
投げつけられたアルカはと言えば、右足を突き出し自身の下半身を氷で覆う事によって、自らの身体を巨大な槍とする。
投擲された氷の槍は魔獣の群れのど真ん中へと突き刺さり、数体の魔獣を圧し潰すように破壊する。これはシグマとヴァイオレットと戦った際に披露した技であるが、あの時よりも進化している。
攻撃はそれだけでは終わらない。アルカは下半身の氷を砕き、それを礫として360度全方位に向けて放った。
当然ながら、俺もその後に続く。
俺は久々登場のフックショットを谷の岸壁に撃ち込むと、そのままターザンロープの要領で振り子のように身体を飛ばす。
地面スレスレを擦るように飛ぶわけだが、足元には魔獣の群れがひしめいている。その群れ目がけて、俺はブレイズブレードを振るった。
振り子の遠心力とスーツで増強したパワーによって、人形魔獣の身体は簡単に斬れる斬れる……。
そのままフックショットを外し、地面を滑るように着地。
着地した俺目がけて魔獣……ゲッコーやらパイソンやらが襲い掛かるわけだが……っああもういちいち表記すんのめんどくさい! 人形どもでいいや。その人形ども目がけて二刀流モードのブレイズブレードを振るう振るう振るう。
特に戦法も何も考えず、ただひたすらに無心に斬り続ける。
ちらりと視線を向ければ、アルカもアルケイドロッドを鎌モードにして華麗な動きで人形どもを斬り裂いていた。
ここに来て、俺とアルカの意思は一致していただろう。
この島に来てからというもの、俺達は一貫して縛りプレイをさせられていた。
魔力の使う装備は使えず、魔法も使えず……。一度だけハイ・アーマードスーツを纏って思いっきり戦えたが、あの時はかなり制限時間ギリギリの勝負だったからな。
まぁ何が言いたいかと問われれば、鬱憤が相当溜まっているのである。
つまり、溜まりに溜まったストレス……。今ここで、発散させていただくのだ!!
とまぁ、こんな感じで戦い続けているのだが、いくらなんでも数が多い。
いくら無双系ゲームをやっているような状態と言っても、こちとらボタンを押しまくっていればいいという訳でも無い。動けば動くだけ体力は消耗するし、集中力を酷使し続ければ精神的に疲れてくる。
おらおら、いいからそろそろ来いよ。
俺の“仲間”なら、もう来てもいいタイミングだろうが!
そう思っていると、背後で爆発が起こった。
―――来たか!
『うおお! ストライクブラストォッ!!』
『ヒィートォウェィィィブッ!!』
吹雪が二対のトンファーを振るい、烈火が炎の鞭をしならせる。
『レイジ! ビビっちまって悪かったな! もう吹っ切れた、やるぜ俺は!!』
『ああ! この程度の敵……一掃できないで何がアルドラゴのメンバーか!』
特に一掃するつもりは無かったが、二人がやる気になったのは良かった。
ならば、ちょっとやってみたかった事を試してみるとするか。
「烈火! ヒートロッドを空中に伸ばせ!」
『む? お、おお!』
俺の指示通り、烈火はヒートロッドを鞭の状態に変化させ、空中に長く展開させる。
久しぶりにトリプルブラストを取り出した俺は、ファイヤーブラストをセットしてその鞭の先端目がけて巨大な火球を発射した。
その火球は鞭の先端に纏わりつき、ヒートロッドの熱を吸収して更に巨大化した。それは正に、極小の太陽が鎖によって繋がれているかのようであった。
『お……おお……!!』
「そいつを振り回せ! プロミネンスフレイルだ!!」
『了解した! プロミネンス……フレイルッ!!』
鉄球と棍を繋ぎ合わせた武器……モーニングスターなるものがあると思うが、見た目はあれに近い。
烈火は超強化された己の武器を振り回し、人形どもを次々に破壊していく。あの強化は短時間しか持たないだろうが、これでかなりの敵を倒す事が出来た。
これぞ、前々からやってみたかった合体技である。
チームメンバーである事から、是非とも連携を活かした攻撃法というものをやってみたかったのである。
『なんだよそれ! 俺もやってみたいぞレイジ!!』
烈火の獅子奮迅の活躍を見て、ストライクブラストで地道に人形を破壊していた吹雪が文句を垂れる。
「俺には氷系武装の手持ちがない。お前との合体技は無理だ」
『ならば、私がお手伝いします』
スッと、先行していたアルカが戻り吹雪の隣に立つ。
そして、自然な動きで吹雪の持つ左腕のストライクブラストを奪い取ると、突然そのストライクブラストを宙に放り投げたのだ。
『え? な……な?』
いきなり武器を放り投げられて混乱する吹雪を無視し、アルカは行動を続ける。
まず、スライムのような粘着性のある水のロープを作り出し、吹雪の手にしている右のストライクブラストと今放り投げたストライクブラストを連結させた。
続いて、宙に投げたストライクブラストに冷気を浴びせ、巨大な氷の氷柱へとその姿を変えた。次に同じく吹雪の持つストライクブラストにも冷気を浴びせ、同程度の氷柱へと変える。
『お、おお! こいつは!!』
完成したそれは、氷で出来た巨大なヌンチャクだ。
なるほど、烈火がモーニングスターなら、吹雪はヌンチャクという事か。
とは言え、ただのヌンチャクではない。ただのストライクブラストを覆っている氷はただの氷ではなく、普通の人間ならば触れただけで指先が凍り付くほどの冷気を纏った氷柱だ。
吹雪の両腕は寒冷対策が完璧に施されているので、決して凍り付くことは無い。正に吹雪だけが振るえるヌンチャクと言えよう。
『行きなさい吹雪! ええと……アイシクルツインロッドです!』
『おお姐さん! アイシクルツインロッドォッ!!』
なるほど、氷柱だからアイシクルツインロッドね。
吹雪がヌンチャクを振るうと、氷柱が当たった衝撃で次々に人形どもが破壊されていった。また、その氷柱より放たれる冷気の余波よって、命中していない人形も凍り付いていく。ストライクブラストより常にアイスブラストが発射されている状態であるから、当たらなくともかなりの攻撃判定があるようだ。
ううむ、流石はアルカ。とっさに考えたとは思えない合体技だ。
一応某リー先生の扱うヌンチャク技とか、ハリウッドのニンジャ映画とかで披露されたヌンチャク技の動きやなんかはインストールされている筈だが、あれほど大きなヌンチャクとなると技術は大した意味を持たないだろう。ただ振り回すだけで十分な破壊力である。
まあ烈火もただ振り回しているだけだけどな。この敵の群れの真っただ中だと、ただ振り回すだけの武器は酷く使い勝手がいい。それはゲームでよく知っている。
だが、ここで終わりではなかった。
アルカは上空に冷気を送り込み、頭上に巨大な氷の塊を作り出したのだ。
『吹雪! あれを叩き割ってください!!』
『おっしゃあ! くらいやがれっ!!』
吹雪はアイシクルツインロッドを振り回しながらその場から跳びあがる。そして、空中に作り出されたその氷の塊に巨大ヌンチャクを叩きつけた。
氷塊はパリーンと音を立てて砕け、砕けた氷は矢の雨……いや大粒の雹となって眼下の人形どもに降り注いだ。
雹とは言え、一粒一粒が砲丸サイズの礫だ。人形どもは簡単に身体を射抜かれ、戦闘不能に陥っていく。
『すげぇ! 姐さん、今のはなんて技だ?』
『へ? わ、技名ですか? ええと……』
アルカさんは困っている様子なので、俺が助け舟を出そう。
雹は英語で……ヘイルか。ならば……
「アルカ……ヘイルブラスト……」
『ヘイルブラストですっ!』
ぼそっと耳打ちした俺の意見をさくっと採用してくれるアルカさん。
しかし、同系統の属性の組み合わせとは言え、初対面とは思えないほどの連携っぷりである。こうなると、ちょっとうらやましくなってくるな。
『せ……せん……せい……』
「うおっ!?」
必死で訴えるような目で、烈火がこちらを見ている。
なるほど、さっきの合体技を見て、こっちも大掛かりな合体技をやりたくなったか。
しかし、だからといって俺はアルカみたいに華麗な魔法は使えない。ならば、どうするか……。
しばし悩んだ後、パッと閃いた。
「烈火、フレイルの先端を切り離せるか?」
『むぅ、つまり火球部分という事だな。出来ると思うぞ』
「だったら、それを上空に向けて投げてくれ」
『よ、よし! 投げればいいのだな!!』
言われた通り、烈火はプロミネンスフレイルを持ったまま回転し、ハンマー投げの要領で先端の火球部分を上空目がけて放り投げた。
上空に向かって投げつけられた火球が、太陽と重なる光景は実に幻想的だ。
俺はその投げつけられた火球に目がけて跳びあがり、所謂オーバーベッドキック状態でその火球を蹴りつける。
火球を蹴りつけた俺の脚部には、ブレイズブレード三本目の剣……ブレイズダガーがセットされていた。
火球を蹴ったとしても、ただ火の塊が敵の群れに向かって落ちるだけだ。ならば、ブレイズダガーで切り裂いて二つに分けて落とそうと考えたのだが、どうも俺の蹴りは予想外の結果をもたらしたらしい。
蹴りつけたことで火球は二つに分かれるどころか、無数の火の礫となって敵に降り注ぐ結果となった。当然、さっきのヘイルブラストと同程度の戦果を得たのである。
結果としてみれば予想以上の効果を得られた訳だが、咄嗟の事で俺は技名を叫ぶことを忘れていた。
俺が着地すると、烈火が興奮した様子で俺に駆け寄ってきた。
『うおお! 凄いぞ先生!! あれは何という技なのだ?』
「ええと……メテオシャワー……ブラストかな」
とりあえず、流星群の名前を付ける事にした。
それにしても、もう一回アレをやれと言われても出来るもんかな?
ともあれ、これで結構な数の人形が減った。
だが、それでも全体の二割程度だ。全く、どうやってこれだけの数の人形を作ったのだと問いただしたい。
……その辺をよくよく考えてみると、この人形の数は明らかに異常だと気付く。
そもそも、通常であれば魔力を吸い取られるはずのこの島で、これほどの人形を作るには、相当量の魔力が必要だろう。
やろうと思えば土魔法を得意とするルークも同じようなことが出来る筈。だが、魔力を無駄に消費することから実際に行われることはなかった。
一体アークは、その魔力をどこから得ているというのか……。
そうやって思考の闇に囚われそうになったところで、吹雪の声が飛んだ。
『レイジ! ここは俺達に任せて、早いとこ敵の本陣に行け!!』
「え?」
俺は慌てて吹雪を見ると、吹雪はニヤリと笑みを浮かべながらアイシクルツインロッドを肩に担いだ。
『こんな雑魚ども、俺と烈火だけで十分だ。お前らは大ボスを頼む!』
『うむ! 我々も自分の力を再確認した。この程度の有象無象にやられる我らではない!』
最初にビビっていた奴らとは思えない自信に満ちた言葉である。
まぁ確かに、ここでチンタラといつまでも戦っている余裕はなさそうだ。
まだまだエネルギーの余裕があるうちにボスを叩くのも手だな。それに、ここは渓谷の入り口部分。ここの敵どもを一掃しておけば、万が一逃げる事になった場合に脱出しやすくなる。
「よし、それじゃあ退路の確保は任せた。アルカ、俺達は帝国の奴らを叩くぞ!」
『はい! お供します!!』
力強くアルカは答え、右手を俺に向かって差し出した。
俺はその手を掴み、ジャンプブーツを最大放出してその場から跳んだ。
帝国の奴らとの距離はまだまだ数キロも離れているが、それは普通に谷底を移動した場合の話だ。渓谷はかなりジグザクしている形であるから、ジャンプブーツで渓谷そのものを飛び越えて一気にショートカットする事が出来る。
そうやって大ジャンプしたまま、帝国の奴ら目がけて奇襲をかけようしたのであるが、その行動は阻まれる結果となった。
突如として空中に現れた者が、俺達のショートカットを遮ったためだ。
「はいストップ~~。駄目だよー。割り込みは迷惑行為だかんね」
まるで、見えない壁に阻まれるような形で俺達は動きを止められ、そのまま渓谷の山頂部分に落下してしまった。
「お前は!?」
俺とアルカは、突然現れたその謎の男を睨みつける。
それと同時に、顔を歪めた。
黒と金という派手な色合いのコートで身を包み、まるで道化師を思わせるような奇妙な仮面を顔に着けた男がそこに居た。
いや、それだけでは驚きはしない。
驚いたのは、その男の姿かたちというよりは、その佇まいだ。
男は、宙に浮いていた。
それもただ浮くだけではなく、上下さかさまに。
何もない天に足をつけるようにして、その男は空に立っていたのだ。
「やぁ、こうして顔合わせるのは初めてだね。ぼかぁアウラム。うん、君達の敵……っていうか、黒幕的な存在だねぇ。以後、よろしく♪」
男は、頭に被っていたシルクハットを取り、優雅に一礼し、その名を名乗った。