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184話 神獣




『おおレイジ、あったあった! あれだろ、ブレイズブレードってのは』


 吹雪の指差す方向を見て、俺は心底ホッとする。

 あった……。ちゃんと無事にあった。

 わが愛刀ブレイズブレード。

 今は三本の剣に分かれて、ただの道ばたに打ち捨てられているが、まるで俺を待っていたかのように迎え入れてくれた。

 とりあえず、後で魔力の方を充電しておこう。


『しっかしすげぇな。これ、レイジがやったの?』


 ふと吹雪の方を見れば、巨大な放射線状に陥没した平野の惨状を見て感嘆の息を漏らしている。

 あれは、俺が最後の最後に使用した技、ブレイズブレイザーの痕跡だな。

 改めてみると酷い。だから、こういう環境破壊に繋がりかねない大技は使いたくないのだ。

 まあ、あの時は技選んでる余裕なかったから仕方ないのだけど。


『ストライクブラストも凄ぇが、やっぱこういう派手な武器持ちたいな! なあ、もっと俺にも凄ぇ武器くれよ』


 レイジ呼びを認めた事で元のジェイドの人格が大きく作用されたのか、随分と馴れ馴れしくなってきた吹雪である。

 たまにイラッとくるし、そういう考えを持っている限り、威力のでかい武器は渡さんと決めている。その辺はきちんと矯正せんとあかんなぁ。

 とりあえず軽く一発殴り、俺はジェミニへと歩を進めた。


 戻ると、ちょっとした変化が起こっていた。


『おお! お主ら生きておったか! という事は勝ったのじゃな。これは喜ばしい事じゃ!!』


 アルカの膝の上に乗った体勢であるシェシェルが、急にそんなことを言い出したのだ。

 俺とアルカはなんとなく理由は分かったが、初体験の吹雪は怪訝な顔つきでシェシェルを見つめている。

 

『なぁレイジ、このガキ急にどうしたんだよ』

「あぁ、神がかりってやつだ。面倒な職業についちまったおかげで、妙なのに“かれ”ちまってんだ」

『そうか……“かれて”んのか。若く見えるのに、色々あんだな……』


 微妙に噛み合ってない気もするが、まぁいいだろう。

 とにかく、翼族の神オフェリル様のご降臨のようだ。

 とはいえ、こちらとしても急ぐ立場。話は移動中にするとしましょう。


「俺ら随分と大変だったのに、アンタ今まで何してたんすか」

『むう、わらわ達神は大変忙しいのだぞ。それに、神が人の世の争いに手を出すわけにはいかんのだ。という事で、いくらピンチになろうと妾は手を出さんからな』


 それは俺も理解している。

 前にファティマさんとかに手伝ってくれとか言ったら断られたもんな。


 そしてふと、今まで気になっていたことをこの際だからと尋ねてみた。


「そーいや、オフェリル様は知っているんですか? この島に来る途中、フェニッ……すんごいでっかい火の鳥に襲われたんですけど」

『おお! フェネルの奴かえ。当然知っとるぞ!』


 知ってたんかい!

 フェニックスじゃ通じないかと思ったが、名前の方もフェネルと微妙に近い感じであった。


『ふむふむ。長らく会っとらんが、その様子だと元気なようじゃな。良きかな良きかな』

「あ、あの魔獣……フェネルって言うんですか?」

『魔獣などと失礼な! あれは、クリエイターが作り出したウィルスなんぞ全く影響を受けておらん。妾が直接魔力を送り込んで育て上げた神の獣……ふむ、言うなれば神獣しんじゅうじゃな』

「神獣?」


 まった新しい専門用語が出てきやがった!

 あんまりややこしい専門用語羅列すっと、読者とか逃げていくんだぞこのヤロウ。


『では、あのフェニックスは、普通の動物という事なのでしょうか?』

『元はの。妾が幼少の頃より可愛がっていたエリアルバード(要は野生の鳥)に、神の魔力を注ぎ込んだのじゃ。すると、30年を過ぎたあたりからあのような炎を巻き散らす鳥に進化しおった。

 今では、この島を外部よりの攻撃から防ぐべく、守護獣のような役割を与えておる』


 ちょい待ち。

 なんか聞き捨てならない単語があったぞ。


「じゃあ、俺らを襲ったのは……アンタの指示かよ!」

『襲ったとは失礼な。島の外より現れるものあらば、迎撃せよとの命令は与えてあるが、殲滅せよとは言っとらんぞ』

「まぁ確かにアレに落とされた訳じゃないけどさぁ」


 確かに、この島に落ちる事になったきっかけは、アルドラゴの魔力切れのせいだ。あのフェニックスのせいではない。せいではないんだけど……なんか悔しいな。

 あと、この迎撃っつても、この高さから落とされたら普通死ぬと思います。


「って事は、明確な敵じゃないって事ですね。ここから出る分には邪魔しないって事ですか?」

『おおそういう事か。うむ、出る分には手を出してこんと思うから心配ないぞ。……多分』


 なにその多分っていう不吉な言葉。

 まぁ、あのフェニックスが完全な敵じゃないって事が分かっただけでも朗報か。

 ルーベリーのゴッド・サンドウォームの時みたいに、アレが今回の大ボスだと思っていたから、それを避けられただけでもラッキーとも言える。

 何、伏線? フラグ? いやだなぁ、何不吉な事言ってるんですか。今回ばっかりはしんどいから、空中戦とかやんないっすよ。アハハ。


 ってメタ的な事言ってる場合じゃねぇ。

 なんだかんだ言って、目的地に到達したぞ。

 早い! ……この島に来て、ほぼ自分の足で動いていたから、文明の利器って素敵……って心底思います。


 俺達はジェミニより降り、その場所を改めて確認してみる。


 その、クリエイターとやらが閉じ込められている監獄は、深い渓谷の奥地にある。

 さらに言えば、この付近にも重力コントロール装置の施設が存在するから、そこも手を出されるとアウト。

 とは言え、クリエイターの監獄にも、コントロール装置の部屋にも入る為には、厳重なロックを抜けなければならない。

 現に、今まで奴らはまだその装置には辿り着いていない。

 だったら放っておいてもいいんじゃないか……って話なんだが、帝国には何せアークが居る。

 アルカ達と同じ知識を持つアークならば、ロックを解除なんて芸当も可能だろう。なのに何故、未だに到達していないんだろうという疑問があるのだが……色々相談した結果、奴らも一枚岩ではないのだろうという結論に達した。

 まぁだからと言って危険な芽を放置しておくわけにもいかない。

 帝国の奴らは、今日ここで排除する。

 そう決めてきたんだけど……。


「やっぱ、待ち構えているよなぁ」


 渓谷の中には、おびただしい数の魔獣がひしめいていた。

 魔獣というのも、例のパイプを繋ぎ合わせたような外見の人形魔獣だ。

 なので特にひねりもなく、

 俺が遭遇したヤモリタイプがゲッコー。

 ゲイルが遭遇したらしい蛇タイプをパイソン。

 ヴィオが遭遇したらしいゴリラタイプをビッグフット。

 ルーク、フェイが遭遇したヒト型をマリオネット。

 と、名付ける事とした。


 まあ暫定だし、この変な魔獣は恐らくはアークが生み出したものなのだろう。

 だから、この世界の歴史に残る事はあるまい。


『なあ、ここに敵が居るって事は、もう既にクリエイターとかってのは、帝国に連れ去られたんじゃねぇの?』


 ふと吹雪が、当然の疑問を投げかける。


「いや、多分違うだろうな」


 俺の答えに、アルカが追随する。


『いえ、あくまで推測に過ぎませんが、こう予測できます。この魔獣の行動は、アークの力によるもの。そのアークと帝国の目的はイコールではありません』

「あぁ、これまでもアウラムとかいう奴が俺達にちょっかいかけて来やがったが、帝国の奴らとは足並みが揃っているとは言い難かった」

『ええ、今回はたまたま目的地が一緒だったから帝国軍と同行しているだけで、彼等自体は帝国に本気で協力するつもりはないのでしょう』

「んでもって、これは……」

『「いやがらせだな(ですね)」』


 俺とアルカは声をハモらせて宣言した。

 フェイからも、アークがこちらに魔獣を差し向けたのはただの嫌がらせだという宣言を受けたとの報告を受けた。


 嫌がらせ……実にしっくりくる理由である。

 今にして思えば、今までの戦いにおいて、そのアウラムなる輩が俺達にちょっかいかけてくるのは、ただの嫌がらせとしか思えないタイミングばかりだった。

 すると、今回もそれの続きなのだろう。

 だが、今回は今までと少し違う部分がある。


「今回は、敵の中にそのアウラムって奴が自ら乗り込んできている」


 後が無くなったのか、空に浮かぶ島という特性上自ら来るしかなかったのかは不明だが、アウラムをとっ捕まえる絶好のチャンスだ。

 ふふふ……今まで後手後手だったが、遂に黒幕とやらのお顔が拝めるかもしれん。腕が鳴るというものだ。


『ただ、これが罠という可能性は十分あります』

『つーか、そっちの可能性の方が高いんじゃね』


 アルカと吹雪の言葉に、俺の脳みそも若干冷静になる。


「でも、危険だからって、ここで奴を放置しておくわけにもいかないだろう」


 この島にある重力コントロール装置も、クリエイターなる存在も、帝国に渡すわけにはいかない代物だ。

 だったら、危険も罠も承知の上で乗りこむしかない。


 そうやって話していると、今まで無言だった烈火の目に光が灯る。


『ム……ムム……。再起動完了。先生、無事にフェイ様に伝える事は出来たぞ』

「そっか、ありがとう」


 これまで、烈火にはアルドラゴとの通信を行ってもらっていた。

 通信と言っても、今まで見たいにバイザーを使ってピピピっと簡単に連絡が取れるわけではない。


 烈火には、一度アルドラゴに戻ってもらって、フェイやルークに伝言を頼んだのだ。

 戻るといっても物理的に戻るわけではない。そもそも、烈火と吹雪のAI本体は今もアルドラゴにあるのだ。それを、遠隔操作でこのアンドロイドボディを動かしている形になっている。

 その遠隔操作の通信を一旦停止し、意識データをアルドラゴへと戻したのだ。


 とはいっても、これは言葉にするほど簡単な事ではない。

 今の烈火は、かつてのフェイのように見えない紐でアルドラゴと繋がっている状態だ。その紐を一旦外し、外れた紐を辿って艦へと戻るのだが、この魔力を吸収する土地において、意識データのみを移動させるというのはなかなかに綱渡りな手法らしい。

 あれだ。PCからUSBにデータを移行中、下手に衝撃を与えるとデータが飛ぶ危険があるじゃない? それと同じような状態との事。しかも、意識データの容量というのがとんでもないから、データ移動にも時間が掛かる。

 おかげで移動中はずっと烈火は停止状態のままだった。下手に衝撃を与えられないので、移動すら躊躇われたのだが、幸いジェミニはホバー移動。地面に設置して動く訳じゃないから、振動の影響は無いだろうという事になった。


 ちなみに、この方法をアルカは出来ない。

 アルカもAIの本体はアルドラゴにあるわけだが、こちらは紐がついているというよりは、人格データを別の端末に移しているようなものだからな。

 つまり、魔晶=端末が破壊されれば、即データ崩壊。アルカ達も遠隔操作にしたらと提案したら、そうすると魔法が扱えなくなるのだとか。色々面倒くさい仕組みらしい。


『アルドラゴの方は、それなりにエネルギーが回復したから、短時間であれば飛べるだろうとの事だ。恐らく、後数分で来るのではないか?』

「ゲイル達との連絡は?」

『うむ。こちらも無事に連絡がついたようだ。《アリエス》にて直接こちらに向かうらしい。比較的近い場所に居るようで、同じく数分という所だろう』


 そっかー。全員無事という事は何よりである。

 とりあえず、心配事の一つは消えたな。

 後は、ここ居るこの魔獣の群れをどうすっかって話だけど……。


『ケイ! 居ました。あれが恐らく帝国の者達です』

「むむっ!」


 そう言われてアルカの指差す方向を睨むも、裸眼視力1.0の俺の目には、白い魔獣が群がっている様子しか見えない。

 仕方なしにバイザーを装着し、望遠機能で確かめてみる。無駄にエネルギー消費したくないんだけどしょうがねぇ。

 なるほど、確かにそこには人形魔獣の群れを蹴散らしながら進む一人の騎士らしき影と、その後ろを追随する金髪の男らしき影が確認出来る。

 ……二人だけだ。

 帝国の本隊とやらは何処に行ったのだ?


『先生、帝国の本隊とやらはゲイル殿の活躍によって、ほぼ壊滅状態との事だ。恐らくは、アレがあのアークが言っていた拳聖ブラウとかいう者ではないのか?』

「あいつが……」


 話に聞く、帝国十聖者とかいう厨二心をくすぐる呼び名を持つ奴ら。

 その力は過去に戦った聖騎士なんかよりレベルが数段違うように感じられる。

 なんか本当に無双系ゲームでも見ているかのような暴れっぷり。あのペースで進められたら、のんびり待っても居られない。


『つーか、なんでアイツらまで魔獣と戦ってんだ?』

『さっき説明を聞いただろう、愚弟め。奴らとて一枚岩ではないのだ』


 今回ばかりは奴らの繋がりの薄さに助けられたか。もし、帝国側が本格的にアークの力を利用したらとんでもない事になっちまう。


「……仕方ない。行くか」


 俺はそう呟き、充電によってそれなりにエネルギーが回復したブレイズブレードを手に取る。フル充電というわけにはいかないが、この戦いぐらいなんとか持つだろう。


『おいおい、行くって……あの魔獣の群れに飛び込む気か?』

『こ、これは流石に多すぎるぞ。せめてフェイ様達を待った方が良いのではないか?』


 すると、烈火と吹雪がこんな事を言い出した。


「待ったところで、数が減るわけでも無いだろ。それに、数を減らしとくにこした事はない」

『まぁ、それもそうですね』


 アルカも軽く頷き、その手にアルケイドロッドを握る。


『あ、姐さんも行くのかよ!』

「なんだ、お前らは来ないのか?」

『い、いやでも、あの数……』


 俺が聞くと、焦ったように言い淀む吹雪。

 あぁこいつ等、まだ普通の人間だった頃の常識が抜けてねぇな。

 俺は、ビシビシッと烈火吹雪の額にデコピンをかます。


「お前らは一体誰だ?」


 二人は額を抑えながら俺を呆然と見つめていた。


『……烈火に……』『……吹雪……だけど……』

「俺の“仲間”である烈火と吹雪は、あの程度の数に臆したりなんかしねぇぞ。自分のスペックと、あの魔獣どもの耐久力をよーく計算してみろ」

『『むぅ……』』


 俺に言われ、二人は唸った。

 まぁ来ないなら来ないでいいだろう。いくら強力なボディであったとしても、メンタルはあくまでミカとジェイドのものだ。そう簡単に殻は破れない。

 俺は、《ジェミニ》の横で神妙な様子でこちらを見ているシェシェルへと改めて向き直った。


「シェシェルさんはここで待っていてくれ」

「はい。ご武運を祈っています」

「そんじゃ、アルカ……行くか」

『はい!』


 俺は差し出されたアルカの手を自然と掴み、そのまま谷底へとダイブした。

 さぁて、この島に来てからはずっとまともに戦えなかったからな。エネルギーも回復したし、久しぶりに暴れるとしますか!!




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