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183話 アルカさん怒る




「元々この地は、神聖ゴルディクス帝国から逃げ出してきた異世界人の皆様が、隠れ住んでいた土地だったそうです」


 北の地へと向かう道中、シェシェルがこの島の歴史を語ってくれた。


 詳しい事情は不明だが、ゴルディクス帝国にはかなりの数の異世界人が居るらしい。彼らがどうやって来たのかは不明。

 異世界人はその知識と能力を、帝国のためだけに使う事を義務付けられているのだとか。だからこそ、帝国は他の国々とは明らかにレベルの違う文明水準となっているらしい。

 だが、中にはゴルディクス帝国での生活に不満を持つ者……帝国のやり方に我慢がならない者も多数存在しており、その者たちが帝国を抜け出して一つの集落を作り上げるという事件があった。

 それが、およそ100年前。

 彼らは、同じく隠れ住んでいた翼族と共に共同の都市を作り上げる。それが、自分達が今いるその空飛ぶ島の原型だ。

 あの日本都市っぽい街並みは、都市作り上げた者たちが、元の世界を懐かしんで作り上げたものらしい。という事は、中には日本人も含まれていたのね。それだけで少し誇らしい気分になる。

 最も、そんな生活は長くは続かない。帝国からの追手もあり、彼らは翼族の神との相談の上、集落全体を空へと飛ばす計画を立てる。


 当然日本人を含む地球人レベルの科学力では、島を空に飛ばすなんて不可能。それが成功したのは、異世界人の中に、地球よりも遥かに進んだ科学技術を持つ者がいたおかげである。詳しい情報は残っていないらしいが、下手すりゃアルカ達の同郷の者だった可能性もあるな。

 その異世界人達の協力もあり、ある意味楽園とも言える平和な世界が出来上がったのだった。事実、この島では一切争いの類は起こらなかったと聞く。


 その後、異世界人と翼族の寿命の差、それに加えて両種族の間では子供を作る事が出来なかった為、先に血筋が途絶えたのは異世界人の方であったようだ。

 また、その知識を後世に託すことが出来なかったのか、そのつもりがなかったのか不明だが、重力コントロール装置や他の科学装置は完全にロストテクノロジー扱いとなってしまったらしい。

 せめてマニュアルだけでも残しておけば、こんな事態にはならなかったというのに……。まぁ、もう居ない者達に文句を言っても仕方がない。


 ともあれ、あの日本都市がかつて日本人だった者たちが作ったというのなら、もうちょっと散策もしてみたいものだ。

 後、どうせ翼族が使っていないのなら、家具のいくつかはアルドラゴに持って帰りたいぞ。


 ただ、ちょっと疑問に感じるのが、あの日本都市が100年前に作られたのだとしたら、ちょっと違和感がある。100年前と言えば、日本では大正とか明治時代。なのに、あの都市はどう考えても最近の日本……せいぜい昭和後期から平成初期という感じだった。

 という事は、元の世界とこっちの世界とでは、時間の流れが違うのだろうか?


 そうなれば、こっちの世界に来て既に半年近く経過しているけども、元の世界では数時間とか数日しか経過していないという可能性もある。

 それがマジであれば、嬉しい! あんまし考えないようにしていたが、半年も行方不明扱いってえらい事だものな。よーし、じゃあ時間差があまりないうちに後は早く帰る手段を見つけるだけだな!


『う……うん……』


 そんなことを考えていると、胸元のリミットタイマーに収められた魔晶より、声が聞こえてきた。

 声の主は、当然ながらアルカである。


『此処は……あれ、ケイ? 私はどうなって……』

「おう、今ちょっと説明するから待ってろ。それに紹介したい奴らも居るからな。吹雪、《ジェミニ》ストップだ」

『おうさー』


 そう、何を隠そう俺達は《ジェミニ》を駆って北の地へ向かっている最中だったのだ。

 新型ゴゥレム《ジェミニ》は、上から見れば巨大なひし形を二つくっつけたような見た目のマシンである。操縦席はひし形にそれぞれ二つあり、そのどちらからでも運転が可能。言ってみれば、サイドカーのようなものなのだ。基本二人乗りであるが、座席を広げて最大4人乗り込む事が出来る。

 当然、ゴゥレムとしての機能はそれだけではないのだが、それは披露する機会の際に説明するとしよう。


『え、えええ? 誰なんですかこの方たちは!?』


 やがて、マシンから降りた烈火と吹雪を見て、アルカは素っ頓狂な声を上げるのだった。



………

……



『な、なるほど……ミカさんとジェイドさんの人格データをモデルとした、アンドロイドですか』

『どうも初めましてアルカ様。私は烈火と申します』

『お、俺は吹雪っす』

『どうもご丁寧に。私の名はアルカ。アルドラゴの管理AIで、一応副艦長をやっています』


 同AIの癖に初対面の三人は、それぞれペコペコと頭を下げながら自己紹介をするのだった。

 何というか、実に日本的な光景だ。……アルカはビー玉……もとい魔晶モードだけどな。


「そういやアルカ。魔力の方はどうなんだ?」

『む。そういえばいつの間にかかなり回復していました。水の貯蔵量も増えていますし、なんだかすこぶる調子がいいですね』


 その言葉に、実は同行していたシェシェルが笑みを浮かべる。


「それは良かった。村にあった水の貯水タンクを空にした甲斐がありました」

『おや、シェシェルさんも居たのですね。……って、貯水タンクを空に!? だ、大丈夫だったのですか?』

「いえ、あの村はしばらく人が住める状態ではなくなりましたので、皆さんの力になればと私から進言しました」


 ちなみに貯水タンクには約一か月分の水が溜まっていたらしいのだが、ブラットとの戦闘の際にほぼ水を使い果たしたアルカは、寝ている間にその水を一気に吸収してしまったのだった。アルカの魔晶をタンクに入れた途端、その水が一気に消える様はまるで手品でも見たかのようだったな。

 ちなみに魔力は、烈火達が持ってきたバッテリーをアルカの意識がないうちに充電……いやこの場合は充魔?した結果である。

 その他にもいくつかの装備にバッテリーを取り付けた結果、俺の愛用のアイテム達が二日ぶりに息を吹き返したのである。ほんと長かったよぉ。

 当然のことながら今までのように自由には使えないので、本当に必要なアイテムのみ使用している状態だ。


「アルカのアイテムボックスも使えるぞ。実体化してユニフォームを着たらどうだ?」

『そうですね。では……』

『ちょっと待ったぁ! 女性の着替えだぞ。先生と吹雪は後ろを向いていろ』


 と、烈火より指摘が入った。

 俺としては今さらだし、変身する際は一瞬なので特に裸だ裸じゃないってのは気にならないのだが、まあ改めて言われるとエチケットか。

 俺は吹雪と共に後ろを向くと、何やらピカッと背後で光がした。変身完了したらしい。


 振り返ると、そこには見慣れた……だが久しぶりに目にするアルカの姿があった。

 ホッとしつつも、妙にドキドキしてしまうのは、前に再会したときのアレのせいなんだろうな。

 とはいえ、今のアルカはいつもの20歳くらいのアルカである。ならば、変に意識しすぎる事もないだろう。


 また、アルカには艦長として一応言っておく事がある。


「それとな、アルカ」

『はい、なんでしょうか』


 俺はつかつかとアルカへ近寄り、その額めがけてデコピンをべしっとくらわしてやった。すると、涙目になって額を抑えた。


『いったあ、なんするんですかぁ』

「自分の胸に手を当てて聞いてみろ」


 言われたとおりに胸に手を当ててみるアルカ。首を傾げているところを見ると、さては自覚ねぇな。


「さっきの戦い……魔力切れで死ぬところだったんだぞ」

『はぅ! そ、それは……』

「運良く二人が来てくれたから良かったものの……って、そういやどうして二人は俺達の場所が分かったんだ?」


 口にしてみてようやくその疑問に気付き、俺は二人を振り返ってみた。


『いや、場所なんて分かんなかったよ』

『うむ。GPSとやらの反応は切れていたし、おおよその場所しかフェイ様からは聞いていなかったからな』

『何処に居るんだろうと、地上の変な街の周りをぐるぐる回っていたら、いきなり地面が吹き飛んでな』

『うむ。そのまま穴の中に落ちてしまったら、先生達が居たという事だ』


 地面が吹き飛んだってのは……ああ、俺が撃ち込んだバズーカか。という事は、絶妙なタイミングであのバズーカを撃ったという事になる。

 だが、あのバズーカは……あのクロによく似た猫の……おかげ……


「あれ?」


 俺はキョロキョロと辺りを見回してみる。

 だが、そこにあのクロっぽい猫の姿は無かった。

 要所要所で助けてくれるあの猫であるが、何故かよく忘れてしまうな。それに、見つけようと思ったら傍に居ない。なのに、いつの間にか傍に居るという不思議な存在だ。

 一体何なんだろうな、あの猫は……。


 おっと、話の途中だったな。

 俺はコホンと軽く咳払いをすると、改めてアルカに向き直る。


「とにかく、お前下手したら死んでたんだぞ! いや、あれはもう死ぬつもりで戦っていただろ! 何考えてんだお前!!」

『………』


 俺の説教を、アルカは顔を俯けて黙って聞いていた。


「大体、あんな奴とはマジで戦わなくても良かったんだ。住民の避難は既に済んでいたんだから、適当なところで切り上げて逃げりゃ良かったんだよ」


 あ、なんかアルカの身体がプルプルと震えている。

 ちょっと可哀そうかなとか思ってきたけど、俺の口からはスラスラと文句が流れ出ていた。


「それをマジになって戦いやがって。今後はちゃんと俺の言う事をしっかり聞くこと! 死ぬかもしれない状況で戦うなんて禁止だからな! いや、そもそも―――」


 俺がまだ言葉を続けようとしたら、いきなりアルカがバッと顔を上げた。

 その顔は泣いている訳でも、悲しみに暮れている訳でもなかった。

 激怒していた。


『むっかー! その言葉! そっくりそのまま! ケイに! 返します!! むがーっ!!!』

「ぬ、ぬぉっ!?」


 言葉のすべてに!マークが付くかの勢いで、アルカは俺にまくしたてた。


『死ぬかもしれない状況で戦うな? あのですねえ、私が今までどれだけハラハラしてケイの戦いっぷりを見てきたと思ってんですか! カオスドラゴンと戦う時も! でっかいスライムと勝手に戦った時も! シグマさんと戦った時も! こないだなんてたった一人で墜落するアルドラゴを持ち上げようとしてたじゃないですか!』


 機関銃の如き言葉の乱射である。

 俺はもう完全に押され、ぐいぐいと顔を近づけて迫るアルカに、一歩一歩と下がるしかなかった。

 ……お、おっかねぇ。


『果ては、スーツも武器も魔力切れで使えないのに、女の子守るために戦ったとか! それ聞いた時の私の心境なんてケイには分かりませんもんね! それが力のないケイの代わりに私が戦おうとしたら、その言いようですか! 確かに満足のいく結果にはならなかったと思いますが、今までさんざん自分のしてきた事を棚に上げて、私ばっかり非難するその根性はいかがなものですか!』

「う、うおお……」


 最早何も言い返せない。

 はい、思い返してみれば自分も結構アホな事やっとりました。

 確かに、アルカさんの事非難出来る立場にないっす。


『あぁ、そらレイジが悪いなぁ』

『うむ。怒るのも無理はない』


 烈火と吹雪の援護射撃が胸を抉る。

 ここに至って、俺は自らの敗北を受け入れるしかなかったのだった。


「……言い過ぎました。すいませんでした」


 とりあえず、頭を真っすぐに90度折り曲げて謝った。

 やがて、アルカより『ふん』という鼻を鳴らす音が聞こえてきた。多分、腕でも組んでこっちを見下ろしているのでしょう。


 やがて、ゲラゲラと笑う声が吹雪より聞こえてくる。


『あっはっは! これがアルドラゴの艦長と副艦長か!』

『確かに。オリジナルの私が今の会話を聞いたら、大爆笑するだろうな……』


 烈火も笑いを堪えきれずに肩を震わせている。


 いやぁ、すいませんね。これが現実なんすよ、お二人さん。

 レイジの時はなるべくクールキャラで振舞っていたいたものなぁ。その本性を見たら、こんな大爆笑もするか。


『いやぁ、正直俺なんかがやっていけるか不安だったんだけどよ、なんかすっかり安心したぜ』

『あぁ、私も緊張は解けた。貴方達となら、うまくやっていけるだろう』


 てっきり幻滅されているのかと思っていたら、朗らかな顔つきでそう返された。

 俺とアルカは思わず顔を見合わせる。


『そんじゃアルカ様、改めてよろしく頼むぜ!』

『あぁ、私達の力を存分に利用してくれ』

『あ、それなのですが……』


 やがて、アルカがおずおずと片手をあげた。


『その……アルカ“様”というのは止めてくれませんか。なんとなく、お二人にそう呼ばれると調子が狂うといいますか……』

『うーん、じゃあどう呼ぶかな。アルカ……さん?』

『私としてはアルカで構いませんが』

『それは恐れ多くて呼べません!』

『じゃあ……あねさん……』


 元々ヤンキー気質であるジェイドの人格を持つ吹雪か、そんな案を出した。


『おい、姉は私だろう』

『いや、姉貴は姉貴だ。だって、アルカ様はAI組の長女みたいなものだろう。だから、姐さんだ』

『ふむ……。では、私も姉上と呼ぶか……』


 すると、アルカがオロオロした様子でこちらを向く。


『どうしましょうケイ、知らない間に弟と妹が増えてしまいました』


 いや、知らんがな。


『となると、艦長の事もアニキと呼ぶべきか……いや、なんかしっくりこねぇ』


 おっと飛び火が来た。

 まぁ俺はジェイドにとっちゃ年下で、会った当初は後輩みたいなポジションだったものな。アニキと呼ばれたい訳じゃないが、吹雪がしっくりこないという理由も理解出来る。


「無理して艦長と呼ばなくていい、そのまんまレイジでいいぜ」

『す、すまねぇです。なんかこう呼ぶとすっごいしっくり来るんで。じゃあ……レイジ、よろしく……』


 すると、今度は烈火がビシッと手を挙げる。


『す、すまない! 私の場合は、先生でいいだろうか!』

「……しゃあない。特例で認める」

『よしっ! ……あ、すみません、先生……』


 もう割と慣れつつあるから、先生でいい。それに、人格に引きずられた影響が癖として残っているのなら、それを矯正するのはどうかと思う。だから、これでいいや。


 ともあれ、顔合わせと呼び名の方も決まったな。


 ……なんだが無駄話で随分時間をくっちまった。

 さて、北の地への旅路を続けるとしようか。




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