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181話 不死者の末路




「ば……化け物どもめ……」


 今の光景を見て顔を蒼白にしたブラットが、なんとかその言葉を絞り出す。

 あの分身達はブラットの切り札みたいなものだったのだろう。それがあっさりと殲滅させられたのだ。そのショックは計り知れないものがあるはずだ。

 それにしても今回の戦いではよくその単語が出るが、言っている奴が一番化け物の見た目をしているのだからお笑いだ。……いや笑えないかな?


 ブラットは今度こそ本当にやぶれかぶれとなり、こちらに向かって駆け出した。

 だが、烈火のヒートロッドによって右半身を炭に変えられ、吹雪のストライクブラストによって左半身を凍結させられ、更に打撃によって砕かれていく。

 ブラットは両手両足を失い、最早立つ事も出来ない身体となってしまった。


 ともあれ、これで奴には打つ手なし。

 正直言って、最初のアルカとの戦いを見ている側からすれば、肉体変化を活かしたもっと上手い戦い方があったような気がする。

 使ってくる戦法も殴ったり、触手を利用した単純なものばかりだったものな。

 ……いや、あいつの肉体の半分以上は他の兵士から奪ったものだったか。最初は上手く動けもしなかったように、取り込んだ側の身体は上手く形態変化が出来ないのかもしれない。

 思い返してみれば、肉体変化も触手による攻撃も、肥大化した右側ではなく、普通の見た目の左側からのみしか行っていなかった。

 だとするならば、大きなパワーを得た反面、アイツ本来の戦い方が出来なかったのかもしれないな。

 まぁ、自業自得だ。


 さて、こうなってくるとコイツをこの後どうするのかって問題が出てくる。

 今までの俺ならば無力化した敵なんぞ放置して見逃していたかもしれない。


 だが、今回ばかりはアイツはやり過ぎた。

 俺達の秘密も一部を知られてしまったし、アルドラゴのアイテムがまだ満足に使えない今、コイツをこのままにはしておけない。

 少なくとも、このまま帝国の本隊に合流はさせられない。

 だとするならば……アイツは、ここで……処理……するべきだ。


 なんだけど……それを烈火や吹雪に頼んでいいものか。

 言えば彼らは従うだろう。だが、だからと言ってそこに甘えるのはいかがなものか。

 処理するべきと判断したのが俺なのだとしたら、手を下すのは俺の役目なんじゃないだろうか。


 手を下す。

 つまりは殺すという事だ。


「烈火……ボルケーノブラストを俺に」


 烈火は何も言わず、自らの腕よりガントレットを外し、俺へと手渡した。

 コイツで一気に焼却してしまえば、それで終わりだ。


「へ……へへ……遂にやる気になったって訳かい……」


 そんな俺の様子を、頭と胴体のみとなったブラットは笑みを浮かべて見上げていた。

 死期を悟って調子を取り戻したのか、あの厭らしい笑みを浮かべて……だ。


「本当に俺が殺せるのかい……?」


「怖いな。死ぬのは怖いな」


「なぁ、殺すのはやめてくれよ。死ぬのは嫌だ」


「お前は人を殺せるような残虐な人間ではないだろう」


 次々とそんな言葉を投げかけてきた。

 これは、本気の命乞いなんかじゃなく、せめて殺す側である俺に払拭不能のトラウマを植え付けようって魂胆だな。

 確かに、その精神攻撃は俺に効く。

 だが、だからと言って手を止めるつもりはない。


「……うるせぇよ」


 これ以上戯言を聞くのは勘弁だ。

 後々悔やむにしても、これ以上コイツの笑みを見ていたくない。

 俺は意を決してボルケーノブラストを発射しようとした。


「ボルケーノ……ブラ―――」

「待ってください!」


 発射しようとして、慌てて止めた。


 振り返ると、こちらに向かってふよふよと飛んでくる二つの影が……。

 翼族の巫女シェシェルと、さっき俺が助けた翼族の男だ。


「その者には、問い質したいことがあります」


 男は険しい顔つきでブラットを睨みつけていたが、やがて口を開いた。


「北の村が……お前達によって滅ぼされたというのは本当か?」


 対するブラットと言えば、大して興味もない様子で受け答えをしていた。


「北の村? ああ、ルクスが暴走してぶっ壊しちまったあの集落か。それがどうした?」

「生きている者は居るのか?」

「さぁて、どうだったかな?」


 適当に答えているわけではなく、宙を睨んで本当に思い出そうとしているらしい。

 すると、男は激昂した。


「答えろ! あの村には娘が嫁いで行ったのだ!!」

「さぁ、誰も生きてないんじゃねぇかな。何人かは生きていた気もするが、目撃者は消すってのが俺達のルールなんでな。俺の血肉になったこいつらが、たぶん殺しちまったよ」


「貴様―――!!」


 ブラットに対し食って掛かろうとする男をシェシェルは宥めるように抑える。

 一つの集落を壊滅か……。前にシェシェルから聞いてはいたが、男の慟哭を聞いて激しく心が痛んだ。

 そんな中、吹雪が口を開く。


『なぁ、艦長マスターがやりにくいってんなら、このオッサンにやってもらったらどうだ?』


 この男にやってもらう……。つまり、代わりに殺してもらうという事か。

 確かに、俺なんかよりずっとこの人の方がブラットを殺す権利を持っている。今、この人が怒りに任せてブラットを殺したとしても、後で後悔に苛まれる事は無いだろう。むしろ、気分が少しでも晴れるんじゃないだろうか。


 だけど……


 俺は静かに首を振る。


 この世界に転移してきたばかりの頃だったら、俺もすぐに頷いただろう。

 だが戦いなんて何の縁もない生活をしてきた人に、この戦いの結末を肩代わりしてもらうなんて、そんな恥ずかしい事出来ないな。

 これは……俺が責任を負うべき事だ。


「ハッ……本気で覚悟が決まったって訳か。良いだろうさ、この首くれてやる」


 そして笑みを消し、目をギョロリと見開いてこちらを睨みつける。そこに先程までの人を嘲るような視線は存在しなく、本当の意味でのブラットという男の目を見た気がする。


「だがこれで貴様は一線を越えた。今後、そんな貴様がどんな人生を送るのか……冥府で楽しみに見させてもらおうか」


 それが最後の言葉か。嫌だけども、覚えておくとしよう。

 俺は無言でボルケーノブラストの照準をブラットに再設定した。


 ブラットの言う通り、覚悟は決まっている。

 後で絶対後悔するだろうし、悪夢でうなされるかもしれない。

 それでも俺は、戦艦アルドラゴの艦長にして、チーム・アルドラゴのリーダーだ。

 ならば、責任は果たそう。





 そうして、ボルケーノブラストを撃ちだそうとしたその時だった。


「!!」


 突如として危機を察知した俺は、思わず天を見上げる。

 そして、そんな俺を庇うように烈火と吹雪の二人が覆いかぶさるように地面へと引き落としたのだった。


 直後、まるで隕石でも落ちてきたかのような衝撃がこの地下にあるドームを襲った。

 いや、落ちてきたのは隕石ではない。


 それは足だった。

 巨人とも言えるほどの大きさの足が、先程俺がバズーカで開けた穴より入り込み、ドームの床部にその足跡を残していた。


『おいおい、なんだぁこりゃあ』

『また新たな敵が現れたか?』


 即座に武器を構えて臨戦態勢に入る烈火と吹雪の二人。

 いきなりの巨人登場には驚いたものの、俺は他の事が気になっていた。まず、シェシェルと翼族の男は転んではいるが無事のようだ。後は、あの巨人の足元にある筈の存在……ブラットがどうなったか……だ。

 その消息は、すぐに分かった。

 巨人の足元にはかなりの量の血溜まりが滲み出ていた。……つまり、あの男の所在は巨人の足の裏……そういう事だ。


 やがて、ズズズ……と巨人がその足をどけていく。

 その足の裏にあったものを見て、俺は思わず胃の中のものが逆流しそうになり、口元を抑えた。

 チラッと見ただけだったが、確認できたのはミンチになった肉の欠片……。それの正体がなんなのかは、すぐに理解出来る。

 頭も胴体も、全て面によって潰されてしまえば、いくらアイツでも逃れようがないだろう。


 ……ブラットは死んだ。

 もうこれ以上、アイツの厭らしい顔を見なくて済む。

 だというのに、俺の胸には満足感とか安心感のようなものは無かった。何というか、穴がポッカリと空いた感じだ。


 いや、今は干渉に浸っている場合じゃない。まずは確認すべき事がある。


「吹雪、手を貸してくれ」


 吹雪は即座に頷き、俺に肩を貸してくれた。そのまま人間離れした跳躍力によってドームの穴から地上へと飛び出る。

 そして、目の前に存在する“それ”を見上げた。


『んな……』

『こんなものが存在するのか……』

「………」


 俺達の前に現れたのは、身の丈30メートル近くはある巨人だった。

 全身がダークグレーで彩られており、造形自体はパイプを組み合わせたような簡素な作り。……まるで、俺がこの集落に来る前に遭遇した人形魔獣……ゲッコーを連想させる。

 というか、これの創造主とやらはきっと同一人物だな。


 その人物らしき者は、この巨人の左手に乗り、こちらを見下ろしていた。

 まるで執事を思わせる燕尾服を纏った超絶美青年。ただ、同じイケメンでもゲイルと違ってどこか作り物めいた顔の作りだ。

 ともあれ、こんな登場の仕方で俺の前に現れたって事は、立場的に良いものでは無さそうだな。


 その美青年は、俺と目が合うと優雅に一礼してみせた。


『どうも初めまして、私の本来のマスター』

「本来のマスター?」


 言葉の意味が分からないで困惑していると、隣に立つ吹雪が補足してくれた。


『ああ、俺達は直接の面識はないが、フェイ様からの情報がある。アイツは間違いなく、敵に奪われたアルドラゴのサポートAIの一人だ』

『ふむ。言ってみれば、我々の兄……いやそれは言い過ぎか。せいぜい親戚のような存在だな』

「サポートAI……やっぱり、フェイの他にも敵の手にあるAIはまだ居たんだな」


 となると、戦いにくい新たな相手が現れたという事か。


『その通り。……私に与えられた名はアーク。このような初対面となり、甚だ不本意ではありますが、以後お見知りおきを』

「とりあえず挨拶はいい。何故、ブラットを殺した?」

『さぁ、私はあるじからの命令を忠実に守っているに過ぎません。その意図までは測りかねます』


 涼しい顔でとぼけて見せた。


 うぐぐ。なんか同じサポートAIでも他の奴らとは随分違う。

 多分、相当腹黒いタイプだな。……なんか腹立つぞ。


 そして、アークと名乗った男は俺の隣に立つ烈火と吹雪を改めて見据えた。


『知らないタイプのサポートAIですか。どうやら、私が残した人形の残骸からデータを取って、遠隔操作のシステムを構築できましたか。それは何よりです』


 なーるほど。フェイが言っていた敵より簒奪したデータってのは、アイツの能力の事か。

 となると、本当にあの人形どもを作りだし、操っているのはこの男という事なのか。

 言うなれば、力は強くないが大多数の兵士ソルジャーを作り出し、それを操る能力の持ち主。……力の弱っている俺達にとっては、この上なく厄介な敵と言える。

 それにしても、ここまで巨大な人形も作りだせるって反則だろう。

 というか、欲しい能力だそれ。


『そう睨まないでください。既に主よりの命令は完了し、貴方達と戦えとの命は受けていません。ですので、今回はこれで退かせていただきます』

「そんなバケモンみたいなもんを見せつけておいて、何もしないってか」

『ええ、これを見せれば私を追おうという気力は生まれないでしょう。その気になれば、私はこの巨人を複数体作り出せます。……それでもやりますか?』


 戦いを続けるか否か……という事か。

 烈火と吹雪はまだ十分戦える。だが、この巨人相手にどこまでやれるのかという不安もある。

 だが、帝国兵を退けるという本来の目的は既に達成されているのだ。これ以上無駄な戦いをする必要はない。


 俺は、両手を軽く掲げて非戦の意思を示す。


「……いいや、やらない。退いてくれるなら、それで結構だ」

『そうですか。それは何よりです』


 そう言ってアークは少しだけ笑みを見せる。

 そのまま俺達に向けて背を向けようとするのだが、ここでコイツをただで逃してしまうのはいけないと思った。

 ブラットを殺した事については別段恨みを抱いているわけではない。おかげで俺の手は汚れずに済んだわけだが、それを喜ばしい事とも思ってはいない。まあ、なんというか……複雑な感情だ。


 それとは別に、この男から取れる情報はまだある筈。

 完全に敵側の存在ならば無理だが、この男は一応アルドラゴのAI。ならば、フェイの時のように妥協出来る部分もある筈だ。


「だが、ちょっと聞きたいことがある。ルールに反しない事なら、説明だって出来るんだろう?」

『残念ながら、貴方達の益になる事は何も話せません』


 すると、少しだけ悲しげな表情でそう言った。

 うむ。それも想定内。

 だから、フェイの時同様にルールの穴を突く。


「あぁ、だから俺にじゃなくて、彼女に言ってほしい」


 と言って俺が振ったのは、同じように状況を確認するために地上にやってきた、シェシェルである。

 当のシェシェルはいきなり振られて戸惑っているが。


『おいおいレイジ、いきなり何言ってんだ』

『あの男が彼女にどうして説明しなくちゃいけないのだ?』

『ふむ、そういう解釈ですか』


 俺の意図が伝わったのか、アークは頷いて見せる。

 よし、察しの良い奴で助かった。同じAIの筈の烈火と吹雪は分かってないみたいだけど。


「じゃあ聞くぞ。帝国は……お前達は何の目的で此処に来た?」


 俺が尋ねると、アークは俺の方を見向きもせず、怯えている様子のシェシェルを見ながら言葉を紡ぐ。


『ふぅむ。では、聞かれたから答えるのではなく、彼女に対してただの独白をするとしましょう。

 帝国の目的は、既に知っているかもしれませんが、この地にある重力コントロールシステムを奪取する事です』


 やはりそれなのか。

 だとするならば、問題は別のところにある。


「……どうやってそれを知った?」

『さぁ、それは私には与り知らぬこと』

「じゃあ、どうやって此処に来た?」


 その問いに、アークは少しだけ答えて良いものか考えこんでいた様子だが、結局は話してくれた。

 そして、その答えは俺の想像の範疇を超えていた。


『……空間跳躍』

「何?」

『帝国本国に、空間と空間を繋げて通り道を作り出す能力者が存在します。その者の能力を使用しました』

「……能力者?」


 思い出した。フェイが言っていたが、帝国には異能の力に目覚めた異世界人が何人か居るんだったな。その中の一人に、空間跳躍……言うなればテレポーテーションの使い手が居るって事か。

 他にどんな異能の力があるのか知らないが、クジでいう所の当たりと言っていい能力だろう。


『その者は転移する場所の座標を知る事で、空間跳躍が可能となります。最も、数日に一度しか使えない上に本国でその者の存在は極秘になっているので、ここに来た帝国兵達は全てその記憶を消されていますが。彼らは、ここが何処にあるのか……どうやって来たのかという記憶は一切ありません』


 なるほど、座標入力によって移動出来るタイプか。

 方法自体はアルカ達の使うゲートの魔法と同様なんだな。

 だとするならば、今回のこの事件が終わって島の位置さえ動かせるならば、もう帝国の襲来に怯える心配はないという事だ。

 これで、翼族の神からの依頼はなんとかなるかもしれないな。


『ふむ……主より指示がありました。これより合流せねばならなくなりましたので、独白はこれにて終了という事になります』


 そう言ってアークは俺に背を向ける。

 だが、今のアークの言葉には聞き流せない単語が含まれていた。

 アークの背に向かって、最後にその質問を投げかける。


「今、合流と言ったな。……まさか、アウラムとかいうお前の上司は、この地に来ているのか?」


 すると、背を向けたままアークは答える。


『……はい。今現在は、帝国十聖者の一人……拳聖ブラウ氏と共に北の地へと向かっている筈です』

「北?」


 確か、そこには例の囚人とやらが投獄されている監獄があるのではなかったか?

 だとするならば、帝国の狙いはもう一つあって、そのクリエイターを自らの国に引き込む事なのか?


『心当たりがあるのなら、急ぐことです』


 そう言って、アークは今度こそ完全に俺に背を向けた。

 同様に巨人もゆっくりした動きで背を向け、ドシンドシンと大地を踏み鳴らして去っていった。


 この場を支配していたプレッシャーが解け、俺は思わず足の力を失ってその場に片膝をつく。

 アーク……腹黒いけど悪い奴では無さそうだな。だいぶサービスして情報を与えてくれた。


「……北か。これで、次にやるべき行動は決まったな」


 俺がそう言うと、隣に立つ吹雪が呆れたような声を出す。


『なぁんだ、まだやる気かよ。一旦休んだ方がいいんじゃねぇか?』

「ああ、休むさ。ただ、心配事すっかり無くさないと、気持ち悪くてしっかり休めないんだ。俺は」


 正直、今ベッドに寝っ転がったところで、ぐっすり眠れる自信は無い。とりあえず眠る事は出来るだろうが、すぐにパッと目が覚めそうだ。

 それに、間違いなく嫌な夢を見るだろう。

 俺……心配事が夢に出る事が多いのよね。その場合、大概悪夢だし。


『はぁ、難儀な性格だな』

『では、お前は行かなくていいのだな、愚弟』

『ばっか。まだ活動限界は来てねぇんだ。行くに決まっているだろう』

『ふん。最初からそう言えばいいのだ』


 ……なんか、顔も声も違うのに本当にミカとジェイドが近くに居るみたいだな。

 信頼出来る奴らが傍に居るってのは、やっぱり心強い。


「レイジ様、どうか……どうか、この国の行く末をお願いします」


 アークが居る間はただオロオロしているばかりのシェシェルだったが、帝国の狙いが本当に重力コントロールシステムだと知り、危機感をより一層強めたようだ。

 俺に向かって深々とその小さな頭を下げる。

 そりゃそうだ。もし重力コントロールシステムを一基でも失えば、この島は地上に向かって一気に落ちてしまうのだ。


 とはいえ、今の俺達はこの体たらくだ。しっかりとその期待に応えられるという保証はない。

 それでも……俺はシェシェルに向き直って、今の気持ちを伝える。


「国の行く末なんて大それた事は俺には分からないさ。ただ、俺はやれる事をやるだけだ。後、頼みたいことがある」


「頼みですか? 魔力吸収免除の件でしたら、残念なことに三日は時間が掛かってしまうのですが……」

「いや、それもあるんだけど今はいい。俺が頼みたいのは、アイツの事だ」


 そう言って、俺は足元……穴の真下にあるブラットの死体を指す。


「……翼族の人達は嫌かもしれないけど……アイツの……死んだ帝国兵達の墓を作りたい」

「墓……ですか?」

「とりあえず簡易的で良いんだ。戦いが全部終わったら、後で改めてちゃんとした墓を作るつもりだ」

『おいおい、アイツは最悪の敵だっただろう』

「それでも……死んだらただのむくろだ。墓ぐらい作ってやらないと……」


 と言うと、吹雪はやれやれと肩をすくめ、烈火は苦笑めいた顔を浮かべていた。

 良いんだ。甘ちゃんだとか、偽善者だとか言われようが、こういう事はしっかりやっておきたいんだ。

 心底むかつく奴でしか無かったが、ブラット・オーディナーは俺にとって最悪の敵だった。それは、胸に刻み込んでおきたい。




 これにてブラット戦終了。

 ……長かった。一つの戦いにこれだけ話数かけるのも初めてです。


 次回、長い事放置されていたゲイルサイドに視点が移ります。

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