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180話 烈火&吹雪VS不死者ブラット




「……なんだ貴様らは?」


 つかつかと自分に向かって歩を進める謎の二人を見て、ブラットは顔をしかめた。

 対する二人は、何処となく朗らかな顔つきでこう宣言する。


『私の名は烈火』

『俺の名は吹雪』

『『艦長マスターの代わりに、お前をぶっ飛ばす』』


 息の合ったタイミングで、二人は右手の親指を下に向ける。

 地球の表現なのでブラットに伝わったのかは不明だが、とにかくアイツを怒らせる事には成功したようだ。

 ブラットは憤怒の形相で二人を睨みつけた。


「舐めるなよ……どこのどいつとも知れない馬の骨が……今の俺に勝てるか!」


 激昂し、ブラットは二人に向けて触手の槍を放つ。

 だが、それは烈火の持つロープ状の武器によって全て到達前に弾かれてしまった。


 ブラットが一瞬だけ動揺した隙に、吹雪は疾走してその距離を詰める。

 彼の両腕には、いつの間にか武器が握られていた。

 武器とは、格闘戦を得意としていたジェイドにピッタリな、打撃補助の武装……トンファーである。

 その名は……


『ストライクブラストォ!』


 拳を大きく振りかぶり、トンファーの端部をブラットの腹部に叩き込む。

 その衝撃を受け、思わずブラットは身体をよろめかせてしまう。

 勿論、ただの一撃で吹雪の猛攻は止まらない。


『まだまだ行くぞオラぁ!!』


 次にもう片方のトンファーを叩き込み、二連……三連……四連……と乱打を叩き込んでいく。

 とはいえブラットもただ打撃を受け続けていた訳ではない。

 足の裏からスパイクのようなものを出現させ、それよって衝撃で身体が後退する事を防いだのだ。


「舐めるなと言っただろう!」


 足元のふんばりを得たブラットは、肥大化した右の拳を吹雪に叩き込む。それをもろに受けた吹雪身体が宙に浮きあがり、そのまま床に叩きつけられる筈だった。

 だが、宙に浮いた状態の吹雪をブラットは太い縄の形状に変化させた左腕で捕らえ、足首を掴んだままバシンバシンと何度も床に叩きつけたのだ。

 吹雪が叩きつけられる度にコンクリートの床は破損してその身体をめり込ませる。それが5度程続いた後、吹雪の足首を手放したブラットは、更に左腕をスパイクの付いた棍棒のような形に変え、そのまま吹雪に向けて振り下ろそうとした。

 だが、拘束が外れたのを見計らい、吹雪は即座にその場から転がるようにして脱出する。

 なんとか立ち上がって再びファイティングポーズを取ろうとした吹雪であるが、またしてもブラットの右の拳が振り下ろされ、直撃を受けて今度は真横に吹き飛んでしまう。

 吹雪の身体は、何度かバウンドして地面を転がる結果となった。普通の人間であれば、身体の至る場所が骨折していてもおかしくない状況だ。


「奇妙な感触だ。まるで人間を……肉の塊を殴った気がしない」


 吹雪を殴りつけた後、その感触を確かめるようにブラットは呟く。

 攻撃を受けた当事者である吹雪も、ぎこちないながらも痛みを堪えもせずにゆっくりと立ち上がった。

 その様子を見れば、吹雪が普通の人間ではない事を理解出来ただろう。

 するとやはり―――


「ふん。貴様らが何なのかは知らんが、またしても化け物の部下か。そんな奴がAランクハンターなどと持て囃されて調子に乗っている。これは世間に知られたら大事件になるだろうなぁ」


 アルカの時と同じように、ブラットは吹雪達を煽り始めた。

 が、烈火はその様子を冷めた目で見ているだけで、当の吹雪も―――


『あぁ、そういうのは別にいいんだわ』


 殴りつけられた頭部を擦りながら、パンパンとユニフォームについた汚れを払う。


『自分達がどんな存在なのかは、お前に言われるまでもなく理解しているぜ』


 その言葉に、烈火も同調する。


『あぁ、我々は貴様の言うように人間ではなく、言い方を変えれば化け物だろう。だが―――』

『人間じゃなく、化け物として……アイツの傍に立ち……一緒に戦う事を選んだんだ』

『だから我々の事は好きに呼ぶがいいさ』

『つー事で、まだまだ行くぞ……このデブヤロウ!!』


 そう言って吹雪は再びブラットに向けて駆け出した。

 しかしデブヤロウか。……確かに、右半身は異様に膨らんでいるが、言い回しがちょいと違うような気もするぞ。


「言っておくが、俺に打撃は通じない。だから、いくら貴様が俺を殴ったところで何の意味もない」


 そう言って吹雪を迎撃しようとするブラット。

 だが、拳を振り上げようとして、ふと自分の身体の違和感に気づく。

 ……ようやくだ。確かに痛みは感じないのだろう。だが、その痛覚が無いせいで、ブラットは自らの身体の異変に気付かなかった。


「なんだ……これは?」


 吹雪を殴りつけた拳……吹雪が殴りつけてきた身体の各所……それらがいつの間にか白く染まっていたのだ。

 最も、これは石膏で固めた訳ではない。

 凍結しているのだ。


 吹雪の持つストライクブラスト……それは、トリプルブラストと同じく弾丸を装填し、その装填された弾丸のエネルギーを打撃と共に放出する武器なのだ。

 ファイヤーブラストの弾を装填すれば炎の打撃が。サンダーブラストであれば電撃を纏った打撃を繰りだせる。

 今回吹雪のストライクブラストに装填されているのは、“アイスブラスト”。その名の通り、冷気を纏った打撃が彼のメインウェポンなのだ。


『どうした自慢の肉体変化は! 知らないうちに凍らされた身体でやってみろよ!』

「チッ!」


 吹雪の挑発的な言動にブラットは舌打ちし、後ろにジャンプして自分へと向かってくる吹雪との距離をとった。

 それからどうするのかと思っていたら、アイツは驚きの行動に出た。


 なんと、凍り付いた自らの右腕を無事な左腕で切り落としたのだ。

 失った右腕は即座に再生し、その右腕でもって凍り付いた身体の各所を破壊していく。

 破壊のたびにボコボコと穴が出来るわけだが、それすらも即座に修復してしまう。なんとも気持ちの悪い光景だった。


 だが、今の吹雪の攻撃で接近戦は不利と判断したようだ。吹雪の事を睨みながらどう攻めるか考えこんでいる様子。


『へっ! 俺なんて馬の骨じゃなかったのかよ。情けねぇ有様だな。ただ、少しだけ痩せてラッキーじゃねぇの?』


 子供のように舌を出して挑発する吹雪。

 うむ。中身がジェイドだけあって、実に馬鹿っぽい。

 

「クソガキが……」


 が、効いているな。

 今までのブラットの優位性が無くなっちまったからな。

 ただ、これでアイツの油断は無くなったぞ。どうする……?


 すると、次に烈火が前に出た。


『ならば、私がもう少しダイエットさせてやろう』


 そう言って烈火は武器を構える。

 その武器は、一見すると警棒のような形をしていた。だが、スイッチを入れる事で棒の先端部分が赤く光りを放ち始める。

 まるでサイ〇ウムかライ〇セーバーのようであるが、この武器はそんなものではない。

 烈火がその棒を振るうと、光を放っていた部分がびにょんとロープのように伸び、烈火からは10メートルも離れているブラットの右腕に巻き付く。


「なんだ……パワー勝負でもするつもりか?」


 腕をロープで巻き付けられたブラットはそのままロープごと烈火の身体を引き寄せようとした。

 だがそれは構わない。

 ブラットが右腕に力を入れた瞬間、その右腕がロープを巻き付かれた部分からポトリと落ちたからだ。


「なん……だと」


 落ちた右腕は、まるで炭化でもしたかのように黒く焦げてしまっている。

 ただ斬られただけならば接合すれば再び腕の機能は取り戻せる。

 しかしこうなってしまっては、もう無理だ。


『残念ながら力勝負じゃない。さっき言っただろう。ダイエットさせてやると』


 烈火が持つ武器の名は、“ヒートロッド”。

 かつての俺の武器であったヒートブレードと原理は近い。ロッドの先端に高熱を帯びさせ、攻撃力を高めるのだ。

 ヒートブレードとの違いは、ロッドが伸縮可能だという事。最大300メートルまで伸び、まるで鞭のように扱う事が出来る。また対象にロッドを巻き付かせ、その状態で高熱を流す事によって対象を焼き切れる。

 かなり癖のある武装で俺には到底扱えない代物だったが、蛇腹剣を得意としていたミカの戦闘技術を持つ烈火ならば、扱う事も難しくないだろう。


 烈火と吹雪……この二人は、その名が示す通り、それぞれ炎と冷気に特化した武装を身に纏っているのだ。

 当然メイン武装の他にも様々なアイテムを身に着けているのだが、それは当人が使用した際に改めて説明するとしよう。


 そんな二人と相対しているブラットであるが、目に見えて顔色が変化していた。

 中距離でも近距離でも、あの二人は、自分を倒せる武器を持っている。

アイツは頭が良い。このまま戦い続ければ、どうなるかは理解出来ただろう。


 すると、そんなブラットを見て、離れた場所に立つ吹雪が口を開いた。


『対ブラット戦法その一……肉体を凍結させ、細胞の動きそのものを停止させる』


 吹雪が得意げな顔でそう言うと、同じく烈火も挑発的な笑みを浮かべて言った。


『対ブラット戦法その二……肉体を焼却して、細胞そのものを死滅させる』


「対ブラット戦法……だと?」

『悪いが、アンタの戦い方をうちの艦長が三か月前に知った時点で、もうばっちり対策は出来てんのさ』

『うむ。先生やアルカ様が万全の状態だったならば、もっと早くに決着はついていただろう』


 ブラットの視線が俺の方へ向く。

 いやいや、そんな睨まれても何も出ませんて。

 まあ、こんなばっちり対策出来ているのも、頭の良い仲間の存在と、何でも出来る豊富なアイテムのおかげなんすけどね。


 ともあれ、アイツには散々煮え湯を飲まされた。

 そんな相手が悔しそうな顔で焦っている様子は、なかなかにいい気分だ。ざまぁみやがれ。


「う……うおお……うおおおっ!!」


 やがてブラットは雄叫びを上げながら烈火に向けて突進を開始した。


 なるほど、二人に戦法を使わせないという作戦か。

 烈火に接近戦を挑み、同時に吹雪に触手の槍を撃ちだし、接近させないようする。


 とはいえ、そんな破れかぶれな戦法が通じるほど烈火と吹雪は甘くない。

 超一流には程遠いが、彼らの元になったジェイドとミカはプロのハンターなのだ。


 まず、吹雪はトンファーであるストライクブラストを回転させ、それを盾とする事で撃ちだされた触手を全て防御する。

 そしてさっき説明した通り今のストライクブラストは冷気を帯びている。すると、そのストライクブラストに触れた触手は即座に凍り付き、吹雪が軽く打撃を入れる事で簡単に砕け散った。


 烈火はと言えば、高熱の鞭をしならせ、今度はこちらに向かってくるブラットの足首を巻き付かせる。そのまま足を焼き切る事でブラットの身体を転倒させた。

 触手を砕かれ、足首を焼かれ、次第にブラットの肉体の体積が小さくなっていく。元々人間二人分の大きさがあったのだ。小さくなったとはいえ、これで人間一人分の大きさに戻ったともいえる。


「くそがぁ! 俺の相手はお前らなんかじゃねぇんだよ! お前だ……部下なんかに戦わせてないで、お前が戦え! レイジ!!」


 おっと怒りの対象がまたもこっちに来たか。

 まぁ確かにこっちもエメルディア王国の際のリベンジが出来ないのは残念には思っている。

 ブラットは俺に敗北を味合わせた初めての相手でもあるからな。

 でも……


「残念だが、今の俺にお前の相手は出来ないな。それに、部下じゃない。

 烈火と吹雪は俺の“仲間”だ。俺の仲間がお前を倒す」


 と言ってやった。


『『!!』』


 すると、何が起こったのか烈火と吹雪の二人がビクッと身体を震わせて、動きを止めたではないか。

 え? 何か変なこと言った?


「なんだぁてめぇら……嬉しそうな顔しやがって」


『いやぁ、なんでか知らんが“仲間”って呼ばれるのがすんげぇ嬉しくてな』

『ああ。ずっとそう呼ばれたかった。……そんな気がしている』

『ハッハッハッ! 覚悟しろ! 今の俺たちはすんげぇ強いぞ!!』

『ああ! 貴様なんぞに負ける気がしないな!!』


 俺からは見えないが、どうも笑っていたらしい。

 その辺の感慨深さってのは、当人達にしか理解出来ないだろうな。

 俺からは何も言うまい。


「だったら……勝ってみろよ! この俺からなぁ!!」


 最早ブラットにアルカと戦っていた頃の余裕は無い。

 やぶれかぶれになって突進でもしてくるかと思っていたら、あのヤロウはとんでもない行動に出やがった。


 身体の各所より、四方八方に向けて触手を飛ばし始めたのだ。

 俺へも容赦なく触手の槍は飛んでくるのだが、こちらに飛んできたものは全て烈火と吹雪によって叩き落された。流石、頼りになる仲間である。

 だが、俺達だけに触手を飛ばすのならまだしも、全然関係ない場所へ触手を飛ばすというのは一体どういう事なのか……。

 それは、奴が飛ばした触手の先にあるものに答えがあった。


 最初に奴に捕食された帝国兵……それ以外の兵士達の肉体に、ブラットは次から次に触手を撃ち込んでいく。


『な―――貴様!!』

『何してやがる!!』


 その行為を止めさせようとする二人であるが、その間にもこちらに対する攻撃の手は止む事はなく、結果として成り行きを見守る事しか出来なかった。


 ……あのヤロウ……行動不能になっていた残りの部下を、全員食いやがった。


 そして、その全てを取り込んだブラットは、5メートル以上の巨人へと変貌したのだった。

 だが、その見た目は身体の各所のバランスがとれていなく、先ほどにも増して不格好なスタイルとなっている。


『ハン! でかくなりゃ良いってもんじゃねぇだろ』

『ああ。ただ的がでかくなっただけだな』


 最初こそ驚いた様子の二人だったものの、特に臆した様子もなく戦闘態勢へと戻る。

 だが、あの男がただのヤケでこんな行動をとるのか?


「じゃあ……これなら……どうかな?」


 ブラットの肉体がさらに膨れ上がり、そこから7つ程の影が奴の肉体より飛び出した。

 飛び出したのは、人間の半分程度の大きさの泥人形……いや、最低限人の形をしただけの肉の塊だ。その肉の塊は、それぞれ意思でも持っているかのように別々の動きを開始する。

 これは分身の術のつもりか?

 帝国兵の肉体を全て取り込み、更に簡易的な分身として放出したという事だろうか?

 またどうやって操作しているのか不明だが、動きも思っていた以上に俊敏だ。まるで獣の如く四本足で駆け回り、烈火と吹雪の二人を包囲している。


 気持ち悪い光景ではあるが、こんな離れ業もやってのけるとは……やはり侮れない相手だ。


『なるほど、今度は質より量で勝負って事か』

『ふむ。ならばこちらもそれ相応の対処をしようか。……先生……』


 烈火が俺に確認を取るかのように視線を向ける。

 ああ、何を聞きたいのかは分かるぞ。


 ブラットに取り込まれた帝国兵達……。ああなってしまっては、助ける手段はなさそうだ。ならば、解放してやるのがせめてもの供養だろう。


「許可する。敵を倒せ」

『……了解』


 俺の言葉を聞き、二人はそれぞれ行動に出た。

 烈火の右腕には、見覚えのあるガントレットが取り付けられており、それがガチャガチャと音を立てて形を変え、腕そのものを覆うキャノン砲へと変形した。

 “ボルケーノブラスト”。俺が使っていたハードバスターの炎属性特化版だ。ファイヤーブラストの倍の炎を発射できる代物である。


 そして吹雪は両腕のストライクブラストの持ち方を変え、連結させてショットガンのような形に変える。

 “ブリザードブラスト”。二つのアイスブラストが装填されたストライクブラストを連結させた事により、相乗効果で倍の冷気を発射できる代物だ。

 

 二人は互いに背中を合わせ、それぞれこちらに向かってくるブラットの分身達に照準を合わせ、引き金を引いた。


『ボルケーノブラストォ!』

『ブリザードブラストォ!』


 火山噴火と暴風雪……。二つの災害の名を与えられた武器がその力を発揮する。

 全てを焼き尽くす極太の超火炎が……あらゆるものを凍結させ砕く冷気の渦が……ブラットの分身達を飲み込んでいく。

 方や炎に飲まれて瞬時に灰となり、方や超低温の冷気を浴びて凍り付く。


 やがて、この広場に残った敵は、いつの間にか通常のサイズとなったブラットのみとなっていた。




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