16話 異世界転移説明会
あ、なんかドヤ顔でドラゴンだの神だの言いだしたけども、やっぱりついていけねぇ。
俺、ファンタジーゲームのお約束的な事そこまで詳しくねぇんだよな。
いや、さすがにドラゴンは知っているけども、だからと言って「はいそうですか」と納得できるもんでもないぞ。だって、あんた見た目人間じゃないのさ。……角っぽいのは生えているけども。
『ある程度の説明は私が先に聞きましたので、ケイには私から説明しましょう』
「ああ、すまん。よろしく頼む」
さて、今更だがここで世界観の説明に入る。
少々めんどくさいので、ご注意あれ。
『まず、この世界の名ですが、エヴォレリア。
一つ注意していただきたいのは、私は今までこの世界の事を、何処かの別の惑星として認識していましたが、そうではなく“別の世界”である事が発覚しました』
ナンダッテー!!
……と言いたいところだが、これはなんとなくそうじゃないかなと思っていた事だ。
別の惑星というには、俺の知識に対してあまりにも都合が良すぎる。
初めて遭遇したのがゴブリンだったり、現地人がどう見ても人間だったり、魔法が存在したり……と、まるでファンタジーゲームの世界に潜り込んだみたいだ。
別の世界……というが、まぁ別の宇宙、多次元世界、パラレルワールド、異世界……それらとほぼ同意語だな。普通の少年が異世界に転移するとか、そういう小説だったり映画だったりはよくある。……あるけども、まさか当事者になるなんて思ううまい。
そういうのは、もっと主人公っぽい奴がなるべきなんじゃね? 俺ってイケメンでもなければ、スポーツマンでも無いんだし。
『そのいけめん……の定義が私にはよく分からないんですがね』
「いいよ分かんなくて。……ただの愚痴だし」
ただ、アルカが女性と分かった今、某アイドルグループ並のルックスのイケメン共にキャーキャー言い出したらば、俺は果たしてどうなるのだろうか。
……まあ、今はそんな事いいや。
説明の続きをどうぞ。
『この世界では、12の国家が存在し、7柱の神によって世界のバランスが保たれているようです。
あ、神と言っても、ケイの知識にあるような全能の存在ではありませんよ。
あくまで、存在としての上位種といいますか、個人としては圧倒的な力と、永遠に近い寿命を持っていますが、不死では無いようです』
ふーん。
絶対的な存在じゃなくて、あくまでも強い力を持つ個人という訳か。
すると、ファティマさんが会話に割り込んだ。
「この世界に存在する神は、
人神。
獣神。
翼神。
海神。
樹神。
魔神。
そして、竜神じゃ。
神の座は、各種族の中で最も優れた者が選ばれ、命が尽きると次の神へと受け継がれていくのじゃ」
最も優れたという言葉に、ふふんと鼻を鳴らす。
どうやら、自己顕示欲の高い神様のようだ。
「む。何故、ドラゴンなのに人の姿なのかとか思っとる顔じゃな? ふふん。神ともなれば、他の種族に姿を変える事なんぞ訳ないのじゃ。……まあ、ここ20年程訳あって人の姿で暮らしていていたのじゃが、それが都合が良かったようじゃの。お主らと会う際に、いきなりドラゴンの姿じゃとビビるであろう」
まぁ、それは確かに言えてる。
ドラゴンってのが俺の想像するドラゴンと同じなら、面と向かってまともに会話できる自信が無い。
……まぁ、アルカなら平気そうだけど。
「種族間同士の無益な争いを無くすため、我らは存在していると聞く。どれかの種族が抜きん出て強くなり過ぎないようにと、一つの種族の滅亡を防ぐためにな。
じゃが、同種族同士の争いには関与せん。わしらが組すると、確実に一方が勝利してしまうからの」
ふむ。神とやらの存在理由については理解できた。
たまたま最初に会えたのが人間だったが、どうやら獣人だったり、翼の生えた種族だったりが存在しているらしい。
それは、ちょっとだけ会うのが楽しみでもある。あれか、やっぱりケモノ耳とかあるのか? そっちの趣味は無い……と思いたいが、見るだけなら見たい。
そして、種族のバランスというが、どうも自力が弱い種族程、数が多いらしい。
一番強いのが当然、竜族。
次が魔族。
獣族。
翼族。
海族。
樹族。
そして、人族の順番となるとの事だ。
だが、だからといって人が最も弱いという訳でもない。相対的に見たら圧倒的に少ないが、個人の力で竜族を圧倒する人族だって存在するらしいのだ。……イマイチ想像がつかないのだが。いわゆる超人みたいなのがこの世界には居るんですね。
それぞれの種族の特徴については、実際に会ってから説明するとしよう。
正直、俺自身も頭の整理が出来ていない。
んじゃ次の疑問。
「アルカがそんな姿になっている理由は?」
改めてビー玉アルカを見る。
普通に会話が出来る分、楽と言えば楽なのだが、今までゴーグル越しの会話がデフォだっただけに、慣れるまで時間はかかりそうだ。
『はい。確かに、あの時私の移動用端末は破壊されました。……でもケイ、忘れていませんか。あくまであれは移動用の端末であって、私の本体は艦の方であると』
「あ……。そういやそうだったか」
あのゴーグルを通じて会話が出来るというだけで、あれがアルカ本体ではないのだった。
なんか、会ってからずーっとあのゴーグルを通してのやり取りしかしていなかったから、完全に頭の中からその事実が抜けていた。
『端末が破壊されたので、そのまま私の意識は艦の方に戻される筈でした。でも、そうしたらケイ一人をその場に残していく事になるじゃないですか。さて私はどうするべきなんでしょう……と悩んでいたのですが』
「そこへわしがやってきたのじゃ」
ファティマさんがまたしても割り込んできて胸を張る。
「最初は死人の魂なのかと思っておったら、どうも精神の波長が精霊に近くてな。珍しいものを見つけたと思って近づいたのじゃ」
『はい。危うくコレクションにされる所でした』
コ、コレクション!?
俺は慌ててアルカを掴んで「ひゃう!」声が漏れたが気にせず、ファティマさんの視界からアルカを隠す。
すると、ファティマさんはふんと鼻を鳴らし、そっぽを向く。
「心配せずとも、わしは人の物は盗らんわ。話を聞いたら、器が壊れて困っているとの話だったのでな。わしがたまたま持っておった魔晶をやったのじゃ」
『はい。おかげさまで、色んな事が出来るようになりました。魔晶に蓄えられた魔力と一体化する事で、魔法の仕組みが理解する事が出来たのですよ』
「そういや、さっき言ってたね」
『はい。言ってしまえば、魔法とは魔力を駆使したパズルのようなものです。組み合わせをいじる事で、こうやって声に出して会話まで出来るようになったのですよ』
あれか。いわゆる拡声器的な魔法なのか? 便利だなー。
『それと、端末が無くなったというのに普通に言葉が通じているというのも不思議に思いませんでしたか? これも、翻訳の機能を魔法で再現しています。凄いでしょ』
なるほど。そう言えばそうだった。
しかし魔力か。
そもそも、魔力ってのは何なんだ。俺には無い力だし、目にも見えないからよく分からん。
『そうですね。魔力とは、そのものズバリ、魔法を使う為の力。そう思って結構です。体力があるから、身体が動く……それと同じような物だと認識していればいいです』
「うん。分かりやすい」
『そして、この魔力……なのですが、私たちの探していた高エネルギー物質の代用になるという事が分かりましたっ! 拍手です!」
「なぬっ? そうなのか!!」
『はい! まだ試していないので100%とは言えませんが、成分測定の結果で言えばほぼ間違いないかと』
あぁ……期待はしていたんだけど、確信をもって言われると、やっとこさ苦労が報われた気がする。
まだ、宇宙船を出て一日も経ってないんだけど、本当に色々あった気がする。
……濃い一日だったなぁ。まだ終わってないけども。
『ただ問題は、艦を動かす為にどれほどの魔力が必要になるか分からないと言う事です』
「ああ、そりゃそうか」
『そして、もう一つの問題は、私たちには魔力を生み出す事が出来ないという事なのです』
「……え? そうなの?」
『思い出してくださいケイ。この世界の人間と、ケイの身体の違いについて……』
「身体の違い……。ああ、魔臓!?」
『はい。魔臓が無いケイには、魔力を作り出す事が出来なく、私にも人工的に作り出す事は不可能です』
ええええ。
じゃあ、どうしろってんだ。せっかく打開策が見つかったのに、これじゃ意味が無い。
『ですから、ケイ。魔石を集めましょう!』
「は?」
『言ったじゃないですか。魔石の中には、魔力が詰まっていると。つまり、これを集めれば、魔力を集めた事になります』
「なるほど!!」
言ってしまえば電池か!
発電する力が無いのなら、電池を大量に集めればいい。
多分、集める事になる魔石の量はとんでもない事になるだろうし、消耗品だからその辺は考えて使わないといけないだろうが、光明は見えた。
「本格的に魔獣ハンターをやる訳だな」
『はい! 私たちなら問題なくやれる筈です!』
まあ、実際ゴブリン程度なら一蹴は出来る力はある訳だしな。手持ちの装備をフル活用すれば、案外すぐに溜まったりして……。
いやいやいや。ついさっきラザムに負けたばっかりだ。過信せずに行こう。それでなくとも、俺は戦いの素人なんだ。
「だったら、王都に行ってハンターギルドに登録するとよいの。魔獣を倒して金も手に入るし、魔石も手に入る。一石二鳥じゃ」
ファティマさんの忠告に「おおっ」とテンションが上がった。
ギルド! ゲームとかでよく聞く単語だ! やっぱり、そういうのってあるんだな。本当に都合が良いな……とも思うけど、ありがたく活用させてもらいましょう。
後、忘れていたが、金の問題があったな。
今はなんとか食うに困ってないけども、これからちゃんとした物を食べていく為には、お金は必要だ。
『ファティマさん。お聞きしたいのですが、ひょっとして魔石って売れるのですか?』
「おお、売れる売れる。というか、魔術師にとっちゃ重宝するもんなのじゃ。魔石を使えば、自分の魔法に魔力を上乗せ出来る訳じゃしな」
そう言うと、ファティマは杖のような物を取り出した。
これは、あの時ラザムが使っていた杖だ。
「こんな感じに、道具に魔石を組み込めば、戦闘も楽になるのじゃ。他には、指輪だったり腕輪だったり、装飾品に使ったりもするのう」
なるほど。
手に入れた魔石は全て動力に使うのではなく、換金するという事も考慮するべきだな。
「ところでケイとやら。アルカには既に説明してあるが、自分たちが何でこの世界にやって来たのか、疑問に思った事はあるじゃろ?」
それは当然だ。
こちとら、特に魔法の本を読んだわけでも、異世界に通じる扉をくぐった訳でもない。
何の予兆も無くこの世界へと迷い込んだのだ。
疑問に思うのも当然と言える。
……まぁ、今まではいっぱいいっぱいでそんな事考えている余裕は無かったわけだが。
「それについては、わし達……神に責任の一端があるのじゃ」
ファティマさんは、そう言って俺たちに語ってくれた。
この世界に伝わる昔話を……。
説明会……実際に書くと長い。そして、よく脱線しかける。
また、いつも思う事ですが、果たしてこれで説明になっているんだろうか? 伝わっているんだろうか? と不安になります。
転移した事の詳しい説明は次話で……。
魔物→魔獣表記に統一しました。