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174話 アルカ出陣




「くそ、帝国の中でも、まさかあのヤロウが来ているとは……」


 あの男……ブラットとはエメルディア王国最後の戦いで実際にぶつかった。

 最も、ヤツとの戦い……いや、あれは戦いと呼べるものでは無かった。


 事実、ヤツ自身はこちらに攻撃を加えた訳でも無く、ただこちらが一方的に攻撃しただけだ。

 だが、俺は勝てなかった。


 確かに特殊な能力は持っていたが、その能力自体は大きな問題は無い。

 ただ、変幻自在な肉体を持っていて、死ににくいというだけ。

 それだけで、ヤツは俺を追い詰めた。後一発殴りつければ死ぬという身体で、俺を行動不能にしたのだ。


 ……冷静に振り返れば、もっと他の対処の仕様があったと思う。

 しかしあの時は、あの男の精神性に恐怖を感じ、半ばパニックになってしまった。

 情けない事に見事にブラットの術中にはまり、あの聖騎士を奪い返されてしまった。


 その後は反省し、対人戦闘の技術をもっと向上させた。

 更に俺のアイテムボックスにはブラット対策のアイテムを常備している。これで、万事OK! いつでも来やがれ!

 ……とか思っていたのに、よりにもよってこのタイミングで再戦のチャンスがやってくるかね。

 こちとら、装備のなにもかもが魔力切れで使えない上に、身体の方も割とボロボロなんすよ。アルカの回復魔法である程度治癒したとはいえ、少し歩いただけで息が上がっている始末。

 こんな状態で、戦える筈もない。


 壁にある集合住宅、その一つに俺達は隠れ、窓から様子を窺ってみる。

見たところ、ブラットと共に集落に乗り込んできた帝国兵はブラットを含めて7人。

 そのどれもがゴツイ防護服で身を包んでいる。なんだあれは。


『恐らくは、この土地の魔力吸収を防ぐための防護服かと』

「うわマジか。って事は、その辺は帝国の方が一歩先を行ってるんだな」


 すぐに飛び出して一網打尽にする力は今の俺には無いので、しばしの間様子を見ていた。

 なのだが、その帝国兵達の横暴ぶりに俺の怒りの沸点は上がりに上がり、すぐさま飛び出していきたい衝動に駆られる。


 まず、奴等は地上で遊んでいたらしき子供の翼族を捕え、この地下の集落まで案内させたのだという。

 そこから先は見ての通りだ。


「ハハハ……翼族ってのはマジでガキみたいな体つきだな」

「このペラペラな翼で飛んでるのかよ」

「おい、取ったらどうなるんだ?」

「面白れぇ、やってみようぜ」


 子供を守るために立ち塞がった大人の翼族を捕まえ、それぞれ面白そうに甚振いたぶっている。

 そこに仮にも一国の兵士だ騎士だという品性は欠片も感じられない。

 まるで、どこぞの野盗か山賊のような立ち振る舞いだ。


『ケイ、落ち着いてください。気持ちはわかりますが、今のケイが出て行っても勝ち目はありません』

「分かってる。分かっている……けどな……」


 ギリギリと拳を強く握る。

 あぁ、よーく分かっているとも。

 装備が全く使えない今、あの連中の前に飛び出したところで結果は目に見えている。


 最も、戦闘技術のインストールとそこそこ身体能力が上がった今では、一人か二人ならばなんとか倒せるかもしれない。

 が、そこで終わりだ。

 袋叩きにされ、捕らえられるかもしくは殺される。


「なあ、一刻も早く俺たちの魔力を元に戻してくれ。じゃないと、この村は大変なことになるぞ」


 俺は背後で集落の惨状を目の当たりにして顔を蒼白にしているシェシェルを振り返った。


「い、いえ、それには中枢に行って皆さんの情報を登録しなくてはならないので、今すぐに出来る事ではないのです。それに、出来たとしても無くなった魔力を即座に戻すことは……」

「マジか……」


 つまり、魔力を回復させる手段は無いってことなのか。

 思わず天を仰ぎ見る。

 そこにはやはりピンチの時に駆け付けるアルドラゴの艦影はない。そもそも、ここは地下であるから空を見る事も叶わない。


「そう言えば、俺の剣……俺の剣はどこに行った?」


 シェシェルを見るが、彼女はふるふると首を横に振る。

 思い返してみれば、地上の都市で目覚めてから、武器の類は一切手にしていなかった。

 此処へは翼族が運んでくれたらしいが、彼等がわざわざ武器まで運んでくれるとは思えない。と言う事は、あの魔獣を倒した森に置いてきたままか。

……ってことは、丸腰なんだな。


 だが……丸腰だ、魔力切れだなんだと言って、このまま指をくわえて見ていることは俺には出来そうもなかった。

 これが昔の俺ならば、人間出来る事と出来ない事があると割り切ることが出来たかもしれない。それが、この世界にきて曲がりなりにもAランクハンターだなんて持て囃されたのだ。

 ここで勝ち目がないからと放り出すのは、これまで自分達を慕ってくれたり頼ってくれた人たちに対して申し訳ない。


 ふと、脳裏に昔の出来事が思い返された。


 確か、小学4年の頃だったか……。

 転校してきたばかりでクラスに馴染めずにいた子が居た。

 別にいじめられていたわけではなかったみたいだが、いつも孤立していたその子に、俺は何となく声をかけたのだ。

 その転校生とは以降腐れ縁となり、高校生となった今も同じクラスだったりする。


 特に自分の中で美談というつもりもなかったが、ふと思い出してしまったのだから仕方がない。

 要はあの時と同じ……やるべき事が分かっているのなら、やるべきだろう。


 腹は決まった。

 いざ飛び出そう―――


 ―――とした時、俺の肩を何者かが押し留めた。


「―――アルカ」


 いつの間にか実体化したアルカが、口を真一文字に(つぐ)み、どこか怒ったような表情でこちらを見ていた。


「……それなりの付き合いなんだ、俺の考えとか分かっているだろ」

『はい』

「じゃあ、止めても無駄だって分かっているよな」

『はい』


 そうは言うものの、アルカは俺の肩から手を放そうとしなかった。

 今のアルカは筋力がないから、振り払おうと思えば簡単にできるのであるが、何故かそれは躊躇われた。

 とにかく、どうにかして説得するべく口を開こうとしたら、それよりも早くアルカが言う。


『ですから、今回は私が行きます』

「……は?」


 思わず間の抜けた声が出た。

 いやいや、何を言いますかこの人は。


『ケイが今飛び出ても、倒せるのはせいぜい2人程度でしょう。ですが、私が出れば勝率はもっと上がります』

「いや、確かにそうなんだが、今のお前は俺よりも戦えないだろう」

『いえ、そうでもありませんよ。確かに普段の3割程度の力しか発揮できませんが、魔法は一応使えますし、生身であるケイよりも強いという自負はあります』


 あぁ、そういえば実体化は一応できるし、回復魔法とかも使っていたよな。

 確か、ヴィオの血を取り込んでいるおかげで土地の魔力吸収に対してある程度耐性があるんだったか。

 そう考えると、確かに俺よりも強い。

 確かに強いんだけど……


「だったら、俺も一緒に行けばもっと勝率が―――」

『はっきり言って足手まといです』

「ぐはっ!」


 本当にはっきりとした言葉である。

 もう見事にグサッと俺のハートに剣が突き刺さった。


『さっきも言った通り、今のケイは二人倒すのが限界。そして倒したら体力の方も限界になるでしょう。そんな状態のケイを守りながら戦えるほど、私も余裕がありません。ですので、この場は私に任せてください』


 そうなんだよな。

 冷静にシュミレートするならば、そうなるんだよな。

 不意打ちで一人は何とかなるだろう。その後、決死の覚悟でもう一人は行けるかもしれない。

 が、そこまでだ。

 どう考えても、そこから先に俺が生き残る術はないのですよ。


 だが、だからと言ってこの場をアルカ一人に任せて俺は安全地帯で見守るってのはどうかと思う。

 いや、はっきり言おう。


 格好悪い。


 でも、ここはくだらねぇプライドなんかにこだわっている場合じゃないんだよな。

 えぇ分かっていますとも。


「分かった。この場はアルカに一任する。だが―――」


 今までは顔のみに注目していて視線を動かしていなかったが、いい加減に指摘せねばならないと思い至った。


「戦いに向かう前に、ちゃんとした服を着てください」


 そうなのだ。

 今のアルカは、アイテムボックスから衣服を取り出せないために、素っ裸なのである。

 ちなみに、見てないっすよ。

 だから頑張って視線を動かさないようにしてるんす。


 ………

 ……

 …


 とは言ったものの、大人であっても中学生程度の体格しかない翼族が住むこの集落において、アルカさんが着られるような服は無かったのである。

 とりあえずシェシェルのワンピースタイプの服を借りたが、当然ながらかなり小さい。

 無いよりはマシと思って無理やり着込んでみたら、ピチピチの超ミニスカートという見た目になってしまった。

 実に目のやり場に困る!


 とりあえず急場凌ぎという事でベッドのシーツを加工してスカートとする。スリットから見える生足が艶めかしい。正直、戦いに向かう服装とは到底思えないのだが、あんな超ミニスカートで戦場に送り出す訳にも行くまい。


 次は上半身だ。


「……アルカ」


 俺は自分の着ていたジャケットを脱ぎ、アルカへと手渡す。ジャケットだけでも防弾や防刃の役割は果たせるだろう。

 本当ならユニフォーム一式を渡したいところだが、アルカの言い分によれば下手にスーツで身を固めてしまうと逆に動きづらいのだとか。


 アルカは俺のジャケットを着込むと、俺の目を見据える。

 その目の意味は分かっている。


 艦長命令を待っているのだ。


「広場を占拠している帝国兵を倒せ。……頼んだぞアルカ」

『了解しました』


 そして、アルカはパンパンと強めに頬を叩き、俺へ背を向けた。

 俺はその背へ向け、言うべきか迷っていた言葉を発した。


「アルカ、こうなった以上はこれまでの俺のポリシーとかは気にするな」

『………』


 正直、はっきりと言葉にした訳では無かった。

 だが、俺が艦長となったアルドラゴでは、全員が心に留めているルール……いや、そんなはっきりしたものではないが、決まりのようなものがある。


 殺人厳禁。


 当然平時でもいけない事ではあるが、戦闘においてはやむを得ない場合もあるだろう。

 が、それすらもただ単に俺が嫌だという理由で禁じている。

 単に、俺の我儘だ。


 なのだが、あくまでもそれはこちらに余裕があるからこその話だ。

 生きるか死ぬかという現状において、相手の命まで気を配る必要はないだろう。


 俺だって、見知らぬ敵よりは傍に居る仲間の命の方が当然大事なのだ。

 後でもの凄い後悔するだろうが、仲間を失う後悔よりは数万倍もマシである。


 アルカは一度だけ振り向き、何故だか微笑んだ。


『……戦艦アルドラゴ副艦長……アルカ、出陣します』


 アルカはそう言うと、民家の窓を大きく開け、そのまま広場へ向けて飛び出したのだった。





 本当は戦闘シーンまで書きたかった。

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