表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
173/286

169話 ゲイルVS狂騎士ルクス




 林の中、木々の間からライフルのスコープ越しにゲイルはヤツの姿を見据えていた。


 奴だ。

 聖騎士ルクス。


 聖騎士とは名ばかりの狂った帝国の騎士。

 エメルディア王国で多くの人間の命を奪い、彼の義父ちちの命をも奪った男。


 姿は最後に戦った際の、帝国が聖獣と呼称しているガルーダと融合した形に似ている。だが、あの時が白銀の鎧を纏った天使を思わせる姿だったのに対し、今の姿はより生物的に融合したような形になっている。

 その瞳に理性や知性は感じられない。つまり、人の形をした魔獣そのものだ。


 これがエメルディアで戦った時のヤツだったならば、かなり厄介な事になったかもしれない。

 だがゲイルの目に映るアレは、ただの魔獣。

 ならば、十分に勝機はある。


 というか、確実に勝てる。

 ゲイルは確信していた。


「ギィィヤァァァァァッ!!!」


 言葉にならない雄叫びと共に、ルクスは最早腕と同化した右腕の剣を掲げる。

 バチバチと光が刀身に溜まっていくのが確認出来る。

 あれは、エメルディアの時にも使っていた光によって刀身を巨大化させたり、斬撃を飛ばしたりする技だ。

 斬撃の軌道、到達位置をゲイルは即座に見ぬき、急ぎその場から逃れた。ほんの数秒後には巨大な光の刃が放たれ、ゲイルや他の帝国の騎士達が潜む森林を真っ二つに斬り払ったのだった。


「斬撃の軌道は予測済み……。だが、その威力だけは計算違いでござったか……」


 斬撃の結果を見て、ゲイルは思わず呻く。

 二つに斬れた……つまり、小さくも無い規模の森林に縦一文字の断崖が出来上がったのだ。まともに受ければ、今の状態のゲイルならば文字通り消し炭だろう。


 とは言え、元々受ける気なんぞさらさらない。

 林の中をゲイルは駆けまわり、スコープ越しに狙いを付ける。最もゲイルであれば、わざわざスコープを覗かなくともルクスの姿ははっきりと目視出来ている。だが、弓と違って銃……この場合はスナイパーライフルという武器は、付属のスコープを覗かなくては狙いが付けづらいという厄介な武器なのだ。

 ……厄介ではあるが、狙いさえつければ当たるというのはある意味便利ではある。弓と違って弾道の軌道は把握しやすいし、銃弾という奴は狙いを付けてから当たるまでが速い。敵の動き等を細かく考える必要が無いというのは楽と言えなくもない。

 とは言え、使い慣れている弓がゲイルにとって最も使いやすい武器には違いない。ただ今は、使える武器で戦うだけだ。


 スコープ越しに狙いをつけ、まずはルクスの背中にある両翼を狙う。

 銃口より二発の銃弾が放たれ、見事にルクスの左翼へと命中する。

 だが、その結果はルクスの身体を僅かに後方へ動かしたに過ぎず、大きな成果は得られなかったといっていいだろう。

 脆そうな翼であっても、ただの銃弾では傷一つつかないか。


 すると、ギロリとルクスの視線がこちらへと向いた。


 はっきりと見られたわけでは無いが、撃たれた位置からこちらが潜む方角を算出されたようだ。

 今度は溜めなしで光の斬撃が放たれ、再び森林に一文字の傷が出来上がる。先ほどよりもずっと威力が落ちるが、やはり当たればただでは済むまい。

 当然当たる気はないが!


 林の間を駆けながら再び狙いをつけ、ライフルより銃弾を放つ。

 手持ちのライフルでは、ルクスの身体に傷をつける事は出来ない。それは翼を撃った事で理解した。だが、スナイパーであるゲイルは決して無駄な矢を放たない。

 今度狙いを付けたのは……首筋、右肘、手首の人体でも脆い箇所である関節部だ。

 が、やはり僅かに衝撃を与えただけで銃弾が身体を撃ち抜く事は無かった。


「!」


 またしても銃弾が放たれた位置を察知し、ルクスの狂気に彩られた瞳がこちらを向く。


 狙いはそれであった。


 光の斬撃が放たれた直後、ゲイルのライフルはまたも火を噴く。

 直後、空中のルクスは大きく身体を仰け反らせた。


「ギァァヤアァァァッ!!」


 ルクスの口より絶叫が迸る。

 その鳥の仮面のような顔の左側が血でまみれ、左の瞳からは血が噴き出ていた。


 そう、ゲイルが狙ったのは人体でも特に脆い箇所……目だ。

 皮膚や関節は鋼のように硬くとも、目だけは硬化しようもない。あれがアルドラゴの戦闘スーツのようにバイザーで覆われていれば狙いようもなかったろうが、あのように剥き出しであれば狙うのは簡単だ。


 とは言え、直に目を狙うにはこちらと視線を合わせねばならない。

 その為にわざとこちらの位置を教えたのであるが、なかなかに際どい行為であった。


「痛み分け……という訳ではござらんな。明らかにダメージはあちらの方が上」


 左肩より滲む血を抑えながらゲイルは呟いた。

 ルクスの目を狙う為にこちらを向かせたはいいが、その為に光の斬撃より逃れるのが一瞬遅れてしまった。

 だが、被害は肩が僅かに抉れただけ。

 対してあちらは左目を失った。

 撃ち合いはこちらの勝利だ。


 とは言えそれでこの戦いが終わるわけでは無い。

 いくらダメージを与えたとはいえ、敵が失ったのは左目一つ。

 それに、もう一つの目を狙うのも至難の業だ。


「ギィィィヤァァァァァァッ!!」


 痛みからかルクスは絶叫と共にその場を不規則に飛び回る。

 そして、光の斬撃を狂ったように連発する。


 不規則な斬撃が幾度となく放たれ、そのたびに大地は抉れていく。

 その斬撃の乱発を、ゲイルは全て躱していた。

 剣を振るうタイミングと斬撃の軌道さえ見極めれば、スレスレで避ける事は難しくは無い。……あくまでゲイルにとっては。

 とは言え、この回避方法にも限界はある。

 瞬き一つ許されない状況の中、視力を限界まで酷使しているので、流石のゲイルも消耗が激しい。


 だが、この斬撃の乱発が長時間続かない事をゲイルは見抜いていた。

 これほどの高威力な攻撃……恐らくは魔力に関係した能力に違いない。となると、この特殊な土地ではどうなるか……。

 この土地で平然と飛んでいる所を見ると、ハイ・アーマードスーツを纏った自分達のように何かしらの対策はしているのだろう。それでも、魔力を吸う土地で放出タイプの攻撃がそう何度も使える筈は無い。

 事実、幾度となく繰り返されている光の斬撃も、その威力が少しずつ小さくなってきた。

 

 そして……


(今だ!)


 その瞬間を狙って、ゲイルはライフルを構えて空に浮かぶルクス目がけて銃弾を撃ち込んだ。

 放たれた銃弾は、今までであれば目以外の何処に当たろうとも全て弾かれていた筈だった。なのだが、その銃弾は弾かれる事もなくルクスの首に命中する。最も、命中の直前で僅かに軌道がずれ、首筋の肉を抉るだけとなった。

 それでも、その傷口からは大きく血が噴き出す結果となる。


 やはり。

 ゲイルは確信した。

 ルクスの全身は、極小のバリアのようなもので覆われているのだ。それが、光の斬撃の乱発によって体内魔力が減り、バリアの力を大きく削ぎ落としてしまったのだ。

 直撃のコースの筈なのに軌道がずれたのは、まだバリアの力が残っていたためだろう。


 それでも、銃弾が効くと分かった以上、もうヤツはただの手負いの獣でしかない。


 次に、ルクスは怒り狂った様子でこちら目掛けて急降下してきた。

 まぁこれだけ攻撃が当たらなかったら直に当ててやろうと思うだろう。


(仕掛けた罠は残り……二つ。なんとかなるか……)


 ゲイルは銃を乱射しながらその場から離れた。

 その銃弾は狙いも碌につけていないから、全てが鎧によって弾かれる。最も、それはあくまで牽制目的であるから、ダメージを与えなくとも構わない。

 ゲイルはジャケットの内側に大量に確保してあるライフルの弾倉マガジンを何度も装填しながら、必死にルクスの猛攻から逃れた。

 当然、全ての攻撃を躱す事は叶わず、ゲイルの身体には決して浅くは無い傷がいくつも出来上がっていく。

 傍目からは、ただ無様に逃げ惑う姿に捉えられただろうが、ゲイルはルクスをある場所へと誘導していたのだ。

 それは、ゲイルが戦闘開始前に仕掛けたブービートラップのある場所だ。

 かつて竜王国の森で狩りをしていた頃に養父ゲオルニクスに教わった初歩的な罠の数々。元々は野生動物を捕獲する為の罠であるが、相手が人間であっても十分に通用する。


 罠の場所に到達したゲイルは、わざとその仕掛けたワイヤーを発動させ、自らはその場に仰向けとなって倒れ込む。

 その行為をなんら疑問に思わないルクスは、チャンス到来とばかりに右腕の剣を大きく振りかぶってゲイルを突き刺そうとした。

 が、そのルクスに横から仕掛けられた振り子の丸太が激突する。その衝撃でルクスの身体は吹き飛び、木々を薙ぎ倒しながら転がっていくのだった。


「ドンピシャ」


 ゲイルは起き上がるとライフルのスコープを覗きこみ、狙いを付ける。最も、そのスコープの先にあるのはルクスでは無い。

 ルクスが転がった先にある最後のトラップ。その仕掛けを銃弾で撃ち抜き、罠を発動させたのだ。


 ゲイルが都市の倉庫から持ち出したものはライフルだけではない。


 爆弾もその一つだ。


 仕掛けてあった爆弾をゲイルは撃ち抜き、ルクスが倒れ込んでいる場所もろとも大爆発を起こさせる。

 ドゴォンという爆音が響き、粉塵が辺りを覆う。


(―――まだ死んでない!)


 粉塵の中、ルクスが空に向かって飛びあがったのをゲイルは視認する。


「グギャアァァァァッ!!」


 既にルクスの身体はボロボロである。片目や首筋からは血が溢れ、その白銀の身体を赤く染めている。更に全身を覆う鎧のような装甲部分は大きくひび割れ、もう一度大きな衝撃を与えれば砕けてしまいそうな状態だ。

 そんな状態であっても、ただ一つ残った瞳には狂気の光がまだ消えていない。


 ルクスは右腕の剣を掲げると、その刀身に再び光を纏わせていく。


「最後に残った力で、この森林部一帯を吹き飛ばすつもりだな。……最も、それは想定済みでござる」


 ゲイルは額から流れる血を拭うと、今まで一度たりとも使わなかった最後の武器を背中から取り外す。


 彼が最も信頼する武器……弓矢だ。


 先の蛇の魔獣との戦いの際に使用していた市販の弓矢。

 矢は一本しか残っていないので今回の戦いでは使用していなかったが、最後のトドメとして使用するのはやはりこの武器だ。


 最早、ルクスの体を覆うバリアは効力を発揮していない。

 それに、最後に残った魔力を攻撃の為に回しているから、ルクスの身体は完全に無防備なのだ。


 そのルクス目がけて、先端に爆弾を取り付けた矢をゲイルは放つ。

 だが、それとルクスが光の斬撃を放ったのはほぼ同時であった。


 放たれた矢はルクスの胸へと命中し、そのまま大爆発を起こした。

 ゲイルは放たれた斬撃を躱すべく矢を放った直後にその場から逃れようとするのだが、いかんせん今回は斬撃の規模が大きすぎた。


「くっ!」


 逃れる事は叶わず、ゲイルの身体は光りに呑まれ、やがてその姿を消し去ってしまった。


 後に残ったのは、底が見えないほどに大きく抉れた大地だけだ。


 そしてその惨状を引き起こしたルクスであるが、ゲイルの最後の攻撃によって剣は折れ、左腕と左足は消し炭のように崩れ落ちている。翼は焼け落ち、顔を覆っていた鳥のような仮面は砕かれ、元々のルクスの顔が露出していた。

 その口より血がゴボッと噴き出され、やがてその瞳からは狂気の灯が……ゆっくりと消えていく。


「ア……アァ……」


 ルクスであった者の残骸は浮遊力を失い、自らが作り出した深い谷底へとその身を落としていった。




 こんな引きですが、次回は主人公チームに視点が戻ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ