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166話 謎の都市



<ゲイル&ヴィオ・サイド>



 とりあえず聞くべき事は尋ねた。

 全てに対して満足のいく答えは出せなかったが、これ以上この村長とやらに尋ねても無駄であろう。と、ゲイルは判断した。

 であるならば……


「ヴィオ殿……貴殿はこれからアルドラゴへ帰還して、今の情報を伝えてほしいでござる」


 すると、当然ながらヴィオは怪訝な顔つきでゲイルを睨む。


「ああん? 何か色々と聞きたい事あんぞ。

 なんでアタシが一人で?

 アンタはどうすんだい?

 レージとアルっちはどんすんだよ」

「それも含めて、今の状態では手が回らないのでござる。一度アルドラゴに戻り、戦力の立て直しを図るべきでござる」

「で、おめーは?」

「拙者は先ほどの場所に戻り、アルカ殿と合流するでござる」

「……逆の方がいいんじゃねぇか?」


 血の感知を出来るヴィオならば、レイジの捜索を続ける際には有効となる。

 それに、不測の事態に遭った場合、得意武器の弓矢を失ったゲイルがどこまで渡り合えるのかという不安もある。まだ、生身でも多少は戦えるヴィオの方が最適ではないかと思ったのだ。

 だが、ゲイルは首を横に振る。


「申し訳ないでござるが、ヴィオ殿よりも拙者の方が視覚聴覚は優れているでござる。拙者の方が早くアルカ殿を見つけ、また話に聞く別の集落とやらを見つける事が出来るでござる」

「むぅ」


 既にこの村の村長から、この近くに別の翼族の集落がある事は聞いていた。

 楽観的に考えれば、艦長たるレイジもそこに居る可能性が高い。悲観的に考えればいまだ森の中、もしくはもう死んでいるという可能性もあるが、そんな事を今考えても仕方ない。

 残念ながら地図のようなものはないが、方角とおおよその距離は分かっている。ならば、探す事も難しくは無い。幼い頃から森の中を歩きなれたゲイルならば、それほど難しい事ではない。


 確かに、その言い分は正しい。

 正しいのだが……


「アンタの言葉は理にかなっている。だけど、何処か嘘の匂いを感じる……まぁ、アタシはアンタとは付き合いが短いから、そこは追及しないでおくぜ」


 それだけ言うと、ヴィオはうーんと大きく背伸びをした。

 言葉を聞き、ゲイルは一瞬だけ表情に陰りを見せたが、すぐに元に戻す。それを見ないふりをしたヴィオは、身体の関節をパキパキと鳴らしながら改めてゲイルに向き合う。


「まぁこっちも食うもん食ってある程度回復したし、艦に戻る程度なら問題ないだろうよ。それにあっちでも何か起こってるかもしれないしな」

「かたじけない」


 ヴィオに軽く頭を下げ、再び村長へと向き直る。


「失礼。この集落には武器のようなものはあるのでござろうか。今、拙者達は手持ちの武器が使えない状況にござる」

「武器ですか。ええ、ええございますとも! 地上人向きの武器がございます」




◆◆◆




<レイジ&アルカ・サイド>



『わぁ、本当だ! 若い!!』


 水でササッと簡易的な鏡を作りだしたアルカは、自分の顔を見てまず驚いた。


 俺はと言えば、何かアルカの顔に違和感を抱いてしまい、何故か直視出来ないでいる。

 ううむ、何故だ。


『ううむ、恐らくは身体を構成している水の密度が低下しているせいですね。それでいて先程慣れない魔法を使用したので、少ない魔力が更に減ってしまったのでしょう』

「魔力少ないなら、魔晶モードになりなさいよ」


 俺はポンポンと自分の胸にあるエムブレムことリミットタイマーを指で叩く。こちらもオバーリミットモードが暴発した時用のものであるが、アルカが実体化している時は無用の産物と化している。ただ、今のアルカがリミットタイマーに取りついた所で機能の回復は無理だろう。

 ……いやそもそも、スーツの機能が死んでいるからオーバーリミットも何もないのだけど。


『ケイ、ちょっとちょっと』

「なんだよ……」


 鏡を見ながらちょいちょいと手招きをするので、近づいてみたらばいきなりぐいと引っ張られた。


「何すんだ―――!」


 力任せに引っ張られ、何やら顔と顔がぶつかりそうな距離まで近づいてしまう。

 一瞬抵抗しようとしたが、アルカはこちらの事なぞ気にせずにニコニコと鏡を見ているだけだ。

 そして、俺の身体を自分と横並びにして、まるでプリクラでも撮るかのように二人で鏡に映り込む。


『おおー』

「何がおおーなんだ?」

『最近人間の年齢というものが分かって来たのですが、これでほぼ同年代という所でしょうか?』

「はぁ?」


 そう言えば、普段はあまり意識した事が無かったが、アルカの見た目は大体20歳前後という感じで、雰囲気としては大学生という感じであった。

 そこから2~3歳程若返ったとしたら、年代的には高校生……ほぼ同年代という事になるか。


 あ……違和感というか、変にアルカの顔を直視出来なかった理由はそれか。

 今までは年上のお姉さんという感じで接してこれたが、こうして一気に同年代として認識してしまうと、妙に女性らしさというものを意識してしまう。

 いかん……これはいかん。


「アルカさん。気が済んだのなら、そろそろ魔晶モードになってもらっていいですか?」

『なんでそんなにへりくだってるんですか?』

「いいから、早く戻ってください。つーか戻れ!」

『わかりましたよぉ。もおー』


 ぶーぶー言いながらも、アルカはビー玉モード……もとい魔晶モードへと姿を変えた。

 そして、そのままスポンと俺の胸のリミットタイマーへと収まる。


『おおー、何か久しぶりですね。この感覚』

「だなー」


 思えば、この世界に来たばかりの頃はこのまま二人三脚で頑張って来たんだっけなぁ。まぁ、主に俺が頼り切っていたんだけど。


 とにかく、アルカのおかげで身体の方もある程度回復出来た。

 後は当初の予定通りにこの集落とやらで情報収集に勤しむとしますか。


 そうして、意気揚々とこの部屋のノブに手を掛け、その扉を開く―――


 ―――開いて、唖然とした。


「……なにこれ」


 ドアの向こうに広がっていたのは、俺にとっては実に見慣れた……いや、懐かしさを感じるような……はっきり言ってしまえば、日本の地方都市の住宅街……そんな風景が広がっていたのである。




◆◆◆




<ゲイル&ヴィオ・サイド>



「これが武器……でござるか」


 ゲイルとヴィオの二人が案内されたのは、地下室であった。

 何やら指紋認証やら特別厳重なセキュリティが施されている筈なのに、当の村長は特に何もせずに簡単に扉を開いた。どうも、機械はあるにはあるが、きちんと作動している訳では無さそうだ。


 そして、その扉の向こうにはそれこそ武器庫が広がっていた。

 それも、この世界特有の剣や槍などの近接戦闘系武器では無い。


 レイジの世界にあるような、拳銃……ショットガン……ライフル……等の無骨な近代兵器の数々である。

 この都市の様相から、もしかしたらと予想はしていたが、こうして見せつけられると違和感というかミスマッチ感ってやつが凄い。

 見た目が妖精のようでファンタジー全開の翼族が、近代兵器の重火器と並び立つ……エルフであるゲイルが思うのもなんではあるが、非常に似合わない。


「なんでこんなもんがあるんだい」


 ヴィオが当然の質問をする。

 だが、村長はただ首を傾げるだけだ。


「さぁ……我々もそれはさっぱり。ただ、かつてこの地を支配していた人族の者達が残した武器に過ぎませんので。またこれらの武器は確かに強力ですが、重すぎて我々には扱えるものではないのです」


 確かに、彼等翼族の体格を考えれば重火器は重すぎると言えるだろう。拳銃一発撃つにしても、数人がかりの力が必要だろうし、撃てたとしてもその反動でまともに狙いを付けられるかどうも分からない。


 とは言え、ゲイル自身も武器庫の中に弓矢が無い事を知って落胆した。

 だが、銃も使え無い訳では無いので、とりあえずライフルらしき武器を手に取る。


 アルドラゴのクルーとなる上で、重火器に関する知識は脳内にインストールされている。弓矢程上手く扱えないだろうが、何もないよりはマシという所だ。


「まぁ、アタシも念の為いくつか貰っておくとするわ」


 比較手は軽めの拳銃等の武器をヴィオは手にする。ここに来る前に遭遇した魔獣程度ならば、拳銃の銃弾でも十分対処できるだろう。

 それにヴィオやゲイル自身の力が加われば十分な力となる。


「では、問題の魔獣達が何処に居るのか教えて欲しいのでござるが……」


 ゲイルは改めて村長へと向き直る。




◆◆◆




<レイジ&アルカ・サイド>



「おいおい……こいつは……」

『ケイ、落ち着いてください』


 アルカの制止も耳に届かず、俺は思わずその場から駆け出した。


 アスファルトの大地に等間隔に突き刺さる見慣れた電柱……思わず触れてみるが決して幻ではない。

 そして振り返ると、そこには予想外な代物が建っていた。


「嘘だろ!」


 そこは、確かに俺達が今までいた場所に違いない。

 俺としてはてっきり神殿とかそのあたりの神聖っぽい場所を想像していたのであるが、俺の目の前にあったのは予想外過ぎる代物であった。


 建っていたのは、大都市であっても大きな通りから外れた住宅街でよく見る代物……はっきり言ってしまうと、アパートであった。

 しかも手すりやなんかが錆びついていて、いかにもな雰囲気を醸し出している。


 恐る恐る俺達が出てきた扉を開いてみると、そこには確かに今まで腰かけていた筈のベッドや祭壇みたいなものもある。

 まるで、扉の外と内側が別世界のような印象だ。


「お、おいどういう事だ? 俺は日本に帰って来たのか!?」


 アスファルトの道路、電柱、数は少ないが点在するアパートや一軒家、よく見れば公園みたいなものすらある……どう見ても日本の街並みなのだ。

 そんな筈はないと思っていても、まるで日本に帰ってきたかのような感覚を覚えた。


『ケイ、空を見てください』


 言われるがままに空を見上げる。

 すると、そこには今となってはすっかり見慣れた代物がその存在感をアピールしていた。


 そう、ここが地球ではないという何よりの証拠である、巨大な月だ。


『残念ながら、この場所は私達が今まで滞在していた空に浮かぶ島……サフォー王国で間違いありません』

「……だよな。すまん、ちょっと焦った」


 俺は大きく息を吐き、パンパンと頬を叩いて気持ちを切り替える。


 だとしても、ここが何処で、何なのかというのは確かめないと俺の気が済まない。

 俺はこの不可思議な集落の中を駆け回った。


 まるで、一つの都市……その住宅街のみを切り取ったかのような集落だった。

 立ち並ぶ家々の構造自体は俺の知る日本都市にそっくりだ。その筈なんだが、何処か違和感がある。

 何というか、無秩序に立ち並んでいるというか……まるで、子供が適当に家々を配置したかのように乱雑だったのだ。

 道路には電柱が立ち並んでいるがそこに電線はなく、ただ並んでいるだけという感じだ。


 ……まるで、日本都市の面影だけを投影したかのような町だ。


 そして、町の中を駆け回って直ぐに気付いた事がある。


 この町には、住人の存在が全く感じられなかったのだ。


「どういう事だ? 少なくとも、俺の出会ったあのリリムって名前の女の子や神官を名乗った翼族が居る筈なのに、誰も見つからないぞ!」

『確かに、人間の生気のようなものがこの町からは感じられません』

「いつもの生体反応を感知ってのは……駄目だ。機械がそもそも機能していないんだったな」

『そうですね、すいません』


 バイザーの機能が働いていないせいで、それを通して周囲の生体反応を感知するといういつもの芸当が出来ない。アルカも魔晶から得られる視覚・聴覚情報でしか周りを見られないのだ。


「どうなってんだ? この町は一体何なんだ!?」


 俺の声だけが、空しく町の中に響いていた。




 申し訳ありません。

 活動報告の方にも書きましたが、ちょいと病気で入院していたためにほぼ1ヶ月放置していました。


 なんとか無事に退院出来ましたので、続きの方もしっかりやっていきます。

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