15話 「竜神ファティマ」
前話、初投稿時より後半部分の文章を大幅に追加してあります。展開そのものの変化はありません。
なんか変な夢を見ていた気がする。
アルカが肉体を持って俺を抱きしめるとか……俺もラノベとかアニメの見過ぎなのか?
……いや、大して見てない気がするんだけども。
とにかく、そんな夢を薄っすらと思い出しながら、俺は目を覚ました。
「――――――あ」
意識を取り戻した途端、俺はガバッと起き上がる。
意識を失う前に遭った事が、脳裏に鮮明に蘇ってきたからだ。
土の壁へ飲み込まれるカリム。
そして、壊されるアルカ。
そのあとの事がどうにも曖昧なのだが、重要なのはその二つだ。
慌てて辺りを見渡してみると、自分の傍にすぅすぅと寝息を立てながら寝ているカリムの姿があった。
……良かった。カリムは無事だったか。
すると、問題はもう一つ。
俺の枕元に、前に見た光景と同様に壊されたアルカが置いてあった。
……こっちは無事じゃなかったか。
アルカの残骸を見た途端、目の奥が、ツンと熱くなった。
「アルカ……」
『はい。なんですか?』
「わああああっ!!?」
すると返事が聞こえてきた。
それこそ、女性の声で。
何処からだ?
何処から声がする!?
辺りをキョロキョロと見渡すと、ようやく自分の周りがどうなっているか頭に入ってくる。
自分が居るのは、どうも木造の家のようだ。ひょっとしたら、さっきまで戦っていたラザムの家であるログハウスの中なのだろうか?
いや、あれは俺がぶっ壊した気がするのだが、それも夢だったのか?
『何処探しているんですか。ここですよ』
「あいたっ!」
ゴツンと、額に何かがぶつかる。
じんわりと痛い額を抑えて、正面を見据えてみると……
ビー玉くらいのサイズの青い石がふよふよと宙に浮いていた。
『おはようございます』
喋った。
う~んこの星に来てから、色々と非常識なもん見て来た気がするけども、これはまたぶっ飛んでいるな。
まさか、石が宙に浮いて、更に喋るとは。
好奇心にかられ、ちょちょいと突いてみる。
『ひゃう!』
びくんと跳ねた。なんか面白いな。
『なにすんですか! えっち!』
べし! と、再び俺の額に激突するビー玉。
いや、エッチとか言われても、ちょっと触っただけだし。……いや、これはセクハラになるのか? なんか女性の声だし。
とりあえず訴えられたら嫌だし、謝っておこう。
「いや、すみません。まさか、そんなセクハラになるとは」
『むぅ。いえ、私も感覚というものが初めての経験ですから、少々敏感になりすぎているところがありました。これからは不意の刺激ではない限り大丈夫かと』
「ああ、そういうもんなんだ。……?」
なーんか、この会話のやり取りが非常に懐かしく感じる。
この変な石と喋った事なんてあったっけ。
『ところで……さっきから妙に他人行儀ですけども、ひょっとして気づいて無かったりします?』
「ん? 何に」
『あぅぅ。やっぱり気づいてない。なんてこった……。ケイにとって私はそんなどーでもいい存在だったのですね。もういいです。私、実家に帰ります』
ん?
今、俺の事ケイって言ったか。
この星で俺の事そんな親しく呼ぶ奴って限られるぞ。
―――っていうか、一人しかいないし。いや、一人とカウントしていいのか分からんが。
「ひょっとしてアルカ?」
『はーい! そうですよ。貴方の心の友達、アルカでございます』
思わず頭を抱えた。
なんだこれ。
アルカって確かゴーグルだったよね。なんで石になっている訳? しかも、喋り方がやたらとフランクになっている気がするし。
というか、実家に帰るって、宇宙船に帰るとかそういう事なのか?
「あの……なんか聞きたい事が山ほどあるんだけども」
『はい。私も説明しなくてはならない事が山ほどあります』
「んじゃ、まず一つ」
『はい』
「アルカって女の子?」
べしっと再び額に激突された。
『最初に聞くのがそれなんですか!? それと、前にも聞きましたが、ケイは私の事なんだと思っていたんですか!?』
なんか烈火の如く怒っていらっしゃる。
いや、すいません。
「いや、そもそも人工知能に性別なんてあるのかって話なんだが。あと、今まで会話はゴーグルのモニターに文字が表示されるだけだったろ?」
『そう言えばそうでしたね。まぁ、良いでしょう。
私の人格モジュールは、一応の性別の設定は成されています。どうも、私の人格のモデルになった存在が女性らしく、それがそのまま適用されているようですね』
「ああ、モデルなんて居たんだ」
『詳しい事はデータがありませんので不明なのですが、ケイとさほど歳の変わらない少女だったのでは……と推測されます』
「なんでそんな事分かるの?」
『それは、実体化した時の――――――』
「失礼するが、そろそろ話をさせてもらっても良いだろうか?」
声が割り込んできた。
しかも、聞いた事のない声である。
俺は咄嗟にアルカを掴んで握りしめる『ひゃう!』と声が漏れたが気にしない。そして、腰を屈めて警戒する。
現れたのは、女性だった。
30手前くらいの銀髪の超美女である。なんだかダポッとした服を着ているが、服の上からでもスタイルが良いのが分かる。どことなく、ハリウッド女優みたいな風格だ。
ただ気になるのは、その側頭部から生えている二本の角だった。
この星に来て、初めて出会った人間以外の知的生命体だ。
「ふむ。警戒するのも当然か。おぬし等の身に起きた事は、わしも把握しておる。元凶となったあの馬鹿は、わしが代わりにボコボコにしておいたので、安心してほしい。……まあ、後で一発くらいは殴らせてやってもいいが」
どうでもいいが、随分と古風なしゃべり方だ。
……そういえば、もうゴーグルが無いというのに、なんで俺は普通にこの人の言葉が理解できるのだろうか? 思えば、さっきの戦いにおいても、アルカが奪われた後だったというのにあのラザムの言葉が理解できていたような気がする。
まあ、今はそのことはいいか。
『ケイ。彼女の背後を見てください』
アルカに言われて、その女性の背後を見ると……
「!!」
文字通り顔をボコボコに腫らしたラザムが、ボロ雑巾のように横たわっていた。
意識はあるのか「よ、よぉ……」と軽く手を挙げている。
ともあれ、ラザムがこの場に居る以上は安心できない。
果たして、どう接するべきか……
『ケイ、彼女は信頼できる方だと私は判断します。何を隠そう、今の私にこの器を与えてくれたのは、彼女なのですから』
「えっ?」
器? 今のこのビー玉みたいな石の事か?
「ふむ。それは、水の魔晶。お前たちが既に持っている、魔石よりもランクがかなり上の代物だ。器が破壊され、精神のままふよふよと浮いていた彼女に対して、これを器にしてはどうかと推薦してみたのだ。状態はどうかね?」
『はい! 思っていた以上に快適です。何より、自分で動けるのが嬉しいです』
アルカは俺の手より離れ、その場で「はっ」「よっ」と掛け声を上げて動いてみせる。傍目からはビー玉が空に浮いて不規則に動いているようにしか見えないけどな。
『そして、何より! この魔晶と一体化する事で、私は魔力とは何なのか、魔法とはどういうものなのかを理解するに至りました!』
……待て。話についていけない。
俺は放っておいたら、そのまま話が進みそうなところへ入り込んだ。
「す、すいません。まず、最初から説明してもらっていいですか?」
「ふむ。最初から……とは、どこからになるのか?」
「そ、そうですね。では、まず貴方ってどちら様なんでしょうか?」
「おお。そういえばお主には名乗っていなかったな。
わしは、ファティマ。
ドラゴン族の神の座を務めておる。
竜神ファティマじゃ」
また予定通りにいかんかった。
ケイとアルカの会話が、かなりポンポンと浮かんだこともあってか、気が付いたら3000字オーバーでした。
とりあえず、しっかりした説明回は次話に回します。
しかし、会話パートはほぼ1時間で書けました。前話のバトルパートでかなり苦労したのが、嘘みたい。