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165話 再会その後




「えーと、あの……アルカさん……」

『なんですか?』

「そろそろ離れてみても良いのかと思うのですが……」


 劇的な再会から、一分……二分……五分程が経過。

 いい加減、こちらの頭も冷えてきて、今の状況というものがはっきりと認識できてきた。

 いくら艦長と管理AIの関係とは言え、見た目若い男女がベッドの上で抱き合っている構図というのは、流石にマズイと思うのです。

 何がマズイのかよく分からないけど、とにかくマズイと思うのです。もしこの場に誰か踏み込んできたとしたら、一体何と説明したらいいのか、想像しただけで頭が真っ白だ。

 だけどもアルカさんの答えは……


『ヤです』


 何故Noなのですか。

 やべぇな、だんだんと身体が熱く……それ以上に顔が熱い。このままだと俺が耐えられん。何に!?


「いや、離れましょう。っていうか、離れよう」

『そんな……ケイは私と会えて嬉しくないんですか……』

「いや、嬉しいですとも。嬉しいですけど……ってなんでお前に対して敬語なんじゃあ!」


 やや強引ではあるが、アルカの身体を引きはがす事に成功。当のアルカと言えば、口を膨らませてぶーたれている。

 ええい、こちらとしてはアルカ以外の仲間の安否も聞かなければならんのだ。


「とにかく、俺の質問に答え―――ってうおわっ!!」


 引きはがしたアルカの身体を正面から見ようとして、俺は咄嗟に首を90度回転させる。


「馬鹿ぁ! なんでお前裸なんだよ!」

『む……あぁ、そうでした』


 そうなのだ。今のアルカさんは、一糸纏わぬ姿……つまりは素っ裸なのだ。

 胸のラインがくっきりと見えた時は焦ったぞこのヤロウ。……ん? いや、ギリギリで視線逸らしたから見てないっすよ。くっきりと見えた? いや間違い。くっきりと見えそうになったから視線逸らしました。うん、そうなのです。

 ……そういや、背中に手を回していた時、服の感触とか感じなかったな。


 いやいや。

 所詮は水で出来た疑似的なボディ。そんなもんに何をドギマギしてんだ俺は。


『アイテムボックスが使えないので、服を取り出せないのでした。とりあえず、このシーツを借りましょう』


 ベッドの上にあったシーツをくるくると身体に巻き、とりあえず身体を隠す事に成功。

 ……成功はしてんだけど、逆になんかエロく感じる。くそぅ、今の俺の頭が変な煩悩に支配されてやがる。

 俺はパンパンと煩悩を振り払うように頬を叩くと、改めてアルカに向き直った。


「とにかく、アルドラゴの今の状況を教えてくれ!」



 ………

 ……

 …



 アルカの説明により、今の俺達の置かれている状況は理解出来た。

 大体3つのグループに分かれている感じなんだな。


 一つは、翼族の集落に居る俺とアルカ。

 一つは、翼族らしき者達に連行されたゲイルとヴィオ。

 そして、墜落したアルドラゴにルークとフェイ達と言った所か。


 やはり気になるのは、翼族に連れていかれたゲイルとヴィオの二人か……。


『いえ、一番心配されていたのは、ケイだと思われます』

「あ、すいません」

『それにしても、本当に無事で良かった』

「ご心配おかけしました」

『もういいですよ。それに、状況が状況でしたから、ケイ自身に落ち度は……いえ、ちょっとはありますね。そこは反省してください』

「深く反省しております」


 俺は深々と頭を下げる。

 まぁ、魔法もアイテムも何も使えない変な土地だ。そんな場所にちょっと前まで普通の高校生だった男がたった一人遭難中なんて事は、確かにハラハラする事案だろう。

 とは言え、あの状況でまともに動けるのは俺だけだったんだから、仕方あるまい。もしもう一度同じ状況になったとしたら、またやる自信はある。

 まぁ心配かけたのは事実だし、非常に申し訳ないって気持ちはあるから、そこは反省します。


「ゲイルとヴィオは翼族の男達に連れて行かれたんだったな」

『そうですね。翼族を視認するのはあれが初めてでしたが、恐らくは間違いないかと』


 アルカよりその者達の特徴を聞くが、俺の知る翼族と変わりはないようだ。


「んー……だったら、ここの村に連れて来られているって可能性は無いかな?」

『そう言えば聞くのが遅れていました。ここは何処なのですか?』

「翼族の村だって」

『はあ、やはりケイの方が先に接触していましたか……』

「なんか人形みたいな魔獣に女の子が襲われていて、それを助けたら―――ってなんなんだよその顔は」

『いえ、またいつもみたいに危険な状況なのに首を突っ込んだんですねって呆れているんです』

「しょうがねぇだろ。目の前で死にそうな目に遭っているのにほっとく事が出来る程、俺は人間辞めてないぞ」

『そもそも、今のケイは普通の人間並みの力なんですから、魔獣と戦うって選択肢を選ぶ時点で……って、この話は今は保留です。それで、まさか勝ったんですか?』

「うん、一応」

『え、マジですか? ど、どうやって……』

「一体は普通に策を弄して頑張って倒した。その後、数十体ほど現れたんだけど、なんか知らんけどハイ・アーマードスーツが使えるようになってたんで、それで倒した」

『はえ、ハイ・アーマードスーツがですか?』


 疑問に思う事も当然。

 あれが無ければあの場で確実に死んでいたと思うので、実にラッキーな出来事であった。

 なのだが、アルカは眉間に皺を寄せて何か考え込んでいた。


『実は私も、あのアルドラゴが墜落した際に、髪飾りの魔石が回復して、魔力を一時的に供給する事が出来ました。その原因も不明です』


 髪飾りって俺の指輪と同じアレだな。

 共通点があるような無いようなって感じだ。そもそも、俺の場合は最初から装備しているアイテムが魔力切れ起こしていなかったものな。

 その原因だって不明。


 俺達は、うーんと互いに首を傾げ合う。

 ともあれ、ここで議論していてもこの謎は解明出来ないっぽいぞ。


「ふにゃー」


 そこで、自分の事を忘れるなとばかりにクロっぽい猫が主張する。

 そうだった。何故にコイツがアルカの魔晶を飲み込んでいたのか、聞かねばなるまいて。それに、アルカならばコイツが何なのか分かるかもしれない。


「そう言えば、コイツは一体何なんだ?」

『そう言えば、この方は一体どなたなんです?』


 ……ハモった。


『ええと、ケイが知らないというのはどういう事なんでしょう』

「いやすまん。コイツとはこの島に落とされた時からの付き合いなんだが、何なのかはさっぱり分かってない」


 とりあえず、アルカにコイツと出会った経緯を説明。


『ケイの思い出の猫の姿をしている謎の生物……ですか……』

「悪い奴とは思えないんだがな」

「ふなー」


 当然だとばかりに返事をする。意思疎通が出来ているっぽいよな。……やっぱり。


『飲み込まれていた間の事は分かりませんが、どう考えても私をケイの元へ運んだ……という感じですよね』

「誰かの命令なのか、コイツ自身の意志なのかは分かんないけどな」


 コイツ自身は、自分の存在の謎が議論の対象になっている事を認識しているのかいないのか分からないが、我関せずといった感じにペロペロと自分の顔を洗っている。……明日は雨かな。空の上で雨があるのかという疑問はあるが。


「おい、お前は一体何なんだよ。いい加減説明してくれよ」


 ここまで来て、ただの猫でしたというオチはあるまい。

 そう言っていきなり喋ったとしたらかなりビビる結果になったと思ったが、期待とは裏腹にクロっぽい猫は何も語ってはくれませんでした。俺の質問なぞ知ったことかという感じで俺やアルカの膝にぐりぐりと顔を擦りつけている。くそぅ、腹立つけど可愛い。


『私としては、この方が何者であろうと途方に暮れていた私をケイに引き合わせてくれた恩人です。最大限の感謝を捧げます』


 アルカはベッドの上できちんと正座し直し、耳の裏を後ろ脚で掻いているクロっぽい猫に向けて深々と頭を下げた。綺麗なフォームである。


『ですが、何かしらの悪意があってケイに近づいたのだとしたら、容赦はしませんよ。覚悟しておいてくださいね!』


 格好よくビシッと指を突きつけるのだが、クロっぽい猫は突きつけた指先をクンクンと嗅ぎ、やがてスリスリと頬を擦りつけるのだった。

 猫らしく、こっちの話を聞かずに我が道を歩んでいらっしゃる。


 当のアルカも困惑した様子でこちらを見る。俺としては、懐かれているみたいだから良いんじゃね……という感じだ。


「とにかく、ゲイルとヴィオは翼族に連れていかれたって話だが、この村に居るのか?」

『ざ、残念ながら……ネコさんに飲み込まれている間は視界がシャットダウンされていましたので、ここが何処なのかも分かっていません』

「じゃあ、まずは情報収集だな。翼族の神官ってのと少し話したが、まだまだ詳しい事は聞けていない。少しはこっちの足でも何か―――」


 そう言ってベッドから降りようとした俺であるが、床に足を置いた途端に全身に激痛が走った。

 その時の顔の歪みを決してアルカは見逃すはずもなく……


『ケイ、ちょっと見せて下さい』

「や、止めろ! 服をめくるなスケベー!!」

『何がスケベですか! このあざは何なんです!!』


 スーツを脱がされて俺の身体が披露された訳であるが……自分が言うのもなんだけど酷い有様だった。

 身体の至る所、青痣だらけ。内出血も起こしているのか、所々赤や紫色になっていて実にカラフルである。


『いや、カラフルとかそういう問題じゃないですから』

「すいません」

『……普通だったら死ぬレベルの一撃を何度も受けていますね。スーツの防弾防刃機能のおかげで身体そのものに傷はありませんが……』


 まぁ、防弾チョッキを着ているからと言って、何発も銃弾くらって平気な訳が無いのですよね。傷がつかないだけで、ただのタコ殴りみたいなもんですから。普通だったらスーツのショックアブソーバー機能のおかげで衝撃そのものを緩和してくれるものだが、今はエネルギー切れでその機能が死んでいるからな。

 あの時は無我夢中でやっていたから痛みとか飛んでいたけど、実際はこんな酷い事になっていたか。筋肉痛だとか軽く考えていたが、そら痛い筈だ。


『そんな攻撃……一発でも頭に受けていたら、ケイは死んでいたんですよ』

「な、なるべく、頭には受けないように注意していたんだけど……」


 とは言ったものの、あの時そこまで注意して戦えていたかは定かでは無い。何せ、いっぱいっぱいだったものな。


 反省しろ! とか、怒鳴られるのかと身構えていたらば、一向にそんな言葉は飛んでこない。

 恐る恐るアルカの方を見ると、何故だかアルカは泣きそうな顔をしていた。


「ア、アルカさん……?」


 俺が恐る恐るお伺いを立てると、アルカはふるふると顔を振り、やがてキッとこちらを睨み付けた。

 やべぇ、やっぱり怒られるのか……と覚悟していたらば、アルカの白い指先が俺の右胸部分へとスッと伸ばされる。


 アルカは目を閉じ、何か精神を集中させている。その証拠に、鮮やかな青色の髪の色が水晶のように煌めいたのである。


 途端、俺の胸に暖かい光が灯り、それが身体全体へと伝わっていく。

 身体が熱い……ではなく、暖かい。このような暖かな癒しに包まれたのは、初めてだったかもしれない。

 そして、気づけば胸にあった痣は、綺麗さっぱり消え……てはいないな。それでも、見てわかるレベルに小さくなっていた。


 やがて、アルカはふぅ……と息を吐き、笑顔でこちらを見据える。


『属性の相性もあってルークの方が治療系魔法を上手く使えるのですが、私の魔法もきちんと発動出来たみたいですね』


 これが治療系魔法というやつか。

 そう言えば、今までスーツの力やアルドラゴに常備されている薬のおかげで俺自身がその恩恵を受けた事が無かったことに気付く。

 初めての回復魔法がアルカというのも、何か不思議な縁を感じるな。


 胸や足を軽く押し込み、痛みがさほどでは無い事を確認する。完全回復とまではいかないが、これで十分動ける力は戻った。


「すげぇなアルカ! これで安心して……ってえええ!?」


 感謝の意を伝えようとアルカを正面から見据えたのであるが、その顔を見て俺は驚愕の声を上げる。


 そこにあるのは、見慣れたアルカの顔ではない。

 いや、アルカの顔には違いないのだが、さっきまでのものと少し違っていたのだ。


 ベッドの上に正座しているアルカは俺と頭の位置がほぼ同じになっていた筈だった。だが、今は頭のつむじ部分が確認できる。姿勢は変えていないのにだ。

 また、目……鼻……口元も微妙な変化が起こっている。


 ええい! はっきり言うと、二……三歳ほど若くなっていたのである。

 何が起こった!?




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