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163話 再会

 今回、視点がころころ変わるので、<~サイド>と表記しています。



<ゲイル&ヴィオ・サイド>



「失礼、色々と尋ねたい事があるのでござるが……」

「ええ、構いません。何でもお聞きください」


 ひたすらに腰の低い様子で村長が答える。

 これまでの待遇が待遇だったため、この態度にはやや拍子抜けしてしまうが、話が早く済む事は良い事だ。

 とりあえず、基本的な事から始めるとしよう。


「貴方達は翼族つばさぞくという事でよろしいのでござろうか?」

「はい。私達は貴方達地上に住む者が翼族と呼んでいる者に違いありません」


 此処に来るまでの道中、それほど多くの翼族を見た訳では無いが、基本的な特徴は、


・身長が大体、人族ひとぞくにおける成人男性の半分程度。

・外見は一般的な人族に近いが、人よりも目がかなり大きい。

・背中にまるでプラスチックで作ったような半透明の翼が四枚あり、その翼の力なのか常にふわふわ浮いている。……羽ばたいて飛んでいる訳では無い。


 という感じだ。

 また、寿命がどのくらいなのかは不明だが、加齢による外見的変化が緩やかなのではないかという事が推測できる。


 まぁ種族に関する質問はそもそも重要な事では無い。

 次の質問へと移るとしよう。


「では何故、我々に助けを? そもそも、我々がどうやって此処に来たのか尋ねないのでござるか?」


 いくら少数種族とは言え、神話では大戦に参加したほどの種族。武器がある事から見ても、彼等にもそれなりの武力というものがある筈。

 どれほどの魔獣が相手なのかは不明だが、いきなり見ず知らずの我々に丸投げというのは、どうにも納得できないものがある。

 それに、これまでの情報を統合すると、この浮遊島を訪れる地上人なんてまず居ない筈。だとするならば、自分達の素性等確認するべき事がもっとたくさんあるのではないか?

 と思って尋ねてみたのであるが、村長は軽く首を傾げるだけであった。


「どうやって此処に……ううむ、改めて考えてみますれば確かに……。いえ、我々はただ、お告げの通りに行動しただけですから」

「お告げ? 何者かから、我々の事を聞いたのでござるか?」

「はい。神から……」

「ハッ、神ときたもんか」


 鼻で笑おうとしたヴィオであったが、そういやヴィオはその辺の話を知らなかったと思い出し、慌ててゲイルが説明する。


「説明が遅れて申し訳ないでござるヴィオ殿。この世界には、現実に神というものが存在しているのでござる。最も、拙者や主達の知識にある神とは違って超常的な存在では無く、ワンランク上ぐらいの存在でござるが」

「……なぁるほど。会った事はないが、そういうのも居るって事なんだな」


 ゲイルも竜王国で育った身である。神の存在は理解している。実際、竜神ファティマとも面識はあり、その力も認識していた。

 ヴィオも吸血鬼であるからして、その言葉の意味は理解出来た。つまり、全能とは程遠いがそれでも超常的な力を持つ存在……それが神なのだ。

 であるならば、未来の神託ぐらいあっても不思議はない。


「そのお告げとやらをお聞きしても?」


 村長は目を閉じ、スッと息を吸ってその言葉を紡いだ。


「神の獣が暴れし時、悪しき者ども魔獣の姿を借りてこの地に現れん。それを倒す者こそ、鋼の竜を駆りし伝説の騎士達なり……」


「鋼の竜……」

「伝説の騎士達……」


 思い当たるキーワードがいくつかあった。

 鋼の竜というのは、そのまま捉えるのならアルドラゴの事であろう。という事は、それを駆りし伝説の騎士というのは、乗組員である自分達の事なのか?

 伝説の……という単語がよく分からないが、まるであからさまに名指しされているかのようだ。




◆◆◆




<レイジ・サイド>



 翼族の神とやらの神託を聞き終えた俺に向けて、シェシェルと名乗った女性は最後に言葉を付け加える。


「オフェリル様が言うには、竜族の神様の助言との事です」


 その言葉で俺は完全に理解して、がっくりと項垂れた。

 どうりで、理解しやすいキーワードがいくつか並んでいると思ったぞ。

 竜族の神……当然、この世界に来て早急に出会った自称神……ファティマさんに違いない。

 ……あの人、俺達の事を都合の良い便利屋かなんかと思ってないか?


「違うからな。たまたまお前らの行き先がそこだったから、頼ればいいんじゃね……って言ったただけだからな」

「は?」

「そう言え……と言われました」

「あぁ、そうですか」


 くそぅ、見透かされてやがる。

 そこまでするなら自分で何とかしやがれ……と思ったものであるが、そういや神の立場の者達は、世界的な危機や種族の存亡に関わる事案じゃなければ手を出せないんだったと説明された事を思い出す。

 とは言え、一方的な指示で使われると言うのは気分が乗らないものがある。……というか、めんどくさい。


「とはいえ、悲観する事もないですよ。オフェリル様から、きちんと報酬の方は出るとの事ですから」

「報酬……どんな?」

「それは私には分かりません。でも、きっと必要なものだそうです」


 必要なもの……なんだそれは。

 本当に欲しい力は異世界に飛ぶ力なんだけど、流石にそれは無理だろう。っていうか、過度な期待はしちゃいかん。

 でも、翼族の神ならば、それなりのものは用意できるだろう。最低でも、すっからかんになった魔力を補充してくれればそれでいいや。

 めんどくさいけども。


「で、その伝説の魔獣ってのはどんなやつなの?」




◆◆◆




<ゲイル&ヴィオ・サイド>



「伝説の魔獣とやらは、あの蛇みたいな奴等でござろうか?」

「アタシの場合は、ゴリラとか猿みたいな奴等だったけどねぇ」


 もしくは、アルドラゴを襲ったあのフェニックスか……。

 あれと戦えと言われれば、今は無理としか言いようがない。

 アルドラゴが万全且つ、この魔力吸収する土地を離れなければまともに戦う事すら出来まい。


「いえ、そんなものではなく、人の形はしているようですが首が無い存在が複数、他に四本足の巨大なものもあります。そのどれもが、我々のように飛んでいる訳ではありません」


 流石翼族。常に飛んでいる事が当たり前だと言うのか。

 とは言え、今の特徴にあてはまる魔獣を自らのデータベースから参照してみる。


「今の所、思い当たる魔獣は無いでござるな」


 思い当たらないというよりは、絞り切れないと言った方が正しい。首の無いというのは、アンデッド系ならば山ほど存在するだろう。

 そしてもう一つは……


「四本足ねぇ、虫型の魔獣かな」


 虫……と言われて思い当たるのは、当然ながらこの国へと向かうきっかけとなった新種魔獣の調査である。

 色々あってそれどころではなかったが、あの新種の発生源はこの国だという可能性が高いのだ。その件も含めて、何か関連性というものがあるのかもしれない。


「それと……最も厄介な敵がおりまして……」

「まだいんのかい」

「まるで、鳥のような頭部と翼をもった人型の魔獣です」

「人間に鳥の頭と翼があるって事なのかね?」

「確かに、そんな魔獣は見た事も聞いた事もないでござるな……」


 だが、ゲイルの脳裏にはふとしたひっかかりがあった。

 鳥の頭部と翼……そのような姿の敵に会った事はある。だが、それは魔獣では無かった筈だ。

 ……いや、翼族の者達にとって、あの敵は魔獣と変わらない存在なのではないか?


「その魔獣、武器のような物は持っていなかったでござるか?」

「武器……ええ、そうでした! 何やら剣のようなものを持っていて、その剣が光を放ったかと思うと、離れた場所が斬れたり、爆発したりと大変厄介なのです」


 ……確率、7割と言った所か。

 それ以降もちょっとした質問をしたが、はっきりとした確証を得る事は無かった。


「ヴィオ殿」

「ああん?」


 ゲイルはちょいちょいとヴィオの袖を引っ張り、村長からは離れた場所で密談を行った。


「その魔獣、帝国の者達の可能性が高い」

「帝国? マジかい」

「他はともかく、その鳥の頭と翼の人型という魔獣に心当たりがあるのでござる」


 ゲイルの脳裏に浮かぶのは、自分の義父を殺した男……帝国の聖騎士ルクスの存在であった。




◆◆◆




<レイジ・サイド>



 聞きたい事はまだまだあったのだが、シェシェルと名乗った女性は俺の身体が万全でない事を見抜き、とりあえず休むように言って部屋から去って行った。


 ぶっちゃけて言って、身体のあちこちが痛い。

 スーツの力抜きで無茶な動きをした影響なのか、ハイ・アーマードスーツを使った後遺症なのかは不明だが、動くたびにピキピキと軽い痛みが走る。感覚的には酷い筋肉痛みたいなものだ。

 我慢できるレベルだからマシだが、こういう痛みに襲われるってのは随分と久しぶりだ。

 こうなると、アルドラゴ印の軟膏なんこうが恋しくなってくる。……転移初期の頃は、随分とあれに助けられたっけなぁ。


 とは言え、ただ休んでいるだけってのはどうにも落ち着かない。

 こちとら、丸二日間仲間達とはぐれて一人っきり状態なんじゃ。せめて何かしらの情報を得なければ、俺の方が安心出来ないっつうの。


「いだだだ……」


 全身に走る痛みを我慢して、なんとか立ち上がろうとしたのだが、そこへ……


「ふなー」


 と、背後にあった小さな窓より、聞き覚えのある声が届いた。

 慌ててその窓へと視線を向けると、真っ黒い顔がちょこんと覗いているではないか。そして、前脚でコンコンとガラスを叩いている。

 うわ懐かしい!

 これってクロが散歩から帰ってきたときによくやる仕草じゃねぇか。


「クロ……じゃなかったクロっぽい猫じゃないか! お前、なんでこんなところに……」

「ふにゃー」


 窓を開けて室内に入れてやると、クロっぽい猫は喉をゴロゴロと鳴らしてこちらにスリスリと顔を擦りつけている。

 くそぅ、クロに似ているというのもあるが、こういう猫の何気ない仕草がとてつもなく懐かしく、また愛らしくて仕方がない。

 何より、この土地に来て唯一の心を許せる知り合いみたいなもんだもんな。

 あぁ、ダメだ。弱っている身体と心にやたらと響く。……お兄さん泣いちゃうよ。


 そうしてしばし戯れていると、何やらクロっぽい猫がうっぷうっぷと嘔吐えずきだした。あ、これって記憶にある。毛玉でも吐くのかなと思って黙ってみていたら、ペッと何かビー玉のようなものを吐き出したのだった。


 ―――ん? なんか、この青色に光るビー玉って非常に見覚えがあんぞ。


 と、思っていたらそのビー玉が突然光を発しながらその場に浮かび上がったのだ。

 そして、光の中から水がドバッと溢れ出し、その水は収束して人の姿をかたどっていく。

 見覚えがあるのは当然。


 そのビー玉は、水の魔晶……つまり―――


『ケイッ!!』


 一瞬にして人の姿となったアルカは、出現した勢いのままに俺に抱きついてきたのだった。

 突然の事に俺は驚き、受け身も取れないままに背後のベッドへと倒れ込む。


「お、おいアルカ!?」


 なんでお前が此処に!?

 とりあえず引き離して事情を聴こうと思ったが、俺の身体にしがみ付く彼女の身体が小刻みに震えている事に気付く。


 何があったのか、聞きたい事は山ほどある。

 でも、俺はまずアルカを安心させるようにそっとその背へと手を回し、しばしの間その華奢な身体を抱きしめた。




 実際には、丸二日……リアルタイムにして、実に約半年ぶりの再会でありました。

 ……自分でも最後に会ったエピソードの日付を見てびっくりしましたよ。

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