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158話 「アーク」




 ゲイルは焦る気持ちを抑えながらも弓に矢を番え、いつもと同じように狙いをつけて矢を放つ。

 が、弓から発射される矢は、かつてのように光の矢でも空気を圧縮した矢でもない。

 ごく普通の武器屋で購入できる矢である。


 それでも、その普通の矢はいつもと同じように風を切って飛び、敵の最も柔らかい部位、もしくは急所へと命中し、そのまま絶命する結果となる。

 が、最高の結果になったというのにゲイルの顔は焦燥に歪み、晴れる事は無い。

 それもその筈……ゲイルの矢によって倒れた敵はこれでおよそ25体。だというのに、彼の周りを取り囲む魔獣はその3倍は優に超える程の数なのだ。


 ゲイルの持つ武器は、武装の研究用にと購入した何の特殊能力も無い普通の弓矢……普通の武器であれど、アルドラゴのアイテムが全く使えない今はこれしか頼る力は無い。それに、ゲイル本来の力があれば、十分な力となると思い持ち出したはいいが、残念な事に欠点があった。

 当たり前であるが、矢の数に限りがあるのだ。

 持参してきた矢の数は、30本。もうこれでほとんどの矢を使用してしまった事になる。だというのに、魔獣の数はその倍以上……当然足りる筈もない。

 普段はあまり武装の優位性について深く考えないゲイルであったが、ここに来て今までがどれだけ恵まれていたのかという事を自覚する。


「全く……先に行けとヴィオ殿に格好付けて行ったと言うのに……締まらないでござるな」


 額から流れる汗を拭い、ゲイルは自らを取り囲む魔獣達を睨み付けた。


 言い表すならば、蛇……に近い風体。

 だが、その姿はまるでプラスチックのパイプを組み合わせたような簡素なもの。まるで、急造で作られた蛇の玩具のようだ。

 とは言え、玩具のように見えてもその脅威は確かだ。蛇特有の噛みつきや巻き付いての締め付けによる攻撃で、執拗にこちらの隙を伺っている。

 何度か攻撃を受けたが、スーツの耐圧防刃機能が生きていなければ、致命傷を負っていただろう。

 しかし、ダメージを受けないからと言ってされるがままという訳にもいかない。無防備な頭を狙われれば即死だし、複数体に絡まれれば身動きがとれなくなってしまうのだ。


 この不可思議な敵に襲われたのは、アルドラゴより離れて半日は経過した頃であった。

 深夜に出発したので、既に時刻は昼間になろうとしていた頃、アルカ、ゲイル、ヴィオの三人は遠方に轟音と激しい光を確認したのだ。

 一瞬の光ではあったが、あの光の原因がアルドラゴ艦長レイジであるという可能性は十分考えられる。ゲイルはアルカとヴィオに顔を向け共に頷くと、その光の場所に向けて歩を早めた。

 その時である、この蛇に似た魔獣が出現したのは……


 この地には魔獣は出現しないのでは無かったのか!?

 そういう疑問はあったが、襲われた以上は対処するほかない。

 とは言え、先程の光が気になる。もしや、レイジが危険な状態にあるのでは!? そう思ってしまうと、気ばかりが焦る。

 だから、ゲイルがこの魔獣達を引き付けるから、その隙にあの光の場所へ向かうようにと提案した。


 本音を言えば自分こそレイジの元へと駆けつけたかったが、この場合は近づけばレイジの位置を感知出来るらしいヴィオが行った方が良いだろう。

 と、その時は思ったのだが……この状況ならば、意地を張らずに三人(厳密には二人)で切り抜ける……又は逃げ出す努力をするべきだったのかもしれない。


 そんな事を思っている間に手持ちの矢が尽きた。


 仕方ない……ここまでか。

 ゲイルは覚悟を決め、右手に握っていた弓をその場に落とした。




◆◆◆




 一方、ゲイルと分かれたヴィオとアルカであるが……


「うおらぁぁぁっ!!」


 振り下ろされたこんの一撃によって目の前の魔獣の頭部は陥没し、そのまま魔素となって散っていく。


「チッ!」


 勝利に酔いしれる事もせず、ヴィオは舌打ちして横に飛ぶ。すると、そこへ丸太の如き太い腕が振り下ろされ、ヴィオが去った後の大地にめり込む形となった。

 ヴィオと対峙するのは、まるでゴリラの如き体格を持った魔獣であった。不思議な事に、レイジが対峙したゲッコーやゲイルが戦っている蛇と同じく、まるでパイプをつなぎ合わせたかのような簡素な外見である。


 が、簡素な外見に反して耐久力が何気に高い。

 ヴィオが現在使用しているのは、アルドラゴの武器の一つである二本の棍だ。本来なら殴り合いの好きな彼女であるが、今は魔力節約の為に強化魔法を施していない。

 そのため、愛用の武器であるパワーアームは使えず、もう一つの愛用の武器である二本の棍……ブラッディランスを使用しているのだ。

 ……ん? 棍でランス? と、疑問に思うかもしれないが、その理由についてはおいおい説明するとしよう。


 ヴィオは猛攻を仕掛けてくるゴリラ型魔獣の攻撃を軽やかなフットワークで躱しつつ、その攻撃の隙間をかいくぐってブラッディランスをガシガシと打ちつけていく。

 特殊な機能は使えないと言っても、ブラッディランスはアルドラゴの武器の一つである。通常の鋼の棒よりは遥かに頑丈であり、その威力はヴィオの膂力りょりょくも相まってまるでハンマーでも殴りつけているかのような衝撃であった。

 事実、ゴリラ型魔獣の頭部や腹部は殴打の度に凹んでいき、やがて活動を維持出来なくなって消えていく。

 だと言うのに、当のヴィオの顔は晴れる事は無かった。


「くそっ! せっかく長耳のヤツが時間稼ぎしてるってのに、アタシが足止めくらってどうすんだ!!」


 そう、本来ならばこちらを襲って来た蛇型魔獣をゲイルが引き受け、その隙にヴィオとアルカの二人がレイジの元へ向かう算段であった。

 が、まるでそれを邪魔するかような段取りでこのゴリラ型魔獣が現れたのである。それも、ゲイルと別れてしばらく距離を置いた状況で、である。


 決して倒せないレベルの敵ではないが、それでも一撃で倒せるほどに脆い訳でもない。

 まして、こちらの疲労を見透かしたように一匹倒したら二匹……二匹倒したら三匹……といった感じに増えていくのである。

 これでは、ヴィオの体力が先に尽きる。


「こうなったらアルっち、アンタだけでも先に……」


 その言葉にヴィオの懐に仕舞われているアルカが口を開く。


『いえ、おそらく敵は私達がバラバラになるのを待っているのだと思われます。もし、私だけが先行したとしたらそれを待ち構えて新たな敵が出現するかと』

「なるほど、そういう事か……せこい手使うねぇ」


 ギリ……とヴィオが歯を噛みしめる。

 それに、この場からアルカが移動出来たとして、果たしてどの程度自力で動けるものか。ある程度魔力は回復したものの、戦う力は全く無い。

 恐らく魔獣に襲われれば、逃げる事もままならず破壊されてしまう筈だ。

 何の役にも立てない事に、アルカは心の底から悔しいと感じていた。


「ああもう仕方ねぇ!」


 ヴィオは覚悟を決め、その場で片膝をついた。




◆◆◆




『―――な!』

『―――そうですか、貴方もあちらサイドに居たと言う事ですね』


 アルドラゴ防衛のために艦に残っていたルークとフェイ、敵性反応のアラームが鳴った事によって二人は外へ飛び出した。

 そこで、意外な人物との再会が待っていた。


『お久しぶりです、ルーク様、フェイ様。今はこの呼称でよろしいのでしたね』


 現れたのは、まるで執事のような衣服を着込んだ美青年であった。


『本来ならばこの艦において、設計士アーキテクトを担当していたサポートAI……今は“アーク”と呼ばれています』


 そう言って、アークと名乗った青年は優雅に一礼する。


 そう、この青年こそ戦艦アルドラゴにおいての設計士アーキテクトのサポートAI……言わば、スミスやナイアと同じ立場の筈のAIであった。

 彼の存在を認識した事により、今までその存在が空白であった事に二人は気づく。かつて、アルカとルークの二人がフェイの事を忘れていたように、自分達の管理の外に置かれてしまったAIは、いくらアルドラゴの管理AIとは言え一時的に忘却してしまうのである。


『え、えっと……なんで人間みたいな姿に? それに、なんで此処に……』


 突然の事態にルークは当然混乱し、まず最初に思い付いた事を口にした。


『この姿に関してでしたら、ルーク様の方が詳しいかと……』


 すると、アークは自らの顔に手を添える。

 次の瞬間、ルークとフェイの二人は思わず目を見開いた。

 カチッという音がしたと思ったら、アークの顔の表面が外れ、頭部から切り離されたのだ。そして、顔が無くなった頭部はと言えば、そこには元々何もなかったかのように伽藍堂がらんどうである。

 それによって、ルークにはアークの身体がどういったものなのか理解出来た。

 あれは、人形のような物なのだ。自分達のように、魔晶を起点として魔法で作り上げられたものとは違う、もっと簡素な物……言ってしまえばプラモデルのようなものに近い。

 それにサポートAIには艦のメインコンピューターの傍より離れる権限が無い。それは、アルドラゴの管理から外れているアークも同様に違いない。つまり、アークの本体はそこにはなく、遠くから仮の肉体を操作しているという事なのだろう。


『それでアーキテクト……いえ、アークと言いましたね。ここにはどういう目的で現れたのですか? 私としては、艦に戻りに来たという言葉を聞きたいところなのですが』

『そうですね、本音を言えば私もそう言いたい所なのですが……残念ながら、そうではありません。此処に来たのは、主の命を果たす為……それにあらがえないという事は、フェイ様も理解しているでしょう』


 そう言いながら、アークは外していた顔を元の頭部に戻し、視線をフェイへと向ける。

 その言葉にフェイも顔を歪めて黙認した。


 フェイ自身、ついこの間まで敵サイドに居た身であるから、その言葉の意味は嫌と言う程理解出来る。

 コンピューターに繋がれたAIである以上、自分よりも上級権限を持つ者の命令は絶対だ。いくらその命令に拒否反応を覚えたとしても、自らの意思ではどうしようもないのだ。


『その主が何者なのか……言葉にしてよろしいでしょうか?』

『構いません。“エギル”……兄上の命という事なのでしょう。遂に、本格的にアルドラゴを奪取しにきたという事ですか?』

『いえ、そういう事でもありません。そうですね……言ってしまえばこれは……』


 言いながら、アークはサッと右手を軽く上げた。

 すると、ボコボコと土が隆起し、その土の中から現れたのは、シルエットで言えば人間であった。だがその実態は、まるでパイプを繋ぎ合わせたかのような外見の人形である。そんな存在が、続々と出現したのだ。


『私に命を下した者の言葉をそのまま表せば、ただの嫌がらせ……だそうです』


 能力の高い魔術師ならば、気づく事が出来ただろう。

 アークの五指から伸びる、目には見えない魔力の糸……それが空中で幾重にも枝分かれして、アルドラゴを取り囲むようにして出現している人形に繋がっていたのだ。


 これこそが設計士アーキテクトの能力……元々はアイテムの製造や改造において、必要な設計を担当する為のAIであった。その設計を元に、メカニックであるスミスが製作する……そういう役回りであった。

 だが、肉体と魔法技術を得た彼は、その能力を使って人形の身体の部品を設計し、ルークと同じく土魔法を利用してその部品を精製する。その部品を魔力糸で繋ぎあわせ、自立稼働型の人形……自動人形オートマトンを作り出す事が出来るのだ。

 最も、彼の担当は設計のみであるから、デザインされる人形は色も装飾も無いシンプルな骨組みだけだ。また、製造の能力も元々は無い身であるから、その構造自体もひどく脆い。


 それでも、こうして数を増やす事だけは容易らしい。

 レイジの前に現れたヤモリ型、ゲイルの前に立ち塞がっている蛇型、ヴィオ達の前に立ち塞がっているゴリラ型、更にアルドラゴを取り囲む人型……いくら脆いと言っても、全て合わせると500体は優に超える程の数をいとも簡単に作りだしてしまうのだ。

 現状、十分な戦力を保てないチーム・アルドラゴにとって、この上ない脅威であった。


 アルドラゴの内部とその周囲だけは、この土地の魔力を吸い上げるという特性から逃れる為のバリアを張っているが、それも僅かな範囲だけである。その範囲から一歩でも外に出れば、魔力によって稼働しているルークやフェイは、実体化を維持できなくなる。

 加えて、そのバリアを維持する為に艦の防衛機構は完全にストップしているから、今襲われればどうしようもない。


 ……その筈であった。本来であれば。


『仕方ありません、行きましょう……ルーク』

『うん!』


 ルークはユニフォームのジャケットを翻し、フェイは自らの耳に掛かっていた髪を掻き上げる。


 ジャケットの下にあったのは、黄色の宝石が埋め込まれた見事な装飾のバックル……フェイの耳元にあるのはまるで動物の牙の如き形にデザインされたイヤリングだ。

 ルークはバックルの宝石に手を添え、フェイは牙のイヤリングに埋め込まれた銀色の宝石を軽く指で弾く。




◆◆◆




 弓をその場に落としたゲイルは、ジャケットの裾に隠れていた腕輪ブレスレットを露出させる。続いて、その腕輪に埋め込まれている緑色の宝石に手を添えた。




◆◆◆




 片膝をついた形になったヴィオは、自らの右足にある足輪アンクレットへと手を伸ばす。続いて、その紫の宝石を軽く押した。

 

 そして、奇しくも四人は同時にあの音声ワードを入力したのだ。



『『「「変身アームド・オン!!」」』』




 次話、残りメンバーのハイ・アーマードスーツ登場です。

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