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151話 仲間として




『ふぬぬぬぬ!!』


 めいっぱい力のこもった声がアルドラゴのブリッジ内に響いていた。

 ガタガタとふねが軋む音にも負けず、この唸り声のような音は艦長たるレイジがブリッジを去った後から、ずっと続いていたのだ。

 やがて、発生源である青い髪の女性……アルカへ向けて、銀髪の少女……フェイより冷ややかな声が飛ぶ。


『……姉さん、いくらりきんだところで、魔力は回復しませんよ』

『分かっていますよ! ですが、火事場の馬鹿力的なものがどうにかして発動しないかと、今こうして頑張っているんじゃないですか』

『我々の場合、人間と違って筋肉があるわけでもないんですから、無意味だと思うのですが……』

『そんな事、やってみなくては分からないでしょう!』

『う! ま……まあ、姉さんの気が済むのなら……』


 アルカのAIらしからぬ気迫に気圧され、フェイは自分の意見をひっこめた。

 人間の精神論を騙ったところで、所詮自分達はAIなのだ。筋肉も無ければ、脳も神経も無い。だというのに、実にらしく無い事を言うものだとフェイは思った。


 すると、ガクンとばかりに艦体が大きく揺れ、これまでブリッジ内を襲っていた落下によるGが若干軽減される。何事かと視界だけで辺りを見渡していたクルー達であるが、フェイに代わって操舵を担当していたスミスから声が飛ぶ。


『どうも……あの坊主……いや艦長がジャンプブーツで艦体を支えているみたいだな』

『『『!!』』』


 それでようやく去り際のレイジの言葉の意味を理解する。

 が、同時にその無謀さも理解した。


 これだけ巨大な鑑を、ジャンプブーツ一組だけで支える等、どう考えても不可能だ。

 そもそも、あれは高く跳ぶ事が主目的として作られたアイテムである。確かに空気を放出させ続ける事で空中をホバリングする事は出来るが、だからと言ってこの艦を支えたまま飛び続けるなんてどう考えても不可能である。


『当然だが、それだけじゃ高度が維持出来ねぇ。落下のスピードが少し緩くなったぐらいだな!!』


 やはり……。

 そもそも、こうなる事はレイジ本人も理解出来ていたのではないか?

 それでも……無駄だとしてもやらざるを得なかった。この場でじっとしている事が、彼には出来なかったのだ。

 付き合いの長いアルカには、それが嫌という程理解出来た。

 尤も……それが、フェイの言う所のAIらしからぬ事だという事には気づかなかった。


『もひとつ悪い知らせだ! このままの高度だと、目の前の浮かぶ島の側面部分に激突しちまうなこれは!!』


 現状、目の前のメインモニターはエネルギー切れによって画面が真っ暗の状態である。が、AI組には艦体の高度、落下速度、そして落下の進入降下角度を即座に計算する力があり、その結果として何が起こるのかを理解した。


 今、アルドラゴの目の前にあるのは、空に浮かぶ島だ。

 当然、島というからには草木が生えている上面部だけではなく、それを支える大地……浮いているのでこの表現が正しいのかどうか疑問ではあるが、とにかく地面部が存在する。

 このままでは、その地面部に激突してしまうという事だ。

 距離的に言えばまだ数キロあるとは言え、ものの数分で大惨事となってしまうだろう。


『艦長が頑張っちゃいるが、進入角度が悪い! 艦首部分をもうちょっと上げないと、激突するのは確実だぞ!!』


 今現在、レイジが艦底部においてジャンプブーツを最大噴射して落下速度を少しでも遅くしようとしている。が、それだけではやはり足りない。

 せめて目の前の空に浮かぶ島へ不時着するには、進入角度を少しだけ上げなくてはならないのだ。

 だが、それを今のレイジに伝えた所で意味は無い。今少しでも力を緩めれば、アルドラゴは大地に向かって墜落してしまうのだ。


「ならば……拙者が向かうでござる!!」


 倒れ伏したままナイアの治療を受けていたゲイルが、そんな事を言いだした。


『ゲイルさん! そんな身体では不可能に決まっているでしょう!!』

「不可能は承知! それでも主は懸命に足掻あがいているのでござる!! それを助けないで、何がクルーか! 何が仲間か!!」


 渾身の力を込めてなんとか立ち上がろうと足掻くが、その四肢が彼の望むとおりに動く事は無かった。


「ナイア殿……どんな手段でもいい、拙者にほんの少しだけ身体を動かせる力が欲しい。その後で動けなくなっても構わん!」


 そんなゲイルの言葉に、立体映像姿のナイアは「ほぅ」と軽い溜息を吐いて、少しだけ困ったような笑顔を作る。


『……今、ナイアさんがゲイルさんに出来る事は一つしかありません』

「なんでござるか!?」

『えい』


 ナイアの本体であるボールより、何やらコードのようなものが飛び出した。そのコードの先には針のようなものが取り付けられており、まともに身動きのとれないゲイルの首筋へと突き刺さる。


「ナ、ナイア殿……何を……」


 注射針の中にあるのは、強力な麻酔薬である。なんとか抵抗しようとしたゲイルであるが、弱っていた身体は即座に意識を失い、彼を深い眠りへといざなった。


『ゲイルさんが今出来る事は、安静にして体内の魔力消費を少しでも抑える事……ですね』


 解剖や過度な実験が大好きというマッドドクターの一面があるナイアであるが、これでもきちんとした医者なのである。……一応は。

 その様子をAI組の三人は、やや複雑な気持ちで見守っていた。そして、彼の放った言葉が突き刺さる。

 命を賭けて足掻いているレイジ……そんな彼を助けないで、何が仲間か……。

 だが現実問題として、身体が動かないのだからどうしようもないのである。


 ……その筈なんだが……


『ところでさぁ、いい加減聞きたい事があるんだけど……』


 やがて、ルークより申し訳なさそうな声が飛んだ。


『なんで、リーダーの装備が魔力切れせずに動いたり、スミスのおっちゃんやナイア先生は自由に動ける訳?』


 その言葉に、アルカとフェイが『そう言えば……』と思い直す。

 緊迫していたので追及する余裕が無かったが、よくよく考えればアルドラゴの魔力エネルギーが切れかけているというのに、レイジのアイテムは何故普通に動くのだ?

 そして、スミスとナイアは何故自由に動ける?


『あぁ、ワシ達の問題なら簡単に説明できる。ワシ達はそもそも魔力エネルギーで動いとらんからな』

『『『はいい?』』』


 スミスの説明によるとこうだ。

 アルドラゴは現在、この世界で手に入れた本来のエネルギーとは異なるエネルギー……通称魔力エネルギーで稼働している。元々のエネルギーが残り少ないから、代用品として魔力エネルギーを利用しているという現状である。

 が、そもそも元々のエネルギーが底をついたという訳では無いのだ。

 それに、時間さえあれば地熱エネルギーと太陽光エネルギーによって少しずつではあるが補充も出来たりする。そのちょっとずつ溜めたエネルギーがあれば、サポートAIやロボットを動かす程度可能なのだ。

 また、工房のエネルギーならともかく、解明の出来ていない魔力エネルギーなんぞで動くのは御免だと言う勝手な理由によって、スミスは普段から魔力エネルギーで動いていなかった。そのおかげで、彼は魔力切れによるシャットダウンから免れたのであった。

 ちなみにナイアの場合は、ただ単に起動したのが最近だった為、内蔵のバッテリーを魔力エネルギー用と取り換えていなかっただけである。


『つ、つまり……動力エネルギーを切り替えれば、艦の動力は復活するという事ですか?』

『……多分、そうじゃねぇか?』


 これだけ騒いだというのに、今更そんな事実に気づくとは!!

 ともあれ希望の光が見えた。

 動力さえ復活できれば、墜落は免れるのだ。例え長時間飛ぶだけのエネルギーが残されていないとしても、ほんの数キロ飛ぶだけなら残りのエネルギーでも可能なはず。


 だが、それには問題がある。


『艦のシステムが軒並みシャットダウンしているんです。ネットワーク経由では、動力を切り替える事は出来ません』


 メインコンピューターはまだ稼働している。アルカやルークがこうして意識を保っていられるのがその証拠だ。

 本来であれば意識をメインコンピューターへと移動させれば、艦内ネットワークを通じて自在に移動できる。そして、艦の操作すらも自由自在なのだ。それが、アルカ達管理AIというもの。それだけの権限が、彼女達にはあるのである。


 だが、そのネットワークを利用しての移動が出来ないとなれば、後はこの四肢のある身体を使って、実際に動力室へと向かい、エネルギータンクを手動で切り替えなければならないのだ。


 そうしなければならないのだが……


『だから、身体が動かないんですー!!』


 まるで、呪いか何かのように身体だけが動かない。

 実体があるというのは楽しい反面不便な事もたくさんあるのだと思っていたが、こうして不自由な状況に陥ってしまった今、意識だけ存在する状態というのはなんとももどかしいものか。


 じゃあ、自由に動けるスミスとナイアが行けばいいじゃんと思うかもしれないが、彼等にはそう出来ない理由というものがある。

 スミスやナイア、サポートAIと呼ばれる者達は、移動できる範囲が制限されているのだ。

 予め決められた部屋にしか出入りできないし、艦の外へ出るなんて事は許されない行為だったりする。当然ながら動力室の出入りなんて許可されていないし、彼等だけでは動力の切り替えが出来ないという現状なのだ。

 尤も、艦長権限によって一時的に制限を解除する事も出来る。本来ならばスミスに操舵を任せるなんて事は出来ないのだが、これも先ほどの艦長権限によって可能となっている。

 ここにレイジが居れば、艦長権限を利用してナイアを動力室に向かわせるなんて事も出来たかもしれないが、彼が此処に居ない状況ではどうしようもない。


「……じゃあ、アタシが行くとしますか……」

『『『え?』』』


 そう言ってゆっくりと立ち上がったのは、今までゲイルと共に倒れ伏していたヴィオであった。

 彼女もゲイルと同様に体内に魔力が流れている身である。同じように魔力を奪われれば、動く事も出来ない筈だったのだが、実際にこうして立ち上がっている。


『ヴィオさん、なんで……???』

「あぁ言っとくけど、倒れたフリしていた訳じゃねぇからな。身体から魔力が奪われているってのはすぐに感じ取れたから、咄嗟に意識を消して体内の魔力が外に逃げないように身体を調整していた。今、それが完了したんでこうして起き上がったわけだ」


 アルカ達が使うような体外に放出する系の魔法は不得意とするヴィオであるが、体内の魔力を変化させて身体能力を強化させたりする事は得意としている。だが、魔力を吸い取るという予想外の攻撃を無効化させる事も出来るとは……。

 尤もその顔色は悪く、身体を支える足も少しだが震えているのが確認出来る。ダメージは相当大きいようだ。


「つー事で、アタシがその動力室って所に行く。おいそこのボール、案内しろ」

『ボールじゃありません。ナイアですよぉーだ』


 ころころと回転しながら、ナイアはヴィオを先導して動力室へと向かった。

 ただ、その足取りは決して軽くは無い。明らかに無理をして歩を進めている以上、動力室に辿り着くのも時間がかかりそうだ。


 だが、これで希望の光を繋ぐ事が出来た。

 後は、島の側面部分にアルドラゴが激突する前に、動力が復活すれば―――


『―――どう考えても間に合いませんね』


 アルカはかぶりを振った。

 ヴィオが復活した事でなんとかなるかもという淡い期待を抱いてしまったが、どうシュミレーションしたところで、アルドラゴが激突する予測は変えられそうもない。

 いくらヴィオの足でも、後数秒で動力室までたどり着けるとは思えない。じゃあヴィオにレイジのフォローを頼んで、アルドラゴの進入角度を変えてもらおうかという案もあるが、やはりそれも難しい。

 確認してみた所アイテムは全部魔力切れを起こしているようだし、ヴィオも残り少ない魔力でどこまで出来るのかという懸念もある。


 激突は免れないのであれば、アルドラゴの強度を信じて衝撃に備えるしかない。

 アルドラゴの装甲強度であれば、全壊はしなくとも激突の衝撃には耐えられるはず。

 ……計算上は耐えられるし、そう信じているのであるが、この艦の要でありアルカ達AIの本体でもあるメインコンピューターにどんな影響が出るかは分からない。

 メインコンピューターが壊れたとしたら、自分達はどうなってしまうのだろう。そう考えた事は一度や二度ではない。特に、こうして実体を持てるようになってからは顕著けんちょである。

 もし壊れたとして、この世界の技術では修復するのはまず不可能だろう。万が一修復できたとしても、再起動によってデータが初期化されるという恐れがある。

 そうなったら、今ここに居る自分はどうなってしまうのか……。人間で言うところの記憶喪失とも違う、記憶そのものが何もないのだから、それは全く違う存在と言えよう。

 ならば、それは……死と言えるのか。


『嫌ですね』

『姉さん?』


 思わず口に出ていた為、フェイが訝しげに尋ねてくる。

 フェイは、今現在はこの艦のメインコンピューターからは外れた存在となっているので、今の身体がどうにかならない限り消える事は無い。

 だが、自分とルークは……。


 こうして差し迫った問題となって考えるとなると、心底嫌だ。

 今ここに居る自分が消えてしまう事を想像すると、嫌で嫌で仕方がない。

 かつてルークが言ったように、まだ自分はあの頼りないあるじと共に旅がしたいのだ。もっと彼の傍に立っていたい。もっと笑い合っていたい。ルーベリーのあの夜の時のように、もっと触れ合っていたいのだ。

 だから、その為に―――


『―――もっと私に力を!!』


 思わずそう口にした時だった。


 アルカの胸の部分に淡い光が浮かび、身体全体に熱が宿る。

 その熱を感じた途端、アルカは自分の四肢の感覚を取り戻した。


『―――え?』


 きょとんとしながらもアルカは自分の指が動く事を確認する。一体何が起こったのか?


『姉さん、その胸の光は?』


 フェイが驚いたような顔付きでこちらを見ている。

 その視線……自身の胸元に目を向けると、確かにユニフォームの内側部分から淡い光が発せられていた。

 確か、ここにあったのは……


『これは……』


 ユニフォームの内ポケットに仕舞われていたのは、青い宝石が埋め込まれた小さな髪飾りだ。

 これは、ゲイルが仲間となる前の事……エメルディア王国での大事件が起こる直前に仲間内で購入した魔石を利用したアクセサリである。

 確かにこのアクセサリには魔石が組み込まれており、魔石には魔力が残っている。

 だが、それがなぜ今更? 身に着けた装備の魔力も奪われている事から、この魔石の魔力も当然無くなっていると思っていたのに……。


 いや、今はそんな事を考えている暇は無い。

 一時的にとは言え、アルカの身体に魔力が戻ったのだ。だとしたら、するべき事は一つである。


『フェイ、ルーク……後を頼みます』

『姉さん!』

『アル姉ちゃん!!』


『ゲート!!』


 空間転移の魔法で次元に小さな穴を開ける。次に自分の身体を水に変化させ、その穴を潜り抜ける。

 潜り抜けた先は、アルドラゴの艦首部分。デザイン上は竜の頭部を模した部位の場所だ。

 その竜頭部分にしがみ付きながら、アルカは目前に迫る天空に浮かぶ島を睨み付けた。


 このままの進入角度では、島に辿り着けずに島の岩壁部分へと激突してしまう。

 それを避けるためには、このアルドラゴの頭部を少しだけ持ち上げて進入角度をずらさなければならないのだ。

 ならば、今ここで自分が出来る事は何か……。残念ながら、時間が無くてアイテムの類は持ってこられなかった。あったとしても、魔力切れで使えまい。

 だとするならば、世間では青の魔女と呼ばれている自分……その魔法で何とかするしかないだろう。


 戻った魔力はそれほど大きくは無い。だが、体内に宿る魔晶エネルギーを最大限に引き出し、これに対応する。

 これほどの大規模な魔法は初めてであり、恐らくは一度が限界だろう。それに、放った後に自分がどうなるかは予測がつかない。

 だが、アルドラゴが無事ならば構わない。メインコンピューターさえ無事ならば、また戻って来る事が出来る……筈なのだから。


『さぁ、行くぞ!!』


 アルカはパンッと頬を叩いて気合を入れる。

 まず艦首の下部分に潜り込み、背中と足をスライム化させて身体を固定する。続いて両手を前方に突出し、その先に残った魔力を全部注ぎ込む。魔力の渦が奔流となり、アルカの体内に眠る水の魔晶と直結した。

 その魔法を放つ!!


『アクア―――ゲイザー!!!』


 アルカの胸より一直線に発射された大量の水は、そのまま島の側面部へと命中。この魔法のイメージは水鉄砲ではあるが、無論その程度の威力である筈が無い。

 巨大な津波が木々を薙ぎ倒し大地を更地にするように、水の力は炎や雷に負けない力を持っている。実際、間欠泉の如き勢いで発射された大量の水は島の側面部の岩壁を抉っていく様子が確認できた。

 その水の勢いで激突の際の衝撃を緩和させようというのではない。発射した水の勢いを利用して、僅かなりともアルドラゴの進入角度を上げようというのがアルカの狙いである。

 尤も、その水の放出による衝撃は全てアルカへと襲い掛かっていた。いくら身体が水で構成されていたとしても、全ての衝撃を受け流せるわけでは無い。それに、彼女の背にはアルドラゴがある。接地している背部分を硬質化させ、この水の放つ際の衝撃をアルドラゴ本体にも伝えねばならないのだ。


 だが、ほぼ墜落と言っていい勢いで突き進むアルドラゴの巨体を、水の放出だけで進路を変えようと言うのは、やはり無謀であった。

 アルカが仮の本体としている魔晶には、約2億トンもの水のエネルギーが蓄えられている。そのエネルギーを水として放出し、先程回復した魔力を利用して勢いを維持しているのだ。

 が、やはりこれだけの放出を維持し続けるというのは難しい。少しでも気を抜けば水は制御を失って放散してしまう。

 それに、肉体を維持する魔力も残り少なくなってきた。


『ぐうぅ……後……少し!!』


 実際、少しずつではあるがアルドラゴの進入角度は上がって行っているのだ。

 少し……あと少し……


『うううう……!!!』


 目前に迫る島の外壁部。


『はあぁぁぁぁっ!!!』


 それがコンマ1度ずつ……徐々にではあるが、上がっていく。


『はあぁぁぁーーーーっ!!!』


 最後の絶叫と共に、アルドラゴの巨体は遂に僅かに浮かび上がる。

 艦低部分が岩山を擦り砕きつつも、その艦体は空に浮かぶ大地の上へと辿り着いたのだ。


 そして、その直後……アルドラゴに光が戻った。

 ヴィオが動力を切り替える事に成功したのだ。後は艦体を制動させて落下のスピードを殺し、そのまま着陸すればいいだけ。


 あぁ……良かった。

 自分の役目は終わった。


 緊張の糸が切れ、アルカの身体はバシャンと水となって弾けてしまう。

 そのまま魔晶となって大地へと落下する―――


 ―――筈であったが、


「アルカァァァァッ!!」


 レイジが文字通り飛んできて、大地へと落下する筈だった魔晶を空中で受け止める。


 また、それとアルドラゴの外部ハッチが開き、ヴィオがこちらへ顔を向けたのは同時であった。

 レイジはそのヴィオへ向けて手にしていたアルカの魔晶を投げつける。

 咄嗟にそれを受け止めたヴィオ。

 思わずその手をレイジに向けて伸ばすが、いかんせん距離があり過ぎる。もし、彼女が本調子であったのなら、その手を掴む事も可能であったかもしれない。

 だが、今はそれが叶わない。


「レージ!!」


 ジャンプブーツの推力がプスンと切れ、レイジの身体はそのまま島の大地に向かって落ちて行った。

 

『ケイ!!!』


 途切れそうになる意識を繋ぎ留め、アルカは落下していくレイジ……いやケイの姿を見ている事しか出来なかった。




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