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150話 アルドラゴ・ダウン




「おおお……」


 俺は思わず感嘆の息を漏らしていた。

 フェニックスである。

 ドラゴンに並ぶファンタジー定番の伝説生物なのだ。

 まるで炎のように猛々しくも美しい羽……翼……シルエット……

 会えるならば是非とも会いたいと思っていたが、よもやこんな場所で遭遇するとは……


『ケイ、回避を!』

「―――え?」


 しばしの間フェニックスの勇姿に見惚れていたが、アルカの言葉に我に返る。気が付けば、フェニックスはこちらに向かって突進してくるではないか!


「フェイ、回避だ!!」

『!!』


 アルドラゴが艦体を斜めに傾け、フェニックスの突進をスレスレで回避する。

 なんとか指示が間に合ったが、もう少し接近を許せばフェイは自分の判断で舵を切っただろう。

 フェニックスの突進を危なげなく躱したアルドラゴは、そのまま大きく旋回して敵との距離を取る。


 それにしても……なんで!?

 フェニックスって言ったら大抵の作品での扱いは善玉でしょう? なんでそれがこっちに攻撃を仕掛けてくる訳? それとも、実は俺達が悪役だったとか―――


『ケイ、いつまで勘違いしてんですか。アレは確かに不死鳥に似た外見をしていますが、ケイの世界に伝わっている不死鳥ではありません』

「! そうだった!!」


 アルカに言われてようやく思い出した。

 この世界の魔獣は俺達の世界に伝わっている伝説の生物によく似た外見にしか過ぎなかったんだった。

 つまり、外見こそフェニックスであれど、中身はただのでかい魔獣に過ぎないのだ。


 俺はバンッと頬を叩いて気合を入れなおすと、改めて敵を見据えた。

 ファイヤーバードとか適当な名前を付けようかと思ったが、面倒だからフェニックスでいいや。


「アルドラゴ戦闘態勢! 目標、目の前の炎の鳥……フェニックスだ!!」


 戦闘座席に座る3人が、それぞれ「了解」と返事をし、それぞれ座席に取り付けられているサブモニターへと向き直った。


「敵は炎を纏っている為、熱系の武装が通じない恐れがある。よって、ここはC型兵装を使用する」


 アルドラゴの武装と言えば、サンドウォーム戦において使用した、サンダーボルトブラスト等の熱系武装が主である。

 が、ファンタジーの世界であるならば、目の前のフェニックスのように身体が炎で包まれていたり、炎や熱に耐性のある敵だって存在する。

 そんな敵を想定し、きちんと熱兵器以外の武装だってアルドラゴには組み込まれているのである。


「“フリーズブラスト”……撃てぇッ!!」


 俺の号令と共に、アルドラゴの両翼に備え付けられている砲口から冷凍弾が発射され―――


 ………

 ……

 …


 ―――されない。


「………」

「『………』」


 俺の号令はきちんと届いた筈だが、アルドラゴの両翼に備え付けられている砲口からは、何も発射される事は無かったのだった。


「ゲ、ゲイル……どうした?」


 勢いよく言った手前、むっちゃくちゃ恥ずかしいのですが。

 そうして恐る恐るゲイルに尋ねてみたのだが、当のゲイルは顔を引きつらせてこちらに向き直ったのだった。


「す、すまんでござる。発射ボタンをいくら押しても、何の反応も無いのでござるが……」

「は?」


 俺は思わずアルカの方を向く。

 すると、同じくアルカも顔を引きつらせて手元のコンソールをカチャカチャといじっている。


『た、確かに……武器システムとブリッジのシステムが繋がらなくなっています。本来ならばこんな事は有りえないのですが……』

「有りえないって……現に起こっているだろう」

『は、はい。こうなったら、メインコンピューターの様子を直接確認に―――!!』


 立ち上がろうとしたアルカであるが、僅かに身体を浮かした所でそのままバタリと身体の力が抜けたかのように倒れてしまった。

 俺は咄嗟に艦長席から離れ、アルカの身体を抱き起こす。

 

「お、おいアルカ、どうした!?」

『え……え……足の力が急に……どうしたのでしょう』


 どうやら意識ははっきりしている様子。それは良かったが、足だけでなく手すらも満足に動けない事が判明した。

 なんだなんだ? 武器が使えなくなったと思ったら、今度はアルカが動けなくなっただと? 一体何が起こっているってんだ。

 指示も出せないままに混乱していると、次なる問題が振りかかってきた。ルークが『た、大変だぁー』と悲鳴のような声を出したのだ。


「今度は何だ!?」

『武器システムが全部シャットダウンしちゃったよぉ。これじゃ丸裸も同然だよ!!』

「はぁ!?」


 やべーやべー!

 突然の事態に頭が全く追い付かん!

 武装は突然使えなくなり、アルカは倒れ、今度は武器システムそのものがシャットダウンだとぅ。

 いったいぜんたい、何が起こっているんですか!?


艦長マスター……諸々の理由が判明しました』

「は……お、おうっ!!」

『原因は不明ですが、艦内の魔力エネルギーがどんどん低下していっています。このままでは、後2分以内にアルドラゴは墜落します』

「つ、墜落って……はぁぁっ!!?」


 フェイの言葉に俺は思わず絶叫していた。

 ちょい待ちちょい待ち!!

 魔力エネルギーが空?

 後2分で墜落?


 あまりに突然すぎる事態に、俺の頭は混乱していて完全に真っ白だ。


「……むぅ、という事は拙者の身体に力が入らぬというのも、体調不良という訳ではないと言う事でござるか……」


 ふとゲイルからそんな声が聞こえてきた。

 そして、そのままバタリという音と共にゲイルの身体が座席から崩れ落ちる。それと同時に隣の座席のヴィオも同じように倒れたではないか。


『うわー意識はしっかりしているのに、身体が全く動かせない……。こんなの初めてだなぁ』

『申し訳ありません艦長、肉体を固定してなんとか高度を維持しようとしていますが、私も身体が動きません』


 ルークとフェイが悲しげな声を絞り出す。


 ……え?

 まずアルカがダウン。続いてゲイルとヴィオの生身組がダウン。そして、実はルークとフェイの二人も身体が動かないと言うではないか。

 ひょっとして、このブリッジでまともに身体が動くのって……俺だけ?


 なんでなんで?

 俺ってば、凄いアイテムは持ってますが、この中では何の特殊能力も持たない完全にノーマルな人間なんすよ?


 ん……ちょい待ち。

 この5人にあって俺には無いもの……それは、つまり……


「……魔力の有無か」


 アルドラゴの燃料の急激な枯渇、アルカ達の行動不能……つまりは、アルドラゴの内部にある魔力エネルギーが奪われているのだ。

 それがあのフェニックスの仕業なのかは現時点では分からない。だが、このままではアルドラゴが墜落すると言うのは確定事項だ。


 だったらどうすればいい?

 俺が代わりにアルドラゴを操縦するか?


「ど、どうするってんだフェイ、俺が操舵を代わってどうにかなる問題か?」

『……無理です。このままではそもそも目の前の島まで辿り着けません。その前にエネルギーが尽きて、大地へと落下してしまいます』


 じゃあどうすりゃいいんだよ。

 現在の高度は約2万メートル……。いくらアルドラゴとは言え、この高さから地上に墜落したら無事じゃ済むまい。ならば、なんとしてでも目の前の島まで辿り着かないと……。


『おいおい、いきなり工房のエネルギーが消えたぞ! 一体、何が起きたってんだ!!』

『んもう、何なんですかぁ! 急に医務室のエネルギーが消えちゃったおかげで、解剖のシミュレーションが途中で終わっちゃったんですけど!』


 いきなりブリッジ内に元気な声が飛び込んできた。

 振り返ると、ブリッジと通路を繋ぐ扉より、円柱とボールが飛び込んでくるではないか。

 うちのサポートAIであるスミスとナイアである。


『―――って、うおお! 何が起こったぁ!?』

『あらあら、皆倒れているじゃないの。えーと、全員医務室に連れ込んだ方がいいのかしら?』


 なんでこの二人は元気なの? とか、色々と言いたい事はあるが、今はそれどころではない。

 俺は抱きかかえていたアルカの身体を床にそっと置くと、気合を入れる為に両頬をもう一度パンッと叩いた。


「おやっさんは、フェイのフォローを頼む。ナイアはゲイルとヴィオの二人を頼む」

『お、おいおい! また俺に操舵やれってのか? 元々俺にはブリッジ内の機器を操作する権限は無いんだっての』

「だったら艦長権限で命令する! とにかく、今は頼む!!」

『お、おう……』


 俺の勢いに気圧されたのか、スミスはなんとか頷いてくれた。俺はその返事だけを聞くと、急ぎブリッジを出ようとする。

 が、ふとその背に、アルカのか細い声が投げかけられた。


『ケ、ケイ……何をするつもりですか?』


 アルカの問いに、これから自分がする事を改めて思い起こしてみた。

 ……深く考えなくとも、実に馬鹿げた行為である事は自明である。


「……このままじゃ落ちるってんなら、俺が持ち上げて支えるしかねぇだろ」

『え? それは一体……』

「とにかく! 高度の方は俺が何とかするから、何としてでも島に辿り着け!!」


 そのまま俺はブリッジを飛び出し、艦の外へと通じる非常用扉に手を掛ける。自動扉等の通電によって機能する扉を今使う事は出来ないが、手動で動かすタイプの扉というのも存在する。

 その扉を抜けて外に出ると、凄まじい風と青と白の色彩によって描かれる空が俺を待っていた。

 このまま落ちたら、死ぬ……。

 そんな恐怖が俺を襲うが、このまま何もしなかったらそれこそ死ぬ。しかも俺だけじゃなく、こんな俺を信じて来てくれた仲間達の命も巻き添えだ。

 だったら、俺がやらなきゃ!


「うおおおっ!!」


 俺は雄叫びを上げて空に向かって飛び出した。

 無論、このまま落ちる気はさらさらない。

 既に装備しているジャンプブーツを発動させ、俺は飛ぶ。

 理由は分からないが、俺が既に装備しているアイテムの数々は魔力切れせずに問題なく使用できる事は確認済みだ。

 そのまま艦底部へと辿り着くと、その外面装甲に手を置いた。


 これは、かつてやった事のいわば応用だ。

 この世界に来て当初の事……初めてアルドラゴと共にカオスドラゴンと戦った時の事だ。艦のエネルギーが少なく、思うようなスピードが出せず、高度も保てなかった時の事……俺は装備していたアイテムの力を使って切り抜けた事がある。


「ゼロ!!」


 手に装備しているのは、物体を引き寄せたり弾いたり出来る力を持つ“グラビティグローブ”。それの機能の一つに、手に掴んだものの重さを完全に無くすというものがある。

 さすがにこれほどの巨体ともなると完全に重さを無くすことは不可能ではあるが、ある程度軽くする事は出来る。

 そして、その僅かに軽くなったアルドラゴの巨体を支えながら、俺はジャンプブーツのエネルギーを最大に開放した。


「うぐぉっ!!」


 最大出力にしたジャンプブーツの空気噴射によって、俺の身体は頭上のアルドラゴの艦体に押し潰されそうになった。

 それでもなんとかスーツの主力を全開にして身体を水平に保つ事に成功する。これで、墜落しかけているアルドラゴの艦体を、俺が支える事で高度を維持している……形にはなった。

 だが、ジャンプブーツの噴射を維持しながらアルドラゴを支えるというのは、予想していたよりもずっと厳しい。

 グラビティグローブで重さは軽減しているものの、そもそもスーツの出力のみでアルドラゴを支えようなどという考え自体が、バカバカしいものなのだ。

 でも、後2分という状況で、咄嗟に思い付いた事がこれしかなかったんだから、仕方がないじゃないのさ。


 実際、このアルドラゴ……とんでもなく重い。それに、確認するまでもなく、徐々に高度が落ちて行っているというのは体感でよく分かっている。


 マジでヤバいな。

 せめてもう一人ぐらい居ないと、マジでこのまま墜落するぞ!!




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