13話 オーバーテクノロジーVS魔法
サブタイトルちょっと変更しました。
『ケイ!!』
「!!」
ラザムがこちらへ杖のような物を向ける。
咄嗟に俺は左手を突出し、シールドを生成した。
杖の先から、炎が放出されたのが分かる。ファイヤーブラストと同程度の火力……これが魔法か……等と感心している余裕なんてなかった。
一枚隔てた壁の向こうには、魔法で作られたとはいえ、現実の炎が迫っているのだ。
頭が真っ白になり、足がガタガタと震え出す。
「ほう……俺の炎を防ぐか。なら、これはどうかな?」
ラザムはその場から飛び出し、まるで弾丸の如き勢いで俺の腹部目掛けて蹴りを放った。
シールドは既に消えていた為、防御する事は叶わなかった。
ぐふっ! という息を吐き出し、俺の身体は後方へと吹き飛ぶ。
『ケイ! しっかりしてください。ダメージは無い筈です!』
ああ、その通り。
スーツの耐衝撃機能のおかげで、少しも痛みは感じない。
が、それとこれとは別だ。
初めて、殴られた。
正確には蹴りなんだが、そんな事は問題では無い。
明確な意思をもって攻撃を受けた。
俺だって、友達同士での喧嘩くらいは経験がある。だが、本格的な殴り合いなんてやった事など無い。子供の頃は取っ組み合いぐらいやったが、そんなものとはレベルが違う。
これは、ゴブリンに襲われた時とはまた別の恐怖だった。
『貴方がラザムですか? 何故、いきなりこんな事をするんです!?』
全く動けずにいる俺に代わり、アルカが俺の声で言葉をぶつけた。
が、ラザムはと言うと「ほう?」と感心したような声を出して、俺では無く、俺の額部分を見つめた。
「それは小僧の言葉じゃないな。さては、アンタが噂の精霊さんか?」
『!!』
アルカの存在を見抜かれた!?
精霊というのは分からないが、村の誰もが気付かなかったアルカの存在を知られたというのは、俺に圧倒的な恐怖を与えた。
『精霊というのはどういう事ですか? 貴方は、私の事を誰から聞いたというのですか?』
「………」
ラザムは、しばし何事か思案していたようだが、やがて口を開いた。
「sdg;l:※wgllk8ad§◆qg@okg……sghd@f※?」
『……お断りします。私の主はケイだけです。彼を裏切る真似は、絶対にしません』
「……そうかい。そりゃ残念」
最初のラザムの言葉だけ、聞き取る事が出来なかった。
アルカが翻訳しなかったのだ。
「アルカ……一体、どういう……」
『今は言えません。でも、これだけは信じて。私は、絶対にケイを裏切りません。ケイの事は、私が守って見せます』
思わず胸が震えた。
そうだ。
怖いものは怖い。それは仕方ない。
だが、俺は一人じゃない。
思わず、額のゴーグルに触れる。
肌のぬくもりを感じる事は出来ないが、此処にアルカは存在している。
今の俺は、一人じゃ何もできないヘタレでチキンなガキだ。
でも、アルカが居れば、なんとかなる!
「おあああっ!!」
大声を上げて気合を入れる。
やるぞ! やるぞ! やってやる!!
まだ、身体が僅かに震えているが、頭はまともに動くようになった。
相手が人間だろうが魔法使いだろうが、こちとら全身がハイテク兵器の塊だ。まともに考えて、傷の一つも負う筈が無いんだよ。……と言い聞かせる。
トリプルブラストを取り出し、それをラザムへと向けながら俺はゆっくりと立ち上がった。
『ケイ、戦えますか?』
「怖いけど……やるよ」
相手が完全に敵意をもっている以上、戦わねばならない。理由はさっぱりわからないが、のんびりとしてもいられない。
チラリと、カリムが閉じ込められている岩壁を見る。
殺す目的では無いとは思うのだが、果たして呼吸は出来るのか、どのくらい持つのかは分からない。ならば、今の自分が出来る全力で相手して、早急に救出せねばならない。
「ほう……目に力が戻ったな。その精霊が、お前の心の拠り所といった所か……。ふん、面白い」
ラザムの瞳に、再び鋭い光が宿る。
蛇に睨まれた蛙の如く、思わず萎縮してしまう眼光。
これが、世にいう威圧というヤツか。
だが、今の俺には通じないぞ。……怖いけど。
今の俺には、遠い宇宙から来た超科学アイテムの数々と、頼りになる相棒が付いているのだ。
魔術師がなんぼのもんじゃ!
『はい。行きましょうケイ!』
「おおっ!」
まずは、トリプルブラストをサンダーブラストにセット。
雷属性のこの弾丸は、対人戦において最も効果を発揮する。
俺は引き金を引き、バリッバリッという音と共に雷撃がラザムに向けて放たれた。
が、ラザムは特に逃げようともせず、黙ったまま雷撃を受けた。
……受けたのだが、特に倒れる様子もなく、立ったまま雷撃を受けた胸元辺りをパンパンと叩いている。
「それがお前たちの世界の魔法か……。なるほど、魔術知識の無い者でも魔法を扱う事が出来る……いわば魔道具か」
いや、なんでなんともないんすか。
まさか、この人も内臓が無いとかそんなんじゃないよね?
『恐らく、あの服ですね。ある程度の雷撃は無効化してしまうのでしょう。下手をすれば、炎も効きません』
「マジか。遠距離が駄目となると……残りは剣だけど、正直自信無いぞ」
付け焼刃の剣技が、戦いを本業としてきた者に通じる筈もない。魔術師って後方支援が主な役割であり、近接戦闘は得意じゃないというイメージがあるのだが、あの男はとても後方支援には見えない。それは、俺の体を蹴りの一発で吹き飛ばした所からも理解できる。
高周波カッターも、当たればダメージはでかいが、その当てるまでが大変だ。……多分、それまでに負ける。
『ウインドブラストを!』
「ああ!」
銃口を回転させ、ウインドブラストをセット。
引き金を引くと、またしてもラザムは避けようとしなかった。が――――――
「うおっ!!」
着弾の衝撃で、今度はラザムの身体が後方へと吹き飛ぶ。
効いた!
ウインドブラストは、空気を弾丸の形に圧縮して撃ち出すものだ。人体を貫通する程に圧縮していないが、プロ野球選手の剛速球を受けたと同様の衝撃がある筈だ。
「チッ! まさか雷属性以外も出せるなんて思ってなかったぜ。しかもなんだ今のは!?」
風の弾丸が命中した腹部をさすりながら、ラザムは立ち上がる。
どうやらウインドブラストの仕組みは理解できてないようだ。それと、さすがに奴の服でも空気そのものは無効化出来まい。
となれば、やる事は一つだ!
「おおおおおっ!!」
ウインドブラストの出力を上げ、撃ちまくる。
弾の一発一発がでかくなり、破壊力も増したわけだが、その分反動がでかい。
が、スーツによるパワーアップのおかげで、なんとか振り回されずに済んでいる。
無論、一度攻撃を受けた身であるラザムも、そう簡単に当たってはくれない。
素早い動きで風の弾を避け、その被害は主に後ろの家が受ける形になっていた。
「てめぇ……俺ん家をよくも!」
ボコボコに穴が開いていくログハウスを見て、ラザムが叫ぶ。
「アンタが避けるからだろ!」
「てめぇが撃ちまくるからだろガキャァ!!」
「最初に攻撃仕掛けてきたアンタが悪い!」
『……それはその通りですね』
そう、俺悪くない。
悪いのアンタ!
「舐めやがってガキ! これならどうだっ!」
ラザムは、手に持っていた杖をこちらに向けて投げ飛ばした。
俺は咄嗟にシールドでそれを防ぐわけだが、それが悪手だった事にはすぐ気付いた。
その瞬間だけ、銃を撃つ手は止まり、その隙にラザムの接近を許してしまった。
ヤバい!
俺は右手に握っていたトリプルブラストをその場に落とし、掌を目前に迫るラザムへ向ける。
「プラスッ!!」
グラビティグローブで斥力を発生させ、ラザムの身体を吹き飛ばす。と同時に、俺の身体も踏ん張りがきかなかったのだろう。反動で俺もその場に転んでしまった。
ハァハァハァ……。
今のは危なかった。なぁ、アルカ。
―――ん? アルカ?
「アルカ?」
額に手をやる。
が、そこにはあるべき物は存在せず、自分の額があるだけだった。
「え………?」
「ちぃ……。いちいち、おかしな力を使いやがる」
ラザムの方を見れば、大したダメージも受けていなさそうであり、そのまま立ち上がる所だった。
いや、ラザムよりも、あいつが右手に持っている物が気になる。
それは――――――
「ん? お探し物はコイツか?」
右手に持ち上げて見せたのは、この俺が今の今まで身に着けていたゴーグル。
アルカの移動用端末だ。
「アルカ!!」
一応、次話で決着。
なんでラザム氏がこんな行動を取ったかの理由も判明するですよ。
しかし、今はなんとかモチベーション維持して一日一話で書けていますが、いつまで続けられるだろうか。仕事が忙しかったりしたら、執筆する気力も激減するでしょうし……。