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145話 新種




「皆さんにお願いしたいのは、先日発見された新種の魔獣についての調査です」


 ギルドマスターの執務室へと案内された俺達は、恐縮そうに汗を拭うギルドマスターより、そんな言葉を受けた。

 指導を受けてくれないかと依頼された時にも会ったが、このギルドマスターは学術肌で実技はからっきしみたいだから、強いハンターを前にするとこの調子なんだとか。こっちとしては、親しみやすくていいけど。


 アルカ、ゲイル、ルークの三人だけがきょとんとしているが、そういやこの三人は知らなかったんだったな。


「この街について最初の日だったかな。あるハンターチームの救難信号を発見してな。救助に向かったら、そこで発見したんだ」


 そこでざっと発見した新種魔獣……デスサイズ、キャノンボール、アントルーパーについて説明する。後で、フェイを通してバイザーに画像でも映してもらおう。


「未確認の魔獣というのは大抵伝聞や書物に遺されているものですが、見た事も聞いた事もない魔獣というのは、ここ100年間初めての事なんです」

『……もしや、新種の発見というのが作り話であると言うつもりですか?』


 ムッとした声で言ったのは、実際にその場に遭遇した張本人の一人であるフェイだ。

 すると、ギルドマスターは慌てて両手を軽く上げて首をブンブンと振った。


「い、いや、そんなつもりはない! 実際、君たちの他にも目撃者は存在するんだ。そこを疑うつもりはないよ」


 その気になれば、バイザーを通して録画した映像も提出出来るんだが、混乱が増すだけだろうから控えておこう。

 ふと、アルカが顎に手を当てて出来る女風のイメージで口を開いた。


『という事は、新種が出現した経緯が疑問という事ですか?』

「おっと! 話が早くて助かるね。まあ、新種の目撃なんて人族からしたら初めての事だからね。長命の竜族や樹族ならば知っている者も居るかもしれない。その点は、ギルドマスターの定例議会で尋ねるつもりだ。

 それで、君達に頼みたい事というのが、その新種の調査だ」


 竜族と樹族か……どちらも知り合いは存在するが、気軽に聞けるもんでもないしな。距離的な問題もあるし。

 しっかし、新種ねぇ。俺からしたらどの魔獣も初めて見るから、さほど問題に感じないんだけどなぁ。そんなに大騒ぎになるようなニュースなのかね?

 まあ、とりあえずは話を聞きましょう。


「……具体的には?」

「領域範囲、種類、現時点でのおおよその数……そのあたりだね。正直、初見の魔獣なんて低ランクハンターの手に負える案件じゃない。だから、君達にお願いしたい」


 ギルドマスターはそう言って俺達に頭を下げた。

 ただのハンターにギルドマスターが頭を下げる等、あまり褒められた行為では無いだろう。それでも行ったのは、それだけこの案件を重く見ていると言う事か……。

 俺達は思わず顔を見合わせた。

 全員、まっすぐに俺の目を見ている。……要は、判断は俺に任せるって事なのね。


 正直、異世界人の俺としてはどうでもいい内容ではあるんだけどさ……。


「分かりました。その調査、引き受けましょう」




◆◆◆




 それから、俺達は僅か30分も経過しないうちに目的地となる森林地帯へと後を運んでいたのである。

 やっぱ、他のチームの目とか気にしないで済むと、《リーブラ》とか好きに使えるし、移動が楽で良いなぁ。

 また、気のせいかもしれないが今まで別行動組だった三人の顔が明るく見える。なんか、別行動中にあったのだろうか?


「そういや、新種って話だけどさぁ……この世界の魔獣の仕組みってどうなってんの?」


 《リーブラ》の車内にて、ぼんやりとふと思った事を口にすると、俺の正面の座席に腰かけていたアルカが首を傾げた。


『どうなっているといいますと?』

「言っちゃなんだけど、この世界の魔獣ってどれも大概俺の知っているような存在っしょ。それが偶然存在するってそんな都合のいい事あるもんかね」


 そう、俺がこの世界で遭遇した魔獣と言えば、ゴブリンだったりオークだったり、いわゆるファンタジー世界の王道と言っても過言では無い存在だ。

 最初は異世界だからそんなもんなんだという認識でいたが、損遭遇する魔獣が知っている奴等ばかりという都合のいい事が連続すると言うのは、考えてみたら不自然でもあるような気がする。

 それが今回遭遇したのが知らない魔獣……ただのでかい虫だった事から、ふと気になったのだ。


『そうですね……。まず、魔獣の名称ですが、こちらはケイの頭の中の知識からその魔獣に最も近いものを当てがっています。つまり、この世界においての本当の名称は全く別物だと認識してください』

「あぁ、そうなんだ」


 そうだった。普段普通に会話出来ているから忘れがちになるが、俺はこの世界の言葉を翻訳して聞いているに過ぎなかったな。

 俺達がゴブリンと呼んでいる魔獣だって、こっちの世界じゃ違う名前で呼ばれているのだって当然の事だろう。


『それで、ケイの世界の神話や創作物に登場するような外見の魔獣が存在する理由ですが……これは私も分かりません』


 うーむ。アルカにも分からないか。

 残念だが、パッと思いついた疑問がそんなすぐに解決できるはずもないな。


『ただ、魔獣というのは元々かつて存在した魔族と呼ばれる種族の残留思念のようなものという事は説明されましたよね』

「あぁ、この世界に来たばかりの頃にそんな説明を受けたな」

『その魔族の思念が獣へと姿を変えたとして、果たしてあんな多種多様な姿へと変貌するかと問われると、難しい所でしょうね』

「……確かに、普通の生物と違って何億年もの進化の過程があるわけじゃないもんな」


 その土地の環境次第で姿が変わるっていうのは分かる。だからといって虫だったり獣だったり鳥だったりと、あんな色んな姿に変化する意味は分からない。


『そこから推測されるに……魔獣と呼ばれる存在をデザインするクリエイターのような存在が、この世界には存在するのではないでしょうか?』

「クリエイター?」

『それが何者なのかは、まだ情報が足りてないので分かりませんが、魔獣をデザインする存在がこの世界に居るという事は間違いないと思われます』


 デザイナーにしてクリエイターか……。

 俺の世界にある有名モンスターと姿があまりにも姿やイメージが似ている事から、どうにもうちの世界からの転移者とかそっち方面の可能性を考えちまうな。この世界のまるでゲームみたいな雰囲気といい、どうも作為的なものを感じてしまう。

 どちらにしても、あまり良い感じはしないな。


 そんな会話をしていると、操縦席に座っているフェイとルークから連絡が入った。


『リーダー、そろそろ例の魔獣の領域テリトリーに近付くみたいだよー』


 その言葉を聞き俺達は立ち上がり、揃って操縦席へと向かった。

 この《リーブラ》も進化しており、操縦席に至ってはアルドラゴのブリッジの簡易版と言っても過言では無い形になっている。

 俺はメインモニターにこの付近のマップを表示させる。

 そして、索敵によって露わとなった新種魔獣の現在位置をマップに反映させた。


 すると……


「増えてやがるな」

『ですね』


 俺の言葉にフェイが頷く。

 表示されたポイントは、明らかに前回倒した魔獣の数のそれを超えていた。

 ……全部で3桁はあるなこれ。


「……この世界の事情とか知った事じゃないけど、これってまずくないか?」

『少なくとも、このまま放置すれば近隣の集落は壊滅するでしょうね』


 この世界の魔獣は、基本的に自分達の領域……つまりは縄張りからは奔出ほんしゅつするような事はせず、その縄張りに踏み入れた人間のみを襲う仕組みとなっている。

 が、それも数が増えればそれに伴って縄張りも広がっていく。つまり、この調子で数が増え続ければ、付近にある集落と魔獣の縄張りが接触するのも時間の問題だという事だ。


 俺達に与えられた仕事は、あくまで調査だ。本来であれば、このまま引き返して事実をギルドマスターに伝えるべきだろう。そうすれば、ギルドマスターがその権限を使ってハンター達を招集し、殲滅作戦を実施するはずだ。

 そうするべきなんだけど……その事実というヤツを俺達が知ってしまったからなぁ。

 運がいいのか悪いのか知らないが、今の俺達はこの状況をなんとか出来る力を持っているのだ。だったら、やるべきだろう。


「よし、殲滅……とはいかないまでも、少し数を減らそう。そして、なんでまたこんなに増えたのか、調査するぞ」


 俺の言葉に、チーム全員が強く頷く。

 殲滅するのはそれほど難しくないだろうが、原因を解明しなくてはこのまま増え続けるだけだろう。だとしたら、その調査もするべきだよな。

 あーめんどくせぇ。


 そのまま俺達は《リーブラ》を飛び出そうとしたが、それをアルカが引き留める。


『ちょっと待ってください。この先何があるか分かりません。念の為、戦力を二つに分けて片方は後々の為に温存した方が良いかと思われます』


 ……それもそうか。この前のゴッド・サンドウォームの件もある。安全策はとっておいて損は無いだろう。

 俺は頷くと、自分用のアイテムボックスよりある物を取り出す。


 先端部分が色分けされた紙の束……くじである。


「よっしゃ、じゃあ組分けだ。はい、好きなの取った取った」


 チームメンバーはそれぞれ顔を見合わせ、俺の手より一本ずつくじを取っていく。

 本当ならここでルーレットでも回したいところだが、もっとてっとり早い方法がある。


「んじゃ決めるぞー。えーと、赤、白、黒……これで行こう。どうだ?」


 そう言って俺は今まで閉じていた目を開き、自らの手に残ったくじを確認する。

 ……青。ハズレか。


「拙者でござる」

『ぼくもー』

「アタシだな」


 それぞれ、俺の言った色のくじを引き当てたゲイル、ルーク、ヴィオの三人が手を上げる。


 さて、このくじ……色のついたくじをそれぞれが取り、全員取った所で目を閉じていた俺が適当に三色を選ぶ。その色を持っていた者達がアタリという仕組みだ。

 この方式、試すのはここに来る前にチームを二分した時以来である。

 最初は普通にじゃんけんで、選出する予定だったが、俺以外の面子は全員が人間離れした動体視力の持ち主なのだ。つまり、じゃんけんの寸前に相手の手の形を読み取って勝てる手を選ぶなど造作も無い事だったりする。……あくまで俺以外は。一斉にじゃんけんして、出た手がグーかパーでチームを分けようとしたら、全員が俺と同じグーだったのはとんでもないチームワークだと勘違いしちまったぞ。

 なので、公平を保つために俺が責任を持ってランダムに色を選択する方式にした。それならば、俺が特定の色を選ぼうとしない限りは不正も出来ない。


 俺がアタリで無かった事は残念であるが、ウキウキした様子の三人を見ると、まぁいいかという気分になるな。


 そんじゃ、新種魔獣の調査……開始としましょうか。




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