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144話 経験値倍増




 ブローズ王国に滞在して6日が過ぎた頃……。

 合流は1週間後という期日を1日前倒しして、アルカ、ゲイル、ルークの3人はレイジ達が拠点としている首都アルディグへと足を運んでみたのである。

 前倒しした理由は、あまりにもこの6日間が退屈だった事と、自分達の居ない間にレイジ達が一体どのような活動を行っているのか気になっていた為だ。

 ……もしこれで、レイジ達が三人旅を満喫していたとしたら、彼等は大きな精神的ダメージを受けた事だろう。願わくば、三人も何処か満たされない思いを抱きながらハンター活動をしていてほしいものだが……。


 そんな事を思いながらギルドの位置を調べ、レイジ達には気取られぬようにこっそりと中の様子を確認してみる。

 すると、3人の目にとんでもないものが飛び込んできた。


「レイジ様、今日はどうか我々のチームの指導をどうか!」

「いや、今日は我々の番だ!」

「ねーレイジさまぁ~。うーんとサービスするから、アタシ達のチームの指導をお願い~」


 と、様々なハンターチームから言い寄られ、困り果てている我らがリーダーの姿が目に映ったのであった。


『な、なんなんですか、アレは』

「すっかりと人気者でござるな」

『……ちっとも嬉しそうじゃないけどね』


『おや、姉さん達ではないですか』


 ギルド内部の様子を見て驚愕していた3人を、フェイが見つけ出して駆け寄って来た。


『合流は1日後では?』


 フェイはと言えば、姉と弟に再会できて嬉しいのか、ニコニコと話しかけてくる。

 とは言え、あっちの仕事がつまんなかったからと本音が言える筈も無い。アルカは「コホン」と咳払いをすると、予め用意してあった言い訳を口にする。


『い、いえあちらの仕事があらかた終わったので退屈に……ではなく、こちらの様子が気になったものですから、こうして見に来たのですが……』


 チラチラと視線を大勢の人に囲まれているレイジに向けていると、流石にフェイもその意図に気付いた様子。狼狽えているアルカ達の様子に苦笑しつつ、説明を始めた。


『あの状態についてですね。分かりました、詳しくお説明しましょう』


 フェイの説明によれば、事の発端は3日前……。

 ギルドより、Aランクハンターであるレイジに若手ハンターの指導を頼まれたのである。

 指導なんて柄じゃないし、自信もないし~と難色を示していたレイジであったが、ギルド側の熱意に負けて1日だけ仕方なく引き受ける事になった。


 そして、その当日……担当となったハンターは、レイジよりも若い者のみで構成されたハンターで、ガチガチに緊張していたThe新人ハンターであった。

 粗暴なハンターでは無くて良かったと安心したレイジは、バイトの新人研修のように丁寧にしっかりと指導。

 するとどうだろう、新人達はめきめきと上達し、1日でそれなりの成長を遂げる事になったのである。しかも、FからEと小さくはあるが、ランクアップまで果たしてしまったのである。

 翌日、レイジの指導によってランクアップを果たした新人ハンターの噂はすぐに広がり、我も我も……と指導を求める声が続いたのである。

 あまりの熱狂ぶりに仕方なしにまた引き受けたのだが、これまた指導を受けたハンターは見事な成長を遂げる。そうなれば噂は嘘では無かったという事実が広まり、それまで以上の熱狂ぶりでレイジは招かれる事になったのだった。


『なんなんですか、それは。ケイには実は教師としての才能があったとか、そういう事ですか?』

『その可能性も無い訳ではないようですが、ひょっとしたら異世界人としての特性で、共に行動している者は成長が速い……という能力を持っている可能性が考えられます』

『は? の、能力ですか?』

「なんなのでござるか、それは?」


 聞きなれない単語にアルカとゲイルの二人は首を傾げる。すると、ルークがポツリと呟く。


『それってアレかなー。異世界を渡った特典で、特殊なスキルが付与されたとかそういうの?』

『そうですね、そのようなものだと思います』

『……なんでルークは知っているんですか』

『知らないの? 最近はそういうのが流行っているんだよ』

『流行っているんですか?』

『うん』

『……なら良いです。フェイ、続きを』


 何処でという疑問はほっといて、アルカはフェイに説明を促した。


『帝国の研究で、異世界から渡って来た者は、個人差はありますがこの世界には無い特殊な能力を持っている事があるようです。実際にも、帝国に居る異世界人にはその能力が目覚めている者が居るんだとか』

『は、初耳ですよ』

『すいません、報告が遅れていましたね。そもそも、艦長マスターは、今は凄腕ハンターとして活躍していますが、数ヶ月前まで戦いは全くの素人だったのでしょう? それが、いくら艦の装備を使っているとしても強くなり過ぎだと感じませんか?』

「『『……言われてみれば……』』」


 思い当たる節があり、三人は思わずうなってしまった。

 言われてみれば、ちょっと前までレイジはズブズブの素人だったのである。それが、いくら戦闘技術のインストールをしたとは言え、一線級で戦えるまでに成長するにはそれ相応の時間が掛かるものだろう。

 それが、たった数ヶ月で今の状況である。レイジ本人は、俺はズルして力を得ているだけだから、そんな大した事じゃないと言うだろう。

 それも事実ではあるし、色んな幸運が重なったことも事実ではあるが、それにしたって成長速度は速すぎる。


『姉さん達も人型を得て、魔法を使うようになったのも最近の事でしょう。傍から見れば、それも異常な成長スピードですよ』


 フェイに指摘され、アルカも己の成した事を反芻はんすうしてみる。

 言われてみれば、こうして人間の姿を維持出来るようになったのは最近の事なのである。それがこの状態で居る事が当たり前のようになり、魔法だって高難易度の魔法をポンポン使えるようになっていた。

 当初、自分達は人間ではないのだから、人間以上の事が出来る事も特段不思議な事だとは思っていなかった。が、こうして知識も増えてくると、これまでの状況と言うのも異常に感じてくる。

 まさかこれも、レイジ自身の能力の恩恵だというのか? 自分達のような人間以外の存在にも影響があると言うのだろうか。


『最も、私自身はその能力者とやらは見た事がありませんから、あくまで資料を閲覧したまでの情報ですけども』

『特殊能力ですか……ケイの知識にあるゲームや漫画のようですね』

「今更の事でござるがな。所で、他にどんな能力が確認されているのでござるか?」

『魔法を使わずに他者の傷や病気を癒したり、単純に身体能力を強化したり……特殊な所では、他者の意識を乗っ取って自在に操ったりその者も居るようです』

「……厄介でござるな」

『ケイの能力とやらも、敵に回れば厄介ですけどね。名づけるならば、ケイの知識で言う所の、経験値倍増とか3倍でしょうか』


 しかし、自分だけでは無く他者の成長も早めるというのは、いかにもレイジらしいとアルカ達は思うのであった。


『しかし、どうすればいいのですか……これは』


 未だ多くのハンター達に囲まれて右往左往している自分達のリーダーを見て、アルカ達は深い溜息を吐く。

 困っているのなら助けるべきなのだろうが、この場合はどうやって助けるのが正解なのか……。


「救出するだけならば、アルカ殿が行けばいいのではないのでござらんか?」

『はえ、私ですか?』

『そうですね。姉さんが行けば一番早いかと』

『え?え?え?』

『私では舐められますし、ヴィオさんが行けば喧嘩になるので、今は待機してもらっています』

『よく分からないのですが……』

「深く考えず、素直に主をこちらに引っ張ってくればいいのでござる」

『そうですそうです』

『わ、分かりましたよぉ』


 腑に落ちない状況ではあるものの、ゲイルとフェイに背中を押されたアルカはゆっくりとハンター達に囲まれているレイジの元へと近づいていく。

 ああは言われたものの、どうやってレイジを引っ張って来るか悩んでいたのだが、女性ハンターに言い寄られているその姿を見て、ちょっとムカっ腹が立ってきた。

 デレデレした態度ではないのがせめてもの救いだが、レイジモードであるのなら、もっときっぱりとした態度を取ってほしい。


『こらケ……じゃなかったレイ! 何やっているんですか!!』


 突然の声に皆の視線が集まる。

 視線の先に立つのは、腰に手を当ててご立腹の様子の美女……。思わず全員がその佇まいに見惚れるも、その中の一人だけはきょとんとした顔でいた。


「アルカじゃないか。なんでここに居るんだ?」

『へ? あ……その……1週間経ったら合流する予定だったじゃないですか』

「……予定は明日じゃなかったか?」

『そ、そうでしたか? と、とにかく、久しぶりに再会出来たんですから、一緒にと思ったのですが、そちらが楽しいのでしたら、是非ともそちらを優先してください。ふんだ』


 アルカの言葉を聞き、まるで天啓を得たりと言った感じでレイジは手を叩いた。


「そうか、それなら問題ないな!」

『え?』

「という事で、俺はこれからうちのチームメンバーと一緒に行動するから、指導の方はこれで終わりって事で……」

「「「「え?」」」」


 突然の事態に呆然としているハンター達の集団から抜け出すと、すたすたとアルカの元へと歩み寄る。


「ほらほら、ゲイルやルークも来ているんだろ。久しぶりにフルメンバーで魔獣退治と行くか!」

『は、はい!』


 レイジは自然とアルカの手を取ると、ウキウキした様子で仲間達の元へと駆け寄って行ったのだった。


 今の様子を見て、アルドラゴのチームに入りたいと思っていたハンター達や、あわよくばAランクハンターであるレイジの恋人ポジションに収まりたいと思っていた女性ハンター達は心を折られる結果となった。

 全員、思ったものである……アレには勝てない……と。




◆◆◆




「お、おおぅ、ゲイル……ルーク……うちのチームだ……くっ!」

『ちょ、ちょっとケイ! 泣かないでくださいよ!!』


 ギルドの入り口に待機している二人の姿を見て、俺の目頭が熱くなっていく。

 とりあえず誰にも見られていない様子だが、なんか家族に再会出来たような安心感が俺の胸に到来したのだ。


「そんなに辛かったのでござるか」

「身体はそうでもないが、主に精神面がね……」


 だって寂しかったんだもん。

 知らないハンター集団の中に放り込まれて、訳も分からず指導させられて、全然気の休まる暇が無いっての!

 フェイもヴィオもあんまし助けてくれないし、こっちも頼りすぎるのはよくないと思って、なるべく自分で解決しようと奔走していたんだけどもさ。

 やっぱり、いきなり教官役をするってのは、コミュ障の人間にゃあハードルが高いんだよぉ。もうやりたくねぇ!!


「お、解放されたみたいだね。ってか、アンタらも合流したんかい」


 すると、酒瓶を片手に持ったヴィオがふらりと現れた。なんか、物凄い似合っているなその恰好。


「うぅ……ヴィオがもうちょっと助けてくれれば良かったのに……」

「アタシが助けるってなると、十中八九殴り合いになるけども、それでも良かったのかい?」

「よ、良くないです……」

「なら良いじゃねぇか」


 自分のポジションを理解しているのは良い事ですが、もうちょっと何かやり方無いかな? と思ってしまうのは、勝手な言い分なんだろうか。

 アルカは「むー」とご立腹の様子でヴィオを睨んでいるが、当のヴィオはどこ吹く風である。……あんな強い心を持ちたいなぁ。


 俺はコホンとわざとらしく咳払いをすると、改めてチームメンバーを振り返った。


「とにかく、せっかくフルメンバーが揃ったんだから、何か全員で出来る仕事でも探すか」

『良いですね。では、もう一度ギルドに入りますか?』

「久しぶりの主との仕事……腕が鳴るでござる」

『よーし、やったるぞー!』

「……なんでアンタら、そんなに張り切ってんだい」


 ハイテンションの三人をやや冷めた目で眺めている様子だが、ヴィオもここ数日は退屈だったせいか、嬉しそうに笑みを浮かべている。

 いやぁ、こっちも久しぶりに気を遣わなくていいから楽しみだなぁ。


 すると……


「あ、あの……それでしたら、是非ともお願いが……」


 聞き覚えの無い声がして思わず背後を振り返る。

 すると、気の弱そうな30代くらいの男が一人、ギルドの扉から顔を出して立っていた。


 ああ、顔を見て思い出した。

 彼は確か、このハンターギルドのマスターだったな。


 という事は、またもギルドマスター直々の仕事が舞い込みましたか……。




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