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143話 噂のアイテムコレクター




 チラリと声がした方を見ると、強面のハンターが二人、椅子に座った俺を見下ろしていた。


「レシピのメモですが?」


 何をしていると問われましても、とりあえず、ピザを作るのに必要そうな材料をピックアップしている最中っす。


「そもそも、てめぇみてぇな奴がこんな可愛い子二人も連れてハンターなんかやってるから!!」


 だからなんだっつぅのよ。

 理不尽な言いがかりをつけてハンターの一人がこちらに向けて拳を振り下ろそうとした。

 あー……こういうのってひっさしぶりだなぁ。


 スカッ


「なっ!?」

「い、椅子に座ったままだと!?」

「ええと、必要なのは小麦粉とサラミとチーズと……」

「ば、馬鹿にしやがって!!」


 危機察知能力のおかげで、この程度の攻撃なんざ、いちいち見ないでも避けられるわい。

 とりあえずハンターどもは何度も俺を殴ろうと躍起になっているが、避けられるレベルのものは全て自動回避。


「す、すげぇぞあの男……」

「強そうに見えないのに、どうなってんだ」

「おらおら情けねぇぞ! 一発ぐらい当ててみろ!!」


 やがて、俺の動きを見てか酒場内から感嘆の声や野次が聞こえるようになってきた。

 いつの間にか、俺達の動向が注目されていたみたいだな。……あんまし嬉しくないんだけど。


 チラリと視線をヴィオ達に向けると、いつの間にか喧嘩を止めてそれぞれこちらを見守っている。口パクで「がんばれがんばれー」とか言っているし。


 だが、殴り続ける方もいい加減に限界っぽいな。腰に差した剣を抜くのも時間の問題か……。

 う~む、ここは正当防衛って事で、気絶でもさせちまうかな。


 と思っていたら……


「アイテムコレクター様!!」


 酒場の扉が開き、見覚えのある少女が飛び込んできた。

 突然飛び込んできた可愛らしい声に、俺を殴ろうと躍起になっていたハンター達もその手が止まる。


「良かった! ギルドに尋ねたらここだと聞いてやってきました!」

「あぁ。昨日助けた……」


 昨日、要救助要請の入っていたハンターのチームを助けたのであるが、この少女は確かその生き残りだった筈。そういや、名前とか聞いてなかったな。


「お、おい、アイテムコレクターとか言ったか?」

「最近名前をよく聞くハンターだろ?」

「あのガキがアイテムコレクター? そんな馬鹿な……」

「そもそも、なんでこんな田舎町に居るんだよ」


 少女が大声で言った為、酒場の者全員がその呼び名を聞いたみたいだな。

 ……それにしても、こんな小さな国にまでコレクターの名前は知れ渡っているのか……。SNSもない世界ですげぇ情報網だなぁ。


「良かった、ここにおられたか……」


 続いて現れた者を見て、酒場はまたどよめくのだった。

 現れたのは、同じく昨日助けた壮年のハンターチームのリーダーだ。そう言えば、五体満足だったのはこの二人だけだったな。

 酒場に踏み入れたハンターは、俺達の周りを取り囲む荒くれハンターを見て、激昂した。


「馬鹿者!! 貴様ら、何をやっている!!」

「い、いや……コイツが俺達に舐めた態度を……」

わきまえろ! その方は、お前達が手を出して良い者ではないわ!!」

「し、しかしシグさん……いくら何でも、こんなガキにへこへこし過ぎじゃないですか?」

「黙れ! この方をどなただと思っていやがる! Aランクハンターのアイテムコレクター殿だぞ!!」


 すると、軽い失笑が起こり、やがて酒場全体に広がる爆笑となった。


「真面目なシグさんが冗談言うと思ってなかったなぁ」

「いや、真面目だから騙されたんじゃねぇか?」

「ハハハ……だよな。シグさん、いくら何でも騙されてますよ。そんな強そうにも見えない子供が、アイテムコレクターな訳が……」

「そうそう、じゃなかったら幻でも見ていたか―――」


「……何?」


 ぞわ……と、酒場内にシグと呼ばれた壮年ハンターの殺気が充満する。

 その本気の殺気に当てられて、今まで軽口をたたいていたハンター達は全員押し黙った。


「幻だと? だったら、俺達がこの方達に命を救われた事も幻か? 俺がチームメンバーを二人失った事も幻か? 未だに三人が病院で苦しんでいる事も幻だっていうのか?」


 静かだが、一言一言に殺気と怒気が含まれていた。

 ここで下手に何か言おうものなら、そのまま殺されてしまうのではないかという殺気だ。

 このシグという男は、そんなに強くないハンターなのかなとか思っていたが、この状況を見る限り、この界隈では名の通った人だったんだね。


 それにしても、俺としてはこんな待遇は慣れたものだから別に気にしてないんだけどなぁ。こんな見た目だし、Aランクハンターだとすぐに理解する方が難しいだろう。


「い、いや……あの……す、すまなかった。言い過ぎた」

「そ、そうだな。アンタ達のチームがそんな事になっているなんて知らなかったんだ」


 軽口を叩いた張本人の二人が、しどろもどろながら弁明する。

 それで殺気はいくぶんか和らいだが、こんなマジな雰囲気は、酒場には相応しくないだろう。


「そこまでにしてください」


 俺は静かに立ち上がり、シグの肩に手を置く。


「俺は気にしていないですから、抑えて下さい。……この子が怯えている」


 チラリと視線を落とすと、シグのチームの一人である少女が身体を強張らせ、瞳には涙を浮かべていた。

 シグの殺気に当てられて、昨日の死の恐怖を思い出してしまったか……。

 本人もその事に気づき、慌てて殺気を収めて俺へと頭を下げた。


「……情けない所をお見せした。いや、昨日の時点で既に……か」

「いやいや、こんな若造相手に何言ってるんですか」

「何を言う。命を救われた立場で歳は関係ない。それと、俺に対して丁寧な言葉づかいは必要ない」

「う~ん、これはまぁ性分みたいなものだから仕方ないんだけど」


 そんな俺達のやりとりを見て、周りがまたもざわつく。


「お、おい……シグさんがあそこまで低姿勢になっているって事はマジなのか?」

「まさか……噂のアイテムコレクターがあんなガキの筈がないだろう」

「だよなぁ。見るからにヘボそうだし」


 と、こそこそこちらには聞こえない声量レベルの話し合いが行われている。……俺のバイザーの集音機能によって丸聞こえだけどな!


「おい、何か言ってやんなくて良いのか?」


 額に青筋浮かべたヴィオがちょいちょいと俺の肩を肘で突く。


「言って更に騒ぎになるのも面倒だし、どうせこの国には長く滞在しないんだから、別に良いさ」

「アタシが腹立つんだ」


 怒ってくれることは嬉しいし、俺も聖人君子じゃないから腹は立つんだけどね。


「だからと言ってここで暴れても仕方ないだろう」

「えっ、コレクター様はこの国から去ってしまうのですか?」


 俺達の会話を聞いてか、少女が顔を曇らせる。


「う~ん、この国にはついでに立ち寄っただけだからな」

「そんなぁ……」

「レリル、そんな彼等がついでに立ち寄ってくれたおかげで、俺達は命を拾えたんだ。嘆くのではなく、その偶然の奇跡に感謝しよう」

「……はぁい」


 しょぼんと項垂れつつも頷くレリルという名の少女。可愛いなオイ。


「それで、シグさんでしたっけ。貴方達はどうしてここへ?」

「あぁ、助けてもらった仲間達の治療費を払おうと思ってな」

「……あぁ」


 昨日、あの場では持ち合わせも無いだろうから、支払いはまた後日でいいよと言っておいたのだ。

 ただ、こちらとしては連絡先も伝えておかなかったから、その後会えなかったら支払いは別にいいと思っていたんだけどな。別に金に困っている訳でもないし、元手はタダみたいなもんだ。

 とは言え、こうなってしまったら受け取らざるを得まい。ヴィオの言う通り、命を拾えた事の価値というのも必要なものだと思う。

 俺は差し出された紙幣の束をありがたく受け取り、気になっていた事を尋ねた。


「お仲間さん達のその後はどうですか?」

「さすがにハンターは続けられそうも無くてな。実家に帰る事にするそうだ」


 命は助けられたものの、身体の一部が欠損して元に戻せないレベルの者も居たからな。それに、実際に死んだも同然も状態になったのだ。このままハンターを続けようなんて気概のある者はなかなかいまい。


「あんな事があった以上、俺もさすがに現役でハンターを続けるのは無理だと判断してな。今後は新人ハンターの育成でもやろうと思っている」


 シグは力の無い笑みを浮かべてそう言った。

 なるほど、ブローガさんと同じような立場になるって事か。確かに年齢の事もあるし、彼の経験があれば十分務まりそうだ。

 そしてレリルという名の少女ハンターであるが、何やらもじもじしながら口を開く。


「わ、私は他のチームに入って、まだ経験を積みたいと思います。で、でも、良ければアイテムコレクター様のチームに―――」

「じゃあ、はいこれ」


 聞いてしまったら断るのが面倒なので最後まで聞かず、俺は手渡された紙幣の半分をシグへと渡す。

 当然ながら、シグは戸惑ったように手渡された紙幣と俺の顔を見比べる。


「お、おい、これはどういう事だ?」

「その三人の見舞金……かな。顔を見に行くわけにもいかないから、それを渡しておいてください」

「み、見舞金っていうのはどういう……」

「あぁ、俺の国の文化でして、知り合いが怪我したりすると、そうやってお金を渡すんですよ」


 まぁ、半分本当で半分こじつけみたいなもんだ。渡すとしても、こういうのってせいぜい気持ち程度のものでしょ。

 体裁として受け取ったけども、必要としている者から奪う事なんて小市民な俺としては出来ませんぜ。


「し、しかし……これは……」

「いいからいいから。皆さんもこれからお金は必要でしょう」


 俺はポンポンとシグの肩を叩き、これ以上の問答を避ける。元々彼等の金だし、必要としている人間に渡すべきだろう。

 そして、そのまま酒場のカウンターへと赴き、代金を支払った。さすがにここまで騒ぎになっておいて、このまま飲み食いを続けるのも難しい。


「ちょ、ちょっと待ちたまえ!」


 帰ろうとした所に声を掛けられ、振り向いたら例の偽イケメンハンターが顔を赤くして立っていた。


「これだけ僕に恥をかかせて、このまま去ろうというのかい?」

「は?」


 恥?

 何が?


 きょとんとしていると、酒場にいるハンター達……特に女性陣がくすくすと笑っているのが見える。

 まさか、ナンパに失敗した事を俺のせいにしてんの?

 うわー、なんて言いがかりだ。


「だから、舐められているとこういう事になるんだっての」


 ヴィオが訳知り顔で腕を組む。

 う~ん。さすがはハンター歴なら俺達の中の誰よりも長いだけはあるな。


 確かに、今までスターばりに騒がれたり、変な面倒事に巻き込まれるのが嫌でプライベートはほぼステルスで活動していたからなぁ。チームメンバーも俺とゲイル以外は飲み食いを必要としていなかったし、外でこうして食事をするという事もほぼ無かった。

 騒がれたら騒がれたで面倒だが、だからと言ってこういう状況というのもこれまた面倒くさい。


「はぁ分かったよ。ここじゃ店の迷惑になるから、外に出よう」

「……いいだろう」


 名前は忘れたが、偽イケメン男はニタリと笑みを浮かべると先を歩く俺に続いて酒場の出口へと向かう。

 そして、そのまま俺が一歩酒場の外へ足を踏み出した途端、俺の後頭部目掛けて拳を振り下ろそうとしたのだ。

 うんまぁ、確かに店の外ですよ。

 腕だけは。


 が、この行動は予測していたし、俺は首を僅かに傾けてその拳を避け、勢いのままに顔の横に突き出された腕を掴む。

 そして、そのまま一本背負いの要領で偽イケメンの身体を投げ飛ばした。

 柔道は体育の授業で経験があるが、少なくともまともに人を投げ飛ばせたという経験は無い。が、脳内にあるテレビで見たオリンピック選手の技能をトレースすれば、この通り……。

 最も、スーツの恩恵もあってか偽イケメンは10メートルくらい空を飛んだけどね。そのまま反対側のお店の屋根に激突し、ズルズルと道路に落ちた。……そこそこ腕はあるみたいだし、ハンターなら一応は大丈夫だろ。


 この結果を見てか、背後がやたらとシーンとしているな。呆気に取られているのなら、今後無駄に俺達に突っかかってくる連中も減る事だろう。……と思いたい。

 が、そういう奴等ばかりじゃ無い事も理解はしている。


「こ、この野郎! よくもプレイスを!!」


 同じチームの荒くれハンターの一人が、顔を赤くしてこちらに向かって歩き出した。

 手を出してきたのはあっちが先だろうから、文句言われる筋合い無いんだけどなぁ。


「お、やるかぁ」


 ニタリと笑みを浮かべたのは、ヴィオである。さすがは好戦的な姐御キャラ。

 こうなったら仕方ない。とことんまで付き合ってやれば、もう手出ししようなんて思わないだろう。

 と、半分くらいやる気になっていたが、それは俺の前へと立ちふさがるように現れたシグによって遮られる。


「今のを見て彼と自分達の実力差が分からん者だけ前に出ろ。ここから先は俺が相手をしてやる!」


 その怒気を受け、さすがに荒くれハンターも足を止め、後ずさりをする。まあ、その程度で引き下がるのなら、友情なんてものもあってないようなものだろう。

 しばらくしてシグはこちらを振り返り、またも俺に向かって頭を下げる。


「……すまない。酔っているとはいえ、これ以上この街のギルドの恥を見せたくないのだ」

「別に気にしちゃいないですって。軽くみられるのは慣れてますから」


 俺はシグの肩を軽くポンと叩くと、まだ不満そうなヴィオとフェイを促して酒場から去った。

 さて、これから市場にでも行って買い出しでもするかな。




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