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142話 ブローズ王国での日々




 そう言った訳で、アルドラゴ一向の次の目的地は決定した。


 砂漠の国……ルーベリー王国を後にし、山々に囲まれた小国……ブローズ王国へと入る。

 噂で小さな田舎の国だと聞かされていたが、訪れてみると本当に小さな国のようだ。イメージ的には、北欧とかそのあたりの雰囲気を持つ国である。

 ある程度大規模な都市と呼ばれる集落は二つほど存在し、ハンターギルドの支部もそれぞれにあるようだ。


 ともあれ、ここにはちょっとした観光と補給のために寄っただけであり、それほどのんびりするつもりはない。

 なので、せっかくメンバーが6人になったのだから……と、チームを二班に分けて、それぞれ二つの都市のギルドへと訪れる事にしたのだ。そして、一週間別々に行動し、また合流と言う運びとなっている。


 ブローズ王国の首都アルディグへはレイジ、フェイ、ヴィオの三人。

 そして、もう一つの都市ラーシュへはアルカ、ゲイル、ルークの三人。


 この人選……それは、完全にくじ引きによるものであった。


 ここで話は章の冒頭へと戻り、アルディグを拠点とするレイジ達三人は、救助要請のあったハンターチームを救助。それに加えて新種と呼ばれる魔獣の発見と、それなりに忙しい日々を送っていた。


 もう一方の三人はどうしているのか……視点をそちらへと移してみよう。



『………』

「………」

『うぅ……』


 何やら無表情のまま憮然とした態度でアルカとゲイルの二人は今日もギルドの門を開く。その後ろを、恐縮そうに人見知りのルゥモード(かなり久しぶり!)のルークがこそこそと続く。


「キャーッ! ゲイル様よ!!」

「おお、アルカちゃんだ。今日も可愛いなぁ」

「後ろにはルーク君も居るわ! キャーッ抱きしめたい!!」


 と、まだ訪れて数日しか経っていないというのに、すっかりと有名人になっていた。

 そりゃあ美男美女美少年の組み合わせで、しかも超絶実力者。当初はその見た目から侮られていた三人も、すっかりと見直されて人気者へと成り果てていた。

 が、だというのに三人……特に先頭を歩く二人の顔は暗い。


『今日はこちらの依頼を受けようと思うのですが』

「問題ござらん。手早く終わらせてアルドラゴへと帰還するでござる」

『ふ、二人とも……もうちょっと楽しく……』


 何やらピリピリした空気を放つ二人に対し、ルークは小さな声でそんな言葉を吐く。

 そう。この二人、レイジ達と分かれてからというもの、ずっとこの調子なのだ。

 決して喧嘩をしている訳でも無い、元々仲が悪かったという訳でもない。確かに元々二人だけで話すと言う機会はそんなに無かった二人ではあるが、この街へ来てからというもの、会話も必要最低限しか交わさず、受けた依頼もただ淡々とこなすだけ。

 そこに、普段あるような笑顔やら笑い声は全く聞こえてこないのであった。


「悪いがルーク殿……楽しくないので仕方ないでござる」

『そうですね。私もここまで感情が動かないとは思いもしませんでした』

『それはぼくも一緒なんだけどね……』


 ここまで三人の気分が乗らない理由……それは至極簡単。

 チームリーダーであり艦長であるレイジが居ないせいだ。

 見るもの体験する事に目を輝かせ、時に世話を焼き、時に頼り、時に馬鹿みたいなやりとりをする。そういう彼の存在が彼等にとっていかに大切なものだったのか、よーく理解させられた。


『ケイと別行動というプランはもう無しですね』


 アルカは、はぁーと息を吐けば、ゲイルもその首を大きく上下させた。


「アルカ殿はルーベリーでずっと一緒だったから良いではでござらんか。拙者は今回で二度目でござるぞ」


 そう言えば、シグマとヴィオと戦う特訓の間、ゲイルはフェイと共に別行動中だった事をアルカは思い出す。


『それは酷でしたね。……はぁ、普段は頼りになるのかならないのか、パッとしない人なのに……。居ないとこんなにも調子が狂うのですね』

「全くでござる。特にリーダーシップに優れているという訳でも無く、何か特異な尖った能力がある訳でも無いと言うのに……」

『リーダー、さりげに酷い事言われているね』


 その後、レイジに関する愚痴でそれなりに場が和み、とりあえずは依頼を早々に終わらせることとした。


 そして、話題となっているレイジ、フェイ、ヴィオ組の三人であるが……



◆◆◆



「うひゃひゃ!! 普通のハンターの仕事もそれなりに面白いなぁ!!」


 仕事終わり、とりあえず食事をとろうと酒場へと入ったのだが、まぁすっかりとヴィオが出来上がってしまったのである。

 なんで酒場かって? この街にゃあレストランみたいな上品な場所は数少ないせいだよ。後、仕事が終わったらヴィオが意気揚揚とこの酒場に直行したがったというのもある。


「まぁ、楽しんでくれているのなら何よりです」


 何やらピザっぽい食べ物を食べながら、レイジ……こと俺は適当な相槌を打つ。

 それにしても、ピザにしては粉っぽいというか、いまいち美味くねぇな。こりゃあ、材料とか購入して、自分で料理に挑戦してみるべきかな。

 ピザとかパンなら、ある程度作り方も分かるからな。……うむ、それも面白そうだ。アルカとかに食べさせたらどんな顔するかな……。


「なぁなぁ、小っちゃい方の嬢ちゃんもそう思うだろ!」

『ち、小っちゃい方というのは私の事でしょうか?』

「おう、名前で呼んだ方がいいかね? じゃあ、フェイっち!!」

『フェ、フェイっち!?』


 と、ぐいぐい系のヴィオにフェイが圧倒されている様子を微笑ましく観察しながら、俺はとりあえず必要そうな食材をメモしていくのだった。


『確かに、薬草集めというのはなかなかに新鮮な体験でした。レーダーに頼らずに、視覚だけを頼りに物を探すというのは非効率的ではありますが、不思議な達成感があります』

「だよなぁ。昔は俺もただポイント稼ぐ為に受けていた仕事だけど、たまにやると面白いんだよ」


 ちなみに、薬草集めの仕事というのは、基本的に戦闘が不得手な者が請け負う仕事であり、都市付近の安全な地帯の薬草はあらかた採取されているというのが現状だった。

 が、魔獣の生息域へ足を踏み入れればまだまだ薬草の群生地は点在しており、依頼の数も十分に確保できるのだ。

 最も、Dランク以上のハンター達は薬草採取なんて実りの少ない依頼はやりたがらなく、もう何ヶ月もほったらかしにされている状態であった。


 そんな依頼を片っ端から受けていたら、薬剤師や商人にやたらと感謝される結果となった。

 何はともあれ、喜ばれるというのは良い事だ。


 そんな中……


「よう、お嬢ちゃんたち」


 聞くからに粗野っぽい声が飛び込んできた。

 視線を向けないでも分かる。低ランクのハンター崩れだろう。


「ギルドから出て来たところを見たぜ。見た所新入りだろう? だったら、先輩である俺達に対して礼儀ってもんがあるんじゃねぇかな」


 声と気配によると、3人か。ちなみに、俺は視線を向けても居ない。

 ……だって、俺はお嬢ちゃんじゃないし。ええ、チームで一番地味な俺がハブられるのは、いつもの事ですから気にしてませんよ。


「おーい、聞こえて無い振りすんなよ。アンタだよ、そこの紫の髪のべっぴんさん」

「あん?」


 予想通りヴィオの事だったらしく、本人は不機嫌さを隠しもせずに顔を上げたようだ。


「声かけられたのなんて随分久しぶりだけどねぇ、礼儀って具体的に何すりゃ良いんだい?」

「そりゃあ、俺達の隣に座って……なぁ」

「あぁ、薬草採取なんて引き受けなくとも、俺達が立派に稼がせてやるぜ」


 仲間と顔を見合わせて、ぐへへ……と下品な笑みを浮かべる。

 しかしまあ、何処の世界にもこういうテンプレな奴等って居るのねい。

 あ、ヴィオの額に青筋が見える。しかし、ここで暴れればお店に被害が出る。この場はどうどうと諌めようとしたのだが……


「止めなさい。相手が困っているじゃないか」


 クズハンター達よりもやや若っぽい声が聞こえ、こちらへ歩みを進めてくる。


「やぁ、うちのチームメンバーが迷惑をかけたね」


 何やらキラーンとSEが聞こえてきそうな甘ったるそうな軽薄な声だ。でもってその男はヴィオの肩に馴れ馴れしく手を置く。

 チラリと視線を向けると、ヴィオの額にもう一つ青筋が浮かんでいるのが見えた。……やべぇなこれ。爆発寸前の爆弾って感じだ。

 ちなみにその当の男であるが、イケメン風な態度を取っているが、別にそれほどイケメンって顔には感じない。……リアルイケメンであるゲイルを毎日見ているせいだろうか?


「私はこの国で数少ないBランクハンターチームの一人、プレイスだ。どうも君達はハンターとしては新人の様子だから、良ければ私がレクチャーしてあげよう」


 そう言って、もう一つの手をフェイの肩へと置こうとする……が、それをフェイはサッと躱す。さすがだ。

 プレイスとかいう偽イケメンは、その態度に苦笑しつつヴィオの肩に置いていた手も退ける。


「新人……私がですか?」

「言わなくとも君の年齢と身のこなしを見れば分かるよ。ハンターになりたてのGランクってところかな?」


 年齢は理解できるとしても、身のこなしねぇ。はっきり言って、フェイはアルドラゴのメンバーとしてギルドに登録したのは初めてであるから、Gランクから始めるというのは仕方ない。

 だが、その実力は他のメンバーと大きく差があるようには感じない。だから、見ただけで新人だと看破されたというのはどうも腑に落ちなかったりする。

 すると、何やら合点がいったようにヴィオがポンと手を叩いた。


「あー、どっかで嗅ぎ覚えのある血の匂いだと思ったら、アンタ達ギルドでアタシらを遠目から見ていたハンター達かい」

「な!」


 なーるほど。どうりで見当違いな事言ってるなと思っていたら、ただフェイがギルドに登録している場面を見たってだけかい。

 そんでフェイは文句なしの美少女だし、一緒に同行しているのも美女一人とパッとしない男一人だったから、勘違いしてイケるとか思っちまったのね。


「心配せずとも、アタシらはハンター歴それなりに長いから、レクチャーはいらねぇよ。つー事で、手を退けな」


 ちなみにヴィオは元々持っているハンターのランクカードがあるので、登録はしていなかったりする。

 だが、こうも丁寧に分かりやすく拒絶しているというのに、男どもは諦めようとしない。こういうメンタルの強さは羨ましいと思わなくもない。


「ま……まぁまぁ、ともあれ交流を深める事自体は悪い事ではないよ」

「そうそう。お嬢ちゃんの小さいお手てで俺達のお酌をしてくれるだけでいいからよぉ」

『……小っちゃい……』

「なんだよ、お前はそっちの小さい方が好みなのかよ」

「悪いか、俺はでかい方より小さい方が好きなんだよ!!」

「……でかい……だと?」


 あ、なんかプツンって音が聞こえたような気がする。


『小っちゃい小っちゃいってさっきから聞いていれば何なんですかーっ!! 私だって好きでこんな体型じゃないんですよー!! デフォルトの設定がこの身体なんだから仕方がないでしょーがーっ!!』

「でけぇっつったか今……。どこが具体的にでかいのか、よーく説明してもらおうじゃねぇか!!」


 フェイとヴィオがうがーと大爆発を起こす。

 小っちゃいorでかいってのは、恐らくは背の高さの事だよねー。確かにヴィオはでかいからなー。俺よりでかいから、175cmくらい? そーか、コンプレックスだったか。幸い、今まで触れた事無かったけど、地雷と分かった以上は触れないでおきましょう。


「そもそもさっきから何してんだてめぇは!!」


 気が付けば、俺の周りにも3人ほど男が立っていた。

 こいつ等もフェイとヴィオに絡んでいるチームの奴等かな?


 面倒だからこっちに絡んでこないで欲しいんだけどなぁ……。




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