141話 これからの予定 其の三
ブリッジへと戻ると、ちょうど全員集まった所だった。
全員、それぞれの姿を見て笑みを浮かべる。
その理由は簡単……全員、お揃いの制服を着込んでいたせいだ。
今までのSF感満載の宇宙服やパイロットスーツのようなデザインだったアーマードスーツではなく、ジャケット、シャツ、ズボンに分かれた普通の服なのだ。
言ってみれば、アルドラゴ・ユニフォームといった所か。
ジャケットはそれぞれのパーソナルカラーで色分けされているし、男性女性の区別もある。また、アルカとフェイがスカートタイプなのに対し、ヴィオはパンツタイプという違いもあったりする。これはまぁ、着ている人のイメージもあるよね。本人的にも、こっちの方が動きやすいからオッケーとの事。
ちなみに、パーソナルカラーであるが、
俺……ことレイジは赤。
アルカは青。
ルークは黄。
ゲイルは緑。
フェイはグレー。
そしてヴィオは名前の通りに紫である。
全員、髪の色だったり普段来ている服のイメージで見事に被る事なく色分けできました。
……改めて思うけど、なんで俺がレッドなんだろうなぁ。最初に着たアーマードスーツが偶然にも赤色だったのがある意味運命だったのか……。
ヴィオは自分の着ている服をつまんだりして確かめながら隣のアルカへと尋ねる。
「これがアンタ等が着ていたっていう、強くなれる服かい?」
『強さの出力には限度がありますが、本来であれば大体10倍から100倍の筋力アップが望めます』
「100倍!? すげぇなそりゃあ。……って事は、アタシが魔力で筋力をアップさせて、それでこのスーツの力を使えば……」
『いえ、あくまでスーツ自体の限度がありますので、規定値以上のパワーは出せませんよ』
「何だ……残念」
そう、実をいうとこれもアーマードスーツの一種なのである。
最も、本来取り付けられていた機能のいくつかはコスト削減の為にオミットされているし、パワー自体もリミッターが付けられていて最大50%までしか上がらない。
ただ、その分長時間の活動は可能になったし、エネルギー供給をカートリッジ式にしてパワーが切れたら補給する事が簡単になった。
加えて、ジャケットはミラージュコートを改造した物だ。透明になれる時間は短くなったが、見た目が暑苦しくなくなったし、こちらもエネルギーをカートリッジ式にして補給が可能となる。
結果を見るならば弱くなったのだが、スーツがツナギタイプじゃなくなったので、トイレとかも行きやすくなった。俺としては、これが一番嬉しい。……今まで、一度個室に入ってから、スーツを解除して……という面倒くさい手順でしなくちゃならんかったものな。
何より、チームに一体感が出ていいね。やっぱり、戦艦のクルーって言ったらお揃いの制服っしょ。
それに、緊急時のパワーアップアイテムはきちんと常備している。
経験も積んできた今となっては、大概の事ならこのユニフォームのままで対処できるでしょう。
それにしても……
『なんですか?』
視線を向けられて、フェイが首を傾げる。
フェイのジャケットは他のメンバーと比べてちょいと特殊であり、両腕の裾の部分が広がっている。また、サイズ自体も大きい為、普通にしていると手首が全く見えない。
これにも理由があり、フェイの戦闘方法はメタル狼に変身する事なのだが、さすがに人前でそれをやるのは緊急時以外禁止とした。……正直、言い訳が思いつかん。下手したら魔獣とか魔族と認識されちまう。
だから、戦闘方法は両腕を爪のように変化させ、超スピードで切り裂く事をメインとしている。その際、手首が見えなかったら何か鉤爪状の武具を持っていると思われるだろう。
また、フェイの話によると、別に爪だけじゃなくとも剣だったりロープのようなものにも変化させられるらしい。だから、彼女には集団戦においてトリッキーな動きで敵をかく乱したりする役目を担ってもらう事になった。
後はこのチームでは最もスピードがあるので、偵察やステルスでこっそりと敵を仕留めたりなんて事も頼もうと思っている。……RPGで言うところの盗賊とか暗殺者のポジションだな。
また、彼女の場合はその頭部にも変化があった。
まず、髪型……今まで肩までのセミロングタイプだったものが、頭頂部で髪を束ねたポニーテールタイプに変わっている。
そして、一番大きな変化がその右目にあった。
眼帯である。
彼女の右目は、海賊やなんかを連想させる黒い大きな眼帯に覆われていた。
というのも、彼女の右目に相当する部位には、肉体や思考をコントロールする制御ユニットが組み込まれており、アルドラゴのクルーになる際に、俺へとそれを預けたのだ。
となると右目が無い状態になるのでは? と思われるかもしれないが、ここはそれフェイの本体は金属の塊であるから、外見をちょろっと変化させて右目っぽいものを精製する事は問題なかったりする。
だが、それはどうにも味気ない。
ここは、心機一転。今までの敵に操られていた頃のフェイじゃないぞって事で、何か見た目に変化を与えようって事となり、他のメンバーと相談し、結果こうなりました。
言っちゃなんだが、元が美少女だけあって髪型変えても中二的な眼帯しても様になっているというか……可愛い。さすがである。
また、髪型が変わったと言えばもう一人……ヴィオへと視線を移す。
今までは前髪をきちんと揃えたりして、どことなく男っぽいというか、近寄りがたい雰囲気であったが、今は髪が若干ボサボサではあるが、女性っぽい親しみのある雰囲気となっている。
理由を尋ねてみると「あの方が悪者っぽく見えるだろ」との事。……悪者になるのにも形から入っていたのですか。まぁ気持ちはわかりまっせ。
『むー……私もいっそ髪型変えるべきでしょうか』
そんな感じで他の女性陣を見ていると、残り一人の女性であるアルカが自身の髪をいじりながら、何処となく不満そうに口を尖らせてそんな事を言い出した。
「いや、アルカはそのままでいいよ。綺麗だからな」
『き、綺麗!!?』
青い髪なんてファンタジーの世界でも珍しく、アルカの存在は非常に目立つものではあるのだが、変えるのも今更だと思う。
それに、戦闘時に魔法を放つ際に一瞬光ったり、飛んだり跳ねたりする際に水晶のようにキラキラ煌めいて、実に美しいのである。
「……主よ」
「あん?」
ゲイルが無言で指し示す方向を向いてみると、
『―――綺麗 ……それは、 色・形などが華やかな美しさをもっている……姿・顔かたちが整っていて美しい……声などが快く聞こえる……穢れが無く清潔な様子の事を現し、それは即ち……』
『大変ですルーク! 姉さんがまたバグっています!』
『ああうん、たまにあるんだよねー』
頭を抱えて辞書に載っているかのような言葉を羅列しているアルカ。その様子を見てフェイがオロオロしている。ルークと言えば、よくある事態だけに冷静だ。
バグっている場合の対処はいつもの如くアルカへと近寄り……
すぱこん
頭を叩いておいた。
『いったー! 何するんですかぁ!!』
と、涙目で抗議するアルカ。よし、再起動できたな。
「正気に戻ったなら何よりだ。よーし、じゃあ全員集まれ―」
パンパンと手を叩き、全員が一歩二歩とこちらへと近寄ってくる。アルカだけはむくれている様子だが、無視だ無視。
さて、恒例のあれをする時がやって来たな。
「それじゃあ、これからの予定を発表します!!」
俺の言葉に、アルカ、ルーク、ゲイルの三人が気を付けの姿勢を取る。フェイとヴィオは何が起こったのかと混乱していたが、やがて三人と同じ姿勢を取る。
「シグマの置き土産のおかげもあって、魔石は十分に溜まった。だから、出発する分には問題は無いんだけど……」
俺の言葉に、全員渋い顔をする。
そう、問題となるのはシグマの件なのだ。
ヴィオを正式に仲間とした後、俺達は上機嫌でアルドラゴへと帰艦した。
が、そこには破損した身体を修復中の筈のシグマの姿はなく、伝言を残して去った後であった。
「彼の行方は未だ掴めず……でござるか」
『難しいですね。そもそも、あの人は私達の追跡を遮断できる装置を持っているみたいです』
だから、出ていく時は誰にも気づかれておらず、よりにもよってタイミング悪くクルー全員が出払っていた時だった為、視覚的に気づく事も出来なかった。
……いや、これも狙っての行動なのかもな。まだ歩けない身体だと思っていた為に、油断していた。
最も、シグマはその身一つで出て行った為、何かを盗まれたという訳でもなく、こちらの被害は皆無ではあるのだが。
そして、その残して行った伝言は……
『……世話になった。身体の修復は、後は自分で行う。……第一都市の俺の隠れ家に、武装の一部とこれまで得た報酬を置いておく。俺には必要ないから、お前たちが好きに使え……』
とのこと。
隠れ家はヴィオが知っており、実際にそこに出向いてみたらば……
思わず感嘆の息が漏れるほどの武器の山……山……山……。
うちらの武器はSFアイテムの部類ではあるが、シグマの武装は無骨なミリタリーアイテムである。無論、地球よりも科学技術が進んだ武器という事で、内容の方は遥かに技術革新が進んでいるが、これはこれで滾るものがある。ロマン性とか廃した実用性100%の武器
好きに使えとの事でしたので、ありがたくアルドラゴへと運ばせてもらいました。アルドラゴとは違う科学という事で、使える技術が無いか調べさせてもらいましょう。
続いて、武器の他にも残されていたのが、魔石の山である。
これまでシグマとヴィオが撃破してきた魔獣達の魔石が、部屋いっぱいに溜められていた。当人によれば、最初は使い道が分からなかったけど、宝石みたいで綺麗だから、捨てるのはさすがに勿体ないからと溜めていたとの事。
後に、体内に服用したら魔力が回復するという事が判明したので、それからは売る事もせずにひたら溜めていたんだとか。
総数だけで見れば、今まで俺達が溜めてこないだ消費しちまった分と変わらないだけある。これで、ゴッド・サンドウォーム戦で使用した魔力分を補う事が出来そうだ。
今後の俺たちの動きについてはこれで問題は無くなったのだが、問題はシグマである。
「拙者達に対抗できる力を持つ者を放置しておくのは……」
『それに、私達の秘密もある程度知られてしまいましたしね』
ゲイルとアルカの言い分も理解できる。
これまで、対人戦において自分達を真っ向から立ち向かえる個人なんて初めてだったからな。
ヴィオは仲間になったけど、肝心のもう一人を放置していいのか……もしまたシグマが敵として立ち塞がったらどうなるのか……という不安はある。
だけど……
「その件だが、俺は別に元々シグマは仲間にする気は無かったから、このままでも構わないけどな」
「『え!?』」
俺がポツリとそう言うと、残りの仲間達……特にアルカとゲイルが驚いたように目を丸くした。
「あ、主よ……本当にござるか?」
『私はてっきり、彼を仲間にする気なのかと……』
「まぁ、仲間に居るならば心強い事は事実だけどさ、多分このままだと相いれない部分あると思うんだよね」
短い時間ではあるが、本気でぶつかって戦い合った。
その際に、シグマの精神性や価値観をある程度知る事が出来た。
残念ではあるが、自分達とシグマとはかなり大きな隔たりがある。
悪人……という訳では無い。ただ、生死に関する価値観が違いすぎる。そりゃあ、詳しい事情は知らないが、サイボーグ兵士として何年も戦場で戦い続けて来た男だ。命の価値観が違って当たり前である。
だからと言って、ただ戦力が欲しいというだけでそんな者を仲間に引き入れていいものか……。正直言って、新米艦長としては上手くやっていける自信はないぞ。
最も、シグマが元の世界に戻りたいという願望があるのなら、艦に乗せる事は了承するつもりでいた。
……そういう問答をする前に居なくなっちまったけどね。
正直、もっと早く話し合っておくべきだったと後悔している。
「まぁ、おっさんなら大丈夫じゃないかと思うけどなー」
沈黙が支配する中、ヴィオがポツリと口を開いた。
「あんまし会話する方じゃなかったけども、おっさんはレージとの戦いを楽しみにしていたぜ」
「楽しみ……シグマが?」
「ようやく燻っていた俺の動力に火をつける者が現れたか……とかなんとか言って」
なにその少年漫画のライバルみたいな台詞。
そういや、戦っている最中に強い敵と戦えて嬉しい……満足している……みたいな事を言っていたな。正直、それに対して何て返したか覚えてないんだけども。
「じゃあ、また突っかかって来るかな?」
「どーかなー。なんかえらく考え込んでいたし、心境の変化とかあったんじゃないかなーと思うけどね」
「心境の変化ねぇ……」
俺としては、もう金輪際闇ギルドみたいな裏の組織からは離れて、真っ当にハンターとか人助けしてくれていたらそれで良いんだけどな。
また戦うにしても、時と場合を考えてくれたらそれで構わないですよ。
と、今ではそう思う。
ただ、数少ないこの世界での知り合いにして、同じ異邦人だ。
出来る事なら、また会いたいとは思う。
とまぁ、こちらから追う手段が無い以上、シグマについての議題はこれで終わり。せめて他の国で、シグマらしき男の情報でも収集しましょう。残念ではありますが……えぇ、残念ではありますが!
「そんでもって、これからの予定だけど……この国では騒ぎになりすぎたから、いい加減に次の国へと向かう!! 当面の目的は、隣国のブローズ王国。そこでちょっとしたハンター活動と、物資の補給が済んだら、すぐに次の場所へ向かう!!」
ルーベリー王国を覆う砂漠……その砂漠の先にあるのは山岳地帯だ。
その山々に囲まれるようにして存在しているのは、人族が収める小国……ブローズ王国である。
「確かに、セルジオ王も言っていたが、ブローズ王国とやらはかなり小さい国のようでござるからな。満足なハンター活動も出来ないでござるか……」
『でもさー、次って何処行くのさ?』
『そうですね。このブローズ王国の先はまたも広い山岳地帯……そして、その先はヒト族以外が支配する地域です』
ゲイル、ルーク、フェイがテーブルに広げられた地図と睨めっこしながら各々の意見を吐く。
そう、このブローズ王国がこの世界における人族の支配地域の境界線と言えるのだ。ここを抜ければ、これまた厳しい山岳地帯が待ち受けており、その更に先には獣族が支配するシルバリア王国……海族が支配するアクアメリル王国が連なっている。
距離的にはまだまだあるものの、樹族が支配すると言う樹の国の到達が、現実味を帯びてきたというものだ。
ただ、この世界に来て得た知識ではあるが、見た目人族である俺達が、人族以外が支配する国を通過すると言うのは、あまり勧められない行為なんだとか。
別に種族間で戦争している訳では無いが、やはり文化の違い、倫理観の違いがあったりして、揉め事の種になっているらしい。
……また、よくある話ではあるが、どの種族も自分達の種族が一番格上だと認識しているようで、その種族の支配地域では他の種族は確実に舐められるというか見下されるとの事。
エメルディアにおいて、ダァトとして扱われている獣族を見る限り、その辺の問題は根深いのだろうな……。
加えて言うと、現実問題としてブローズ王国から先は険しい山岳地帯が広がっている事もあってか、よほどの事情が無い限り徒歩で向かおうという者は現れない。
こっちの世界じゃ山道が険しい事に加えて、強力な魔獣が現れるというリスクもある。普通に考えれば、山を越えようなんて思う者は居ないだろう。
……歩かないで山を越える手段を持つ者以外は……。
「そのままシルバリア王国に向かうのもいいけど、せっかくだから俺はここを通過してみようと思う」
そう言って俺が指し示したのは、小さな島だ。小さいって言っても、何気に北海道ぐらいの大きさはあるんだけどね。
「……主よ、確かそこは……」
「ああ。翼族が支配するって話のサフォー王国がある島だ」
翼族……この世界に来てまだ会ったことのない種族だ。
聞くところによると、名前の通りに鳥人間という訳では無く、翼の生えた人族っぽい外見なんだとか。ただ、最も力の弱い種族でもあるらしく、他の種族との交流もほとんどなく、この島でひっそりと暮らしているのだとか。
『……確かに、山岳地帯を越えるのならば、万が一の場合も考えて補給も必要でしょうからね』
『町ってあるのかな?』
「翼族とやらが暮らしているのならば、集落でもあるのではないでござるか?」
「あー……ちょい待ち!」
それぞれが議論を続ける中、我慢しきれないとでも言うようにヴィオが口を挟む。
「アタシとしては初めてこの世界全体の地図ってもんを認識したんだが、根本的な事を聞いていいかい?」
なるほど、言いたい事はなんとなく分かったが、俺達はコクンと頷いてヴィオを促す。
「そもそもなんで、“山の真ん中”に島があるんだい!!」
「『あー』」
そうなのである。
俺が指し示した場所は、島は島でも海に浮かぶ島では無いのだ。
サフォー王国……それは、山岳地帯の上空に位置する、空に浮かぶ島なのだ!!