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138話 「メディカル=ナイア」




 さてさて、物語は前のお話からちょっと前に遡る事になります。

 どのくらい前かと言うと、ルーベリーで宴会があった日の3日後が舞台です。


 現在地は、まだルーベリー王国。

 こちらとしても、さっさとこの国から出たいのだが、そうもいかない事情というものがある。


 ……いや、そもそもゴッド・サンドウォームとの戦いのせいで、アルドラゴは今までせっせと溜めていた魔力をほぼ枯渇させちまったのだから仕方ない。

 まともに動くまで3ヶ月も掛かったというのに、今はスッカラカン。

 あはは。なんか、貯金全部失ったみたいで笑いたくなるな。マジで、これからどーしよう。


 と言う事で、今は地道に付近の魔獣を倒して最低限動けるだけの魔石を集めている最中である。

 本来ならばさっさと集められるはずが、ゴッド・サンドウォーム出現のせいで、この付近一帯の魔獣の生息区域が激変してしまった。よって、ある程度の大きさの魔石を集めるのも大変なのだ。


 ようやく山場を乗り越えて、新しい冒険へ……という段階だというのに、まともに動く事すら出来ないという有様なのだ。

 まあ、こういった大変な状況ではあるんだけども、新武装の開発は続けていたりする。


『こんな状況だってのに、お前さんもブレないな』


 スミスの工房へ向かうと、そんな呆れにも似た言葉を投げかけられた。いや、実際呆れているんだろうね。

 でも、こちらとしてはそれがどうしたという感じである。

 だって、この世界に来てからの唯一の楽しみだもの! エネルギーの節約をしながら、ちまちまと進めていましたよ。ええ!!


『あいよ、こいつがご所望の“ブレイズブレード”だ』


 だがスミスもそれ以上言う事はせず、早速俺が提案していた新武装を披露してくれた。

 まぁ、新アイテムの開発はスミスも腕が鳴る……というか、なんだかんだ言って楽しくやっているらしい。まぁ、性格が頑固オヤジなので、そんな事口にはしないけども。


 ともあれ新武装の紹介をしようではないか!


 ブレイズブレード!

 俺の前に出されたのは、赤と黒……俺のパーソナルカラーで彩られた巨大な剣である。

 所謂大剣と呼ばれる種類のもので、俺みたいな体格の人間が振るうには、かなり大振りの剣となるだろう。

 だが、見た目の割に重量はさほどでもない。それに、アーマードスーツを使用して使う以上は、重さも大きな問題とはならない。

 尤も、この武装は見た目通りの大剣という訳では無い。

 それを今から説明しよう。


「おおう」


 手に持った感触を確かめ、俺は満足げに呻いた。

 そして、多くの大剣使いがするように、自らの背に背負う形で取り付ける。ちなみに、スーツの背部分と剣の腹部分に特殊な磁石のようなものを取り付けてあるため、鞘に入れずとも背中に取り付ける事が可能なのだ。こちらは、柄を握って軽く捻るだけで取り外せるようになっている。


 俺は背に取り付けた大剣のうち、やや小さめの柄を取り、その柄を軽く捻って大剣から長剣を分割させる。

 そう。この大剣……一つの剣に複数の剣が仕込まれているというギミックブレードなのだ。


 この長剣は、ブレイズロングブレード。

 見た目も機能も俺が今までメイン武器としていたヒートブレードを発展させたものだ。サイズ的にも振り回しやすいので、基本的にはこちらをメインに扱うつもりでいる。

 見た目にはこだわりがあるから、きちんと日本刀っぽいデザインになっていますよ。


 もう一つは、大剣というには小さいが、普通の長剣の1.5倍程度の大きさの、ブレイズグレートブレード。

 こちらは、ロングブレードと違い、元々俺がこの世界に来た時に使用していた高周波カッターを改造した物である。

 攻撃力はロングブレードよりも高い。高すぎるが故に、敢えてこれをサブウェポンとした。つまりは、こっちを使用する時はそれなりの相手が登場したと言う事だ。


 また、剣が二本という事で、男としては憧れの……あの戦法が可能となるのである。


 “二刀流”


 宮本武蔵を初めてとして、剣を扱うバトルものならば、夢の戦法であると言えよう。

 まぁ、これまでもやろうと思えば出来たんだけど、いよいよ機が熟したというか、俺の方も二刀流をそろそろ試してやろうという、ある程度の自信が出来たという事なのである。


 が、実際に試したところ……ちょっとした……いや、かなり大きい問題が浮かび上がった。

 というか、よくよく考えれば当然ではあるのだが……俺は両利きではないのである。


 よって、物語に登場する英雄達のように、器用に両の剣を自在に操る事は現時点では不可能であった。

 そりゃあ、知識にある映画スターの映像解析から、それなりに動けるように見せる事は出来ますよ。でも、それはあくまで動きのコピーであって、俺自身の動きでは無いのだ。

 完全に二刀流を操るには、もっと鍛錬が必要なのだと言う事がよーく理解出来た。


 だから現時点では、二刀流で戦うのはあくまで適当に振り回せば済む、魔獣の大群相手のみ。それなりの力を持つ人間が相手の場合は、なるべく使わないように決めた。

 ……情けない話だけども。


 また、このブレイズブレード……もう一つ剣が仕込まれている。

 それが、グレートブレードの刀身の一部を取り外して使用する……ブレイズダガーである。こちらは、またまた初期の頃に使用していたレーザーナイフを改造した物である。

 最初は緊急用の予備のつもりで仕込んだ物であったが、ふと面白いアイディアを思いついた。

 このままダガーとして使う事も出来るが、ちょいとジャンプブーツの方も改良を加え、脛部分にこのダガーを取り付けられるようにしたのだ。

 つまり、蹴りと同時に切り裂く事も可能! 両手の剣を合わせれば、なんと“三刀流”の出来上がりなのである。

 三刀流と言えば……の人みたいに、口に咥えるのはさすがに無理です。


 なんだけど……こちらは二刀流よりも扱いが難しい。

 やってみた結果、よっぽど精神的に余裕のある時か、危機的状況から抜け出す時でなければ、使用する事はないだろうという結果となった。


 つまり、まだまだ精進あるのみである。


『それと、例の武器だけどよ。やっぱり、本人の協力が無いと無理っぽいなぁ』

「うーむ、やっぱりそうか。それは本人と話して進めるよ」


 とまぁ、意味ありげな言葉を交わし、俺はひとまず工房を出るのだった。まだまだ試したい武装やアイテムはあるが、エネルギーの問題もあるから今は我慢……という所。


 俺は気合を入れる為にパァンと頬を叩いた。

 これから、大事な大事な艦長としてのお仕事が待ち受けているのである。

 つまり、シグマとヴァイオレットの面談……である。


 今現在、二人は艦に収容してメディカルチェックを受けている。双方、ダメージは深刻であり、方や魔力枯渇で片やボディ半壊……。

 双方普通の人間とは違う構造をしている為、僅か数日で完治するような代物では無かった。


 その筈だったんだけど……


「うおおお!! だから、治療はもういいっつぅの!!」

『いけません! 治療は完全完治がモットーです!! まだ貴女の身体の特性を理解出来ていないのですから、もっと調べさせてください!! というか、解剖させてください!!』

「だから、開かれるのは嫌だって言ってんだろ!!」

『調べたらちゃんと戻しますから、何の問題もありません!!』

「そういう問題じゃねぇっつうの! なんで意味もなく解剖されなきゃならんのだ!!」

『意味はあります! 医学の発展の為……それとナイアさんの興味の為に必要なのです!!』

「本音が出たぞオイ!!」


 いつもは静かなアルドラゴの廊下にドタドタと騒がしい音が響き渡る。

 俺の懸念材料の一つ……ヴァイオレットさんのお目覚めのようだ。


「おおレージ!! 助けてくれ!! というより、助けろコノヤロー!!」


 俺の姿を確認したヴァイオレットさんは、顔をパッと明るくし、懇願というよりは強要に近い言葉と共に、ササッと俺の背後に隠れるのだった。

 ……まぁ、この人身長が俺よりでかいから、隠れきれてないけども。


 その彼女を追って現れたのは、廊下をコロコロと転がる大きさ的にはボーリングの球サイズのボールだ。

 ボールは俺の前へとピタっと止まると、パカッと口を開くように二つに分かれる。そして、その内面部からぼやっとした光が発生し、やがて人間の姿を形成する。

 見た目としては、白衣を着込んだ20代後半から30代くらいのお姉さん。イメージ的に、まんま女医さんというスタイルのお方。

 うちの艦内において今まで居なかった、何処となく人を温かく包み込むようなほんわかした空気を持ち、にっこりと微笑まれれば思わずドキッとしてしまう色気の持ち主……というタイプの女性だ。

 まぁビジュアルに関しては、あくまで俺のイメージを利用して実像化したもので、これが本来の姿という訳でもない。

 残念ながら彼女には実体がないのだ。

 映し出された身体は、よく見れば後ろの廊下が透けて見えており、時折ノイズのようなものが走っているのが確認できる。

 ……彼女……こと、アルドラゴのサポートAIの一人“ナイア”は、立体映像……ホログラムである。


『あらあら艦長……おはようございます』


 俺の姿を確認したナイアは、わざわざ立体映像を作り出して、ペコリと挨拶をした。


 サポートAIの一人、ナイア。

 以前からちょこちょこ会話には出ていたと思うが、ようやく紹介できるタイミングがやってきた。

 スミスがマシン開発及び整備担当のサポートAIならば、ナイアはメディカル担当……つまりは艦医となる立場なのだ。

 命名はいつも通り俺である。男の人格だったらドクとかそのあたりの名前にしただろうが、女性と言う事でナイチンゲールとかナースとかそちらをイメージして命名した。正確には、ナイチンゲールもナースも看護師だけども。

 うんまぁ、人格が女性であることは別に問題は無いですよ。

 スミス同様に人間としての実体は無いが、立体映像で現れる姿は男としては理想の保健室のお姉さんという感じだ。

 実際に姿を見た時は不覚にもドキドキしてしまいましたよ。


 ……最初は。


「うん、おはようございます」


 俺も軽く頭を下げ、そのままこの場を去ろうとした。

 うむ。

 俺はこのナイアが苦手である。

 ……というか、この艦の中で彼女と相性が良いのは……全身金属のフェイぐらいなもんか。

 さっきのヴァイオレットさんとの会話からも理解できるように、ナイアは……生物の解剖が大好きなのである。


「って流すんじゃねぇ!! この解剖フェチ女から助けろって言ってんだ!!」

「うん。まぁ、別に死ぬわけじゃないし……強く生きようよ」

「なんなんだよ、その投げやりな態度……ってまさか! おめぇ、既に……」

「おかげで面倒な病気とか早期発見即治療出来たし……まぁ、人間ドッグだと思って……ねぇ……」


 はは。ナイアを起動した翌日……俺はメディカルルームのベッドに縛り付けられていた。

 まさかAIの反乱!?

 と、めっちゃハラハラしたものの、ナイアが心底満足した顔で現れ『うふふ。人間の身体というものをじっくり……それはもうじっくりと堪能させてもらいましたとも……』と、ゾクゾクする笑みを浮かべていたのである。

 つまり、俺の了承も得ずにナイアは勝手に俺の身体を開き……中身を見やがったのである。ちなみに痛みもないし、傷口も一切残っていない。そこは、さすが遥かに進んだ医療技術であると言えよう。

 そして、それからじっくりと、俺の身体を開いて……色々調べた結果を映像と共に説明してくれた。……思い返しても、酷いグロ画像でした。なんで、自分の内臓とか切り開かれる所を見せられなきゃならんのだ。

 ちなみに、別に危ない病気が潜伏していた訳ではないっすよ。ただ、下手したら後々病気になるかもしれない芽を、早い目に詰んでくれたとの事。また、地球には無いこの世界特有の病原体やら、アレルギーに対する抗体も精製してくれたらしい。

 うん。良い事なんですよ。

 良い事……の筈なんです。

 

『さぁさぁ、艦長、ゲイルさんに続いて三人目の生身の人間なんです。それはもうじっくり……ええじっくりと診させてください』

「キャー!! やめてぇぇー!!」


 ナイアの本体であるボールからアームが飛び出し、ヴァイオレットさんの手足をがっしりと固定する。そして、そのまま廊下を引きずるように連行していくのだった……。

 強く生きて欲しいと切に願う。


 うん。悪い事ではないんです。

 ……その筈なんですよ。


 それにしても、引きずられていくヴァイオレットさんは実に女性らしい声で叫びなさるのですね。

 今までのイメージとの違いのせいで、思わず可愛らしいとか思ってしまったな。

 ……本人に言ったらぶん殴られそうだけど。




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