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135話 星空




 突然のミカの告白―――


 その告白を受け、ケイ……いやレイジは少し困ったような表情となった。

 そして、数秒間の沈黙の後、口を開こうとしたのだが……


「ミカ、俺は―――」

「いや、答えは聞かなくても理解している」


 レイジが全てを言う前にミカがその言葉を遮ったのだった。


「すまない、先生を困らせるつもりは無かった。ただ、私の口からけじめとして、ただ気持ちを伝えたかっただけだ」

「けじめ?」

「まぁ……なんというか……今の私の力で先生の隣に立つなんて出来ない事は十分理解している。もっと時間を掛けて……とは思っていたが、先生の方にそんな時間の余裕は無いのだろう?」

「それは……そうだね」

「うむ。だから、私はここまでだ」


 ミカは、力の無い表情で少しだけ微笑んだ。


 そう。

 ここまで。

 実は、自分には先程レイジが述べたアルドラゴのチームに入る資格はあるのだ。

 最も、彼の言うような異世界人では無いが、親も居ないし家族と呼べる存在も居ない。今この場でこの世界を去ったとしても、悲しむ者は居ないんじゃないかと思う。

 だが、だからと言って今の自分に、アルドラゴのチームに入って活躍出来る力は無い。


 レイジの隣に立って、共に冒険をしたり、笑いあっている光景が思い描けない。

 ミカの頭の中には、レイジの隣に立つのは別の人物達だった。


 一人は緑の衣服を纏った美丈夫の弓使い。

 そしてもう一人は、青い衣を纏った美しい魔女だ。


 彼女とレイジのあまりにも自然なやりとりを見て、あの場に自分が立てるという幻想は脆くも崩れ去った。


 だから、ここまでだ。


「言っておくが、先生に出会った事を後悔している訳では無いぞ! 先生と出会った事で、小さな殻を破って広く世界を見渡せるようになったと思っている」


 レイジに出会った頃のミカは、思えば全てを見下していた。

 炎でその身を包み、出会う者全てを炎で威嚇し、拒絶していた。


 そんな炎を強引に鎮火し、冷静に周りを見渡せるようにしてくれたのはレイジなのだ。

 その結果別の炎を心のうちに燃やす事になってしまったが、それもまた別に後悔はしていない。


 後悔はしていない……だが、それとこの胸の痛みは別問題だろう。


「急に変な事を言ってすまない! 私の事はどうか忘れて欲しい……じゃあ!!」


 もうこれ以上この場にはいられない。言うべき事はすべて言い切ったと判断したミカは、踵を返してそのまま立ち去ろうとした。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」


 その背に、レイジの声が飛ぶ。




◆◆◆




 思わず呼び止めてしまったものの、一体何を言えばいいのかさっぱり分からない。


 ミカの言う、隣に立ちたいっていう意味が理解できない程、俺は馬鹿ではないぞ。

 だが、ここで俺の隣に立って支えになってくれ……なんて、心にもない事言える筈もない。

 ミカには本当に悪いが、彼女をそういう目で見た事は全くないのである。……いや、異性として見て無いと言ったらウソになりますよ。でも、この世界で恋人作ろうとか伴侶を見つけようなんて気はさらさらありませんので、向こうがどう思っているかなんて考えた事も無かった。


 また、恋愛ドラマとか小説とか苦手……というかほとんど見た事無いので、この手の事態になったらどうしていいのかさっぱり分からん。

 ……誰かマニュアルくれませんか?


 さぁて、勢いで呼び止めてしまったものの、これからどうすればいいのか……。


 ええいもう! 勢いでやったのなら、ここから先も勢いだ!!

 思っている事を素直に言おう!!


「ミカ、俺は忘れるつもりは無いぞ!」

「い、いやしかし……」

「楽しかったからな!!」

「……え?」


 ミカの顔が一瞬だけ呆けたようになる。


「ミカだけじゃない。ジェイドもセージも……まあ、色々あったが、皆との旅も十分楽しい思い出になった!」


 殴られそうになったり、変な因縁つけられたり、果ては殺されかけたりと、思い返せば色々あったわけだが、こうして振り返ってみると良い思い出だよな。

 ちゃんとこうして怪我することなく無事に生きている訳だし。


 まぁ、だからなんだという話でもあるし、結局何も解決は出来てないのだが、そもそも解決するのが目的では無い!

 俺としては、ミカの言う自分の事は忘れてくれという言葉に腹が立っただけだ。

 嫌な思い出でもない限り、忘れる必要が何処にあるというのだ。


「だから……俺は忘れないよ。どんな世界に行ったって、皆の事はずっと忘れない。勿論、ミカの事だってな」

「せ、先生……」

「だから、ありがとう」


 俺がミカに向かって手を差し出すと、彼女もおずおずとその手を握り返してくれた。

 考えてみれば、彼女の手に触れるのはこれが初めてか。

 ハンターだけあって鍛えられた手ではあったが、体格に相応しく小さな手であった。


「うむ……ありがとう」


 ミカは力の無い表情ではあったが、それでも僅かに笑顔を作ってくれた。




◆◆◆




「ふぅ……」


 そのまま酒場に戻る気にはなれなかったミカは、特にあても無く酒場の周辺をぶらぶら歩きまわっていた。

 この行動に特に意味は無い。

 なんとなく、心を落ち着かせるためにやっているだけだ。


 そこへ……


「おう、ミカじゃねぇか。気が付いたら姿が見えなかったけど、何してるんだ?」


 とりあえず彼女の暫定的な相棒扱いとなっているジェイドが現れた。

 何故だか分からないが、見知った顔に出会えた事を少しだけホッとした気分となれた。


「ジェイドか。……うむ、ちょいと告白というものをやって来たところだ」

「なんだぁ告白か―――って、こ・く・は・く!!!? 告白ってアレだよな!? 男と女がするアレだよな!? マジか、マジか!!」


 何故か異様に狼狽えた様子でジェイドが騒ぎ出した。

 そんなジェイドにミカはイラッとして、そのまま蹴り飛ばす。


「でかい声で騒ぐな、馬鹿め」

「お、おう……すまん。で、相手は誰なんだ―――って、決まっているか。レイジだよな」

「まぁな」

「で、結果はどうだったんだよ」

「あのな。私が告白に成功して浮かれているように見えるか?」

「……それもそうだな。やっぱ、ダメだったか」

「やっぱという事は、お前も察しがついていた訳か」

「そりゃあな。残念だけど、脈は全く無いように見えたぞ」


 周りから見れば一目瞭然だったという訳か。直前まで気づかずに浮かれていたのは、自分だけ……。恋の病というのは本当に面倒なものだ……と、ミカは自嘲した。


「だよな……。私もそう思った。だから、きちんと返事を聞く前にこちらから辞退した」

「あん? なんだぁそりゃあ」

「つまり、きちんとした答えは聞かなかったよ」


 ミカが、それからのやり取りを放すと、ジェイドは悲痛に顔を歪めた。


「お前も馬鹿だな。だったら、告白なんてする必要ないだろうが。そのまま黙っていりゃあ良かったものを」

「……私もそう思ったのだがね。自分自身のけじめとして、伝えておきたかった。それに、先生も言っていたが、私自身も先生に会えたことを悪い事だとは思えない。……会えて、良かったよ……」


 言われてみれば、自分が忘れるつもりもないと言うのに、相手には忘れてくれというのはムシの良い話だったなと今では思う。

 そのまま自分を傷つける事なく優しく別れてくれた。

 ……やはり、あの人は今まで出会った男性とは全く違う。今更ながらにそう思えた。


「そりゃあ俺だってそう思うさ。出来る事なら、もっとあいつの力になりたかったんだけど……」

「私だってそうだ。でも、仕方がない。私達と先生とでは、文字通り住む世界が違うのだから」

「だよなぁ」

『……今の話は本当ですね』

「「は?」」


 声が聞こえてきた方向……上を見上げると、そこには銀色の髪をなびかせた少女……フェイが屋根の上から二人を見下ろしていた。


「お、お前は……確かレイジのとこの……」

『貴方達は、私の主人マスターレイジの力になりたいと言った。それは本心ですね?』


 とても年下(実際は違う)とは思えない言葉の迫力に、二人は慌てて頷いた。


「あ、ああ。言った」

「でも、あいつは俺達を仲間にする気は無いんだろう?」

『ええ、仲間とする事は無理です。ですが、なんらかの形で力になれる手段があるかもしれない……。そうだとしたら、お二人はどうしますか?』


 二人は顔を見合わせ、もう一度コクンと頷く。


「手段があるのなら……」

「当然力になりたい」


 そこに迷いも逡巡もない。

 嘘偽りのない二人の本心だ。


 共に肩を並べて戦う事は不可能でも、何か……何か別の形でレイジ達に貢献出来るチャンスがあるというのなら、願ってもない事である。


『分かりました。では―――』




◆◆◆




 さて、レイジこと俺はと言えば、ミカと別れてそのまま酒場に戻る気は起きず、なんとなく今の居住地である《リーブラ》へと戻っていた。

 《リーブラ》は、これまで同様に都市からは少し離れた砂漠の中にカモフラージュを施して停車してある。何というか最近はアルドラゴを拠点としていたから、随分と久しぶりな感じだな。


 ……ミカとのことは、あれで良かったのかなんて今でも分からない。

 きっと、この先数週間ぐらいの間はうじうじ悩むんだろう。


 俺は、一度目の告白の時は、安易に逃げて相手を悲しませてしまった。

 そら、今回も出来る事なら逃げたいと思ったよ。

 だが、俺だって男である。この三ヶ月、この世界で生きてきて、それなりに成長したつもりにはなっている。

 ここで逃げたら、この三ヶ月が無駄になる気がしたのだ。


 その結果があの返答である。

 今思えば、あんな無茶苦茶な返事なら、言わない方が良かったんじゃないかとも思うけどね。

 ……まぁ、相談できることでもないし、正解なんて分からないんだから仕方ない。

 大抵の事ならアルカに相談できるけど、こればっかりは無理だろう。


「あれ?」


 ジャンプブーツでもってピョンピョンと跳びながら《リーブラ》に近づくと、そこに既に先客が居た事に気づく。


『おや、ケイではないですか。宴会は終了したのですか?』

「アルカこそ、何やってんだ」


 その先客とは、うちのチームの一人であり、アルドラゴの暫定副艦長のアルカである。

 アルカにしては珍しく、何処かアンニュイな印象で佇んでいた。


『何をやっていると聞かれますと……何もやっていませんね。ただ、お空を見上げていました』

「空?」


 アルカの指す上空を思わず見上げる。


 時刻としては夜中になるので、そこにあるのは、文字通りの満天の星空だ。

 いや、星空だけでなくちょっとした惑星の形すら確認できる。こんなもの、地球ではお目に掛かれない光景だろう。

 ……この世界に来てから、もう珍しい光景では無くなっていたのだが、改めてみるとやっぱすげぇな……と思うな。まぁ、今まで忙しかったから、星なんて見上げる事も無くなっていたし。


『情報ではなく、眼球から映し出される映像というものは、こうも美しく見えるものなのですね』

「おお、アルカでもそう思うか」

『ええ、人間の美醜感覚もそれなりに理解出来るようになりました。何と言うか、上手く言葉に表現できませんが、ちょうど胸のあたりの体温が高くなるというか……』

「ハハッ、ますます人間に近づいていくな」


 まぁ良い事なんだよな。

 人工知能が人間に近づくと色々問題が起こるのは地球の映画ではよくある事ではあるが、俺は俺の仲間がより人間らしくなっていく事がマイナス要素だとは思わん。


 そのままなんとなく俺もアルカも《リーブラ》の車体を背にしてぼんやりと空を眺めていた。

 思えば、アルカと二人だけでこんな何もない時間を過ごすのはいつ以来か……。この間まではシグマ対策にあーだこーだとコンビネーションを磨いたりプランを練っていたりしたが、こんな小一時間黙ったままと言う事は無かった気がする。この世界に来たばかり間頃は常に一緒で、むしろ傍にアルカが居ないと不安でしょうがなかったのだが、いつの間にか別行動する事も平気になっていたな。

 人間、なんだかんだ言って慣れる生き物なんですね。


「そういや、最初にも聞いたが、なんだってアルカはこんな所に一人で居るんだ?」


 思い出したように尋ねる。

 なんとなく誤魔化されたが、考えてみたらアルカが一人だけで行動するなんて実に珍しい事である。大抵俺と一緒に行動か、もしくはルークフェイと一緒だろうという認識でいた。


『はぁ、なんとなくあの酒場に戻りづらい理由があったものですから……』

「理由?」

『……む。気になりますか?』

「いや、言いたくないなら別に聞かないけどさ」

『いえ、一応報告しておきましょう。

 ……実は、セージさんことセルジオ王から求婚されました』

「へぇ」

『………』

「………」


 ………

 ……

 …


「……ってはぁ!? 求婚!???」

『良かった。このまま流されるのかと少しヒヤヒヤしました』


 いやいや待て待て。

 求婚っていうのはユリの根っことかじゃなくて、男と女がするアレだよな。

 アルカに求婚するってどんな冗談―――って、そういやエメルデイアで活動していた頃も、その手のネタってあるにはあったか。

 忘れていたけど、アルカってば超絶美女だし、腕っぷしも強い。普通に人間だったとしたら、超有用物件じゃんか。そりゃあ、セージだって恋もするか。

 それは理解できるが……何か色々と想像しにくい。というか、何故だかしたくない。


「……で?」

『で……とは?』

「ど、どうすんだよ。なんて答えるつもりだよ」


 まさか、ここで一人佇んでいたというのは、どう返事するべきか迷っていたから……とか?

 もし了承したとしたら、俺は一体どうすればいいのだ!?

 昔みたいな二人だけではなくなったとはいえ、アルカが居なくなった後の冒険とか、想像すらできないぞ。

 とか、よくよく考えたら見当違いな事を思い浮かべて混乱していたら……


『は? なんても何も、当然お断りしましたけども』


 至極あっさりとした答えが返って来た。


「え? 断ったの?」

『というか、何故私が人間の求婚なんぞを受け入れなければならないのですか。まさかとは思いますけど、ケイは私がどういう存在か忘れているのではないでしょうね?』


 ぐいっとアルカのこれまた美しい顔がどアップで詰め寄ってくる。

 うが!! そうだった。何故かドギマギして失念していたが、アルカはアルドラゴの管理AIではないですか。

 求婚なんざ受け入れてどうすんだって話ですよ。


 ホッとした。

 完全にこっちの早とちりだったけども、すんげぇホッとした。


「そういう訳じゃないが……そうだよな。断ったんだよな。だったら何も問題は無いよな」

『はい。私はケイの傍に居なければならない存在ですので、貴方の要望に応えるつもりはありません……ときっぱり言いました』


 ど直球のぶった切りかよ。

 そりゃあ、言われたセージはショックだろうに。


『最も、セルジオ王は笑顔で「やっぱり……そう言うと思っていたよ」と言いましたが』

「え? 何それ……」

『さぁ、詳しくは聞きませんでしたが……「そう答える事は予想していた。あわよくば……という思いはあったけどね」とか言っていましたね』

「……ミカと同じような事言いやがって……」

『? ミカさんがどうかしましたか?』

「いやいや、なんでもねぇよ。それにしても、今後セージの奴とは会いにくいな」

『ええ、ですからこうして先に戻ったわけですから』


 という事は、あの酒場にはゲイルだけが残っている訳か。

 ルークはラグオ君を送って行ったし、フェイはいつの間にか消えていた。何か申し訳ないが、俺もミカとは会いにくいから、今日は酒場には戻れなそうだな。

 ……まぁ、何かあったら連絡くれるだろうよ。


 そこまで考えた所で、なんだか身体の力が抜けて来た。

 ……別に今日は戦ってないんだけどな。


「ふぃー、何か疲れたな」


 俺はそのまま車体に背を預けたままドカッと砂の上に座り込んだ。

 この付近に魔獣は居ない事は確認済みだし、あのゴッド・サンドウォーム出現の影響でこの砂漠一帯の魔獣の生態系に色々影響が出ているみたいだからな。当分、通常タイプの魔獣とか姿を現さないんじゃないかなと予測されている。

 だから、こうして砂漠の真ん中でのびのびする事だって出来るのである。


『ケイは、満足されたのですか?』

「まぁ、食欲だけはな」


 その後に色々あったせいで、ドッと疲れたんだけど……まぁ今更言っても仕方がないだろう。

 チラリと視線を横に向けると、俺の隣にアルカもちょこんと座っている。

 

「アルカは満足したのか?」

『食事を楽しむという点でしたら、かなり楽しめました』


 そうか、楽しめたか。

 なんかアルカ達からそういう言葉を聞くと嬉しいもんだ。

 ルークはゴゥレムやら新ビークルをいじっている時が心底嬉しそうなんだが、アルカはそういった一面は見せないものな。

 ここはちょいと深く尋ねてみるか。


「……そういや、お前って何か欲しいものとか無い訳?」

『何ですか、急に……』

「いや、食事とかも出来るようになったんだったら、ますます今後はお前達の希望とかも聞かないといけないなと思ってな。俺ばっかり世話になっているから、せめて何か報酬とか与えてやんないと悪いだろう」

『報酬……ですか……私、特に物欲は無いのですが』

「金はあるんだし、何か私物とかあってもいいんじゃないか? それじゃなかったら食い物とかでもいいぞ」

『……ケイは、私を食いしん坊キャラにしたいんですか』


 そういやアルカ達には胃袋があるわけでもないのだから、食べようと思ったら際限なく食べられるんだった。

 そういうキャラになったら、それはそれで恐ろしい。


 アルカはしばらく「むー」と悩んでいたようだが、やがてパッと顔を明るくする。


『……そうですね。欲しい物はありませんが、ケイにやってもらいたい事ならあります』

「や、やってもらいたい事? なんだよ、罰ゲームみたいな変な事は御免だぞ」

『いえ、そういう事ではありません。それに、ケイにも容易に出来る事だと思われます』

「その容易ってのが不安なんだけどさ……なんだよ、一体」


『頭を撫でてください』


「………はい?」

『ケイの記憶にあった、褒められるような事があったら頭を撫でるという仕草があるじゃないですか。あれを是非やってもらいたいのです!』

「い、いや……あれは親が子供にやったりとか、ペットにやるようなもんだろうが」

『私、今回頑張りましたよね!』


 再び、ぐいっと美しい顔がどアップで迫って来た。


「が、頑張ったね」

『この世界に来てから、ずっとケイと二人三脚でやってきましたよね!』

「や、やって来たね」

『ですから、是非とも褒められるというのを経験してみたいのです! さあ、やってみてください』

「い、いや……あの……ああ! もう、やれば良いんだろう!!」


 褒めるだけなら、もっと他に方法があると思うんだけど……とにかく、アルカの勢いに負けた俺は、そのまま目の前にあるアルカの頭に手を置き、そのままポンポンと軽く叩く。


『いえ、そうではなく、撫でて下さい』

「うぐぐ……」


 何故か震える手でそのまま、わしわしといった感じにアルカの頭を撫でた。

 髪の毛がツルツルしていて、体温も感じてほんのりあったかい。

 考えてみたら、アルカどころか大人の女性の頭部に触れるなんて、これが初めてじゃねぇのか? 家族相手でもやったことねぇだろ、こんなの。

 ……あぁ、やべぇ。なんか、すっげぇ緊張してきた。


 そして、顔が熱くなるのを感じてそのまま視線をアルカの顔に向けると、彼女はにっこりと笑顔を浮かべている。


『なるほど、確かにこれは嬉しいとか、安心するという感情ですね。そうですね、これからはケイからの報酬はこれに―――』

『ああーっ!! いいなぁーっ!!!』


 突然飛び込んできた能天気な声にビビって俺は思わず手を離した。

 そして、声のした方を振り返ると、ルークがこちらに向かって駆けている最中であった。


『リーダー、ぼくもそういうのやってもらいたい!! やってよ!!』

「おう、お前に対してなら、いくらでもやってやる!!」


 飛び込んできたルークに対して、わっしゃわっしゃと髪を掻き毟るように手に力を込める。


『わーい、頭が揺れる揺れるよー』


 つい力を込めて、頭まで掴んでぐわんぐわん揺らす。

 なんか、自分の中の恥ずかしさを払拭するかのように、必死で撫でる……というか揺らす。


『こらケイ! なんでルークにはそんな積極的で、私には全然やってくれないんですか!』

「うるせえ、報酬はもう終わりだ!! もう絶対に聞かないからな!!」

『こらー! さっきと言っている事が違うじゃないですかー!!』


「おやおや、いつの間にか宴会がお開きになって帰って来てみれば、こっちは随分と賑やかになっているでござるな」

『やはり、皆さん仲が良いのですね』


 いつの間にか帰って来たらしいゲイルとフェイの呆れたような声が聞こえる。


 あぁ、賑やかでよろしい!!

 これからも皆でわいわいと騒ぎながらやって行きたい。


 それが、俺の切なる願いだ。




 第4章、遂にラスト1話になりました。

 ……長かったなぁ……。

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