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133話 宴




 んでもってその宴会の日。

 招待されたのはアルドラゴの正式メンバーという事で、俺、アルカ、ルーク、ゲイル、フェイの5人でその酒場を訪れる事にした。

 フェイはギリギリまで行く事を渋っていたが、せっかくちゃんとした仲間になったのにハブるのは嫌だという事で、半ば強引に連れて来たのである。


「言っておくが、ルークとフェイは酒を飲むなよ。強要されても断れよ」


 見た目完全に子供である二人に厳重注意しておく。

 すると、フェイがおずおずと挙手した。


『あの……私達の外見なんてものは完全に見かけだけのなのですが』

『そもそもお酒とか飲んだところで、酔っぱらえる訳じゃないけどね』

「そんな事知っとるわ。ただ、子供が酒を飲むなんて、あんまり良くは無いだろう。っていうか、そもそも俺が見たくない」


 一応この世界、飲酒は成人認定となる15歳からオッケーという事になっているが、別に飲んだところで刑罰が下るという訳でもない。完全に倫理的な問題と、自己責任である。

 という事で、17歳である俺も規定上は酒を飲めるのではあるが、俺としては別に飲みたい訳でもない。出来ればジュースとかの方がいいよ。


「拙者も酒よりはお茶の方が良いでござる」

「だよなー」


 生身の人間同士である俺とゲイルは顔を見合わせて頷きあった。

 ちなみにゲイルの実年齢は20歳を超えている。正確な部分は濁したが、エルフと言えば不老というイメージがある為、実はもっと年上という可能性もありそうだ。……うん、となるとこのメンバーの中で俺が一番最年少という事になるのだが……この件は深く考えないでおこう。自尊心に関わる。


 そんな馬鹿話をしていると、第一都市ラクシャの宴会会場となる酒場へと辿り着いた。

 ……なるほど、貸し切りという言葉は正しいようで、周囲に人影や人の気配は一切感じられない。酒場も照明こそ点灯しているが、いわゆる活気的なものが感じられない。

 この付近一帯は人払いでもされているのだろう。


「宴会って言っても、何人くらい集まるんだ?」

『そうですね……学生さん達は不明ですが、セージさん、ミカさん、ジェイドさん、ブローガさん、ドルグさん……私達も含めて10人程度ではないかと』

「まぁ、そんなもんか。でも、それで酒場を貸し切りってのも凄いもんだ」


 王様の権力……というよりは財力行使といったところか。

 あんまり良い事ではないのだろうが、宮殿に招かれて……なんて状態になったら、俺達が困る。かと言ってセージの立場上、普通の酒場で会うというのも難しい。

 となると、こうなるのも仕方ない訳か。


 やがて、ふぅとひと呼吸置いた後、俺はその酒場の扉を開いた。

 酒場の中には、アルカの予想通り見慣れた者達の顔が並んでいる。


「やぁ、ようこそ!」

「先生! 本当に来てくれたのか!!」


 セージが笑顔で出迎えると、顔を紅潮させたミカが小動物かのような勢いでこちらに駆け寄ってくる。とりあえずサッと避けておいた。


「よう、これで主役が揃ったな」

「考えてみたら、お前達とこういった場所で飯食うなんて初めてだよな」


 ブローガさんが手に持ったジョッキを掲げると、ジェイドが腕を組んでうんうんと頷く。その横でドルグが黙ったまま目を閉じて椅子に座っていた。

 これでメンバーは終わりかと思われたが、その中に意外な顔を発見した。


「おおいルーク!!」

「あんれぇ、ラグオ君!?」


 ドルグの横で大きく手を振る小太りの少年は、ルークの友人にして弟子であるラグオ少年であった。

 ひょっとしたら他の学生メンバー達の姿もあるのかと思ったが、確認できたのは彼だけだった。


「ラグオ君もお呼ばれしたのかい?」

「うん。どうしようか迷ったけど、下手したらルークに会う機会はもう無いかもと思ってね」

「うーん……ほとぼりが冷めたら会いに行くつもりだったんだけどね」


 ルークはラグオ少年の横に座り、俺達もそれぞれ席に座る形になった。ちなみに、俺が座るとそれを挟むようにしてアルカとゲイルが座る。そして、俺の対面上にはミカが座り、アルカの向かいにはセージが、ゲイルの向かいにはジェイドが座っている。


「良かった、アルカさんも怪我が無いようで何よりです」

「うぐぐ……先生の隣は私が狙っていたのに……」

「よう、お前とは前から話したいと思っていたんだよ」

「拙者でござるか?」

「レイジとは俺の方が先に知り合ったってのに、なんでてめぇみたいな奴が俺より先に仲間になってんだ。その辺詳しく聞かせてもらおうか……」

「すまないが、始めるなら早い所始めない?」


 なんか、てんでに喋り出したので俺が号令をかける形になった。


「そ、そうだね。このメンバーで今更堅苦しい挨拶をしてもしょうがないし、じゃあ乾杯といこうか。って事で、レイジ君よろしく!」

「んな!?」


 いきなりとんでもないバトンを渡された。

 お、俺に乾杯の挨拶を任せると言いますか?

 生まれてこの方、飲み会なんぞに参加した事のない自分に!?


 こ、この場合どうしたら良いんだ?

 祝辞を述べる? いや、それは結婚式か? くそう、混乱して何も出て来やしねぇ。


『ケイ、この場合ただ単に乾杯でいいのではないかと……』


 困っていたら、隣でアルカが小さな声で助け舟を出してくれた。

 そ、そんなシンプルで良かったのか!!


「え、えーと……とりあえず、かんぱーい!!」

「「かんぱーい!!」」


 俺が掛け声と共に目の前のジョッキを掲げると、他の皆もそれに合わせてジョッキを掲げるのだった。

 うむ、この挨拶は異世界でも共通のモノらしい。


 大役も終わったことで、俺はジョッキに注がれた飲み物を口へと運ぶのだった。

 ちなみにであるが、ジョッキへと注がれているのはこの世界でいうビール的な飲み物である。当然、アルコール類が飲めない俺にとってはまともに飲める代物ではないのだが、そこはとんでもチートアイテムが揃っているアルドラゴだ。飲み会の場で飲まないというのも失礼にあたるだろうという事で、俺の持っているジョッキの中には、あらゆる液体を真水へと変える事が可能な薬が溶かされているのだった。

 元々はサバイバル用のアイテムで、真水の無い場所で飲料水を確保する為のものなのだが、これを使用する事でビールのアルコール成分は消え去り、見た目は変わらずに水を飲んでいるようなものと変わらなくなる。

 これで、年齢的にも好み的にも飲めない酒を飲む必要も無くなった。

 ただ、ずっと水ばっかりは飲んでいられない。そこは我慢するしかないが、大人はよくこんな飲み物ばかりを延々と飲めるものだなと感心してしまう。

 

 ちなみに、酒場という形ではあるが、実際は各テーブルにあらゆる料理が盛られていて、いわゆるビュッフェ形式になっている。

 この料理は、料理人とかをわざわざ呼んで用意した物なのかね? 酒場の調理人達じゃあここまで揃えられないんじゃないかと勝手な想像をしている。

 まあ、何はともあれ食事だ。

 こればっかりはアルドラゴに引きこもっていたら味わえないものであるから、ここぞとばかりに堪能させてもらいましょう。


『ふむ……ケイ、これは何でしょう?』

「わからんが、魚をどうにかしたものじゃないか?」

『ではこちらは?』

「サラダだな」

『これがサラダというものですか。では、こちらは……』

「肉だな」

『お肉をどうしたものでしょう?』

「知らん。俺の知っている調理法は、焼くか蒸すか揚げるかくらいだ。後、レンジでチン」

『そうでしたね。ケイの知っている料理のレパートリーとやらは極僅かでした。それにしても、こんなにも多種多様に作れるとは……人間の食に対する追及というのは見事なものですね』

「だよなぁ、俺もそう思う」


 俺が料理を取る為に席を立つと、さも当然のようにアルカが隣に立って共に料理に対するあれこれを言い合っている。


『ケ、ケイ! これは……この黄色くてプルプルしたスライムのようなものは何ですか!?』

「アルカ……それはプリンというものだ。……おそらく。この世界にもあるんだな……」

『プ、プリン! ケイの知識にある甘いデザートというものですね! では早速―――』

「馬鹿! デザートというものはメインの食事を終えてから食べるものだ。肉や魚を食う前にいきなり甘い物を食べてどうする!」

『うぐ……そ、そうなのですか。心苦しいですが、ここは我慢しましょう』

「それと、いきなり大量に盛っても食いきれないからな。ここらで一旦打ち止めにしよう」

『了解です』


 そのまま皿を持って自分の席に戻ろうとしたら、背後にいつのまにかミカが皿を持って立っていた。

 しかも、何やら引きつった顔をしている。


「おおすまんな、邪魔だったか?」

「い……いいえ、大丈夫です」


 てっきり俺の立っている位置が邪魔だったのかと思っていたが、ミカは力なく首を振るのだった。……何やら気落ちしている様子だが、好みの食べ物が特に無かったのだろうか?

 席に戻るとブローガさんとドルグは食いよりも飲みを中心のようで、ガハガハと語り合いながら次々にジョッキを空にしている。


 ルークはラグオ少年と語り合いながら箸を進めているし、フェイはテーブルの隅でちびちびとドリンクを飲みながら食事を続けている。

 ゲイルはと言えば、何やらジェイドに絡まれている様子だ。

 申し訳ないとは思うが、向こうからのヘルプが無い限りは放置しておこう。……めんどくさいし。



 さてさて、そろそろ気になっている方達もいるかと思うが、アルカ、ルーク、フェイの食事事情について説明しよう!


 以前にもちょろっとだけ解説した事はあるが、結論から言って彼等AI組は食事をする必要は全く無い!

 だが、可能か不可能かで言われれば、実は可能である。

 食物の栄養素を摂る必要はないが、食物に含まれている微量の魔力を摂る事によって、多少の魔力回復効果は見込めるのである。

 そして、体内に流し込まれた物質は完全に分解され、彼等の肉体の一部へと変化する。最も、彼等は肉体の密度を変える事が可能なので、いくら食べても太る事はないというある意味羨ましい構造になっている。

 また最近知ったのだが、いつの間にか味覚を感じ取る機能も盛り込まれていたらしく、料理を食べたら美味しいと感じる事も出来るのだとか。

 と言っても、栄養を摂る必要性も無いのに食べる事も無いだろうという事で、いつもはその機能をオフにしていたのだとか。


 が、今回ばかりはおもてなしを受ける側という事で、解禁してもらった。

 しかし、どんどん人間に近付いていくのね。……まぁ良い事である。


『さぁて、これがパスタというものですね。さぁ、食べますよー』

「ちょい待ち。食べるのはいいけど、何故に二刀流なのだ?」

『え? こういうものではないのですか?』

「片手にスプーンとフォークというスタイルならば無い事もない。だが、お前の場合は両手にフォークだろう」

『よく分かりませんが、倍食べられるから良いのではないですか?』

「よくねぇよ。口は一つなんだから、フォークも一つでいいんだよ」

『そうなのですか。食事とは面倒なのですね』

「いや、全然面倒じゃないから」


 そんな馬鹿話をしながら、俺達はようやく食事を開始した。

 気になってアルカをちらちら見ていたら、彼女はうんうんと頷きながらひたすらに口の中に料理を放り込んでいる。


『はむはむ……なるほどなるほど……』

「頼むからもうちょいスピードを抑えろ。傍から見ると大食いタレントみたいだぞ」

『むぅ、マナーは守っていると思うのですが』

「普通の人間は、そんなスピードで咀嚼や消化は出来ねぇんだよ」

『ケイこそ、口元が汚れていますよ』

「やめろ、恥ずかしい、拭くな!」


 くそう、アルカの食事の仕方が気になって自分の事が疎かになっていたか。


 ……ん?

 そこでこの場に居る周囲の視線の半数が俺達に注がれている事にようやく気付いた。


「な、何? 何かあったの?」

「い、いや……その……君達はいつもそんな感じなのかい?」


 アルカの正面に位置しているセージが引きつった笑みを浮かべている。

 俺の正面に座っているミカなんて、何か顔が青ざめているぞ。


「そんな感じ?」

『?』


 俺とアルカは顔を見合わせて首を傾げる。

 何だろう、アルカの爆食を見て引いたのだろうか?


「まあ、大体こんな感じにござる」

『そうですね、皆さん仲がよろしいので』


 すると、何故か澄ました声でゲイルとフェイが声を出すのであった。

 意味を問い質そうとすると、セージはまたも引きつった顔で頷く。


「そ、そうなんだ……分かったよ」


 何が分かったと言うのだろう?

 問い質したいが、聞いちゃいけないような空気も感じる。……後で、ゲイルにこっそり聞いてみようか。




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