132話 宴会へのお誘い
「オールンドのおじいちゃんから聞いていたけど、本当に唐突に現れるのね、アンタ」
ギルドの門を通さずに、突然部屋の中に現れた俺(実際には魔晶モードのアルカもプラス)を見て、ルーベリー第二都市マイアのギルドマスター……アグヴェリオは「ハァ」と軽い溜息を吐いた。
あ、一応アポなしではないですよ? 今日のこの時間に訪れますっていうメモは昨日の時点で渡しておいたよ? まぁ、部屋にこっそりと忍び込んで置いておくってスタイルだったけども。そして、アポの返事は聞いてないけども。
一応、セージ……じゃなくて現ルーベリー王の警護やフィリア王女の護衛は、このギルドマスターより請け負った仕事だからな。きちんと報告しておいた方が良いと思ったのだ。
まぁ、あれから一週間が経過していて、それなりに騒動のほとぼりも冷めた頃だろうというのを見計らって来たんだけども。
「正直、アンタら一体何者なのよ!!……とか、よくも面倒な事後処理を全部こっちに放り投げてくれたわね!!……とか、言ってやりたい気分だけども、まあそこは大人だからね。成果は成果として、受け入れるとするわ」
いや、言ってるじゃないっすか。それもいちいち机をバンバン叩いて、怒りをアピールして。
と、言おうと思ったが、飲み込む事にしました。未成年ですが、俺も大人の世界に染まったと言う事なんだろうか?
「それにしても、想定の遥か斜め上を行く事態になったわね。王子様の警護だけで良かったのに、まさかクーデターまで未然に防いでくれちゃって、しかも何なのよあの馬鹿でかいサンドウォームは。壁の向こうにアレが見えた時は、いくらアタシでも人生終わったと思ったわよ」
「いや、あのサンドウォームの件は俺達のせいじゃないです」
「でも、倒したのはアンタ達でしょ?」
「………」
あまりにも確信があるという感じの言葉だったので、俺は咄嗟には言い返せなかった。
俺が一瞬口ごもっていると、アグヴェリオはフッと笑い、
「あぁ、いいわよ。別に何も言わなくても、まぁ多分アンタ達なんだろうな~っていう予感があっただけだからね」
「良いんですか?」
「まぁ聞きたい気持ちはあるけども、ハンターなら自分の秘密をペラペラ喋るもんじゃないわよね。っていう事で、今回は遠慮します!」
「あ、ありがとうございます」
俺がペコリと頭を下げると、アグヴェリオは「ハァ」とため息を吐く。
「はぁ……あんだけ凄い力を持った奴に頭を下げられるなんて、なかなかない機会よね。もうちょっと高圧的でも良いんじゃない?」
「そ、そうですかね? まぁ、こういう性分なもんで」
高圧的な相手には高圧的で返すけども、丁寧な対応してくれる相手にそれは失礼でしょう。これでも地球人代表として、恥の無い行動はとっていきたい。
「まぁ、悪い気はしないから良いわ。で、事後報告が聞きたいのよね」
「お願いします」
そして、俺達はサンドウォームを撃破後に何が起こったのかを聞いた。
セージが正式に王になった事、
クーデターの主犯であるラルドなる男が逃亡中である事、
フィリア姫がアカデミーを中途卒業し、正式にハンターになる事、
そのお供として、あのアカデミー学生達が同行する事。
「それとね、遂に第一都市ラクシャにうちの支店が出来る事になったのよー!!」
「あぁ、それがギルドの最終目標だったのですね」
「そりゃあ、第一都市と第二都市とじゃあ、住んでいる人の桁が違うんだもの! これからは、もっとガッポガッポ稼がせてもらうわよ!! もうギルドマスターの定例会議で肩身の狭い思いしなくて済むんだから!!」
なんか、世知辛い現実を垣間見た気がした。
ファンタジーの世界といえども、住んでいる者は所詮人間らしい。
「ええとじゃあ、もう護衛の件は良さそうですね。それじゃあ、俺達はこれで……」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 報酬の件はどうするのよ!!」
その言葉で、ああそういうのがあったなという事を思いだす。後半はほぼ自分達の都合で動いていたせいもあってか、報酬って概念をすっかり忘れていた。
「いえ、色々と迷惑もかけましたから、この件で報酬を貰うっていうのはちょっと……」
「ほ、本当にアンタ、ハンターなの? 駄目よ、もっとお金に執着持たないと!」
「そうは言ってもなぁ」
俺達は困ったように視線を胸にある魔晶へと向ける。
「そんなに必要じゃないもんなぁ……」
『ですよね』
特にお金には苦労していないし、そもそも目的が達成したらこの世界から出るのだから、あまりこの世界の通貨を溜め込んでも仕方がないというか……。
ぶっちゃけ、金を使うとしたら俺とゲイルの食事代くらいなもんなんだよね。服も住むところも娯楽でさえもアルドラゴがあれば十分だし。
「じゃあ、お金じゃなかったら欲しいものとか無いの? アタシの権限で都合がつくなら、融通出来ない事もないけど」
「う~ん………」
『ケイ、でしたら……あの件の相談をするべきでは?』
「おお! そう言えば、ギルマスには聞いとかなきゃいけない案件だったな」
アルカの言葉により、俺はそう言えば欲しいものがあった事を思い出す。この人に直接関係ある事ではないけど、話は通しておくべきだろう。
「なるほどねぇ……。確かに、そのままだとちょいとややこしくなるわね。と、なると―――」
俺が相談すると、アグヴェリオ氏は相談に乗ってくれた。
まぁ、この報酬の件についてはまた後日説明するとしよう。
「あぁ、色々あって忘れる所だったけど、はいこれ」
これでこの件は終わりだと判断し、そのまま去ろうとした俺に向けて4枚のカードを放り投げた。
そのカードは金色で彩られており、この世界の文字でこう書かれていた。
“A”
つまり、ハンターのAランクカードである。
この世界にはSランクとかないから、事実上のハンター最高ランクの称号である。
そして、アルカとルークはそれぞれCランク→Bランク、ゲイルはDランク→Cランクに上がっていた。
「いや、これはどういう……」
「Aランクに昇格する条件の一つに、ギルドマスター直々の依頼を解決するっていうのがあるの。で、今回でそれは解決。更にもう一つの条件が、難易度判定A以上の依頼を解決する事。今度のクーデター未遂解決事件はどう考えてもA以上でしょう。で、それも解決。という事は、Aランク昇格おめでとうって事!」
「聞いてないんだけど」
なんか、なし崩し的にAランクハンターになってしまったようです。
正直、この件が終わったらハンター活動続けられるかどうか怪しかったから、ハンター辞めるっていうのも選択肢にあったのよね。
なのに、こういったものを貰っちゃったら、まだ続けてみようとか思うんだよな。
あんまり目立ちたくないとか、評判が上がるのは嫌だとか言ってるくせに、それなりに頑張って来た成果が形になって現れると、やっぱり嬉しいんです。
……まぁ、本気でAランク目指していた訳じゃないんだけどさ。
「でも、さすがにこの国でハンター活動はもう控えた方が良いかもね。色んな意味で目立っちゃったし、闇ギルドにも目を付けられたかもしれないわよ」
「ギルドマスターの言葉とは思えないですね」
「そりゃあ、強いハンターを抱える事は、ギルドマスターの冥利に尽きるわよ。でも、アンタはとてもじゃないけど、アタシが抱えきれるレベルとは思えないし。もっと世界に羽ばたいて来なさいよ」
「……ありがとうございます」
俺はとりあえずそう言うしかなかった。
頭を下げる俺にアグヴェリオはウンウンと満足気に頷く。
「腰の低いAランクハンターも悪くないわね。まあ、アンタはアンタのなりたいハンターを目指しなさいな」
俺はもう一度頭を下げ、そのまま踵を返して去ろうとした―――が、その背に待ったがかかる。
「あ、ちょっと待ってちょうだい。実は、言伝を頼まれているのよ」
「言伝?」
「はい、これ。あの王子様……じゃなかった王様からよ」
「セージから……」
受け取った紙に書いてあったのは、
“チーム・アルドラゴの皆さんへ宴会の誘い”
「宴会?」
まさか、祝賀会とかそういう事か?
そういった堅苦しい場や国を救った英雄として祀り上げられるような場に出るのは勘弁だって伝えてあるんだが……。
「そういった場じゃないみたいよ。ほら、会場は王宮でもなんでもなくて、第一都市の酒場でしょう。ただ、貸し切りにはするみたいだけど」
「本当だ」
場所は確かに第一都市の中心部よりちょっと外れた酒場になっている。
日にちは、明後日の夜か。
「俺、酒飲めないんだけどな」
未成年だしな!
ぶっちゃけ、子供の頃に親父に騙されて焼酎を飲まされた事があって、それ以降酒を飲みたいとも思えないのである。よって、飲酒の憧れは一切無いのである。
「あら意外ね! ……でもまぁ、そういうもんかもね。ところで、アンタって幾つなの?」
「17ですけど」
俺が言うと、アグヴェリオ氏は盛大に噴き出した。
「じゅ、17!? 幼く見えるとかそういうのじゃなくて、本気で若いの!? それなのにその強さってどういう事よ!!」
あ、年齢の事でこんだけ驚かれたのって何気に初めてかも。
そうか……今までは俺の事、外見は若く見えるけれど、実年齢はもっと上とか見られていたのかな?
それに、自分でも色々と麻痺していたけども、俺ってまだ17歳だったんだなぁ。地球……というか現代日本じゃ未成年で酒も煙草もダメ。R指定の本やDVDだって買えやしねぇ。……いや、買う気もないけどさ。
コミックとかアニメじゃあ凄ぇ未成年キャラは星の数ほど居るけど、まさか自分がその仲間入りを果たしていたとは。
とは言え宴会か……。
誕生パーティーとかならまだしも、宴会ってのは初体験だ。果たして、どう返事をしたもんか……。
「悩む余地があるんなら、出てやんなさいよ。アンタ達、このままルーベリーを出るんでしょ? あの子は一国の王様になっちゃったし、下手したらもう会えないかもしれないわよ」
……そうだな。
悩んでいるという事は、天秤にかけているという事。俺の中で、このままさようならというのは良くないという気持ちもある。
宴会うんぬんは置いといて、きちんと挨拶はするべきだろう。
「分かりました。出席させていただきます」
「よろしい。それじゃ、多分アタシは出られないと思うから、恐らくはこれでさようならね」
「……そうなりますか」
「それじゃあね。また、縁があったらお会いしましょう」