131話 ルーベリー王の雑務処理
ルーベリー王国建国以来の大事件……戴冠式クーデター事件及び、神級サンドウォームの襲来事件が収束し、およそ五日が過ぎようとしていた。
王宮の執務室で、ルーベリー王国の新たな王……セージことセルジオ王は朝焼けを見ながら自らの眉間を押さえていた。
ちょうど今、この5日間で溜まりに溜まっていた仕事……主に書類の確認作業が終わったところだ。
「全く……このあいだまでただの冒険者だったっていうのに……」
思わずそんなぼやきが出るが、これでも幼き頃から英才教育を受けてきた身である。3年のブランクがあっても、この程度の事務仕事をこなす事に問題は無かった。
まぁ、問題ないからと言って疲れないという訳では無い。だって人間だもの。
ふとその時、コンコンと執務室の戸が叩かれた。
入室を許可すると、騎士の一人が戸を開けて入って来た。
「失礼いたします!!」
「要件はなんだい?」
「逃亡犯の件でご報告があります!!」
逃亡犯……つまり、クーデターの首謀者であるラルドだ。
奴は、クーデターを鎮圧した際、一度身柄を拘束した筈だった。
だが、サンドウォーム侵攻のゴタゴタの際、混乱に乗じて逃走を図ったのだという。いや、図ったどころか事実逃亡している最中なのだ。
セルジオとしても、優先順位として民衆の避難を優先せざるを得なかった。
最も、共犯である王妃をはじめとした第二王子派と呼ばれる一派はそのほとんどが拘束済みだ。ラルドの私財も全て差し押さえ済みであるから、その身一つで何が出来るのかという話でもあるのだが。
とは言え、このまま放置という訳にもいかない。
未遂とは言え、国家転覆を企てた重罪人だ。なんとか捕えて罪を償わさねばなるまい。
「仕方ない……指名手配だ」
「よろしいのですか? 我々では無くハンター達が捕えるケースもあり得ますが」
「このまま国外逃亡されるよりマシだ。それに、時間が経てば経つほど、奴の持つ情報が裏の組織や他国に漏れる危険性が高くなる」
そう。普通の罪人とは違い、身体一つしかないと言っても、ラルドは元内務大臣……頭の中にはルーベリー王国の秘密が詰まりに詰まっているのである。
早々に捕えねば、後々厄介な事になりかねない。
騎士は了承し、そのまま退室した。
セルジオは「ふぅ」と溜息を吐くが、彼が今日済ませる問題はこれ一つでは無い。スケジュールの関係上、今日しかこの時間を取る事が出来なかったから仕方ないのだが、これから怒涛の雑務処理が待っているのだ。
さて、まず一つ目の雑務処理……一時間後に彼の部屋を訪れたのは、セルジオの妹……フィリアであった。
「……お兄様」
フィリアはやや緊張した面持ちでこちらを見据えている。
やはり成長期の女の子。血筋のおかげもあって、美人に育ったなとセルジオは満足げに頷くのだった。
「やぁ、こうして面と向かって話し合うのは3年ぶりかな、フィリア」
「まずは、王位継承……おめでとうございます」
ペコリと頭を下げる姿を見て、セルジオはポリポリと頬を掻く。
「うんまぁ、なし崩しにそうなったんだけど……ありがとう」
「………」
その後、しばしの沈黙が続く。
セルジオはフィリアの言葉を待っていたが、彼女の方もどう切り出したらいいのかと迷っているようだ。
ここは、こちらから助け船を出すかな?
「あの……私は……」
「フィリアは、ハンターになりたいのかい?」
雑談から話を持っていく事も出来たが、セルジオとしても予定が詰まっている。ここは手っ取り早く本題に入る事に決めた。
「え!? あ、あの……その……」
「話は既に聞いているよ。そうだね……ハンターになる事がフィリアの本当にやりたい事なら、僕は止める事はしないよ」
「そ、それは……その……」
フィリアはしばし言い淀んでいたが、やがて眼を閉じて深呼吸する。そして、しっかりと正面のセルジオを見つめ、言葉を吐き出した。
「本当にハンターになりたいのかどうか……今の私には分かりません。でも、このまま王族の立場に戻るのだけは嫌です。私はもっと……もう少しだけ、友達と一緒に居たいんです」
そしてそれは、アカデミーに居ては出来ない事だ。自分が王族だという事はまだ生徒達には気づかれてはいないだろうが、周りの人間がいつまでも自分を放っておくとは思えない。
そうなれば、今までと同じように普通の生徒として通う事は難しくなるだろう。
セルジオは切実な瞳で訴えるフィリアを見て少しだけくすりと笑う。
そして、あの戴冠式の日に知った事をフィリアに語った。
「……フィリア、知っているかい? 元陛下……父上もかつて、王族の責務から逃れる為に家出をして、ハンターに身を落としていた事があったんだよ」
「え!? あ、あの……父上が!?」
驚くのも当然。セルジオでさえ、あのThe王というイメージしかない自分の父が、家を飛び出してハンターをしていた一面があったなど信じられなかった。
そして自分の境遇、フィリアの決断を聞き改めて自分達が家族なのだと実感する。
「やれやれ、僕もそうだったし、ルーベリーの王族は一度ハンターデビューするのが通過儀礼としてあるのかねぇ。となると、ヤサルもいずれなるのかな……」
クーデターの旗印……となる予定だった第二王子のヤサルではあるが、彼はただ巻き込まれたに過ぎず、ヤサル自身に罪がある訳では無い。
よって、セルジオとしては特別な罰を設ける予定は無かった。
が、やはり母親が投獄されて、叔父がクーデターの首謀者として指名手配されている今の状況は、10歳のヤサルには厳しい現実と言わざるを得なかった。今彼は、自室にこもって誰とも口を交わさない日々が続いている。
こちらもいずれ対処せねばならないだろう。
が、今は目の前のフィリアの問題である。
「で、では……」
「うん。一度、世間の荒波に飲まれてくるのも、いい経験になるだろうね。それで帰って来るも良し、そのままハンターになるのも良しとしておこう」
「ほ、本当に良いのですか?」
「ただ、一つだけ約束してほしい。必ず、身の丈にあった仕事を選ぶ事。そして……決して死んだりしない事」
「そんなの……保証は出来ないよ」
「あぁ分かっている。ただ、自覚だけしておいてくれればそれでいいよ」
正式なハンターとなれば、危険は常に隣り合わせだ。
自分だって、色んな助けがなければ三度程死んでいただろうなという実感はある。こうして死んでいないのは、ただ単に運が良かっただけだ。
「それと、父上にはきちんと話し合っておいた方が良い」
「え……」
「父上はもう長くない。下手をすれば、これが今生の別れになるかもしれない。だから、悔いのないようにきちんと自分の想いを告げておきなさい」
「……はい」
短い葛藤の後、フィリアは強く頷いてくれた。
そして最後にもう一度一礼すると、そのまま部屋から去るのだった。
フィリアは最後まで憂鬱そうだったが、あの時話した父の様子から察するに、今度こそ父もきちんとフィリアと向き合ってくれるだろう。
さて、問題一つ目終わり!
さぁ次だ!
その一時間後……続いてセルジオの部屋に現れたのは、フィリアの親友……ナティアであった。
「は、は、は、はじめてお目にかかります!! ナ、ナティアと申します。こ、このたびは……」
ド緊張しながらも必死で挨拶する様子のナティアを、セルジオはほほえましい顔で見つめていた。
……最初だけは。
「いや、君の正体は既に理解している。ここにはフィリアは居ないから、安心してその擬態を解いて良い」
セルジオがそういうと、今まで強張っていた筈のナティアの表情が、スッ―――と消え失せる。まるで、色が急に消え失せたかのような変貌であった。
「陛下、お久しぶりです」
「やぁ“影”。こうして顔を合わせるのは初めてかな」
「いえ、陛下の幼少期に侍女の一人として、一緒に遊んだことがございます」
「……全然記憶にないぞ。女の子の顔を覚えるのは得意なんだけど……」
「それが、私の仕事ですから」
「凄いなぁ、相変わらず」
フィリアの親友……ナティア。彼女こそが、常に影よりフィリアを守る為に遣わされた護衛……影である。
「聞くところによれば、フィリアの護衛は僕がルーベリーに到着するより前に、任を解かれたという話じゃないか。それなのに、何故こうしてあの子の傍に居るんだい?」
「……私が先王より承った命は、あの子を守る事です。確かに、上役からは陛下の護衛を担当するようにと命令を受けましたが、私自身納得がいかなかったもので」
「納得?」
「いえ、違いますね。あのままあの子を一人にしておけない……友として接するうちに、そんな気持ちを得ました。それに、先王からはフィリアという存在が護衛するに相応しくないと判断すれば、自分の好きにしろとも言われています。ですから、私の好きにしました」
「……つまり、護衛するに相応しくないから、傍に居続けたと?」
「あの子は王族としての責任と自覚が足りなすぎます。このまま王族として戻ったとしても、何もできる事はないでしょう」
「まぁ、幼くして母が亡くなったり、僕が居なくなったり色々とあったからね」
「アカデミーに在学中も、自分の好むものしか見ようとしていません。ですから、あの子はもっと色々な事を学ぶべきです」
「そのためにハンターになると?」
「人生経験を積む上では最適かと。良いものも悪いものも、選り好みせずにきちんと向き合うべきです。そのために、私はあの子に手を貸すつもりです」
「……だろうね。確かに、それは賛成だ」
フィリアのアカデミーでの立ち振る舞いはセルジオも聞いている。
友人と呼べるのは、今目の前に居るナティアこと影のみであり、それ以外に友と呼べる存在を作ろうとしないのだとか。
初めての友だからと大切にしているのだろうが、だからと言って視野を狭めるのではなく、もっと多くの事に目を向けるべしというのはセルジオも納得である。
実際、このまま王族の立場に戻れば、ただのわがまま姫と化してしまうだろう。
そういった面についても考えてくれる護衛が傍に居る。
それだけで、セルジオとしてはフィリアの事を羨ましいと思えてしまうのだった。
「やれやれ……君みたいな存在がもっと多く居れば、僕が命を狙われる事もなく、もっと平穏に暮らせたのかもしれないのだがね」
「勘違いしないでいただきたいのですが、全ての竜族が私のような存在では無いのだという事を理解していただきたい。私の場合は、幼き頃に受けたルーベリー王への恩を返す為に、貴方達に仕えているのです」
「あぁ、それは理解しているつもりだよ」
そう。
今の会話の通り、彼女……影はヒト族ではない。
かつてケイ達がこの世界に来た当初に遭遇した、竜神ファティマと同様の竜族の一人である。
力を持った竜族は、このようにして他種族の身体へと姿を変える事が出来る。最も、竜族は総じてプライドの高い種族であり、出来るとしてもこのように常時ヒト族の姿で存在している者はごく少数であろう。
どういった経緯で、竜族である彼女がルーベリー王族の護衛となっているのか……セルジオは断片的にしか知らない。
だが、何代も以前からルーベリー王族を守り続けている彼女は、下手をすればレイジ達以上に信頼できる護衛でもあった。
「君がフィリアの傍に居るのなら、僕は安心してあの子を送りだせる。どうか、あの子の事をよろしく頼みます」
そう言って、セルジオは影に向かって頭を下げる。
その態度に影は少しだけ表情を変化させて、窘めた。
「王がみだりに頭を下げるものではありませんよ」
「これは王としてではなく、一人の兄……家族としての頼みです。だから、問題はありません」
「……まぁいいでしょう。少なくとも、私があの子を見限るまでは、傍に居て守る事を約束しましょう」
「あぁ、本気で見限るような事があれば、事前に連絡をくれると嬉しい」
「そうですね……その時はよろしくお願いしますね!」
影は表情をスッとナティアへと戻すと、そのまま軽快な足取りで執務室を出て行った。
色々な女性を見て来たが、あそこまで見事に別人を演じる様を見せつけられると、下手をすれば女性不信になりそうだなとセルジオは思う。
さて、問題二つ目完了!
そして、一時間後……次にその部屋に案内されたのは……
「ど、どうも……」
「あ、あの……俺達……」
「私達……あの……その……アカデミーの生徒でして……」
「フ、フィルちゃんが王女様だなんて知らなくて……」
明らかに場違いな場所に呼ばれて、身体がガタガタと物理的に震えている少年少女……ここまで読んでくれた方で覚えている人も少ないと思うが、ケイ達がこのルーベリー王国に訪れた際に最初に出会ったアカデミーの生徒四人組である。
一応説明しておくと、
リーダー格のイーディス。
お調子者のランド。
イマドキ女子高生のリアン。
気弱だけど一番強い平民出身のエステル……となっている。
実は、彼等もあの戴冠式の日に広場には集まっており、混乱時の際はフィリアを守るようにとルーク達に指示されていたのである。
特に戦闘には役に立たなかったが、何気に全員ルークの指導によってそこそこのレベルアップは遂げていたのであった。
「あぁこれは公式の場じゃないから、緊張しなくても良いよ……とは行かないよね。まぁ、僕としては別に罰するつもりで呼んだんじゃないから、そこは安心してほしい」
ド緊張する四人に対し、とりあえず笑顔で応対する。
四人からすれば、下手な言葉を発すれば、即不敬罪になる場である。そりゃあ満足に言葉も発せられまい。
「え、じゃあ何のために……」
「これから言うのは、ルーベリー王としての言葉では無い。フィリア……君達にとってはフィルだったね。君達には、僕の妹の面倒を見て欲しい……」
「え? 面倒って……まさか、フィルちゃんの旦那さん……とか?」
確かランドと言う名の少年の顔が笑みに彩られる。
が、それはセルジオより発せられる無言の圧力によって霧散させられた。
「……念の為に言っておくけど、フィリアは仮にも第一王女だからね。もし、手を出したとしたらどうなるか分かっているよね?」
セルジオのその言葉に、四人は慌てて首を上下に動かした。うち一人は顔面が蒼白になっている。
「わ、わかっております!!」
「ならよろしい。面倒を見るっていうのは、今後ハンターとして一緒にチームを組んであげて欲しいって事さ」
その言葉に、四人は思わず顔を見合わせる。
「え? 俺達が……ですか?」
「知ってのとおり、フィリアは今現在身分を隠してハンターとして活動しようとしている。だが、未熟な女の子一人でやっていける程、ハンター業界は甘い世界じゃないって事は、君達も理解しているよね?」
全員、うんうんと頷く。
学生の身でありながら、それなりのハンター活動はしてきたつもりだ。危険度を読み違えて、命の危機にも遭遇したことはある。
「幸い、君達も未熟なハンターとは言え、その世界ではある程度場数は踏んでいるだろう。それに、レイジ達からある程度鍛えて、並みのDランクハンターと同程度というレベルにまでなっていると聞いている」
「Dランク!?」
「わ、私達……そんなに強くなったのかな?」
ちなみに、彼らの元々のランクはFである。低いと思うかもしれないが、魔道士見習いの学生ハンターであれば、ほとんどこんなものだ。
「欲を言えば、もっと強い者が側に居れば心強いけど、僕はこのルーベリーのハンターについて詳しくないし、信頼のおけない者にフィリアの素性を明かすのは危険だ。
だから、フィリアの素性を知っていて、そこそこの実力を持っている君達に、フィリアと共にハンターとして活動してほしい」
「で、でも俺達……まだまだ学生の身だし……」
「とてもハンター活動に専念出来るとは思えないよね」
「そ、そうよね。卒業しないと、親に何言われるか……」
「お、俺は別にいいかな。フィルちゃんとナティアちゃんと一緒のチームなら……」
「ランドと言ったね。やはり、君だけはこの話は無かったことにしてもいいかな?」
「い、いいえ! 俺も本気でハンターになるって言ったら、親にぶっとばされます!! ……あれ?」
セルジオが冷たい目で睨み付けると、ランドは慌てて他三人に同調した。しかし、これではまるでハンターになる事を引き受けて欲しいのか欲しくないのか分からないではないか。
「まあ君達がそう言ってくれて良かったよ。ここで素直に肯定されたら、それこそ頼みを取りやめようと思っていたからね」
セルジオの言葉に、四人は再び顔を見合わせる。
そして、ポンと机の上に置かれた四枚の紙に目を向ける。
「これは、アカデミーの学長に向けた卒業資格の嘆願書と推薦文だ。ルーベリー王直々の署名も済ませてあるから、まず受理されるだろうね」
「え? ……って事は……」
「俺達、アカデミー卒業って事ですか?
「試験も何もせず?」
「ほ、本当に?」
これではまるで、裏口入学ならぬ裏口卒業である。だが、これを引き受けると彼らの立場としてはちょっとした問題が発生するのだが、それすらもセルジオは想定済みであった。
だからこそ、この言葉を付け添える。
「そうだね……最低でも4年間、フィリアと共にハンターを続けて欲しい。そうすれば、君達にはそれぞれ好条件の勤め先を紹介しよう。当然、まだアカデミーに通いたいというのなら拒否してくれて構わない。君達にだって、親しい友だって居るだろうしね。生活全てを奪うつもりは無いよ」
セルジオのその言葉に、四人はもう一度顔を見合わせ、互いに頷き合う。
そして、それぞれ自らの名前の入った用紙を手に取った。
「ハ……ハハ……あの時、砂漠で死ぬかもしれないと思ったのに、レイジさん達に助けられて、そのおかげでこんなことになるなんて……」
「ほ、本当にね……」
卒業してハンターになる事について、親は良い顔はしないだろう。
彼等は皆、下級とは言え貴族の出身である。子供たちにはそれなりの将来を期待してアカデミーに通わせているのだ。それでは、期待を裏切る事と同義である。
だが、ハンターを続けた後に将来が保障されているのなら、親も文句は言わないだろう。それも、ルーベリー王直々の保障だ。文句を言う筈もない。
「レイジ達に会って人生が狂わされたなんて、僕もそうさ。だが彼の力が無ければ、僕はあの戴冠式の日に王を殺した重罪人として処刑されていた」
しみじみと語る王を、四人は黙って聞いていた。
「今の立場はそれなりに大変だけど、それでも死んだ方が良かったなんて思う筈がないだろ? だから、君達もレイジ達によって繋げられた人生を、悔いなく歩んでくれ」
それは彼等も一緒だ。大変であるけど、あの場所で死んでいれば良かったとは思ったことは一度もない。それだけははっきりと言える。
「分かりました。陛下……じゃなかった、フィルさんのお兄さんからの依頼、引き受けさせていただきます!!」
四人は深々と頭を下げると、まだ夢見心地の様子で部屋を出て行った。
「ふぃ~~」
問題三つ目終了!!
溜め込んでいた息を吐くと、セルジオはドカッと椅子に背を預けて身体の力を抜く。やっと王としての仕事に関係のない雑務が完了した。
まだまだ問題はあるだろうが、フィリアに関して自分が出来る手は打ったつもりだ。後は、あの子の頑張り次第という事だろう。
まぁ兄としては寂しいものだし、一応ハンターだった身からすると、これからあの子が辿る道を思うと不安もある。
だが、頼れる友人や仲間が居るのならば、きっと乗り越えられるだろう。
欲を言えば、自分にもそういう存在が側に居て欲しいという事なのだが……。
「おう、邪魔するぜ」
と言って現れたのは、エメルディアのハンター……ブローガである。
「……一応、ここは王の執務室なんですが……」
そう簡単に友人の部屋をノックする感じで来られると非常に困る。
「まぁ今日は、ギルドマスターの使いだ。ちゃんと謁見の許可は申請してあるぞ」
「今はバタバタしていますからね。まぁ、こちらとしても貴方に用があったので良かったですよ」
「用? 俺にか?」
「正確には、ギルドマスターに対してですが。ギルドに戻ったら、こちらの書類を渡してもらえますか?」
「なんだこりゃ?」
「いえ、恐らく彼も最低限の礼儀として、ギルドマスターに対する説明はすると思いますので、その際に渡してもらえればと思って……」
ブローガに渡されたのは、特に封もされていない一枚の紙きれだった。
そこにはこう書かれている。
“チーム・アルドラゴの皆さんへ宴会の誘い”