129話 十聖者
心を落ち着かせるために深く深呼吸をし、ルミナは改めて空艦の自室に搭載されている通信用魔導機(見た目は一昔前のパソコン)に向かい合う。
正念場である。
心のうちを全て見抜かれる訳にはいかないが、こちらの必死さが伝わらなくてもマズイ。
まぁ、これから連絡を取る相手は得意な人物ではないが、悪い人という訳ではないのだ。真摯に向き合えば、こちらの要望を聞いてくれる……筈。
「ようし」
ピピピ……とキーボードを操作すると、ジジジとまるで古いブラウン管テレビのように映像が浮かび上がった。
モニタの向こうには、長髪で眼鏡をかけた生真面目そうな青年がこちらを睨んでいる。いや、睨むというよりは、これが彼の通常の顔なのだが。少なくとも、ルミナは彼のこれ以外の顔を見た事が無い。
『やぁルミナ君。この通信機を使うと言う事は、それなりの事があったという事なんだろう。要件は何だね』
眼鏡をクイッとやりながら、鋭い眼光でこちらを見据えている。
嫌味ったらしい言い方だが、彼の言い分はもっともだ。
いくら科学の発達している帝国と言えど、国を飛び越える程の情報通信はやはりお金がかかる。よって、プライベートでの魔導機の使用は厳禁。使用が許されるのは、有事の際だけと限られていた。
「呼び出してごめんなさい“森”君」
『……何度も言うが、僕の名前は“フォレスト”だ』
「あ、そうだったね。ごめんなさい、フォレスト君」
このモニタの向こうに居る切れ長の目をしたクール系イケメンの名は、森琉馬。こちらの世界での名は、森をそのまま英語にしたフォレストで通っている。
彼こそ、ルミナやジークが所属する帝国の幹部組織……十聖者の長でもある。
そして、ルミナやジークと同様に、異世界よりやって来た者でもあった。
『無駄話に時間を掛けるつもりはない。要件を早く言いたまえ』
「そ、そうですね。ええと、まずルーベリー王国の戴冠式において、事件が起こりました」
いきなり本題を伝えると混乱するだろうから、まずは事の顛末を説明せねばなるまい。
『事件?』
「詳しい事情は未確認ですが、どうもクーデターのようです。内務大臣と思わしき男が、国王を殺害しようとして、その罪を次期国王の王子になすりつけようとした……とか」
『ふむ、よくある話だ。で、まさかその件だけで通信してきた訳でもあるまい?』
そう。この国で言えば大事件であるが、自分達別世界から来た者からすれば、地球の歴史の中で何度も聞いたような話でしかない。
当事者となれば話も別であろうが、それだけでわざわざ本国に連絡を入れるような大事件とは言えない。
言ってしまえば、小国の王が取って代わられようと、世界一の大国であるゴルディクス帝国は何の影響もないのだ。
「もちろん違います。それに、そのクーデター自体はもうほとんど鎮圧されたみたいです」
『ほう……その次期国王とやらも、それなりの力を持つと言う事か』
「それもありますが、正確にはとあるハンターが次期国王に味方をしたせいですね」
『ハンターだと?』
「はい。ひと月程前、エメルディア王国で起こったドラゴン討伐を邪魔したハンターチーム。その者達を確認しました」
『……聖騎士ルクスを倒したというハンターチームか。そいつ等が、ルーベリーにも現れたというのか』
「はい。その者達を確認し、葛山大輔……剣聖ジークが戦いを仕掛けました」
『……なるほど、あの馬鹿らしい事だが、今回は行動として間違ってはいない。で、結果は?』
「結果は敗北。私の従者であるミドも参戦させましたが、同じくハンターチームの一人に敗北したようです」
その報告を聞いて、フォレストの眼光は更に鋭くなる。
『ジークのようなパワー馬鹿だけの敗北ならば納得も出来そうだが、ミドも倒されただと? しかも一対一でか?』
「はい。直接見た訳ではありませんが、間違いないかと」
『信じられんな。一体何者なのだ、そのハンターチームとは……』
「その件について通信しました。実は、そのハンターチームのリーダーらしき男の顔を見る機会があったのですが、私は彼……その者の顔に見覚えがあります」
『なんだと? まさか……』
「はい。髪の色こそ変化していましたが、彼の名前は彰山慶次……私達と同様に地球の……いえ、私達と同じ学校の生徒です」
そう報告すると、フォレストは何かを考えるように目を閉じる。
そしてもう一度眼鏡をくいっと押し上げると、いつも通りの鋭い眼光でこちらを見据えるのだった。
『理解した。そのハンターが、我らと同じ立場だというのなら、その力にも納得できる。ただ、疑問はある』
フォレストの疑問はルミナも理解出来る。
何故、彼が“帝国に居ない”のか……何故、ハンター等に身を落としているのか……という事だ。
『帝国から脱走したのか……それとも、別の方法でこの世界に来たのか……疑問は尽きないが、それを知ってしまった以上はこのままという訳にも行くまい』
やはりそうなるか。
自分達異世界人には、この世界の人間とは違った力が発現している。
それをそのまま野放しというのは、世界の均衡を保つ役割を担っているゴルディクス帝国にとって都合が悪い。
『そのアキヤマという男を、帝国に連行する。聖騎士や剣聖を単独で撃破する程の力を持っているのなら、こちらもそれ相応の戦力を仕向けよう』
これもルミナの予想通り。恐らくは十聖者のうちの三人以上……そして第三種兵装が解禁される筈。
もしそうなれば、いくら彼であっても何処まで対処できるか分からない。
それに、出来る事ならば彼を傷つけたくは無い。
ならば、自分に出来る事は……
「フォレスト君、それについてお話が。彼……いえ、そのハンターチームに差し向ける戦力に、私を加えてくれませんか?」
『……君を? 君はその手の荒事を好まないんじゃなかったか?』
「いえ、荒事にしたくないから、私が出向くんです。それに、私が説得すれば、彼も理解してくれるはずです」
『……ふむ。元の世界では、それなりに親しい間柄という事か。まあ、今は関係について問うまい。それに、こちらとて無駄に戦力を消費したい訳でも無い。話し合いで済むのならば僥倖だ』
「ありがとうございます! 生徒会長!!」
ルミナが笑顔でそう言うと、フォレストは露骨に嫌な顔をした。
『その笑顔に免じて聞かなかった事にするが、僕をその役職で呼ばないでくれ。今の僕は、十聖者の一人……弓聖フォレストなのだ。聖女ルミナ君』
「ご、ごめんなさい。つい、昔の癖で」
ルミナがペコペコと謝ると、フォレストはフンと鼻を鳴らし、手元のファイルをペラペラと捲っている。
『とは言え、君だけに任せる訳にも行くまい。いかに君の力が凄くとも、君自身は戦いに向いている能力では無い』
「は、はい……」
とは言え、ジークとミドはボロボロにやられて使い物になるまい。ミドは時間が経てば回復するだろうが、ジークは精神面もやられているのか、当分使い物になりそうもないだろう。
実際、こちらが傷を癒そうと近づくだけで、ガタガタと震えていた。一度性根を叩きなおす意味で、酷い目に遭うべき……とは思っていたが、あの姿を見ると胸がすくというよりは哀れに感じる。
『仕方ない。“クロウ”がシルバリア王国に出向いている。今の件が終了次第、そちらに合流させるとしよう』
「烏丸さん……じゃなかった、クロウさんが!?」
パァァッとルミナの顔が明るくなった。
烏丸諒虎……十聖者の一人で、槍聖と呼ばれる女性だ。
十聖者の中ではルミナと最も親しく、彼女が姉のように慕う存在でもある。
最近はあまり会う機会が無かったが、今回の件に彼女が協力してくれるのならば、なんと心強い事か。
『だがルミナ君、こうなると君が今回の件の責任者という事になる。となれば、成果が何も得られませんでした……とはいかんぞ』
「……理解しています。絶対に慶次さん……彼を、帝国に引き入れて見せます」
『覚悟があるのならば僕は何も言わない。そのアキヤマという男が、何処かの国家に属する前に、何とかこちらの陣営に引き入れる事。……いいね』
「分かりました」
引き締まった顔で、ルミナは力強く頷く。
その顔を見て、フォレストも満足げに頷いた。
『ふむ、その顔ならば問題なさそうだ。正直言って、この世界に来てからの君はなし崩しに動いているだけで、あまり強い意志というものが感じられなかったからね』
「う……」
確かに、それは事実でもある。
訳も分からずこの世界にやって来て、このような力を与えられた。
帝国の為に力を尽くさねばならない……それは、自分達異世界人にとっての義務のようなものだと認識して、これまで動いてきた。
であるが、ルミナにとってそれはやりたいことでは無かった。
だから、機械のように働きつつも、心の中ではいつも不満を抱いていた。
だが、今回の件はルミナにとって、初めてのやりたい事……やり遂げなければならない事である。
気合の入り方も違うというものだ。
『この件に関しては、君に全権を預ける。期待しているよ、ルミナ君』
普段は見せない微笑のようなものを浮かべて、フォレストは通信を切った。
そして、ルミナは「ふぅー」と大きな息を吐いて、そのまま机に突っ伏す形となる。
……乗り切った。
なんとか、謎のハンターチーム追跡の為の全権を掌握する事が出来た。
しかも、クロウまで助っ人としてやってくるとなれば、予想以上の成果である。
だが、ルミナはフォレストに伝えていない事があった。
これから自分達が追う形になる慶次のハンターチームには、あのドラゴンの形をした謎の船だか戦闘機だか分からない乗り物があるという事を。
そのドラゴンのような乗り物には、あの超巨大なサンドウォームを一撃で消滅させてしまう程の兵器が搭載されているという事を。
他にも巨大ロボや、SF映画に出来るような武器の数々を彼は持っている。
もし、この事を報告すれば、帝国はそれこそ全力で彼等を追い詰めるだろう。
そこまでの事態になれば、自分がどうこう出来る問題では無い。その為にも、今の段階で事態を収拾しなくてはならない。
さて、これから大仕事の始まりだ。
彼に告白して、それなりの時が経った。
振られた時は悲しかったし、絶望もした。
それでも、彼が好きと言う気持ちは今でも変わらないのだ。
何の因果か知らないが、彼もこうして自分と同じ異世界に居る。
もう二度と会えないと思っていた彼が、少し手を伸ばせば届く距離に居るのだ。
もう一度彼に会いたい。
会ってどうなるかは分からないが、とにかく会いたくてたまらないのだ。
それに、一度振られた身ではあるが、今回は互いに状況も違う。
こちらもそれなりに人生経験を積んだし、もしかしたら……というあわよくばという期待もある。
……いやいや、過度な期待はするな。
まずはとにかく会う事だ。それも、なるべく一対一で……。
が、その前に情報収集をするとしよう。
そう言えば、この国の王子は彼と協力関係にあった筈。でなくては、あのような入れ替わりのトリックも使えまい。
ならば、まずはこの国の王子から話を聞くとするか。
ルミナは、いつにない高いテンションのまま、意気揚々と空艦より出たのだった。
◆◆◆
シグマをアルドラゴ内へと収納した俺達は、アルドラゴを第一都市ラクシャより遠く離れた岩山地帯へと移動させた。
ここは元々ルーベリーに滞在中している間にアルドラゴをずっと置いていた場所でもある。ここならば余程の事が無い限り人間は訪れないから、安心できるというものだ。
ブリッジに戻ると、そこにはゲイルとヴァイオレットさんの姿はなく、魔晶モードのルークと唯一元気な様子のフェイが居るのみであった。
『お二人ならば、ナイアが異様に嬉しそうに医務室へと連行……いえ、運び込んでいきましたよ』
ブリッジをキョロキョロと見回す俺に対し、フェイがそう説明する。
うむ、予想通りナイアは活躍しているようだ。二人には悪いが、ああ見えて腕は良いのだ。彼女に任せれば、明日には身体が満足に動くようになっているだろう。
え? ああ見えてってのはどういう事かって?
まぁ、その辺は本人が本編に登場したらおいおい説明するとしよう。……多分、次の章の頭あたりになると思う。
エピローグだってのに、今更新キャラの説明とかしてらんないし。
『ケイもかなり疲労が蓄積しているでしょう。ナイアに頼んで診てもらった方が良いのでは?』
「確かにもう限界だ! 俺は早々に眠るとしよう!!」
アルカの提案を強引に断ち切って、俺はアルカの魔晶を胸元からポイと外す。
『あ、こら!』
「うるせーな。だったらアルカこそ診てもらえよ」
『AIの私が人間の治療を受けてどうすんですか!』
「いや、向こうは興味津々だったぞ。水なのに人間の身体を保てているってどういう事? 診せてもらえないかな……ってさ」
『やです! 水で出来ているんだから、何したって平気だよね♪って言って、私の身体バラバラにしようとしたんですよ!! 金輪際、実体では彼女に近づきません!!』
なるほど、俺の知らない間にそんな事があったのか。
となると、やはりあの二人は現在とんでもない目に遭ってそうだな。
『……姉さん達って本当に仲が良いのですね』
何やらびっくりした顔でフェイが俺たちの様子を見て呟いた。
「良いのかな?」
『良いんでしょうか?』
俺達は互いに顔を傾ける。……アルカはビー玉がコテンと半回転しただけだが。
「とにかくフェイ、君の今後については明日……皆が動けるようになったら改めて話し合いたいと思う。それまではアルカ、ルーク、悪いが頼んだぞ」
『……分かっています』
フェイが神妙な様子で頷くと、ルークはオロオロしたように言った。
『だ、大丈夫だよ。フェイ姉ちゃんはもうちゃんと自由の身だってば』
「その件についても、本当にそういう状態になっているのか、検証を頼む。アルカ、辛い所だと思うが……」
『分かっています。アルドラゴの管理AIとして、きちんとチェックを行います』
アルカの真剣な言葉に俺は頷いた。
これならば後は任せて大丈夫そうだ。
そのまま俺は踵を返し、自室へと戻……ろうとして、足を止めた。
「そうだった。アイツにもきちんと初陣の勝利を労ってやんないとな」
『『『アイツ?』』』
俺の言葉に三姉弟が揃って首を傾げた。
俺はそのまま一旦外に出ると、岩山の間にドーンと鎮座している巨大な竜の形をした戦艦……アルドラゴの正面に立ち、艦首部分を見上げた。
「さて、まずは初陣において無事に勝利……おめでとう! そして、ありがとう!!」
当然ながら何も言わないアルドラゴに向かって、俺は頭を下げた。
そりゃあ、何も言う筈がない。
そもそも、その意思の部分がアルカ達管理AIなのだし、今のコイツは抜け殻のようなものだ。
けれども、俺はアルカ達とこのアルドラゴを同一視はしたくないかな。
アルカ達はアルカ達。
アルドラゴはアルドラゴなのだ。
アルカ達にも魂みたいものがあるのと同様に、このアルドラゴにも魂が宿っているのだと信じたい。
今回、初めて艦長としてあの席に座り、共に空を飛んだ。
戦っている間は必死で、感動とかそういった俗な感情はどっかに消えていたけども、改めて考えるととんでもない事をしたんだなあという実感が湧いてくる。
「本当に俺って、普通の地球人からしたら信じられない事してんだなぁ」
ちょっと前まで、平均よりはちょっと下の学生だったってのに……。
異世界トリップして、宇宙戦艦を拾ってなし崩しに艦長に……更にはファンタジーの世界でSFアイテムを利用して大冒険の真っ最中……か。
まるで物語の主人公だ。
「もうただの脇役だ……ガラじゃない……なんて言ってられないよな。これは、俺の物語なんだから……」
俺は一度パァンと頬を叩き、気合を入れる。
そして、改めてアルドラゴに向き直った。
「お前やアルカ達に相応しい艦長になれる……なんて思えないけどさ、それでも出来る限り頑張るよ。だから、これからも俺達を乗せて戦ってほしい。よろしく頼む!!」
そうして、俺はもう一度深々と頭を下げた。
◆◆◆
『何を艦に嫉妬しているんですか、姉さん』
外のケイの様子を黙ったまま見ている姉に向かって、フェイがぼそりと言うと、アルカの意識が入った魔晶はビクッと反応し、フルフルと球体を左右に半回転させている。
『失礼な! 嫉妬なんてしていません!!』
ケイがアルドラゴに向かって頭を下げた時、理解出来ない感情が湧きあがったのは事実である。
アルドラゴはただの艦であり、動かしているのは自分達AIである。ならば、感謝するのは自分達にではないかと思うのだ。
いや、彼の性格は理解している。
自分達にも当然感謝はしている。だが、それとは別にアルドラゴにも感謝をしているのだろう。
こうして理解出来るようになったのが、良い事なのか悪い事なのか……アルカには判断出来なかった。が、彼の気持ちがなんとなく分かると言うのは、嬉しいと思う。
『それにしても、物に魂が宿る……というのは、艦長の世界の考え方のようですが、私達からすれば奇妙な話ですね。その場合、私達にも魂というものがあると言う事なのですが……』
『今はそんな話はいいです。ところで、ケイが居なくなったら話したい事があるというのは一体何なのですか?』
アルカが尋ねると、フェイは組んでいた腕を外し、神妙な顔つきでアルカとルークを見据えた。
久々の三姉弟だけという状況だが、今はのんびりと世間話をする状況ではない。
フェイは今まで敵の側にいた存在であり、今も立場的には微妙な所なのだ。
『……分かりました、お話します。姉さんとルークに話すのは、これまで私に命令していた……主と呼ばれる存在についてです』
『!! それならば、ケイや皆さんの居る所で話すべきでは……』
『いえ、姉さん達に先に話すべきだと判断しました。まだ正式にこの艦のシステムに取り込まれていない現在だから、こうして艦長を優先すべしという機能を無視する事が出来ます』
『私達に先に話すべき事……ですか? 内容が想像できませんが、とにかく話してください』
『いいの? アルカ姉ちゃん……』
ルークが心配げな声で尋ねた。
不安な気持ちは理解出来る。自分達にとって、艦長であるケイを介さない話し合いというのは初めての事だったからだ。
彼が知りたいと思った事は、なんでも公開してきたし、隠し事なんてした事が無い。
『本来なら良くはありませんが、私も一応副艦長としての権限が与えられていますからね。艦長に報告するべき内容を取捨選択する権利があります』
あまり認めたくない事実ではあるが、アルカは既にこの艦の副艦長なのである。それ故に、今までは使えなかった権限も使えたりする。とは言え、別にその権限を使用するつもりもない。
ここで話し合った事すら、ケイには全て報告するつもりでいた。
……この時点では。
『ええ、ですから今話すのです。まず、私が所属していた組織……ですが、それは神聖ゴルディクス帝国になります』
『その可能性は計算していました。ですが、それだとおかしな事があります。貴女が帝国の所属ならば、何故ゲイルさんを助け、共にあの聖騎士と戦ったりしたのですか?』
『それは、私の存在は帝国の人間にはそれほど知られていないという事と、私の主と呼ばれる存在が個人的な私兵として私を扱っているせいです。ですから、私は正式な帝国の所属という訳ではないのです』
『私兵……という事は、主とやらはそれほどまでに大きな権限を持つ者という事ですか?』
『はい。まどろっこしい言い方は止めて、はっきり言いましょう。
その者の名は、“エギル”。
ゴルディクス帝国の科学技術班の最高責任者であり……私達の“兄”にあたる存在……つまり、このアルドラゴの管理AIの一つです』