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127話 ギガブラスト




 溶解液の噴射をシグマはバリアシールドでもってなんとか受け止めている。

 その様子を俺は黙って見守る……暇は無かった。


 シグマが攻撃を受け止めている間に、こちらはなんとか打開策を見つけないといけないのだ。

 ヤツがこの攻撃を何度撃てるか分からんが、少なくとも次……三度目を撃つまでに仕留めないと、今度は本当に被害が出る。


 とは言え、そんなに早く仕留められるなら、もうやっているという話だ。

 アルドラゴの武装はまだまだあるが、どれも今までの威力と大差は無い。つまり、この戦法を続けた所で仕留める事は不可能という事だ。それに、続ける以前にこちらのエネルギーが先に尽きる。


『……仕方ありません。こうなれば、この手段を使うしか手は無いようですね』

「まさか、一発逆転の秘策があるっていうのか?」


 隣に座るアルカの言葉に俺は顔を明るくしたが、その苦渋に満ちたアルカの表情を見て、嫌な予感を感じた。


『あのサンドウォームを一撃で仕留めきる手段は、現状一つしかありません。……主砲を使います』

『姉さん……でもあれは!!』

「主砲?」


 アルカの言葉に、俺は脳内にダウンロードしてあるアルドラゴの武装に関するマニュアルを読み返してみる。

 主砲……アルドラゴにおけるされに該当する武装は一つしかない。

 このアルドラゴに搭載されている武装の中でも最大の威力を持つ……その名も“ギガブラスト”!!

 ちなみに命名は俺である。


「だが、そもそもコイツは最低出力でも相当なエネルギーを消費するんだろう。現状の残魔力エネルギーでは一発も撃てないんじゃなかったのか?」


 そうなのだ。

 確かにコイツを使えば、いくら都市サイズの化け物だろうと倒しきる事は出来るだろう。というか、最大出力だと小惑星すら破壊可能な武装って、恐らくはコイツの事だろう。

 それだけに、一発撃つだけで艦のエネルギーの半分がごっそり持っていかれるんだとか。それを元々2割程度しかエネルギーの溜まっていない今の状況でどうやって撃つと言うのか。


『当然、今のエネルギーでは撃てません。……ですから、撃てるようにします』


 アルカがピピピと目の前のコンソールを操作すると、アルカ、ルーク、ゲイル、ヴァイオレットさんの座席の下より、何やら円柱状の物体が出現する。

 それはちょうど右腕が置ける位置に出現し、円柱の先が開く。まるで、中に手を突っ込めと言っているかのようだ。


「アルカ殿……これは?」


 ゲイルが尋ねると、アルカは説明を始めた。


『まず、主砲を使わなければあのサンドウォームは殲滅出来ません。でも、主砲を使うには、今の艦の残エネルギーでは出来ません。ならばどうするか……』


 アルカはそこで言葉を切り、ルーク、ゲイル、ヴァイオレットの顔を見つめる。

 そして、ふぅと小さく息を吐くと言葉を続けた。


『足りないエネルギーを私達で埋めるしかないでしょう』

「「『!!』」」


 その言葉の意味を三人は理解したようだ。

 まだ意味を理解出来ずにきょとんとしている俺に対して、アルカは説明を続ける。


『私達四人には、魔晶が埋め込まれています。そのエネルギーを艦のエネルギーとして流し込み、主砲を発射します。計算では最低出力ではありますが、それでようやく撃てるだけのエネルギーを溜める事が可能です』


 その説明を聞き、俺はようやく言葉の意味を理解した。

 だが、同時にデメリットも理解する。


「ちょ、ちょい待ち! 魔晶のエネルギーを使ったら、お前達は身体を維持出来なくなるだろう! それに、そもそもゲイルは魔晶の力で生きているようなもんだ。そのエネルギーが尽きたら死んじまうだろう!」

『勿論、限界まで搾り取るなんて真似はしませんよ。ゲイルさんに限ってはギリギリまで残します。ただ、私とルークはしばらくの間は実体化する事は難しくなるでしょうね』


 いや、ギリギリって……要は生きていけるだけの魔力以外はゴッソリ持って行くって事でしょ? 俺自身は魔力が無いから実感できないけど、体力を限界並みに消費した事はあるにはある。生きているギリギリラインって事は、それよりももっとキツイって事じゃないのか?


「……拙者はそれで構わないでござるよ」

「ゲイル! 本当に良いのか?」

「無論、他に手段があるのならばそれに越した事はないでござるが、今はそれしか方法が無いのでござろう? それに、別に死ぬわけではないのでござるから、そこまで深刻に考えなくともいいのではないかと思うのでござるが……」

「いや、それはそうなんだけどな……」


 一番しんどい目に遭うだろう本人が言っているのだから、良い……のか?

 続いて俺はまだ言葉の意味が理解出来ていなさそうなヴァイオレットさんに視線を向ける。


「話はよく分からんが、要はアタシの中にある魔晶のエネルギーを使いたいって言ってんだろ? 別に構わないよ」


 あっけらかんと言ってのけた。


『一応説明しておきますと、魔力切れに近い状態になると思いますので、かなり肉体の方が消耗すると思いますよ』

「そんなの、よくあることさね。それに、その代わりにあのクソでかい化けもんをぶっ倒せるんだろ? なら、やるべきじゃね」


 こちらも本人の了承は得た。

 後は、艦長である俺の判断か……。


『姉さん、でしたら私も!』

『フェイは操舵手です。恐らくは飛行に関するエネルギーも少なくなると思いますので、上手く艦を動かしてください』

『……はい』


 フェイはしょんぼりした様子で前に向き直った。


『さて、では後は艦長の承認のみですね』


 そしてアルカはもう一度俺に向き直る。

 こうなってしまえば、俺の返事は一つだけだ。


「……分かったよ。一番しんどい思いする二人が良いって言っているんだから、俺が反対する理由もないよ。それに、それを使えば倒せるんだろ?」

『計算上は間違いなく、あのサンドウォームの外皮を貫ける筈です。問題はエネルギーの問題上、一発しか撃てないので、確実に当てなければならないという事なのですが……』


 まあ、それに関してはゲイルならば問題は無いだろう。現に、今までだって百発百中の命中率を誇っているんだし。

 などと楽観的に構えていたら……


『他人事のように考えている所を申し訳ありませんが、ケイにも当然仕事はありますよ』

「なぬ?」


 言うが早く、アルカはコンソールを操作する。すると、俺の目の前にあった個人用のサブモニターが二つに割れ、中から見たことのある物体が出現した。

 ……特大の銃……の銃身が無くてグリップとトリガーしかない物。それが、サブモニターの台座にくっ付いている。

 見た事あるのも当然。これ……ゲームセンターでシューティングゲームをプレイする時に使う、ガンコントローラーだ。

 これが俺の座席の目の前に出現したという事は……


「……撃つのは俺なのね……」

『当然です』


 そりゃそうだよな。ゲイルには魔晶のエネルギー供給って役割があるんだから、とても射撃の仕事なんてやる余裕は無いだろう。


 だが、そもそも俺はこの射撃というやつが苦手なのである。

 え? トリプルブラストとかハードバスターとか銃タイプの武器は持っているだろうって? 俺がアレを使うのは、相手がでかい魔獣とか動きが素早くない相手に限られるのだ。弾自体が大きく、そもそも狙いが曖昧でも的がでかければ当たるというやつである。

 自慢じゃないが、シューティングゲームは得意じゃないし、出来れば銃系統の武装も使いたくは無い。……格好いいんだけどね。でも、才能が無いから自分の武装は近接戦闘特化になっていたりする。

 こればっかりは、センスが必要になってくる……というか戦闘技能を頭の中にインストールした所であんまし意味が無い。ガンアクションのテクニックと、実際の命中率は別の問題だ。

 そんな俺に、主砲の照準を任せると言いますか……。


 出来る事ならやりたくないけど……人員が居ないんじゃしょうがない。


「……分かった。俺が撃とう」


 俺の返事に4人はコクンと頷き、それぞれ座席に備え付けられた円柱の物体に手を差し込む。


「「ぐ!」」


 ゲイルとヴァイオレットさん……生身の人間二人の顔が苦悶に歪む。

 どういう感覚か分からんけど、あれって相当しんどいんだろうな……。

 おっと、二人の事も心配ではあるが、こっちも任された仕事をまっとうせねば!!


 意を決して目の前にある台座に取り付けられたガンコントローラーを握る。

 すると、メインモニターの表示が変化し、画面の中央に丸いマーカー……つまりはターゲットの照準が表示される。

 そして、それと同時にアルドラゴの艦首部分が変形する。竜の頭部のような形をしていた部分が上下に開閉し、さながら竜の口が開いたかのような状態となった。

 イメージ通り、主砲はここから発射されるという事だ。


 モニターでは、今正にシグマがバリアシールドにて溶解液の奔流を受け止めている最中だ。

 凄いとは思うが、サンドウォームの動きが止まっている今が絶好のチャンスでもある。

 的が止まっているのならば、いくら射撃のセンスが皆無の俺だって当てる事は出来るぞ。そもそもがあんなにでかい的なんだから、外す方が難しいと言える。


「よし、発し―――『待った!!』―――え?」


 勢いよくトリガーを引こうとしたら、隣のアルカより声が飛んだ。

 慌てて振り返ると、アルカは魔力の急激消費による苦悶の表情を浮かべながら説明する。


『ただ単に当てればいいという問題ではありません。ケイは忘れているかもしれませんが、魔獣というのはただ頭部が消し飛べば死ぬというものではありません』


 アルカの指摘に俺は思い出す。

 そうだった。頭を潰せば消滅する魔獣が多いのも事実だが、そうじゃないヤツも存在するのも事実なのだ。中には、頭部に見えるものはただの飾りだという魔獣だって存在する。

 目の前のサンドウォームも、口らしきものはあるが目に相当する部位は無いんだよな。つまり、先頭部位が頭かどうかすりゃ分からないのだ。


「ええと……じゃあ、何処を狙えばいいんだ?」

『狙うべき場所は既に計算済みです。後は、フェイの操舵次第ですね』

「了解しました。計算では、溶解液の奔流は残り7秒……砲撃位置に回り込みます!!」


 いやいや!!

 姉妹で理解し終わらないで、説明をプリーズ!!

 結局俺は何処を狙えばいいのよ!?


 やがてアルドラゴは超スピードでその場から上昇し、かなりの高さまで到達したところで次は急降下を開始した。アルドラゴが向かっているのは、今まさに溶解液の放出をしているサンドウォームだ。


『いいですかケイ、残り5秒で溶解液の放出が止まります。その瞬間を狙ってください』


 そこまで説明されれば、いくら俺でも理解出来た。

 溶解液の放出が止まる瞬間……となれば、狙う場所は一つしかない。

 俺は額から流れる汗を拭い、もう一度ガンコントローラーのグリップを握りしめる。


 眼下の都市を守る壁の前では、シグマが命懸けでサンドウォームの溶解液から街を守っている。が、その身体が既に限界だというのは見受けられた。

 装甲は剥がれ落ち、身体の各所から煙が噴き出している。更には体を支える筈の脚は片方が無くなっているではないか。それでもシグマは無くなった足の先を壁にめり込ませてなんとか落ちる事を防いでいた。

 またシールド自体もガタがきている。光の盾にヒビとかは入っていないが、なんか光自体が弱くなっている気がする。いや、気のせいでは無く緑色に発光していた筈の光の盾が薄い黄色っぽくなっているのだ。

 頼むぞおい! 後、3秒耐えてくれよ!!


 そう願っていると、不意に通信が入った。


『おいレイジ!! 後は任せたぞ!!』


 それと同時に六つの光の盾が全てパリンバリンとばかりに砕け散った。

 そして、今まで盾を構えていたシグマは電池の切れた機械のように力を失い、そのままだらりと壁からぶら下がる形になる。

 が、同時にサンドウォームの溶解液も止まった!!

 本当にギリギリ!! シグマに、あんたスゲェよ!! と賛辞を送りたい。


 が、それは俺の仕事が終わってからだ。

 アルドラゴは街を守る壁……それに対峙するサンドウォームのちょうど間目掛けて急降下する。


 サンドウォームは溶解液を放った直後という事で、その口と思わしき場所は大きく開いている。

 そこにアルドラゴの艦首は向き、その照準はつけられた。


 何処をつぶせば死ぬのか分からないのなら、体内からぶっ飛ばしてしまえばいい。


「行くぞ!! ギガブラスト―――」


 アルドラゴの竜頭部分に光が溜まっていくのが確認出来る。

 エネルギーは十分とは言えないが、最低出力を一発のみならば撃つことは可能。

 つまり、これが効かなければ俺たちの負けという事だ。


 思わず俺はこの場のクルー達の顔を見た。


 全員こちらを向き、強く頷いている。

 皆、俺を信じている。

 とは言え、俺は俺自身を信じる事は出来そうもない。これまで色んな失敗を繰り返してきた身だ。数ヶ月の異世界生活をもってしても、それを覆す事はなかなかに難しい。

 でも、俺自身は仲間を……何よりこのアルドラゴを信じている。

 コイツや仲間達が居たからこそ、俺はこの世界で何とか生きてこられたのだ。


 ならば、大丈夫だ。


 そして最後に対峙するサンドウォームを見据えた。


 今にして思えば、お前もただ俺達と敵対する為だけに利用された立場。本来ならば、まだまだ地の底で眠っているべき存在だったのだろう。

 でも、お前が街を……俺が守ろうとするモノを害そうと言うのならば……


 俺はお前を撃つ!!


「―――発射ぁぁぁっ!!!」


 トリガーを引いた。


 途端、閃光が迸る。

 竜の口から発射された光の筋は一直線にサンドウォームの口の中に命中。そしてそのまま体内を突き進み……やがて大爆発を起こした。

 サンドウォームの外皮は一瞬にして倍近くに膨れ上がり、光と共に破裂する。


 が、事はそれだけでは済まなかった。

 光はサンドウォームを破壊しても収まる事はせず、その範囲を拡大させていった。


『退避します!!』


 俺は思わず光を見て我を失っていたが、フェイは判断指示を仰ぐ事もせずにそのままアルドラゴを上空に退避させる。

 上空から見ても、その光の範囲は広がっていくのが確認できる。最早、サンドウォームの全長どころでは無い。およそ2~3キロ程の範囲が光に包まれているのだ。


『大丈夫です。攻撃の余波は街には届きません』


 アルカの声が聞こえるが、そういう問題では無い。

 これが……これが……俺が撃ったギガブラストの結果だというのか?


 やがて、光はボォンという激しい音と共に破裂し、爆風をまき散らした。空には、映画でしか見た事の無いキノコ雲が出現しているではないか。激しい爆風によって、砂が……大地が……吹き飛んでいく。上から見ると、その被害がよく理解出来た。


 確かに街自体に被害は無い。が、街の前にある砂漠には巨大な穴が出現していた。

 

 最低出力でこの威力……アルカが、最大出力ならば惑星すら破壊出来ると言った言葉の意味がよく理解出来た。


 本当に……俺は、星すら破壊可能な兵器をこの手にしているのだ。




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