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126話 敗北の理由




「……サブモニター、ヤツの足元……っていうか腹元?とにかく地面との接地面を拡大してくれ」

『了解です』


 俺の言葉にアルカが端末を操作し、メインモニター横の小さな画面にその部分が表示される。

 少し気になったのだ。そう言えば、ゴッド以外の十数体存在していた他のサンドウォームの群れはどうなっただろうか?と。

 答えはすぐに理解出来た。


「……喰ってやがるのか」


 超巨大ゴッドサンドウォームから逃れようとしている小さなサンドウォーム達であったが、逃げきれずにその長い身体同士が接触すると、そのまままるで溶かされるようにゴッドに吸い込まれていく。


 ……こちらとしては何も変わらない。

 数が減った代わりに、ゴッドの力が増すだけ。恐らくは、喰ったサンドウォームの魔力を吸収して傷を修復しているのだろう。

 ……こちらのするべき事は変わらない。変わらない……けど……


「なんか腹立つな」


 こいつら魔獣の感覚とか分からないし、そもそも意思があるのかどうかも知らないが、自分の傷を癒す為に同族の肉体を利用するってのはというのは忌避感がある。

 そんな時、左端の座席から声が上がった。


「ところで、暇なんだけどなんかやる事ないの?」


 吸血鬼お姉さんことヴァイオレットさんである。


 ひ、暇っすか。

 まぁ、確かに仕事の方は振ってなかったからね。とはいえ、何を頼めばいいのやら……


『……そうですね。ではサブウェポンを担当してもらいましょう。貴女の座席正面のサブモニターに、三つほど武装の選択肢があると思います。そのどれかを指で選んでください』

「あいよー。じゃ、これでいっか」


 アルカの指示で彼女が選んだのは、戦艦ではよくある武装である……機銃だ。

 ポチっとタッチパネルを押すと、アルドラゴの翼の下部分よりアルカがよく使用する多連装ガトリングガンを大きくしたものが出現する。


「おっと照準ってやつが出た! これで狙えばいいんだな!!」


 ウキウキと嬉しそうにヴァイオレットさんが座席に取り付けられたジョイスディックのようなレバーを操作し、トリガーを引く。

 大音響ではないが、ズバババ……と銃声が画面を通して轟き、ガトリングガンより弾丸が乱射された。

 弾丸はサンドウォームの体表に着弾し、その肉を抉る。


「うっほっほー! こいつはなかなか面白れぇ!!」

「あ、狙いはなるべく今まで攻撃を当てた個所にお願いしますね」

「あいよー! うりゃうりゃー!!」


 俺の指示に嬉しそうに返すヴァイオレットさん。

 ……楽しそうで何よりである。

 まぁ感覚的にはシューティングゲームでもしているようなもんだから、人によっては楽しいだろうよ。

 出来れば俺もそっちやりたいし。


 ちなみにではあるが、この艦には元々ミサイル、銃弾等のいわゆる実弾兵器と呼ばれる武器は存在していない。

 というのも、こういう実弾兵器の類は補給が面倒だったりするし、そもそも規格が合わないと使えないという問題がある為、標準装備としては備え付けられてはいなかったのだ。


 だが、銃弾が無いのならば作ればいいじゃないという発想で、実弾兵器を改めて開発したのである。

 やっぱり、戦艦と言えば実弾兵器があってなんぼでしょう? という俺の勝手な偏見によって、実弾兵装の開発が始まった。

 どうやって作るかと言えば、我等には魔法というそれまでのSF世界には無い便利なファンタジー世界の産物があるのだ。

 ルークの土魔法を使用して土を金属の如き硬さに強化。更に命中した衝撃で破裂する仕組みにすれば、なんちゃって弾丸の出来上がりである。

 この弾丸をとりあえず二万発ほどルークには作ってもらったから、それが尽きるまでは撃つ事が出来る。


 さて、こうして地道に敵のHPを削っているが、ゲームと違って相手のステータスは見えないからな。あとどのぐらいで倒せるのかという基準が不明だ。

 とりあえず、傷口を一点集中させて、修復の間を与えないようにする。大技が使えない現状ではそれしかないだろう。


 ……と思っていたのだが―――


『敵の口腔部分、再び熱源上昇! 溶解液噴射仕掛けてきます!!』


 またマグマ溶解液を発射する気か? だが、仕掛けてくると分かっていれば、アルドラゴの機動力なら避けるのは難しくない。

 俺は再び回避行動を指示しようとして―――


「待て? アイツ、何処に向かって放つつもりだ!?」


 溶解液を放つ為の口部分は、こちらを狙っていない。

 無論、放つ瞬間にこちらに狙いをつけるのかもしれないが、奴の鈍重な動きならば避ける事は簡単である。

 いくら知能の低い魔獣であっても、そんな馬鹿みたいな戦法を取るとは思えない――――――


 いや、奴の頭の直線上にあるものは何だ?

 水平線の上、横一直線に立ち並ぶ城壁……つまり、第一都市ラクシャの街並み!!

 まさか、あのヤロウ!?


「アルカ、奴の溶解液はこの距離からでも都市に届くか?」


 俺の問いにアルカが即座にコンピューターにアクセスし、溶解液の飛距離を計算する。


『先ほどの攻撃から飛距離を計算しました。この距離からでも溶解液は都市の入り口部を破壊可能です。また、もし先程の攻撃が最大出力では無い場合、都市の中心部まで到達する可能性もあります』


 ……やっべぇ。

 奴が溶解液を吐き出す前に瞬殺する――――――無理だ。そんな力があったら、もっと早くにしているっつうの。


「この艦に防御システムは無いのか!?」

『……残念ながら、あれほどの威力を持つ溶解液を広範囲に防ぐ手段は現在の所ありません』


 くそ!

 アルドラゴは強い。それに、装甲もあの溶解液の直撃を受けても大きなダメージは無いと言われている。

 だが、それは単体での強さだ。

 いくらアルドラゴとは言え、多くを守れるだけの力は持っていないのだ。


「こうなったら俺が外に出てバリアビットで防ぐ!」


 左腕のガントレットに手を添え、俺は勢いよく艦長席から立ち上がった。


『無茶です! バリアビットでは範囲が狭すぎますし、そもそもあれほどの質量を防ぎ切れるかどうか……』


 そう。バリアガントレットより更に進化したバリアビットならば、広範囲にバリアを展開する事が可能だ。だが、広範囲と言っても自分の周囲10数メートル内を守れるだけの力があるだけで、街全体を守るなんて事は出来る訳が無い。

 また、無敵の防御力を誇るバリアではあるが、弱点もある。

 質量と重量をもった攻撃には弱い。……いや弱いと言うか、防ぐ事は出来るけども、その重量を受け止めるのは使用者の力次第なのだ。

 ぶっちゃけて言うと、隕石とか津波とかをバリアで防ぐというのはまず無理と言っていい。

 今回サンドウォームの使う溶解液であるが、炎や雷と違って質量のある攻撃である。あれほどの巨大な水流を、バリアで受け止めるというのは、今の俺には無理であった。


 だが……


「でも、セージと約束したんだ。街への侵攻は絶対に阻止して見せるって。なのに……」


 ならば、アルドラゴを使って身を挺して溶解液を受け止めるか?

 いや。それをすれば、機体は無事だろうが、武装の一部が使えなくなる。また、溶解液に耐えきれると言っても無傷に済むという話でもないのだ。

 装甲は激しく痛むだろうし、そんな状態でまた攻撃を受ければどうなるか……。


 いや、後の事など考えてどうする。

 今出来る事をするしかないだろう!


『あー……その心配はねぇぞ』

「え?」


 そう言ってブリッジに入って来たのは、タイヤを付けた円柱状の物体……ことスミスであった。


『防御システムに関しては今後の課題だけどもよ、バリアビットに関しては防御範囲をさらに強化した試作品を既に製造済みだ』

「な、なんと! さすがはおやっさんだ!! で、それを渡しに来たのか?」


 期待を込めて尋ねると、円柱状の物体はフルフルと首にあたる部分を左右に振る。


『うんにゃ。そいつは既に客人が持って行ったぞ』

「は? 客人!?」

『おう。お前らが連れて来た、半分機械の―――』

『「シグマ!!?」』


 俺とアルカの声が重なった。

 そう言えば、彼の事をすっかり忘れていた。


「なんでアイツが……って、そもそも身体の修復とか出来たのか!?」

『まぁ、この短時間じゃあ5割ってとこか。動けるならそれで構わん……とか言って、俺の工房から出て行ったぜ』


 違う世界から来たサイボーグも直せるとか、なんてチートな整備士だ。

 いやいや、問題はそこでは無く、何故にシグマがバリアビットを持ち出したかと言う事なんだが……。


『心配するな。別に持ち逃げする訳でもない。ただ、借りを返すまでだ』


 そんな事を思っていたら、バイザーを通してシグマの声が届く。

 え? なんで声が届くの? とか疑問はあるが、俺達は急いでシグマの姿を探した。

 そして、いつの間にか外に出て、アルドラゴの前脚部分……に見える作業用アームの上に立っていた。

 その両腕には、確かにまるで盾の如く巨大化されたバリアビットが装着されている。まさか、あれがスミスの開発した新武装だというのか!?


『この竜を城壁の傍に寄せろ。俺が防いでやる』

「大丈夫なのか? 炎や冷気を防ぐのとはレベルが違うぞ」

『ふん。俺の身体は貴様のように生身では無い。いらない心配はするな』


 なんでシグマがそんな事を?

 という疑問は当然ある。闇ギルドなんかに属している立場だし、戦って理解出来たシグマの人間性からすると、所謂自己犠牲の精神があるとも思えない。

 でも、こちらの装備をパクったまま何処かへ逃げるような小悪党では無い。それは断言できる。


「……分かった。頼む」

『ケイ、本当にいいのですね?』


 アルカが念を押す。

 確かに不安はある。だが、今はとにかく時間が無い。

 それに、本人の言う通り生身の身体ではないシグマの身体であるならば、あの奔流を受け止めきる事が出来るかもしれない。

 これから他の手段を考えた所で、間に合う筈もないのだ。

 ここは、シグマが溶解液の奔流に耐え抜く事に賭けることにした。


「フェイ、アルドラゴを第一都市の城壁に近づけてくれ」

『了解しました』


 アルドラゴが城壁へある程度接近すると、シグマはアームより飛び出し、第一都市を囲む城壁の上に立った。

 そして、そのままバリアを展開するのかと思えば、なんと彼は城壁の壁の平面に垂直に立ったではないか。恐らくは靴底からスパイクでも出て身体を固定しているのだろう。

 続いて両腕を前面に出して交差するように構える。すると、ガントレットに付属されたひし形のプレート……いや、サイズ的には最早盾だ……が外れ、広範囲に散らばっていく。

 その空中に散らばった盾よりバリアが発生し、城壁そのものを覆う巨大な盾と化した。




◆◆◆




 ……やれやれ。

 何故、このような何の得にもならない事をしているのだろうな。


 シグマは、盾を構えながらそんな事を思っていた。


 負けたから。

 敗者は勝者の言う事を聞くものだ。


 それは、自分の育った世界でのルールだった。


 これが、盾になれと命令されての事ならば、自分でも理解も納得も出来るのだが、あのレイジという男は別に自分に対して、こうしろと望んだわけでは無い。

 それが、何故自らこうして動こうなどと考えたのか……。


 ふと、シグマの脳裏に先程までの戦いの記録が蘇る。



◇◇◇



 龍を模した鎧を纏ったレイジ。

 超振動による攻撃も効果は無く、超加速による奇襲も何故か不発に終わった。

 相手に対するアドバンテージは無くなり、むしろ不利になったと言える。

 だが、シグマの顔には笑みが広がっていた。


「ククク……これだ……この感覚だ!」

「?」


 殴り飛ばされた顔を擦り、シグマは高笑いを始めた。

 突如として笑い出したシグマを見て、レイジは困惑気味だったが、そんな事は構いもせずにシグマは猛攻を再開する。


「この世界に来てから……ずっと……ずっと退屈だった!!」


 振るわれるヒートナイフと拳。それをレイジは時には避け、時には受け止め、時には反撃する。

 その間も、シグマの笑い声と言葉は止まらなかった。


「獣との戦いでは俺は満たされない!! やはり知恵ある人間との戦いの中でこそ、俺は生きていると実感できる!!」

「戦いはアンタにとって存在証明って事かよ」

「そうだ! 貴様だってそうだろう! だから、敢えて避ける事も出来た俺との戦いに興じている!!」


 殴り合いを続けながら、問答は続く。

 レイジはしばしの沈黙の後、やがて口を開いた。


「……確かに否定はしない。この戦いを避ける事だって俺の選択肢にはあった。実際、アンタみたいに戦う事の意味や理由も考えたりもした。だが―――」


 繰り出されたシグマの拳を受け止め、逆にその腕を掴む。


「一緒にするんじゃねぇ!!」


 そして、激昂と共にシグマの身体を一本背負いで投げ飛ばしたのだ。


「退屈だぁ!? 生きている実感だぁ!? そんなもの、俺は興味はねぇ!!」


 投げ飛ばされ、地面を転がるシグマであるが、即座に立ち上がってレイジに向き直ろうとした。だが、レイジは追い打ちをかけるべく迫り、その顔面を殴り飛ばす。


「俺にとってのこの戦いは……ただの越えるべき障害だ!!」


 さらに追い打ちをかけようとしたレイジの拳を避け、カウンターとして反対にその顔面に拳を叩きこむ。


「障害……だと?」


 更に繰り出された蹴りを腕でガードしたレイジは、その足を掴み……更に抱え込んでそのまま大地の上に引きずり落とす。


「ああ! だから……この戦いで俺はアンタという壁を越える! 越えて……先に進む!!」


 大地の上に倒れ込んだシグマ。レイジはその上に馬乗りになり、頭部目掛けて拳を何度も打ち付けた。


 シグマにしてみれば、今が全てだった。

 満足のいく戦いを求め、元の世界でも……この世界へやって来てからも彷徨い続けてきた。

 そして、出会ったのがレイジ達……アルドラゴのメンバー達だ。

 お膳立てを整え、小細工無しの正面からぶつかり合う為の戦いの場を遂に実現出来た。


 この戦いに全てをぶつけるつもりだった。

 後の事など一切考えていない。

 実際、戦っている間は心が躍り、彼も満足していた。


 だが、今の問答を経てシグマは己の過ちに気づく。


 これはシグマにとっての待ち望んだ戦いだ。だが、戦いの相手……レイジにとっては違う。


 越えるべき障害……彼にとって、この戦いは単なる通過点に過ぎなかったのだ。


(ハハハ……この俺が単なる障害物とは、言ってくれる!!)


 レイジの振るう拳は全てが詰まっていた。

 対してシグマの振るう拳も同様だ。


 違いはその先に何があるか……だった。


 レイジの拳の先には未来があり、シグマの拳の先には何も無かった。

 拳の先に求めていたもの……それが勝敗を決めた。

 技術の差でも、経験の差でもない……勝利は未来を求めた者が掴み取ったのだ。


(恐らくは俺が負けた理由はそれ。ならば、敗者として……奴が守ろうとしたものは俺が守るのは道理だ)


 だが、ここで終わりでは無い。

 またいずれ、あのような満足のいく戦いを経験したい。

 今度は一対一で、最後まで心行くまで拳をぶつけ合いたい。


 ならば、こんな所で死ぬ訳にはいかない。


 盾の先に未来への望みを賭け、シグマはゴッドサンドウォームから放たれた溶解液の奔流を受け止めた。




次話で決着予定~

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