125話 鋼鉄竜VS砂蟲・神
見慣れた筈のアルドラゴのブリッジ。
だが、そこはいつもと違った光景となっていた。
まず、いつもは節エネの為に機能停止している機械の数々がフル稼働している。室内の至る所にライトが点灯し、この部屋はこんなに明るかったのかと再認識させられた。
特に、正面のメインモニターが稼働しているのは初めて見た。モニター上には、さっきまで眺めている事しか出来なかった超巨大サンドウォームが蠢いている。……なんかこうして見ると、小さく見えるな。錯覚だけど。
続いて座席……。
まず、室内の中央にある操舵席にはフェイが座っていた。どうも、無事に肉体の方は取り戻せたみたいで何よりである。チラッとこちらを見ると、申し訳なさそうに会釈した。
彼女には色々聞きたい事もあるが、今はこちらの問題が最優先だ。
その操舵席の後ろに位置し、より座席が高く配置されている椅子……それが艦長席だ。その座席の横に、アルカが立っていた。
アルカはこちらを見て一瞬だけ笑みを浮かべると、すぐにキリッとした顔に戻る。
『さぁ、皆さん所定の位置に着いてください』
アルカがパンパンと手を叩くと、ルークとゲイルも頷きそれぞれ座席に腰かける。
ゲイルはフェイの前……より先頭に位置する戦闘用座席。主に狙撃やメインウェポンの照準を担当する。
ルークはその隣。同じく戦闘用座席だが、メインとなるのはサブウェポンやアームの操作となる。
「アタシはどうすりゃいいんだい」
するとアルドラゴの存在とその室内に圧巻されていた様子のヴァイオレットさんが、我に返ってそう尋ねて来た。
うーむ。そういや、来てもらったはいいけども、この人の役割ってどうすりゃいいのかな。さすがに武器の操作とか一朝一夕でどうにかなるもんじゃないでしょ。
だが、アルカは……
『貴女には、あちらに座ってもらいます』
そう言って、ゲイルの右隣の席を指す。……あちらも戦闘用座席だ。
「いいのかい? アタシなんかが座っても」
『ええ。詳しい事は追って指示します』
「あいよー」
と、ウキウキしながらヴァイオレットさんは座席に腰かける。
さて、操舵が一人、戦闘班が三人。整備はスミスが居るからいいとして、本当の戦艦なら通信係や索敵係やなんかが必要なんだろう。ただ、この艦じゃその辺は他の補助AIがやってくれるみたいだから、必要ないらしい。
そして残るのは、俺の目の前にある艦長席か……。
『ケイ……いえ、艦長……どうぞ』
アルカが促し、俺は遂にその座席へと腰かけた。
パイロットとも違う……戦艦の艦長席。この艦の暫定艦長になってから、かなりの時が経つが、こうして席に座るのは初めてだった。
思わず、ルークがパチパチと手を叩くと、ゲイルとヴァイオレットさんも続く。
やめて! 恥ずかしいからそういうのやめて!! ヴァイオレットさんはこっちの事情知らないから、ノリでやってんだろうけどさ。
「んじゃ、アルカはそっちね」
『は?』
俺が指したのは、艦長席に隣に位置する副艦長席。
『わ、私が副艦長!? いや、あの……私は所詮、管理AIですから、そういう役職はちょっと……』
「何言ってんだ。頼りない新米艦長を支えるのは、経験豊富な副艦長の役割だろうが。アルカは、この艦の仕組みについて一番詳しいんだから、適任だろう」
『そうですね、姉さんが一番です』
『うん、お姉ちゃんなら安心だね』
「アルカ殿なら適任にござる」
「よく分かんないけど、それでいいんじゃね?」
と、次々に援護射撃が撃ち込まれ、やがてアルカはパンッと自らの頬を叩いた。
あ。それ、俺が良くやるやつだ。
『わ、分かりました! 引き受けた以上はしっかりこなします!! 暫定副艦長アルカ! これより着任します!!』
と、半ばヤケになった声でアルカは宣言すると、副艦長の席にドカッと座った。
何はともあれ、こうして席は全部埋まった。
ならば後は戦闘あるのみ。
が、その前にアルカに聞いておく事がある。
「ところでアルカ、初めに聞いておきたいんだけど、アルドラゴはあんな馬鹿みたいにでかい奴に勝てるのかね?」
艦長として甚だがっかりな発言ではあるが、俺はこの艦がどこまで戦えるか知らないのだ。
最初のカオスドラゴン戦では、ただその重量で押し潰しただけ。
エメルディア王都では、ただゲオルニクスさんの遺体を回収しただけ。
それ以外はちょっとした移動の時しか動かした事がないものだから、この艦のスペックを何も知らないも同然なのである。
俺のイメージにある宇宙戦艦というやつは、図体がでかく小回りが利かない、それでも破壊力を持った兵器を持っているというのが定番なのだが、果たしてコイツはどうなのか……。
『あぁ、問題ありません。元々、この艦は小さな惑星程度でしたら、破壊可能なスペックを持っていますから。あの程度大きさの―――」
その返答に、俺とゲイルは思わず噴き出していた。
わ、惑星?
惑星って水金地火木土天海冥のアレの事っすか? いや、冥王星は今は違うんだったか。
って、そんな事はいい。
それを破壊可能といいましたかこのお姉さん!!?
「そ、それってマジですか?」
『はい。最も、機能が十全に働いていればという話ですが。現状の機能ですと、残念ながら本来のスペックの2割が限界という所です』
に、2割……残念なのかホッとしたのか微妙な所だ。
そもそも、惑星破壊可能の2割っていうのがどの程度の力なのか把握しにくい。そもそも、そこまでの力は必要ないんだけどな。……というかいらない。
「とにかく、アレ相手には勝てるって事で良いんだな?」
『ハイ……必ず勝てます!』
アルカは力強く頷いた。
よし、その言葉さえあれば大丈夫だ。
「今の言葉……聞いたな。俺達はアレに勝てる! 相手が神級だろうが何だろうが、勝てる力を持っている以上、後は勝つだけだ!!」
自分を奮い立たせるように、俺は艦長席からそう宣言する。
俺の言葉を聞いて、クルー達も力強く頷いて見せた。
さぁ……行こう!!
「戦艦アルドラゴ……発進!!」
正確には既に発進はしていたのだが、艦長たるもの、やはりこの言葉は言っておきたいじゃない。
俺の言葉をきっかけに、遂にアルドラゴが戦闘態勢に入る。
さて、アルドラゴの武装については既に脳内にインストール済みだ。
まずは一番消費エネルギーの低い武器で様子見だな。
「サンダーボルトブラスト……撃て!!」
「了解でござる」
ゲイルの言葉と共に、アルドラゴの両肩部分の砲口より、雷の塊が発射される。
その大きさたるや、サンダーブラストの比では無い。
発射された雷球は、一瞬にしてゴッド・サンドウォームの体表に着弾すると、ボンッという音と共にその肉片を弾き飛ばす。
与えた損傷こそ微々たるものではあるが、これが並の大型魔獣だったら一発で蒸発する威力だぞ。
「サンドウォームの周囲を旋回し、サンダーボルトブラストを撃ちまくれ!」
「了解です」「了解にござる」
フェイとゲイルが答える。
その言葉の通り、アルドラゴはゴッド・サンドウォームの周囲をグルグルと旋回し、その都度雷球を撃ちこんでいく。
補足しておくと、戦艦という名前からして鈍重というか、機敏には動けないイメージがあるかもしれないが、うちのアルドラゴはそんな事はない。
言うなれば、超高速戦闘艦……言わば巨大戦闘機みたいなものであり、それこそドラゴンのように大空を素早く動き回る事が可能なのだ。
ただ、戦闘機のように高速で飛び回れば、艦内はとんでもなく激しく揺れ……クルー達は座席から放り出される筈……なのであるが、そんな事はなくブリッジ及び艦内は至って平穏である。
というのも、これが重力コントロールとやらの賜物らしい。どれだけ外側が動き回っても、内部の重力場は一定なのだとか。とはいえ、正面の巨大モニターに映し出されている外の映像はめまぐるしく動いているから、それだけ見ていると酔うなこれ。
その最中、サブモニターにて雷撃によって与えたサンドウォームの傷口を確認。拡大してみると、その傷口が急速に塞がっていくのが見える。やはり、あれだけの巨体ともなると保有している魔力量も相当なものなのだろう。針で刺した程度の傷ならば、すぐに完治してしまうか。
ならば、切り傷を与えてみるとしよう。
「ウイングエッジ展開!」
『アイアイさー』
俺の指示にルークが従い、アルドラゴの翼が縦に開き、細長い砲口のようなものが出現した。そこに次第に光が溜まっていき、やがてエネルギーが完全に充填した事を知らせるランプが点く。
「サンダーボルトブラストで与えた傷口付近目掛けて発射!」
『発射!』
両翼の細長い砲口から放たれたのは、いわゆる光刃である。破壊よりも切り裂く事に特化しており、これを受けたサンドウォームの皮膚も切り裂かれ、横一文字の大きな傷口を作り上げた。
が、さすがに巨体を両断する事は叶わない。
それでも、傷は十分与えられる事は理解出来た。後は、集中砲火で回復をする間も与えない程攻め続ければ倒す事は可能だろう。
それはクルー全員同じ感想だったようで、それぞれ満足げに頷いた。
ゴッド・サンドウォームも頭上を飛び回るこちらを害しようとその巨体を振るうのだが、それこそ見た目通り鈍重なために捉えられる事はまず無いと言っていい。
奴に遠距離系の能力が無いのは幸いしたな。あの巨体で遠距離系の能力があると、どれだけの飛距離が出せるのか―――
―――ん?
ちょい待ち。ゲームに出てくるサンドウォームとかそういう系統の敵の攻撃パターンって、押し潰す……丸呑みにする………まだ何かあったような気がするな。
えーと、ちょっと待ってくれ。今、思い出す。
確か、その強力な胃液を利用した……溶解液を飛ばすような能力。
溶解液を飛ばす!!
いやいや待て待て。必ずしもゲームと同じ攻撃をするとは限らないんじゃないかな。現にこうして戦っていても、その攻撃をするという気配は……
『口腔部分に熱エネルギーを感知! 何か仕掛けてきます!!』
「上空に回避!! 敵と距離を取れ!!」
アルカの報告に俺は即座に判断を下した。
操舵のフェイもそれに従い、アルドラゴは急上昇する。
Gは感じないが、エレベーターで上がっている時のようにな奇妙な違和感は感じる。そして、真下ではサンドウォームの巨大な口より、滝のような溶解液が噴射された。
回避行動をとったおかげでアルドラゴはその溶解液を受ける事は無かったが、それを浴びた大地は大変な事になっている。
岩山も砂漠も、生気を失ったように黒くなり、まるで火山の河口付近のようだ。溶解液というよりはマグマを噴射しているようだな。
『危ない所でした。アルドラゴの装甲はマグマに飛び込んでも溶ける事はありませんが、まともにくらえば一時的に武装が使えなくなっていました』
アルカの言葉に、俺はふぅと一息つく。
とりあえずゲーム知識が役に立った訳だ。
まぁアルドラゴに乗っていればアレを受けても平気みたいだが、だからといって受けて良いものでは無い。
とは言え、あんな飛び道具があるとなると困ったことになった。
このまま離れて戦えば余裕で勝てるというものではなくなったな。元より、こちらは出力が本来の一割程度しか出せない上に、残りのエネルギーも少ないんだ。ケリをつけるならば、早々に決めなければならない。