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124話 ゴッド・サンドウォーム




「あーレイジだっけ。悪いお知らせです」


 俺の背中からばかすかとレールガンをぶっぱしていたヴァイオレットさんが急にそんな事を言ってきた。


「なんすか?」

「弾切れみたい」

「んあ!?」


 思わず振り返ったら《レオ》の操作を誤って目前のサンドウォームに激突しそうになった。

 ……脇見運転は危険だよね。


 とりあえず慌ててハンドルを操作しなおして事故を回避。改めてヴァイオレットさんに振り返った。


「弾切れってなんすか!?」

「元々八発撃ったら弾切れって言われてたんだけどさ、どうにもさっきのが八発目だったらしいわ。うんともすんとも言わなくなった」

「……マジすか」


 まぁそりゃあ無限に撃てる銃なんて、ゲームのクリア特典ぐらいにしかないよな。

 とは言え俺達の持っていた一番強力な武器は無くなった。これからどうしようか……と思っていたら、ヴァイオレットさんが持っていたレールガンをポイとばかりにその場に捨てた!!


「な、なにやってんすか!!」

「えー? 使えない武器なんてただの重りだろうが」


 それも事実ではあるが、あんな高性能な武器を弾切れというだけでその場に捨てるというのは俺には無理である。

 慌てて方向転換し、砂に埋もれているレールガンを拾う。そしてサイズ的にはギリギリであったがなんとかアイテムボックスに収納する事が出来た。……いらないなら、俺がもらう!


「そんな便利なもんがあるなら先に言えよ! つーか、アタシにもくれ!!」

「仲間じゃないとあげられません」

「じゃあ、仲間になるからくれ!!」


 いきなりの発言に俺はブッと噴き出した。

 そんな簡単に決めていいの? 大体、前にその事を提案した時は却下されなかったか?


「ああん? 戦いに負けた以上は言う事聞くし、そもそもアンタ等についていった方が面白そうだ」

「でも、俺らの最終目的は元の世界に帰る事ですよ」

「んー……元の世界に未練があるわけでもないけど、まぁ帰る手段を見つける事は構わないよ。行ったり来たり出来たら便利だろ」

「そ、そういうもんすか」


 暫定艦長である俺が決めているクルーの条件であるが、

 まずこの世界の人間では無い事。

 悪人じゃ無い事。

 目的が俺達と一緒である事。


 後は人間性とか色々あるけれど、とりあえず条件はクリアしているな。話してみて、悪い人じゃ無い事は理解できたし。

 と言っても、簡単に決めて良い問題では無い。もうちょっと考えよう。


「とにかく、その件に関しては保留で!! 今はこの状況を切り抜けましょう!!」

「それもそうだな。で、どうすんだい?」


 力尽くに強引に殴り込むにしても、こっちはアーマードスーツのエネルギー切れ。ヴァイオレットさんは残り魔力少ない。このまま突っ込むとしたら明らかに自殺行為だよな。

 かと言ってハードバスター等の通常武器でどこまで戦えるかは微妙な所だ。……何せ今の俺にはスーツが無い。つまり、現時点での防御力が紙みたいなもんなのだ。

 《レオ》は機動力が高いが防御力は無いからな。一応バリアはあったりするけど、このような質量で向かってくるタイプには向かないし。

 さて、どうすんべ……と思っていると、アルドラゴのアルカより通信が入る。

 いよいよアルドラゴの戦闘準備が整ったのか! と期待していたらば違っていた。それにはもうちょい時間が掛かるらしい。

 じゃあ、何の用!?


『実は、スミスがこっそりと《レオ》に追加機能を組み込んでいたらしいです』

「は? 追加機能ってなんだそりゃ!?」

『恐らくは戦闘手段に困って右往左往している頃じゃないかと思ったものですから、そちらを使ってみたらどうかと』


 当たりです。

 さすがはアルカ。伊達に俺と一番付き合いが長い訳じゃない。


「使い方は?」

『今、インストールします』


 いつものように、バイザーを通してこめかみ辺りにピリッと刺激が走る。

 すると、《レオ》の新機能の使い方がスーッと理解出来た。

 ……なるほど、さすがはスミス。俺の趣味をよーく理解してやがる。


「で、どうにかなりそうなのかい?」

「なんとかやってみます。あ、ちょっとの間だけ離れてもらいますか?」

「このまま置いていったら承知しねぇぞ」


 等と言いつつも一応は従ってくれたヴァイオレットさん。ありがとう。見捨てないから安心しておくれ。


「《レオ》……バトルモード起動!!」


 そう言いながら、今まで意味不明に配置されていたボタンを押す。

 すると、変化が起こった。


 《レオ》の瞳部分のランプが点灯し、ガチャン……ガチャンと音を立ててバイクの形をしていたものが、姿を変えていく。

 それは、人の形をしていた。……正確には、ライオンの頭部をした獣人と言った方が正しいが、早い話ロボットがそこに立っていたのだ。


 変形ロボ!! 元々黄道12星座のゴゥレムシリーズは全部それを目指していたんだけど、色々あって半分くらいは移動用ビークルにしようって結論になっていたのよね。

 それなのに、こうして《レオ》もロボになりましたか。しかも、操縦しているのは俺という展開!! ふははははーと笑いがこみ上げるな。こんな状況で無ければ。


 最も、サイズ的に完全に乗り込むタイプは無理だったみたいで、胴体部分の操縦席は申し訳程度の装甲があるだけでスカスカである。ロボというよりはパワーローダーに近いかもね。


「……おっさんも大概だったけど、アンタ等も次から次へとびっくりどっきりアイテム出すもんだね」


 変形の様子を見ていたヴァイオレットさんが感嘆とか諦めとかそんな感情が入り混じった顔で見つめていた。


 ハッハッハ。アイディアと技術さえあれば大概の事は出来るからな! ……便利な分好き勝手に使えないという制限はあるけども。


「で、アタシは何処に乗ればいいんだい?」

「……肩か背中?」


 今までのようにタンデムは無理。となると、肩に乗るか背中にしがみつくしかあるめぇ。

 ヴァイオレットさんは「うーん」と悩んでいたようだが、やがて頷いた。


「……まぁいいか。で、アタシの戦闘方法は?」


 あ、そうだった。今のままならヴァイオレットさん戦えないんだったね。

 ……仕方ない。

 俺はヴァイオレットさんにトリプルブラストを手渡した。そして、簡単な操作方法を伝授する。これなら、でかいのはともかく小さいのは撃破できるだろう。


「へへっ! これも面白そうだ。いっちょ頼むぜ!!」


 トリプルブラストを構えてニヤリと笑みを浮かべたヴァイオレットさんは、勢いよく《レオ》の肩に飛び乗る。俺もアームを操作して左腕で彼女の身体を支える。


 さぁ、戦闘再開だ。

 《レオ》の身体は今までと同様にホバーで浮き上がり、砂の上を滑るように移動する。そして、目前にサンドウォームが迫ると、《レオ》の背中から二つの砲がせり上がり、その照準をつけた。

 砲からは光弾が、更にヴァイオレットさんがファイヤーブラストを同時に放ち、それを同時に受けたサンドウォームは即座に爆散する。

 続いてこちらに迫るサンドウォームをホバーと背面のバーニアを利用して避け、これまた肩のキャノンで殲滅。

 ううむ気持ちいい。

 ちなみに操作はバイクのハンドル部分がジョイスティックのように変形したものを使っている。複雑そうに見えて操作は実に簡単なので、リアルにロボットゲームをしている感覚なのだ。


 そんな感じでルークやゲイルには及ばないものの、ある程度の数は減らす事が出来た筈。

 《レオ》自体の武装がさほど充実していないせいで攻撃方法は単調になるし、操縦席周りの装甲がスカスカのせいであまり敵に接近出来ないからな。


「あーそろそろしんどくなってきたな」

「同感です」


 射撃と避けにばかり集中していても、戦闘というものは疲れるものなのだ。しかも、俺達からすれば連戦だし、こちらの武装もエネルギー残量が心配になってきた。

 それにしてもアルドラゴの戦闘準備はまだか? もう結構な時間が経っているだろう。

 いい加減心配になってアルカに連絡を取ろうかと思っていた時だった。


 ゾクゾクッと肌を突き刺すような悪寒が俺の身体に走った。


 それはヴァイオレットさんも同様だったようで、鋭い目つきで辺りを睨んでいる。天地左右を油断なく眺めまわしていたが、やがて合点がいったように頷いた。


「何か分かったんですか?」

「なぁ、魔獣にはランクがあるのは知ってるよな」


 聞いたらそんな事を言ってきた。

 いや、何故に今更魔獣の分類についての講義を?

 まぁ疑問には思ったがとりあえず答えておく。


「あ、ああ。下級、中級、上級でしょ」

「まあ、おおざっぱに括るとその三つなんだが、その上級の中にもピンキリで力の差があってな。通常のサンドウォームは上級……だけども、あのおよそ100メートル級のでかいのはその更に上……王級キングクラスに相当するんだわ」

「王級……」


 魔獣についての詳しい説明を聞くのは初めてだな。

 そう言えば、ブローガさんもかつて戦ったあのカオスドラゴンは王級の力があるとか言っていたかも。


「そんで、実はその更に上にも級があったりするんだが……」

「え……王の更に上?」

「誰かが確認したらしいんだが、人間じゃあどう足掻いても太刀打ちできない、とんでもねぇレベルの魔獣が存在するらしい」


 あぁ、なんか聞きたくない言葉が続くような気がする。

 なんだよ、あのカオスドラゴンよりも更に上のクラスってどういうこった。


「人間じゃなくて神様じゃないと太刀打ちできないレベルの魔獣……言うなれば神級ゴッドクラス。いやいや、噂ぐらいは聞いていたけど、まさか実際に遭遇するとは思いもしなかったね」

「そう言うって事は……このプレッシャーは……」

「おう。その神級ゴッドクラスのサンドウォームのおでましだ」


 俺は急ぎ《レオ》をビークルモードにチェンジして、その場から逃げ出した。ヴァイオレットさんを後ろに乗せる事も忘れない。

 そして、ヴァイオレットさんの言葉が示す通り、それは出現する。最初は地震のようにガタガタと大地を揺らし、《レオ》がホバーバイクでなければ、まともに運転すらできなかっただろう。それほどに砂の大地は激しく揺れ、大きく崩れ去っていく。

 やがて大地を突き破るようにしてヤツは出現した。


「……嘘だろおい」


 この世界に来て色々と非常識なものは見てきたつもりだった。

 それでいて、元の世界でもサブカルチャーではそれなりの非常識な世界とやらも見て来たつもりだった。


 だが、これは……


 大きさにして全長3キロ程もありそうな……一つの都市と言っても過言では無いサイズのサンドウォームが姿を現したのだ。


 神級ゴッドクラスの名は誇張でも何でもない。

 ただの人間が、どうすれば都市のサイズの化け物に勝てると言うのだ。


「主!!」

『リーダー!!』


 呆然と超巨大サンドウォームを眺めていると、ゲイルとルークがこちらにやって来た。

 見れば、ゲイルは《サジタリアス》のフライングモードを使用しているようだ。あれは俺ではとても扱いきれなかった代物になのだが、それを自由自在に使いこなしているゲイルはさすがである。

 

『ど、どうすんの? さすがにあんなのに通じる攻撃手段は無いよ』

「拙者も、対抗できる手段が思いつかないでござる」


 さすがのゲイルもこの状況には焦りの色が見える。

 俺としても、よもやこんな規格外の化けもんと遭遇するなんて完全に想定外だっての。

 サイズ比で言うと、ゾウとアリじゃなくてブラキオサウルスとミジンコレベルだろう。俺達がちまちま攻撃したところで、ダメージが与えられるとは到底思えないんだけど。


 正直言って逃げるのは簡単だ。

 いくら都市サイズの化け物と言っても移動速度がそこまで速いとも思えない。ならば、ビークルで安全領域まで離脱すれば何の問題もないだろう。

 それに、最悪の場合はゲートの魔法で隣国まで逃げるという手もある。


 だが……

 それには、奴等の進行上にあるルーベリーの第一都市を見捨てなきゃならない。

 第一都市はシグマ達の縄張りであったからほとんど足を向けた事は無かったけど、セージ達が生まれた家である王宮がある。

 広場に集まった人々……チラッと見ただけだが、そこに集まった人たちの顔が頭をよぎる。声も躱した事のない人達だけど、俺達が見捨てたらそのまま死を迎える事は間違いない。


 ……嫌だな。

 顔も見た事のない人達が与り知らぬ所で死ぬのなら構わない……という言い方は酷ではあるが、仕方ない。俺達は神では無いし全能では無いのだから、全てを救うなんて事は出来る訳が無い。

 でも、こうして知ってしまった以上、知らぬふりをして逃げ出すというのは俺には無理だ。


 それに、セージに格好良い事言ってしまったからな。

 今更、相手が強すぎて無理でしたなんて言うのは格好悪いだろう。


「でも、現実問題としてアレとどう戦うっていうんだよ」


 俺は思わずボヤキと共に天を見上げた。

 ちなみに、まだまだ存在していたサンドウォームであるが、その大半がゴッド・サンドウォームの出現によって押し潰された。

 まだある程度は数が確認出来るけど、ゴッドに比べると脅威レベルの差が尋常じゃない。何というか、放置しても問題ないんじゃね? って思ってしまいそうだな。


 天を見上げながら髪を掻き毟っていた俺であるが、その視野の中に黒い点を発見する。

 そして、その黒い点は次第にその大きさを変え、シルエットもくっきりしてくる。


 あぁ、そうだった。

 忘れていた訳では無いが、俺にはまだ戦う手段があったじゃないか。


『遅れて申し訳ありません!!』


 バイザーよりアルカの声が響く。


『やった!! キターッ!!』

「おお!!」

「って!!? なんだいありゃあ!!?」


 ルーク、ゲイル、ヴァイオレットさんの三人がそれぞれ声を放つ。

 俺も、笑みを隠せないままに声を上げた。


「遅いぞアルカ!!」


 俺の目の前に、鋼鉄の竜型戦艦……アルドラゴが舞い降りて来た。

 絶望するのは、コイツで戦ってからだ。




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