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123話 獅子と蠍と射手の激闘



 《レオ》に跨って砂蟲の群れへと猛進する俺とヴァイオレット……さんであるが、奴等に近づくにつれて吐き気を催すようになっていった。

 細かく描写すると同じく吐き気を催す人も出現するかと思われるので省くけど、あー気持ち悪りィ。


「大丈夫かいアンタ、身体の血の巡りが悪くなっているけども」


 背中に引っ付いているヴァイオレットさんがそんな事を言ってきた。


「だ、大丈夫です。ちょいとばっかし、トラウマがある相手なんで……」

「トラウマ? 前に食われかけた事があるとかそういうのかい?」

「……まぁ、そんなところです」


 ただ単に生理的に身体が受け付けないってだけです。雨の日の田舎道のアスファルトの上……アレが多数うにょうにょ蠢いて足の踏み場も無かったらトラウマにもなりますわ。

 まぁ、近寄ってみたら体表はゴツゴツしているから、アレ特有のぬめぬめ感はあんまし感じないけどね。それに、小さいから嫌悪感があるのであって、見上げる限りのでかさとなると割と平気みたい。


 それにしてもさすがは吸血種。頭部しか露出していないというのに、血の巡り方とか分かりますか。


「言っとくけど、噛むつもりはないから安心しろい」


 そんな事を思っていると、こんな事を言ってきた。


「は?」

「元々、魔力回復の為に血を吸っているんであって、魔力の欠片も感じないアンタの血を吸っても何の意味も無いからな」

「あ、そういうのって分かりますか」


 そう。俺はこの世界の人間が誰しも持っている魔力を発生させる臓器を持っていない。よって、魔法を覚えたくとも覚えられないのだ。せっかくファンタジーの世界に来ているというのに、残念で仕方ない。


「大体よう、お前等の仲間はどいつもこいつも人間の身体の構造していなかったり、魔力が無かったりで噛む意味もない奴等ばっかだろう。あの細い兄ちゃんだけは魔力のある人間の身体はしているが、別に血の中に魔力が流れているわけじゃねぇからな。吸っても意味がねェ」

「な、なるほど……」


 ゲイルは体内に魔晶を埋め込んでいるせいで魔力を持つ身体となっているけども、別に心臓みたいに血液に循環出来る形になっている訳じゃない。

 となると、うちのメンバーにはヴァイオレットさんの言う通り、噛みたくなるような人員は居ないと言う事になる。

 ある意味助かったと言えるか。仲間を増やしたりするという意味での吸血行為ではないにしろ、噛まれて嬉しいと感じる人間も居ないだろう。


「さぁて、改めて見るとでたらめな数だねぇ」

「これって砂漠中のサンドウォーム全部集まっているんじゃないですかね」

「なるほど、じゃあこいつら一掃したらしばらくはサンドウォームの出現は無いって事か」

「……そういう考え方も出来ますか」


 そんな他愛もない会話を続けながら、俺達はサンドウォームとの距離を詰めていく。

 それにしても、さっきまで戦っていた間柄だというのに、思っていた以上にこの吸血鬼お姉さんは話しやすいというか……。口調もさっきまでより柔らかいし、不思議と元の世界の姉貴を思い出させるお人だ。

 俺自身はコミュ障であると自覚しているが、やはり話し合ってみないと人間というものは分からないものだと理解出来た。


「そんじゃ、そろそろぶちかますとしますか」


 ヴァイオレットさんはそう言って背中に担いでいた大型ロケットランチャーのような武器を取り出す。


「狙いはでかいのでお願いします」

「こっから見たらどれもでかく見えるけどね」


 それもそうだ。

 ヴァイオレットさんはロケットランチャーを肩に担ぎ、安全装置のようなものを解除する。

 すると、砲口と思しき部分から銃身の筒のようなものがガチャンと音を立てて出現。

 何事?

 と思って見ていると、その銃身みたいな筒が上下に展開したのだ。

 そして、その上下に開いた空間がビリビリと放電しているのが確認できる。


 あれ……これってロケットランチャーじゃなくて……


 ズガガァンと、耳元で雷鳴が轟いたかのような轟音が響いた。筒から発射された砲弾は、まるでレーザーのような光を纏って一体のサンドウォームへと直進し、その身体に大きな風穴を空け、そのまま消滅へと誘った

 あぁこれ、ロケットランチャーじゃなくてレールガン……か、もしくはそれに近いものだったのね。

 それにしても、さっきの轟音……バイザーの自動防音機能が無かったら鼓膜が死んでいたぞ。


「うほぅ!! 相変わらずでたらめな威力だねぇ!! こういう武器初めて使ったけど、面白いなこれ!!」

「え!? 初めて使ったんですか!!?」

「あのおっさん、自分の武器を他人に触らせようとしなかったかんね。今回初めて使えって言われてこっちがびっくらしたさ」

「マ、マジですか……」


 初めてSF武器を使用して使いこなすって、この人もなんだかんだでチートだよな。

 いや、戦闘の達人ってのはそういうもんなのかもな。


「とにかく、もっと近づけ!! ぶっ倒せる事が分かった以上はどんどんぶっ放す!!」

「了解!!」


 俺は従い、《レオ》の推進力をアップさせた。

 いやいや。自分で戦わなくてOKってのは楽で良いな。




◆◆◆




 ……さて、どうやって戦おうか。


 こちらに迫り来るサンドウォームの群れを見て、ルークは頭を悩ませていた。

 ケイに言われるがまま《スコーピオ》に乗ったはいいが、元々《スコーピオ》は多数を相手にする事にさほど向いている訳では無いからな。まぁ、《タウラス》も《キャンサー》も多数相手に向いているとは言い難いのだけれども。


『まぁ、いっちょやってみよう!』


 細かく考えるのは自分のキャラじゃないと思い、とりあえずぶつかってみようと思い至った。


 《スコーピオ》を前進させ、最初に目前に迫って来たサンドウォーム相手に拳を振りかぶり、思い切り殴りつける。

 《タウラス》よりも更にパワーをアップさせた《スコーピオ》の全力パンチである。

 殴りつけられたサンドウォームの頭部は一撃で粉砕され、その余波で胴体の半分までが吹き飛ぶ結果となった。


『うん。やっぱぼくはこっちの方が楽で良いや』


 《スコーピオ》の内部でルークはニコッと笑みを浮かべると、そのまま《スコーピオ》の拳を大地へと叩き付ける。

 すると、100メートルはある巨大な壁が次々と出現し、サンドウォームの進撃を阻んだのだった。何体かは激突の衝撃でそのまま消滅したが、さすがにでかいのはそうはいかない。

 まぁその為に自分達が居るのだが。


『いっくぞぅ!!』


 掛け声と共に右腕の大鋏……シザースクロ―を発射。腕とワイヤーで繋がれたシザースクローは目前のサンドウォームの身体を貫く。が、その程度の風穴では巨大なサンドウォームは消滅しない。それでも、その身体を縫いとめる事には成功した。

 足元の地盤を魔法によって強化し、足裏からスパイクが飛び出して《スコーピオ》の身体をしかと大地に固定する。

 それで何をするかというと、ルークは《スコーピオ》の上半身部分を回転させ始めたのだ。当然、右腕のワイヤーによって繋がれているサンドウォームもそれに引っ張られる形となる。

 そうやって力尽くで砂の中から巨大サンドウォームを引っこ抜いたのだ。そして、ワイヤーによって繋がれているサンドウォームを振り回した。


『うおお!! ローリングサンダートルネード!!』


 雷と竜巻が混ざったテキトーな名を付け、ルークはサンドウォームの巨体をぶんぶんと振り回したのだった。

 当然、そんな巨体が振り回されれば、周囲の被害は甚大である。周りに群がっていたサンドウォーム達は巨大な鞭と化したサンドウォームによって薙ぎ払われ、次々に吹き飛ばされていく。弱い個体であれば、そのまま消滅していく勢いである。

 とはいえ、そんな即席の攻撃方法も長続きはしない。振り回していたサンドウォームもやがて消滅し、シザースクローは《スコーピオ》の右腕へと戻って行った。


 それでも数は減った!

 続いて《スコーピオ》の尾の形になっているオーバーハングキャノンをぶっぱなし、自らに群がろうとしているサンドウォームの身体に風穴を空けていく。


 そうしていると、やがて空から数十もの光の矢が降り注いできた。

 矢が命中するのは、どれも動きの速い十数メートルサイズのサンドウォームばかり。この正確さでこの数を同時に射貫ける者は一人しかいない。




◆◆◆




「……効率が悪いでござるな」


 この地で最も高い岩山の頂上に陣取ったゲイルは、いま射った矢の結果を見て呻いた。

 今の技は「光弾時雨こうだんしぐれ」。エネルギーをチャージした風雷丸の矢を五十もの数に分裂させて一度に多くの敵を射貫く技である。

 最も、これには数秒先の敵の動きを予測して射らなければならないという厄介な技でもある。これだけの数のサンドウォームを前にして、その計算に要する時間は大きなタイムロスと言えた。

 仕方ないので、普通の射撃で目に付いたサンドウォームを一体ずつ撃破していく事に。


 が、やはり高所からの射撃だけではあれほどの群れを仕留め続ける事は難しい。

 ルークの力で進行自体は阻害されているが、目測だけででかいサンドウォームの陰に隠れた小さなサンドウォームを見つける事は困難だ。


「……仕方ない……《サジタリアス》!!」


 ゲイルがその名を呼ぶと、今まで上空で待機していた一対の翼の形状をした巨大弓……《サジタリアス》が舞い降りる。

 ゲイルはその場から跳び上がると、自らに向けて降りて来た《サジタリアス》の翼状部分へと足を掛ける。

 すると、そのまま足元が固定され、ゲイルは《サジタリアス》に立ったまま乗る形となった。

 さて、この《サジタリアス》であるが巨大弓としての役割以外にも、移動用ビークルとしての役割もある。この翼のような形状は伊達では無く、見た目のまま空を駆ける事が可能なのだ。

 ゲイルは固定されている踵部分にあるフットペダルを器用に操り、フライングボードと化した《サジタリアス》を乗りこなして見せる。


 《サジタリアス》は元々ゲイル用の移動用ビークルとして開発が進められていたものだ。本来の形は《レオ》のようにバイクの形をしていたのだが、ゲイル本人も意見も組み込まれるようになり、このような巨大弓としての側面も持つようになった。

 そして飛行形態は翼という形状からして背中に合体して飛ぶと言う手段が考えられていたのだが、ゲイル本人がそれだと弓が上手く射る事が出来ないと苦言を呈し、このように乗ると言う形になった。

 どうも、ゲイルにとって弓を射る上で大事なのは足元の踏ん張りであるらしく、足が地についていない状態ではどうも集中できないのだとか。まあ、実際は足場そのものがふわふわ宙に浮いているんだけど、足場があるという実感が必要らしい。


「さて《サジタリアス》……初陣でござるぞ!!」


 正確には二戦目ではあるが、あの剣聖とやらの戦いは共に戦ったと言えるものでもない為、カウントはしない事にした。……というかしたくない。

 《サジタリアス》に乗ってサンドウォームの群れの頭上へとやってきたゲイルは、即座に狙いを定め、手にした弓で次々に小型や中型サイズのサンドウォームを射貫いていく。


 慣れない空からの射撃という事で狙い辛い事は事実であるが、それでもさすがの命中精度である。何体かのサンドウォームはゲイルの存在に気付いて攻撃を仕掛けてくるも、上空に位置しているゲイルには届かない。ゲイル本人も安心して狙撃に徹せられるというものである。


 が、普通の人間よりも鋭敏な五感を持つゲイルは、この空間内でピリピリと肌を刺激するプレッシャーの存在に気付いていた。

 当初はこれだけのサンドウォームの群れだから仕方ないと思っていたが、やがてプレッシャーの正体はそれでは無い事に気付く。


「……砂の下? 奴等よりも更に地下深くに元凶が―――」




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