121話 迫る砂蟲
戦いが終わった事で、俺は力が抜け、そのまま地面へとへたり込んだ。
最後まで毅然としていりゃ格好良いんだが、今の俺にはこれが限界です。
『ケイ、無事ですか?』
少し離れた場に居たアルカが駆け寄って来た。その途端、俺達を覆っていたハイ・アーマードスーツが解除され、そのまま上空に待機しているアルドラゴへと戻っていく。
これももっとスムーズに解除出来れば良いんだよなぁ。メタルな外見の宇宙の刑事をモデルにして、アルドラゴより転送されるシステムにしたのだけど、ずっと上空にアルドラゴ待機させておくと魔石エネルギーも消費するし、何より場所が野外に限られるってのが面倒極まりない。
もっと最近のヒーローみたいに持ち運び出来るシステムにするべきだな。これも今後の課題である。まあ、そんなに簡単に出来たら苦労は無いんだけど。
『姉さん!』
アルカが近寄ると、今まで俺の右腕にくっついていた銀色のメタルなスライム……フェイがぴょんとアルカへと飛びつく。
『わっ! フェイも無事に元に戻れたんですね。……良かった』
『姉さん姉さん姉さんっ!!』
金属のスライムがうにょうにょとアルカに抱き着いている様は異様である。しかしアルカの方も特に嫌がった様子もなくフェイの抱擁を受け入れている。そして、頭らしき部位をなでなでしながら苦笑した。
『もう、なんなんですかこの子は。今まで人が変わったみたいに大人っぽく振る舞っていたのに、昔みたいになって……』
『ご、ごめんなさい……でも、しばらくこうさせてください』
今まで敵サイドに利用されていたりと、色々なしがらみがあった分、肉体を取り戻した今が嬉しくて仕方なのだろう。
というか、これが昔みたいってフェイって結構なシスコンだったんじゃ……という事実を知ってしまった。いや、現在進行形でシスコンか。
すると、遠くの方から聞き覚えのある声が聞こえて来る。
「レイジ―!!」
「先生ー!!」
ジェイド、ミカのコンビとセージとドルグの四人組だな。なんでここに居るかはさておき、さっきの戦いを見られてはいたようだ。
ジェイドとミカは先を争うようにこちらに向けて駆けており、このままだとこっちに激突するんじゃねぇかと恐怖を覚えた。
そして、勝ったのはミカ。こちらに向けて飛び込むようにジャンプ。そのままゴッチンするかと思われたが、その寸前にアルカがひょいと俺の身体を持ち上げて移動した事で空振りに終わり、そのままズサーッと大地を滑る結果となる。
「な、なにをする!?」
と、ミカは憤慨するが対するアルカは涼しい顔だ。
『いえ、ケ……じゃなかったレイの身の危険を感じたものですから……』
うん。実際あのままだとぶつかっていたから、グッジョブである。何故かミカはぐぬぬと呻いているが、今はそれどころじゃないので無視。
すると、セージがニコニコしながらこちらに近付いてきた。
「とにかく、そちらも無事に終わったようだね」
「ああ。そっちもその様子を見る限り無事に終われたみたいだな」
「まぁ、後始末は色々あるけれど、当面の危機は去ったかな」
その辺の事後処理は色々あるよね。その事について考えると胃が痛くなるけど、そればっかりは手伝えないからね。と言うか手伝いたくないからね。
「僕はまだ王位は継いでないが、次期国王として改めて礼を言わせてもらう。ハンターレイジ殿、国の危機を未然に防いでくれた礼、私は生涯忘れない」
そう言ってセージは軽くではあるが頭を下げた。
「おいおい。王族が簡単に頭なんか下げていいのかよ」
「ここには友人しか居ないからね。内緒にしてくれよ」
そう言って俺達は軽く笑い合った。
あぁ、これでようやく終わったんだなと再実感できたよ。
空を見上げると、青空が澄み渡っていた。あぁ、そろそろエンディングかなぁ……。
◆◆◆
「いやいや、そう簡単に綺麗に終わってもらっても困るんだけどね」
その様子を数10キロも離れた場所より見ていた人影は、のんびりした声でそう呟いた。
「やっぱりさぁ、もうちょっと波乱が欲しいよね。こう……ハリウッド映画的な破壊シーン? そういう画が欲しいなぁ。無難な形で終わられると、こっちも困るんだよね」
ぶーぶーと文句を垂れながら、人影はひょいと腰かけていた岩山から飛び降りる。かなりの高さであったが、当の本人は足を痛めた様子も無く平然としていた。
そして徐に地面に手を置いて「うーんうーん」と唸っていると、やがて満足そうな顔をしてニカッと笑う。
「うん、こんなもんかな。それじゃ、おまけのラウンド行ってみよー!!」
その言葉と同時に、人影の傍の大地がボコボコと隆起する。その数たるや、数十では済まない……数百に及ぶ数が大地より飛び出し、一路第一都市へと侵攻を開始する。
「おおーっ! 行け行けーッ!! さてさて、アルドラゴのメンバー達は果たしてこの魔獣達の群れが第一都市に辿り着く前に撃破する事が出来るのでしょうか!? こうご期待!! 続きは劇場にて!! ……てね!!」
そして、人影は視線上ではケイ達が居る方向を向くと、ニカッと笑って言うのだった。
「あ、そのおもちゃもういらないからあげるね」
◆◆◆
『!!!』
アルカの抱えていた金属球……フェイが突然ビクッと震えた。
セージ達が居る手前、ただの金属球として振る舞っていた様子だが、その反応にこの場に居た全員が気付く。
『ケ……レイジさん! 緊急事態です!!』
そして、こういう状況にも関わらず、言葉を発した。
「む? 今、その球みたいのが喋らなかったか?」
ミカが疑問を口にするが、今は無視。俺も最初は唖然としたが、よくよく考えると人が居る場所でフェイが声を出したという事は、それだけ緊急事態という事だ。
「緊急事態ってどういう事だ?」
『……見てもらった方が早いですね。跳び上がって、12時の方向を見てください』
言われるがままに、俺とアルカはその場からジャンプブーツで跳び上がる。そして、12時方向というのがどっちかよく分かんないけど、なんとなく南の方を見る。
「!!」
俺の視界に映ったのは、土煙を上げながら大地を蠢くアレ。しかも、数百はあるだろうかというおびただしい数だ。
うおえ。
思わず吐きそうになる気持ちを必死で抑える。心の準備とか出来ていなかったから、余計に気持ち悪い。
着地した俺に思わず駆け寄るアルカ。
『だ、大丈夫ですかレイ?』
「……大丈夫。久しぶりに見たから、ダメージがでかかった」
「ど、どうしたんだい?」
俺達の様子を見て不安になったらしいセージが声を掛けて来た。
……言うべきか迷ったけど、隠せるもんじゃないよな。それに、知っておいた方が彼らにとっては良いだろう。
「えーと……サンドウォームの大群が第一都市に向かっています」
「は?」
「数にしてえーと……」
『132体ですね。勿論、全長が10メートルのものから、100メートルサイズのものまで個体によって差はありますが』
「ひゃ、ひゃく……その群れが、第一都市を目指しているの?」
引きつった顔でセージが聞くと、俺はただ黙ってコックリと頷いた。
すると、まだ事態がよく掴めていないらしいジェイドとミカが首を傾げて口を開く。
「お、おい。サンドウォームってアレだろ? この砂漠で一番厄介な魔獣だろ?」
「うむ。でかいミミズだな」
そういうと大したことないように聞こえるけど、でかいミミズの何と厄介な事かというのは、元の世界でそういうモンスター映画をよく見ていた身としてはよーく知っている。
恐るべきは、その捕食能力。体長に見合うだけの巨大な口であらゆるものを呑み込み、強力な溶解液によって溶かす。……まぁ、この世界の魔獣は食べる為に殺す訳ではないから、実際に食べる訳無では無いみたいだが。
つまり、巨体に押しつぶされてもアウト。そのまま食われればすぐに溶かされてアウトという事だ。
何より、その巨体のせいで人間がダメージを与えても、よほど強力でもない限り損傷は微々たるもの。それも大抵の傷はすぐに回復してしまうというのだから厄介極まりない。
それが132体である。
脅威以外の何物でもないだろう。まぁ、実際にこの目にしないと実感しにくい物ではあるよな。
「まずい……まずいぞ。早く宮殿に知らせないと……いや、早く住民の避難を……」
あまりにも突発的な事態に、さすがのセージも混乱しているのか、ぶつぶつと喋りながら辺りをウロウロしている。
確かに、あれほどの大群が都市に攻め入れば、それこそ壊滅するだろう。一応、都市には魔獣避けの結界が張られているらしいが、あそこまでの大群が一目散に第一都市を目指しているとなると、何処まで耐えられるか分かったものでは無い。
それに、街の心配もあるが俺には予感があった。
「なぁ、フェイ。……これってアレか?」
『……そう……なりますね』
声を絞り出すようにフェイが答える。
やはりか。
これは、フェイの主とやらが仕組んだ事で間違いない。カオスドラゴン、ヒュージスライム、そしてエメルディアでのゲオルニクスさんや帝国との騒ぎ……それの続きという事だろう。
……シグマ達との戦いはいわば番外編。本当の試練はこれからという事らしい。……それとも、シグマ達との戦いの結末が気に食わなかったから、手を加えて来たという事かもしれないな。
そこへ、戦いの終結の報を聞いたゲイルとルークがこの場へと文字通り飛んでやって来た。ジャンプブーツによる長距離ジャンプである。
「主よ、戦いの勝利、まずはおめでとうございます。ですが、それよりも……」
「あぁ、分かっている。サンドウォームの群れの件だろう」
上空から見えたのか、ゲイルが報告しようとするのを制す。
ともあれ、チーム・アルドラゴ改めて全員集結である。であるならば、する事は一つだろう。
主とやらのやりたい事はなんとなく察する事が出来る。
要は、サンドウォームの群れを第一都市に辿り着く前に何とかして見せろと言う事だろう。
実際、俺達がなんとかして見せないと、大勢の人が犠牲になる事になる。明らかにヤツに乗せられている訳ではあるが、この際仕方が無い。
俺は視線をアルカ達アルドラゴの面々へと向ける。
すると、俺の言いたい事は既に理解できているのか、全員頷いて見せた。
……俺自身に力は無いが、頼れる仲間と武器がここにある。ならば、後はやるだけだ。
「俺、ルーク、ゲイルの三人は地上で奴等を迎え撃つ。出し惜しみはしない。一匹残らず全力で駆除するぞ」
俺の言葉に、ルークとゲイルが頷いた。
そして、アルカに向き直って告げる。
「アルカはフェイと共にアルドラゴに帰還。……アルドラゴの戦闘準備だ」
そう。遂にアレを戦闘目的で動かす時がやって来た。
本当は次の話と合わせて一話の予定でしたが、文字数が一万を超えたので分割しました。
次話は早いうちに公開できる予定です。