120話 タッグバトル決着
アルカのリキッドアタックに手も足も出なかったヴァイオレットであるが、助け舟を出したのは俺と戦っている最中のシグマだった。
跳躍して俺を飛び越え、アルカ達の頭上へ到達すると、右の掌を真下へと向ける。
すると、その右の掌から超振動が広範囲に発せられた。いや、この場合は超振動波か。威力はゼロ距離でぶつけられる超振動とは比較にならない弱いレベルであるが、液体に変化しているアルカに効果は絶大だ。
振動によってアルカは実体が保てず、ただの水滴となって弾けていく。
これはマズイ!
俺はすぐに飛び出すと、シグマとアルカの間に割って入り、アルカの本体である水の魔晶を掴み取る。そして超振動波の射程外まで逃れると、魔晶から水が噴き出してアルカが実体を取り戻した。超振動波によって剥ぎ取られた水もアルカに引き寄せられ、再びハイ・アーマードスーツの姿となる。
『助かりました』
「いや、俺の落ち度だ」
今のは俺がアルカの戦いに気を取られて、シグマから一瞬意識を離したのが原因だからな。
それにしても、やはりというかあの二人は強い。一人一人でも強いのに、二人でタッグを組まれたらそらより強いよな。まぁ強引にタッグ戦に持ち込んだのは俺達なんだけど。
「残り時間は?」
『2分と言った所でしょうか……』
「じゃあ、そろそろマジで行くか」
前にも説明した通り、このハイ・アーマードスーツは装着していられる時間が非常に短い。しかも攻撃を受ければ受ける程制限時間が短くなっていくシステムだから厄介だ。まあ将来的にはもうちょいマシにはなると思うが、今はこれが限界とのこと。
それと、言っておくけど今までマジで戦ってなかったわけでは無いよ。
ただ、この約一分間はスーツの性能と特殊技能を確認する為のテスト時間も兼ねていたというだけ。
……だって、実戦で使うのはこれが初めてなんだもん。上手く扱えなくて当然でしょ……と、軽く言い訳してみる。
ただ、これで性能の方は確認出来た。十全とは言い難いが、少なくとも勝算は確実にある。
そして、俺は目の前にスッと出されたアルカの手を握り―――
「だりゃあっ!!」
―――それを思い切りシグマ達に向けて放り投げた!
突然の行動に敵対する二人は困惑した様子だったが、俺とて無茶でこんな事をしたわけでは無い。これも立派な戦術プランである。
投げ飛ばされたアルカは、そのまま足を突出し、自身の脚そのものを氷で覆っていく。やがて、それは自身の肉体を巨大な氷の矢……いや槍へと変化させる。
二人は左右に散って逃れようとしたが、いつの間にか自分達の両サイドに氷の山が出現し、その行く手を遮っている事に気づく。
逃れられないと判断したシグマは、ヴァイオレットを押しのけて前に出て、右手を目前に迫るアルカへと向ける。
再び超振動波を浴びせ、氷の槍を命中する前に破壊しようとする。が、完全に破壊するには超振動波は弱く、また時間も足りなかった。それは理解できたのか、ある程度振動波を浴びせた所でシグマは後ろに下がり、今度はヴァイオレットが前に出る。
「おらぁっ!!」
シグマの超振動波によってヒビの入ったアルカの氷の槍を、ヴァイオレットが魔力によって強化した拳で粉砕する。
が、俺達にはそれすらも織り込み済みだ。
アルカは氷が粉砕された直後に自身の肉体を再び液体化させ、そのまま上空へと逃れる。
そして、二人の目の前に立つのは、この俺。
俺は右腕を突出し、それを二人に向ける。
ハイ・アーマードスーツの右腕に組み込まれた新装備の一つ……ドラゴニックバスターである。
まぁハードバスターに装飾がくっついただけの同じ物で、違いは名前と見た目だけである。その名が示す通り、変形して砲口の形態となったドラゴニックバスターの姿は、そのまま龍の頭部そのものだ。
「くらいやがれ!」
かつてカオスドラゴンより受けた息吹のように、その龍頭から極太のレーザーが発射される。
氷山によって左右を阻まれ、避ける術は無い。また、追い打ちを掛けるように液体化して上空へと飛びあがったアルカは二人の背後へと回り込んで再び実体化する。そして、二人に向けて猛烈なブリザードの如き冷気を浴びせるのだった。
「「チィッ!!」」
二人はともに舌打ちし、ヴァイオレットは俺へ、シグマはアルカへとそれぞれ右腕を突き出す。
突き出された掌からは、魔法陣のようなシールドが、更に広範囲にかつ出力の上げられた超振動波が発せられ、それぞれの攻撃を受け止めて見せた。
約10秒間……激しい光の鍔迫り合いが続いた。
そして光は収まり、そこには五体満足ではあるがハァハァと荒い息を吐く二人の姿があった。
特にシグマの右腕は出力を限界ギリギリまで酷使したのか、バチバチと所々がショートし、煙が噴き出しているのが確認できる。
……ここまでだな。
ヴァイオレットは魔力を限界近くまで消費し、シグマは虎の子である超振動の右腕を失った。
これで素直に負けを認めてくれると俺としては嬉しいのだが……
……二人の表情に現れたのは笑みだった。
「いやあ、マジで強えなお前等」
「全くだ」
やっぱりここで終わってはくれないのね。
ドラゴニックバスターは一度使ったら冷却処理の為に連発は出来ないから、しばらくは封印だな。アルカも今の攻撃で結構な魔力を消費している様子。
こちらサイドも向こうサイドもかなり疲労している。残り時間も考えると次の激突で決めないとマズイな……と思っていたらば、ヴァイオレットが何やら懐から小さな物を取り出した。
武器か? と身構えるも、取り出されたそれは俺達にとって非常に見覚えのあるものだった。
魔石だ。
ヴァイオレットはそれを、俺達に見せつけるように自身の口の中へ放り込む。
「い!?」
いや、アレって食べても大丈夫なもの? いや、確実に駄目なものだよね。だってアレって、魔獣を倒した際に出る魔獣にとっての動力源……つまりは魔力の塊でしょ?
ん? 魔力の塊? って事は、まさかそれを体内に摂取すると……
「魔力が回復するとか、そういうオチだったりする?」
俺がそういうと、ヴァイオレットは笑みをさらに深くした。
「いんや……回復じゃねぇ。“パワーアップ”だよ」
そう言ってヴァイオレットが取り出したのは、紫色に光る丸いビー玉……いや、あれはまさか……
『雷の魔晶!?』
そう、あれは俺達もよく世話になっている魔石よりも数段上の魔力結晶……魔晶だ!
それをヴァイオレットは先の魔石同様に口に放り込む。
そしてゴクリと飲み込んだ途端、彼女の身体に異変が起こる。
「ぐががががが!!!」
ヴァイオレットは激しい雄叫びを上げた。
後のアルカの説明によると、体内で魔力が暴走しているとの事。自身の魔力と魔石の魔力、そして魔晶の魔力が喧嘩し、暴れ回っているらしい。
それもその筈、この行為は単なるドーピングと違って自身の魔力そのものを作り変える荒業なんだとか。下手をすればそのまま意識を失って数日間は昏睡に陥る可能性だってある。
だが、ヴァイオレットは意識を失わず、踏みとどまった。
額からは汗が吹き出し、大地に踏ん張っている足はガクガクと震えてはいる。そんな状態にもかかわらず、彼女はこちらを見てニヤリと笑みを浮かべた。
「ふぃー……パワーアップ完了」
まず見た目の変化であるが、短く切り揃えられた髪は元々は紫色であったが、それが発光している。そして体の至る場所からバチバチと放電現象が発生し、まるで超サ●ヤ人のような雰囲気である。
それにしても、こんな状況だってのにマジでパワーアップしやがった。
こちとらエネルギーも残り少ないというのに、なんて事をしてくれるんだ。
そんな風に睨んでいると、ヴァイオレットは額の汗を拭って改めてこちらを見据えた。
「オレは、お前の相棒みたいに炎や氷を操ったりするこの世界独自の魔法は使えない。だがこうすると……」
手を掲げると、そこに電流が走りやがて光の球を作り上げる。……いや、この場合は雷の球か。
「こんな感じに雷を操ったりも出来るみたいだぜ」
……なるほど。今までは魔術師という情報はあったが、身体能力の強化や魔力の壁を作り出す程度の魔法しか披露していなかったな。あの血液から槍を作り出す能力は、彼女の種族独特の特殊能力という訳らしい。
「つー訳で、バトル再開な!」
すると、ヴァイオレットは両腕を左右に突き出し、そこから雷撃を放つ。彼女が破壊したものは、両サイドを塞いでいた氷の壁だ。
それを破壊した途端、シグマは右側へ飛び出し、少し離れた場所にあった地面に手を突っ込む。その地面の中から現れたのは、金属製のアタッシュケースのような物体。それを開くと中にあったのは、腕であった。……もちろん、金属の腕……つまりは替えの腕だ。
シグマは煙の出ている超振動の右腕を取り外すと、新たな右腕を装着する。新たな腕は巨大な円柱状の物体が取り付けられた物で、以前の物と同じではない。という事は、超振動の機能は無いのか?
と思い見ていると、シグマはそのまま俺では無くアルカへと突進した。
そして、右腕を突きだしたと同時に、腕の円柱状の機械から、巨大な杭が飛び出す。―――あれは、パイルバンカーだ!
咄嗟に避けるアルカではあるが、飛び出した杭は最大2メートルまで伸び、執拗にアルカを追い詰める。というか、2メートルも伸びる杭って、最早パイルバンカーじゃない。そもそも、あの長さのものがどうやってあの中に納まっているとか、謎技術にもほどがある。
しかも杭には高熱が付与されているのか、アルカがガードの為に出現させた氷の壁は杭に打たれた事で一瞬にして溶解する。
「余所見してんじゃねぇぞ!!」
そしてこちらにはヴァイオレットが飛びかかってきた。
雷撃を帯びた槍を使い、目にも止まらぬ速さで鋭い突きを繰り返す。対する俺も手にしたヒートブレードで捌くのに精いっぱいだ。それでも防ぎきれず、何度か突きを受けた。だが、オリハルコンの装甲のおかげでダメージは無い。
「チッ! 硬ぇな、てめぇの鎧は!!」
ヴァイオレットは両手に持っていた槍を片手に持ち帰ると、再び片腕を天に掲げた。ビリビリと電流が走り、次第に形を作っていく。
まさか、また雷撃でも放とうというのか? いや、形は球形から姿を変えて棒状に細長くなっていく。あれはまるで、雷の槍じゃないか。
「飛び道具は趣味じゃなかったけど、案外楽しいもんだな」
そう言うと、ヴァイオレットは作り上げた雷の槍を俺に向かって投擲する。
勿論、放たれる軌道は読みやすく、避ける事は容易かった。
……それが一本だけなら。
「まだまだ行くぜ」
見れば、空中に十数本程の雷の槍が出現している。
次々に放たれる槍を、俺は全て避けきる事が出来ず、何発かは受けてしまった。
ダメージは無い。それでも、ダメージを受けるたびに残エネルギーは減っていく。くそ、このままだとジリ貧だな。
……仕方ない。
アーマードスーツの出力を上げ、パワーの底上げを図る。
それと同時にエネルギーも減るが、この際仕方ない。
『「うおおおおっ!!」』
俺の意図を察したのか、同じくアルカもスーツの出力を上げる。
このまま戦いが長引けば、こちらが不利になる。多少危険であっても、短期決戦しかあるまい。
「ははっ! 吼えたからって強くはなれねぇぞ!!」
吼えたから強くなったわけでは無いが、実際にパワーアップはしたぞ。
「ライトニングスピア!!」
手にしている槍に更なる雷撃エネルギーを付与したようだ。今まで繰り出されて来たものよりも威力は数段上。まともにくらえば、ダメージは受けないまでもエネルギーの消費は大きかっただろう。
まともにくらうつもりは無いけど。
俺は突きだされた雷槍を紙一重で避けきると、その槍自体を掴み取る。「何?」とヴァイオレットの顔が歪むが、あちらが対処する前に俺はその槍をヴァイオレットごと持ち上げて天に向かって放り投げた。
「チィッ!」
舌打ちしながらもヴァイオレットは空中に魔法陣を作り上げ、その魔法陣を蹴りあげる事によって体勢を立て直そうとする。
が、そんな暇は与えない。
ハイ・アーマードスーツのふくらはぎ部分が展開し、その下からジャンプブーツが姿を現す。俺は圧縮された空気を放出する事によって跳びあがり、空中のヴァイオレットとの距離を詰める。
「んな?」
そのまま両の腕を組み、ヴァイオレットの背に拳を叩き付ける。ヴァイオレットの身体はそのまま隕石でも落下したかのように大地に墜落し、小さなクレーターを作り上げる。魔力によって肉体が強化されているため死にはしないだろうが、かなりのダメージは与えられたはずだ。
実際、フラフラながらも立ち上がったヴァイオレットであるが、俺も追撃の手は緩めない。何せ時間が無いからな。
立ち上がったヴァイオレットのすぐ傍に着地。すると、その俺目がけてヴァイオレットが手にした槍を振るうが、そんなスピードの落ちた槍など避ける事は容易い。
身体を屈めて槍を避けた体勢のまま懐へ潜り込み、その腹部に強烈なボディブローをお見舞いする。
一方のアルカとシグマの戦いも佳境を迎えていた。
あちらはこちらとは違ってスピード対決となっている。アルカの振るう水の鞭をシグマは超加速によって躱している。またアルカも液体化と靴底のブレードを利用した高速移動を駆使し、その動きになんとかついて行っている。
だが、対するシグマも超加速の間は攻撃する事が出来ない。よって、このままではただ時間だけが過ぎていくかと思われた。
そんな中、次第にアルカ側のスピードが遅くなっていっている事に気づいた。
やはり、完全に機械であるシグマと違い、一部を魔法の力によって補っているアルカでは、地力に差が出てしまったか……。
そして、僅かながらもアルカの動きが鈍り、隙が生まれてしまった。当然、その隙を見逃すシグマでは無い。超加速によってアルカの死角へと回り込み、その胸部目がけてパイルバンカーを打ち込む。
ヴァイオレットの槍と違い、超高熱が付与された杭だ。いくら液体化出来ると言ってもそんな杭で穿たれれば、身体の一部が蒸発してしまう事だろう。
……そのアルカが本体であれば。
シグマの背後には、液体化から実体に戻ったアルカが忍び寄っていた。今、シグマによって穿たれたアルカは、液体化の力を利用して作り出した分身である。
そのままアルカはシグマの背後よりしがみつき、その身を拘束する事に成功する。シグマは身をよじって拘束を抜け出そうとするが、関節を一部凍結させる事によって動き自体を封じたのだ。最も、シグマの身体より放出される熱によって、こんな拘束は一時的なものである事は理解している。
だが、一時的であれば十分だ。
シグマの身体より離れたアルカはアルケイドロッドの鞭をシグマの足首に絡ませると、それを勢いよく振り上げる。
『ケイ!!』
「おう!!」
俺もボディブローによって蹲った形になっているヴァイオレットの脚を掴み、まるでジャイアントスイングの如き勢いで放り投げた。
放り投げられた二人の身体は空中で激突し、揃ってそのまま地面へと落ちる。
俺達は更なる追撃を与えるべく二人に向かって走った。
そんな中、倒れたままの二人の会話を集音マイクが拾い上げた。
「……おい立てるか?」
「いやぁ、ダメだわ。全然動かねェ。……ハハッ、思いつきであんな事やるもんじゃねぇな」
乾いた笑い声を上げるヴァイオレット。どうも、あの魔晶を飲み込むという手段は、彼女の思いつきでぶっつけ本番の行動であったらしい。
それであれだけ動けたのだから、それだけでも凄い事だと思う。
「……仕方ない」
立ち上がって見せたのは、シグマの方だった。
凍りついた関節は解除出来たようだが、それでも身体は限界のようだ。腕だけでなく身体の至る場所から煙が吹き出し、壊れる寸前の機械といった風体である。
それでもその瞳だけは壊れる寸前といった空気は感じさせない。幾多の戦場を駆け抜けた機械の兵士は鋭い瞳で俺達を睨み付け、今まで決して使おうとしなかった左の掌を開く。
『ケイ……来ました』
あぁ、分かっている。
この期に及んでシグマが何をしようとしているのかは理解している。
前の戦いの際、フェイの左半身を吹き飛ばしたアレだ。
シグマは左手に黒い球のような物を出現させ、それを俺達にぶつけようと大きく振りかぶる。
「ゼロ・ディバイト」
……この時を待っていた!!
アルカは身体を液体化させると、瞬時にシグマの背後へと回り込み、その身体をもう一度拘束する事に成功する。先の経験から、数秒間だけなら動きを止める事は可能だと言う事が実証されている。
そして俺は、アイテムボックスよりある物を取り出すと、それを握ったままシグマの作り出した黒い球目掛けて手を突っ込む。
「!!?」
俺の行動を見たシグマの顔が驚愕に彩られた。
この行動は予め決めていた事だったし、対策もきちんと練っていた。だが、やはり実行するのは恐ろしい事この上ない。
傍から見たら、バスケットボールくらいの球に俺の左腕が飲まれているように見えるだろう。まるでありえない奇術のようではあるが、これは現実である。
このゼロ・ディバイトと言う技……研究の結果、一種のブラックホールのようなものだという事が発覚した。実際に近い性質を持つ物は、俺たちの持つアイテムボックスだ。
触れた物全てを異次元の空間に収納する事が出来る。ただし、そのサイズより大きい物体は収納できず、触れた部分のみだけを収納する仕組みだ。
シグマはこの性質を攻撃に転用したと言う事だろう。だから、これをぶつけられたフェイの身体は、球が触れた部分のみだけが消えてしまった。
この技が触れた物を消滅させるというのではなく、収納するという事ならば、この球の中には奪われたフェイの身体の一部がまだあるという事だ。
だが、俺達のアイテムボックスのように手を突っ込んだだけで目的の物が取り出せるとは限らない。
なので、取り込まれた物が自動的にこちらに戻るようにした。
「まだかフェイ!」
『……見つけました! 帰還します!!』
その言葉と共に俺は黒い球より腕を戻す。戻す際もドキドキだ。もし、少しでも腕が球より外れればそのままスッパリとやられちまうからな。
腕を戻した俺の手に握られていたのは、金属の棒のような物体。その先端には俺達が付けているものと同様のバイザーが埋め込まれていた。
そのバイザーにはフェイの意識データが組み込まれている。つまり、アイテムボックスより取り出したのはこのバイザーで、コイツをゼロ・ディバイトの空間に入れれば、同じ空間にあるフェイの身体の一部も反応して戻ってくると言う事だ。
実際、計画は成功!
シグマに奪われていたフェイの身体の一部はこうして戻ってきた。
「まさか……それが目的だったというのか?」
『あたりです』
金属棒の形をしていたフェイの身体の一部はぐにゃりと変形して俺の左腕を覆う。俺は、そのグローブと化したフェイの身体を使い、立ち尽くしたままのシグマの顔面目掛けて拳を振り上げる。
「奪われたもの……確かに返してもらった!!」
前にやられたおかえしの意味も込められていた俺とフェイの一撃は、シグマの身体を吹き飛ばした。
10数メートル吹き飛んだシグマの身体は何度も地面をバウンドし、やがて止まる。それでもなんとか立ち上がろうとしていた様子だったが、それもしばらくすると力を失ったように地面に仰向けになる。
その様子を寝転がったまま見ていたヴァイオレットは再び乾いた笑い声を上げる。
「ハハッ。こりゃあ、負けだな」
「……だな」
倒れたままのシグマも頷く。あれでまだ意識があるとか、本当に化け物だなありゃ。
ともあれ、体感で言えばものすっごい長かったシグマ、ヴァイオレットとの戦いはこれで決着だ。
タッグバトルとは言え、最後の最後だけ3対2だったのはズルいと思うけどね。
まぁ言わなきゃバレないだろうよ。
とにかく終わり!
あー疲れた!!
ボスバトルは終了ですが、まだこの章は終わりじゃございません。
もう一波乱あります。