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119話 リキッドアタック




 チラリと視線をアルカとヴァイオレットの戦闘に向けてみる。


 軽やかなフットワークによって繰り出される拳や蹴りの乱打を、アルカはこれまた華麗なる動きによって全て躱していた。


「ああ! ちょこまかと逃げてるんじゃねぇよ!!」


 どのぐらい華麗かと言うと、身体を逸らす訳でもなくスイっスイっとまるで滑るように動いて攻撃を躱していたのだ。

 ……どうやって動いているのかと言えば、実際に滑っているのだ。

 あの不可思議な動きの原因は、アルカの足元にある。アルカのブーツは特殊な形状をしており、靴の底にはまるでスケート靴のようなブレードが任意で出現する仕組みになっている。また、動く時に注目していれば分かるかと思うが、動く際に一瞬だけ足元が凍りつき、まるでスケートリンクのような状態となる。それによって実際にスケートをするようにスイスイと滑って移動する事が可能らしい。

 俺自身にスケートの知識は無いが、俺の記憶の中にあるスピードスケートやフィギュアスケート等の映像からその技術を盗み取り、更には自身の柔軟性を利用して普通の人間には出来ない動きを実現しているのだ。


「鎧を着込んでようやく戦う気になったかと思えば、さっきからずっと逃げてばかり! てめぇ、その鎧はハリボテかよ!」


 ヴァイオレットが怒鳴る。

 まぁそう思うのも無理は無いよな。


『申し訳ありません。私の場合は身体の特性上格闘能力があまり高くないので、貴女の望むような戦いは出来ないかと思われます』


 冷静に自己分析して言葉を返すアルカ。

 その言葉のとおり、アルカの身体は水によって構成されている。が、その総質量は人間の体重よりもずっと少ないらしい。なんでも、あまり重くすると肉体の維持が大変なのだとか。

 だから、肉体の重みを必要とする格闘能力は俺達仲間の中でも最も低い。


 そして、アルカも俺と同じハイ・アーマードスーツを纏ってはいるが、アルカの装着している装甲は俺の鎧と違って艦の最硬金属が使用されている訳では無い。俺と同じ装甲を使用すると、とても重くて動けないと泣かれた。本当には泣いてないけど。

 よって、装甲はそこまでの硬度は持たないが、かなり特殊な性質を持つ金属が使用された。この特殊性こそアルカのハイ・アーマードスーツの特性になっている。


「そういや、てめぇは魔法戦が得意だっけな。チッ、こちとら魔法はあくまで補助で、好きなのは殴り合いだってのに!!」

『ええ。ですから、貴女にはあくまで中距離戦で挑みます』


 そう言ってアルカが取り出したのは、自身の武器であるアルケイドロッド。それを折りたたみ、剣の柄程のサイズにする。

 最初は訝しげにその様子を窺っていたヴァイオレットだったが、アルカがアルケイドロッドを振るった途端、その先端から水が発射されたのを見て即座に後ろへ下がった。そして、今までヴァイオレットが立っていた場所はアルカが振るった水の鞭によって大きく大地が抉られる形となる。

 アルカの新武装の一つ、アルケイドロッド・ウィップモードである。


「水の鞭かよ。随分と器用な事が出来るんだな」

『見事でしょう』


 そう言ってアルカは、まるで舞うように大地を滑り、ヴァイオレットの周りを360度から鞭で打ち据えていく。

 ヴァイオレットは舌打ちしながらも、魔力によって強化された二本の腕で頭部をガードし、なんとかその攻撃に耐えているようだ。


「チッ、こうなったら仕方ねェ。おい、おっさん! アレを出せ!!」


 その言葉に動いたのは、俺と戦っている最中のシグマだった。

 サッと後ろに下がって俺から距離を取ると、ヴァイオレットの方目掛けて右腕を前に突き出す。何をするのかと見守っていると、ガシャンと右腕の装甲が上下に展開した。そこには銃口のようなものがあり、そこから何かが発射される。

 発射されたものは、くいだった。所謂ニードルガンみたいなものだ。

 一瞬俺に対する攻撃かと身構えたが、その杭はヴァイオレット目がけて発射され、ヴァイオレット自身もその撃ち出された杭を難なく掴み取る。

 計二本の杭が、ヴァイオレットの手に渡った。彼女はその杭をまるで二本の小刀のように持ち、ニヤリと笑みを浮かべる。

 あんな小さな杭で何が出来るのかと、俺もアルカも不審に思いつつも警戒していたが、やがてヴァイオレットは自身の腕を顔の近くに移動させると、両腕の親指の付け根あたりにガチガチと自らの牙を突き立てた。


「こうなったら仕方ねェ。オレの本当の戦い方を見せてやるよ」


 両腕の傷口から血がドロドロと流れ落ち、指を伝って手に持った杭へと集まっていく。

 そのまま血は杭から地面に落ちるかと思われたが、不思議な事に血は地面には落ちず、そのまま杭に溜まり続け、杭の長さそのものを変えていく。最終的には、ショートスピア程の長さへと姿を変えた。


「シャッ!!」


 二本のショートスピアを構えたヴァイオレットは、アルカへの猛攻を再開する。

 繰り出される鋭い突きを今まで同様に滑るように躱すアルカであるが、これまでとリーチが変わった為にさっきまでの余裕は感じられない。


『その槍が、貴女の本当の武器ですか?』

「本当の……と言われると難しいが、殴り合いは好きなだけでこういった武器を使えない訳じゃねぇ。……それに、勘違いしてもらっちゃ困るが、コイツはただの槍じゃねんだ。こんな事も出来るぜ」


 そう言ってヴァイオレットは、攻撃の最中さなかにその槍の矛先を地面に突き刺す。すると、大地から赤い槍がまるで剣山のように出現し、アルカへと迫ったのだった。

 アルカはなんとか後ろへジャンプして躱す事に成功するが、ヴァイオレットの追撃は止まらない。


「今度はコイツだ!!」


 もう片方の腕を何もない空中に向けて振るう。すると、その手より滴っていた血が飛び散り、空中で小さな槍へと姿を変えた。


 血……己に流れる血がヴァイオレットの武器なのだ。小さな杭を槍へと変化させ、その長さや形を自在に操る。また、己から離れた血すらも、投擲用の武器へと変える事が出来るとは……。

 そして、その戦法からしてヴァイオレットの真の姿は、拳闘士グラップラーではなく、槍使ランサーいである事が理解出来た。


『くっ! その戦い方はさすがに想定していませんでした』


 アルカはアルケイドロッドを杖に変化させ、放たれた投擲用の短槍を打ち払う。

 そこで隙が出来た。


「ようやく懐へ入り込めたな!!」


 気づいた時にはもう遅い。

 アルカの目前には、二つのショートスピアを連結させて一つの長い槍へと変化させたヴァイオレットが迫っていた。


「これで終わりだ!!」

『!!』

 

 放たれた槍が、アルカの胸を抉る。貫かれた矛先は、アルカの背より飛び出て、その身を突き刺したという事実を突きつける。


 が、突き刺した当人であるヴァイオレットは、手にした槍から伝わる感触に違和感を覚えたようだ。


 それも当然。

 槍はアルカの胸を突き刺した訳ではないからな。


『なんちゃって……です!!』


 恐らくは仮面の下でニヤリと笑みを浮かべた筈のアルカは、そのままバシャンとその姿を水へと変えて見せる。


「なっ!?」


 そして液体状態のまま空中を飛び、ヴァイオレットより少し離れた場所へ移動し、また元の姿へと戻る。

 目を点にしたヴァイオレットを見て、俺はどうだ……凄いだろうという気分になった。いやいや、作ったのは俺じゃないけどね。ただアイディアは俺です。


「どんな魔法だそりゃあ……」

『魔法では無く、科学です』


 いや、得意げに言っているが、お前の存在は魔法と科学のハイブリッドだろう。と、心の中でツッコミを入れる。

 そしてアルカは再び身体を液状ゲル化させ、今度は液体のままヴァイオレットへと攻撃を仕掛けた。


『リキッドアタック!!』


 空中に一瞬だけアルカの手足が出現し、ヴァイオレットへ攻撃を加えていく。ヴァイオレットも対処しようとするが、拳や足は一瞬だけしか出現せず、攻撃が終わるとすぐに液体に姿を変えてしまう。

 体重が軽い為に格闘能力が低いと言われていたアルカではあるが、格闘が出来ない訳では無い。それに、肉体に使用されている水の質量を全て拳か足に集中すれば、実は俺達よりも高い攻撃力を発揮出来たりする。

 まぁ、それもこれもアルカが纏っているハイ・アーマードスーツのおかげなんだけどね。


 アルカのハイ・アーマードスーツの特性……それが、この液状ゲル化である。


 液状化自体は、普段のアルカでも可能であった。だが、今まではそれを戦闘に持ち込む事は出来なかった。

 何故ならば、着込んでいるアーマードスーツや武器まではアルカと同じように液体化出来ないし、人前でこれをすればアルカが人間ではないと言っているようなものだ。

 が、状況的にそうも言っていられなくなった。それにこうして鎧ごと液体化すれば、そういう魔法なのだと錯覚するかもしれないでしょ。

 ただ、アルカと同じように液体化出来る装甲の開発は、かなり困難を極めたとか。まあ普通に考えて液体化出来る金属なんてある訳ないしね。最も、完成にこぎつけたのも、変幻自在に姿を変えられるオリハルコンの特性があってこそ……らしい。


 さて、この液状化攻撃であるが、さっきも言った通り発案者は俺である。アルカも俺と同じくハイ・アーマードスーツを纏って戦う事になったが、俺と同タイプのスーツは重くてとても使えない。

 どうするか……と悩んだ結果、スーツの特性そのものを変えてしまえばいいと思いつく。

 アルカの特性と言えば、水……そして魔道士タイプ。水属性で魔道士と言うと、物語内ではどうも主役になりきれない二番手か三番手という印象が強い。だが、ふと俺の中で子供の頃に見たチートな水属性の戦士の映像が思い浮かんだのだ。その戦士は身体を液体に変え、あらゆる物理攻撃を無効化して戦った。

 この力を再現出来れば、水属性でも最強の一角になり得る!

 という事で、アルカのスーツの特性は液状ゲル化に決まったのだ。まぁ、攻撃力自体はスーツの特性による所が大きいから、長時間の液状化は出来ないみたいらしいけどね。


 それにしても、ヴァイオレットは己の血を武器とし、アルカは自身を液体に変えて武器とする。奇しくも特性自体は似た二人が戦う事になったという事か。

 さて、いい加減この鎧を装着していられる時間も少なくなってきた。早々に決着をつけるとしよう。




 ケイが参考にしたのは、太陽の子で怒りの王子に変身する仮面の戦士です。


 次話でようやっと戦いの方も決着予定。……長かったな。

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