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113話 ゲイルVS剣聖ジーク




 俺は、対峙するシグマをギロリと睨み付け……ようとして失敗した。

 シグマから発せられるオーラというか、殺気というのが半端ない。


 完全に向こうはこちらを殺す気のようだ。

 考えてみれば、ここまでの殺気を向けられるというのも初めて……いや、二回目かな。聖騎士ルクスとの戦いの際も殺気を向けられた気がするが、あの時はこちらも怒りMAXアドレナリン全開だったかんな。そういうのは感じなかった。

 

 睨むだけで人を射殺せるんじゃないかという視線。

 思わず体の芯が冷たくなるが、身体が震えるという事態にはならなかった。


 舐めんな。

 こちとら、バカでかい魔獣どもと日々戦ってきたんだ。胆力だって成長しているっつうの。


「戦う前に一つ聞きたい」

「なんだ?」

「アンタなら、今自分が撃った相手が偽物だって事ぐらい分かっただろう。なのに、何故狙撃を実行した? それに、その気になれば俺達が警護している間だって、力尽くで王子だろうが国王だろうが殺す事は可能だっただろう。何故しなかった?」


 すると、シグマは僅かに目を細めて言った。


「……確かに、俺の目にはあの壇上に立つ者が姿を偽っている事は見えていた」


 やはりか。

 俺ですら、バイザーの機能を使えば見破る事は可能なのだ。俺達と同程度……下手をすればもっと科学力の進んだ技術を持つシグマであればもしや……という予感はあった。

 だがそうであるなら、やはり疑問は残る。この男、一体どういうつもりなのだ?


 そう思っていると、シグマは解答を発した。


「だがな。ここで作戦を中止すれば、貴様らと戦うのが遠のくだろう」

「何?」

「今日までの事だってそうだ。確かに、なりふり構わなければ宮殿ごと全てを塵にする事だって出来た。後は天災だのなんだのと理由づけだって可能だっただろう」

「じゃあ、何故……」

「お前達に会ったからだ」

「!?」

「確かにそれで依頼は達成だ。俺達は報酬を貰い、またこれまで通りのつまらん日々に戻る。それの何処が面白い? 俺が求めているのは、殺しでも破壊でもない……戦いだ。この地に飛ばされてから、退屈な日々が続いた。それが、ようやく俺を満足させる事が出来る相手に巡り合えたのだ。ならば、互いに最高の状態で渡り合うのを待つしかあるまい?」

「アンタが求めているのは戦いか」

「そうだ。貴様は違うのか?」


 俺が求めているものか……そういや、深く考えた事が無かったな。


 家族に会いたい……家に帰りたい。

 ファンタジーな異世界で、仲間たちと共にチートアイテムを使って思う存分冒険したい。


 俺の中に相反する二つの願いはある。

 どれが本当にしたい事なのか、今の俺には決める事は出来ない。


 それでも、俺は……戦いが好きな訳でも、人殺しがしたい訳でもない。

 それだけははっきりと言える。


 ……論点がずれた。

 俺は頭を振って、改めてシグマを見据える。


「悪いが、そんな事を議論しに来たわけでは無い」

「それもそうだな、では、始めるとするか」

「あぁ。そうするとしますか」


 俺もシグマも、決闘の合図とばかりに互いに羽織っていたコートをその場に脱ぎ捨てる。


 バトルスタート!




◆◆◆




 本来はこんな予定では無かったというのに、戦いが始まってしまった。

 神聖ゴルディクス帝国より賓客として招かれた少女……聖女ルミナは、溜息と共にぼんやりと空を眺めていた。


 こうなってしまっては、自分一人が他の賓客達と同じように避難する訳にも行くまい。

 とりあえず激闘が始まっている広場の隅っこで、居場所を確保。戦いが終わるまではここで待つとしよう。


 それにしても、葛山大輔……じゃなかったジークにも困ったものだ。

 ここ数日程自由の無い軟禁に近い生活を強いられていたせいで、相当鬱憤が溜まっているのだろう。何やら宮殿内がピリピリしていたせいで、ほとんど外出許可を得られなかったのである。ルミナ自身、どれだけカードゲームで時間をつぶした事か……。

 それも、今の状況を見れば納得というものだ。

 事情はよく知らないが、内務大臣っぽい人がクーデターを起こしたらしい。

 そして、そのどさくさに紛れて帝国内で指名手配扱いになっているハンターチームのメンバーを確認。国際問題も関係なく暴れられると判断したジークが、喜び勇んで飛び出したという訳だ。


 ルミナ自身、戦うつもりは全くなかったが、一応は帝国の軍属であるという自覚はある。従者であるミドを追従させた。

 巨大ロボみたいな存在が出てきた時は驚いたが、似たような物ならば帝国にもあるのだ。

 ジークとミドの力があれば、何ら問題は無いだろう。


 そんな中、ふと遥か上空を飛ぶ鳥のような物がルミナの目に留まる。


「鳥……かな? それにしては、形が変かも」


 まぁ、魔獣が存在する世界であるから、形が変な鳥ぐらいいるだろう。

 その鳥の存在は意識の隅に追いやられ、何の気なしに戦いの行方へと目を向ける。


 そろそろ勝負がついたかなと思っていたが、その目に飛び込んできたのは意外な光景だった。


「―――あれ、負けてない?」




◆◆◆




「ぬあらぁっ!!」

「―――ッ!!」


 剣聖ジークと名乗った男は、大太刀を振り回し怒涛の猛攻を拙者へと仕掛けてきた。

 ゲイルはそれを手にした二刀……疾風丸と雷鳴丸によって捌く。

 さすがに力が強い。一撃一撃が重く、双剣では受け止める事が難しそうだとゲイルは判断した。


 それにしても、立派な体格という訳でも無いのに身の丈ほどもある大太刀をよくここまで軽々と振り回せるものだ。それに動き自体も鈍重では無く、かなり速い。

 ……最もそれだけだ。

振るわれる剣には太刀筋と呼べるものは感じなく、ただひたすらに大太刀をぶんぶんと振り回しているだけのように感じる。

 魔獣相手ならば、それも問題は無いのだろう。あの大太刀ならば一撃さえ入れれば致命傷になるだろうし、相手が人間であっても大抵の者ならば一撃を受け止める事すらままならない。


 しかし、並外れた動体視力を持つゲイルならば、受け止める事は出来ぬとも避ける事は容易であった。

 一撃……二撃……三撃……次々に放たれる斬撃を、ゲイルは全て避けきっていた。

 それも、大げさに避ける訳でも無く、少しだけ身体を逸らして紙一重……という形で避けているのだ。


「くそ、舐めやがって!!」


 プライドを傷つけられたのは、当然ジークだ。


 情報によれば、この男の武装は弓。かのハンターチームの中で最も接近戦に弱い筈。だから、間合いさえ詰めていれば容易に勝てるだろうと思っていたのだ。


 それが、幾度となく剣を打ち合っても、その大太刀がゲイルの身体を傷つける事は無かった。


「だったら……これならどうだ!!」


 ジークは、大太刀を水平に構えると、そのまま身体を回転させ遠心力を利用して更なる一撃をゲイルに浴びせる。


「………」


 ゲイルは当然バックステップで避けた。

 そもそも、ここにきて大振りな技を放って何の意味があるのか。確かに、まともに受ければ相当なダメージを受けたかもしれないが、当たらなければどうという事はないと言うヤツである。


「くそ、俺のドラゴンサイクルを避けるとは……」


 いや、避けられるだろうあんなの。

 というか、ただの水平回転斬りだというのに大層な名前付け過ぎじゃないだろうか?


「だったらこれだ! ドラゴンダイブ!!」


 ジークはその場から2メートル程に跳び上がると、大太刀を頭上から一気に振り下ろした。

 確かに、当たればゲイルの身体は真っ二つに両断されていただろう。


 ……当たれば。


いきなり技名を叫んでその場からジャンプすれば、攻撃方法は大体の予想はつく。

 そもそも、ダメージを一切受けていない状況だというのに、突然目の前でジャンプするというのは隙だらけにも程がある。

 こういった大振りや溜めが必要な技は、受け側が鈍重だったり身動きとれなかったりしたりする時に使うものだろう。


 もし、この戦いをケイが見ていたとしたら、ジークの戦い方に感じるものがあったかもしれない。


 これは、下手なゲーマーがプレイする対戦格闘ゲームだ。


 プレイヤーは、ボタンを押せば簡単に技が放てる。が、それが的確なタイミングでなければ技は不発に終わるし、ガードされればダメージも少ない。

 言ってみれば、ジークはただガムシャラにボタンを連打しているだけで、格闘ゲームは全くの素人の戦い方と言えるのだ。

 弱いCPU程度であるならば、そんな戦法でも勝てるかもしれない。実際、それで戦って勝って来たのだろう。

 だが、そんな戦い方しか出来ない者が、熟練したプレイヤーに勝てる筈もない。


 これが、その戦いだった。


「よもやと思うが、貴様剣術……いや戦いは素人か?」

「!!」


 図星を突かれたようにジークの身体が硬直する。


「力自体は相当なもの。だが、その力は自分で手に入れたものではあるまい。そして、それをきちんと自分のモノにする努力を怠っているな」


 言うなれば、ジークの肉体は筋力・耐久力・速力のみのパラメーターが上がっている状況なのだ。

 力に技術が追い付いていない。

 そんないびつな状態で、本当の強者たるゲイルに敵う筈も無かった。


 ―――が、それはジークも理解していた事だった。


 技術が無い。

 もっと剣術を学べ。

 その程度で剣聖を名乗るなど、烏滸おこがましい。


 帝国内で、自分よりも強い者からは幾度となくそんな事を言われていた。


 それでも、この力でなんとか切り抜けてきた。強大な魔獣をも倒し、ハンターであるならばBランク以上は確定だと思っている。

 なのに、こんなランクも低いハンター相手に、何故こんなにも苦戦しているのか。


 いや! 苦戦などしていない。

 これは所詮前哨戦だ。自分はあっさりとこの男を下し、ミドと戦っているあの巨大ロボを撃破し、次に離れた所で戦っている美女二人を戦闘不能にする。その後、自由を奪って自分の傍に置く事も出来るだろう。

 そしてこのチームのリーダーを倒し、英雄として帝国に凱旋するのだ。


 自分はこんな所で躓いている場合では無い。


「は……はは!! なかなかやるようだ。今までは様子を見ていただけだが、ここからは本気で相手をするとしよ―――ガッ!?」


 その話の最中、間合いへと入り込んだゲイルがその鼻っ柱へ拳を叩き込んだのだ。

 あまりにも隙だらけであった為、つい手が出てしまったのである。

 その殴った拳をぼんやりと眺めた後、ゲイルは失望気味に溜息を吐いた。


「……もういい。宮殿の中に戻って、他の賓客達と合流するがいい。この件に関しては、拙者の方で無かったものとして認識しよう」


 実際、激しく失望していた。

 明らかにファッション侍を気取ったこの男に苛立っていた事は事実。それと同時に、自身の父であるゲオルニクスを殺した帝国の者をぶちのめしたいという意欲もあった。

 だが、ここまで相手が自分の力を過信した……というか、勘違いした者が相手だとは思わなかった。


 完全にやる気を失ったゲイルは、他の仲間達の援護……もしくはセルジオ王子の護衛に戻ろうとした。


 だが……


「待て! まだだ!! まだ終わりじゃねェ!!!」


 踵を返そうとしたところ、ジークの絶叫によって顔だけを動かす。


「俺のとっておきを見せてやる。さぁ、構えろ!!」


 必死の形相でジークはゲイルを睨み付ける。

 既にジークのプライドはズタズタ。それでも、必死にこらえて立ち上がっている。

 その心意気だけは見事なものだとゲイルは感心した。


「ならば、そのとっておきの打ち合いとやらで勝負を決めよう」

「何?」

「お互い、交互に自身のとっておきの技を放つ。受け手は決してその技を避けない。……もし、その技に耐えきる事が出来たならば攻守交代。そこから先はどちらかが倒れるまで続ける。……これでどうでござる?」


 ゲイルの提案に、ジークの顔に笑みが戻る。


「……避けないんだな。それは本当だな」

「ああ、なんなら誓っても構わないでござる」

「乗った! ならば、先行はこちらが受け持つぞ!!」


 勝手な言い分であったが、ゲイルは簡単に頷いて見せた。

 そんな余裕の態度に、ジークの口角はさらに釣り上る。


「ハハッ! 余裕ぶっこいて馬鹿な事言ったと後悔させてやる!!」


 ジークは、体勢を横向きにすると大太刀を身体に対して水平に構える。そして、その剣の切っ先をゲイルに向け、刀身部分に軽く柄を握っていない方の手を添える。


 その構え……ゲイルには見覚えがあった。

 ケイの世界の知識にある侍漫画でよく使われた、有名な突きの技の体勢。

 ……よく考えてみれば、今までヤツが繰り出してきた技は、全て漫画で見た事があるような技ばかりだったな。どうりで、実践に不向きな技ばかり使うと思っていた。


 とは言え、動き自体は漫画の真似だが、そこに込められた力自体は本物だ。

 現に、今もとんでもない程の破壊エネルギーがその刀身に集められている。集中して集められているのは魔力ではあるようだが、そのエネルギーを破壊の力に変換している。


 恐らく、あのエネルギーをそのままにこちら目掛けて突くつもりなのだろう。

 確かに、あれを受ければただでは済むまい。対象が例え上級クラスの魔獣であっても、まともに受ければ肉体が爆散してしまう。

 とは言え、避ける事は許されない。それは、ゲイル自身が宣言してしまった。ならば、どうするのか……。


「行くぞ……塵になっちまえ!! ドラゴンランス!!」


 エネルギーが最高潮に達したところで、ジークは技を発動した。

 右腕を突出し、自身をまるで巨大な槍に見立てて突進する。


 そして、その刃の切っ先がゲイルの身体に命中したと確信した瞬間―――


「―――え???」


 バキンッという音を立てて、ジークの持つ大太刀は半ばから折れたのだった。




 本当は戦闘終了まで続けるつもりでしたが、長くなり過ぎたのと明らかに後半部分の文章が雑になってきていると判断しましたので、とりあえず分割。


 次回、ゲイルの新武装登場です。

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