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108話 弟子入り続々




「第一王子……セルジオ殿下がルーベリーにご帰還されました」

「―――え?」


 ルーベリー王国第一王女フィリアは、久しぶりに自分の元を訪れた影よりそのような報告を受けた。

 時刻は昨夜。場所は自分の部屋であった。

 外出の許可が下りない為にふて腐れて、部屋に引きこもって読書をしていた所「お久しぶりです姫様。ご報告があって、傍に参りました」と、突然声を掛けられた。

 ぎにゃあ!と喚いて、思わず持っていた本をぶん投げてしまうが、そういや昔からコイツはそうだったという事を思いだす。相変わらず姿は見せないが、こちらの事情というやつを考えないで一方的に話しかけてくるのだ。……事情と言っても、いつも一人の時に話しかけられるから、特に困る事は無いのだけど。


 そして、その報告を聞いてフィリアはしばしの間その言葉の意味を理解できなかった。


「ちょ、ちょっと待って! お兄様がこの国に戻ったって言うの? い、いつ!?」

「確認されたのは本日の事です。自ら、王宮へと舞い戻られました」

「う、嘘でしょ」


 聞いた話では、まだ数週間も掛かるのではなかったか。

 いくらなんでも早すぎる。本当にその人物は兄なのか?


「はい、間違いありません。陛下自らがご確認されました」

「お、お父様が……なんて事なの……」


 という事は間違いは無い。

 フィリアは、ボロボロと足元が崩れ去っていくような気がした。

 アカデミーでの日々……ナティアと笑いあった事……そして先日、自分の力のみで魔法を発動出来た事。

 それらがすべて終わりを告げるのだ。


 あぁ……またあの日々に戻ることになる。あの冷たい王宮で、ただ指示を受けて生きるだけの日々が……。そして自分は女である。いつかは婚姻させられる。それも、ルーベリーにとって有益であるというだけの存在と。そこに自分の意思は無い。自分の人生は全て定められたものなのだ……。だから、仕方ない。


「泣いておられるのですか?」

「うるさいっ!」


 いつの間にか、フィリアの目から涙が流れていた。

 何の為に泣くのか。

 王族としての定めに戻るのが悲しいのか、それとも友達と別れる事になったのが悲しいのか。それともその両方か。


「姫様はどうしたいのですか?」

「もう嫌だよ! あんなところに戻るのは嫌だよ! 誰も温かくない! 誰も優しくない! お母様も居ないあんな場所に帰るのは嫌だよ!」


 影に、ひたすら本音をぶつける。

 彼女にとって、影は大嫌いな存在ではあったが、幼い頃から接してきた身内の一人なのだ。

 そして、影はその弱音を全て受け止めた。

 やがて……


「ならば、逃げましょう」


 と、言い出したのだ。


「―――え? 何言ってるの?」

「本当に嫌だと言うのなら、逃げ出しましょう。以前までのセルジオ殿下のように、王家の血筋であるという事を捨てて、ただの人間として生きてみると言う事です」

「そんな事……出来るの?」

「貴方が真に望むのなら、私はそれに手を貸します」

「え……でも、貴方は……」


 ただ、王家に雇われているだけの護衛ではないか……そう言おうとしたが、その言葉は遮られた。


「私の主は、貴方だけです。私が幼い頃よりずっと……」


 そう言って、フィリアの前に人影が出現する。

 黒装束に、顔に仮面をつけた人物。

 これが影なのだ……フィリアは初めて会ったと言うのに、実感した。自分と似たような体格……やはり女性、それもひょっとしたら歳は自分と近いのかもしれない。

 その仮面を取って顔が見たい……とも思うが、それは無理なのだろうと思う。彼女達、影の者達は常に陰から主を守るのみで、姿は決して現さないという事だ。それがこうして姿を現した。それだけでフィリアとしては十分だった。

 フィリアは急いで身支度を整え、必要な物をバッグに詰める。

 そして、影に正面から向き合って告げる。


「……行こう」

「分かりました。では、共に行きましょう」


 影はフィリアを抱くと、そのまま部屋の窓から身を投げたのだった。


 その後、何もかも捨てて生きていくのならば、身を守る為の力が必要だと影から説得された。その為に、まずはルークからきちんと魔法を学ぶべきだ。彼の元で学べば、アカデミーに通うよりも早く魔法の力が上達するはず。

 何故、影がそこまでルークの事を知っているのかフィリアは疑問には思ったが、確かに身を守る為の力は欲しい。その言葉に従い、ルークの下校時間を狙って接触したのだった。




◆◆◆




「……それで、なんだってそんな事態に?」


 慌てた様子のルークから連絡を貰った時は、それはもうめちゃくちゃ困惑したもんだ。

 何せ、いきなりお姫様に校舎裏に呼び出されたと思ったら、要件は愛の告白でもカツアゲでもなく、弟子入り志願だったのである。

 何なの?

 一日に一回以上トラブルでも起きないといけないの?

 俺って平和に過ごせないの?


『うん。セージにーちゃんが帰ってきちゃったでしょ? それが伝わったらしくて、このままだと王宮に連れ戻されるって思ったみたい。

 で、こうなったら地位も何もかも捨ててしまえ! ってヤケになって、ハンターになろうとしているらしいよ。その為には魔法の腕をもっと磨かないといけないから、僕に本格的に魔法を教えてくれってさ』


 あぁ、そうか。ある意味では俺のせいだったか。

 申し訳ない気持ちはあるけども、地位も何もかも捨ててしまえって、思い切りが良すぎでっせ。


「……っていう事になっているが、お兄さんとしてはどうなんだ?」

『あぁ……うぅ……なんか妹が迷惑をかけて本当にすまない』


 もう一つの通信機の向こうから、申し訳なさそうなセージの声が響いてきた。

 とりあえず、現在の所アルドラゴの俺を中継地点として、第二都市マイアのルークと王宮のセージとをホットラインで繋いでいる。


 いきなり家族に家出の事をばらしてフィリア姫には悪い事をしたと思ってはいるが、一応彼女の兄貴から護衛の依頼を受けている立場だから、相談しない訳にもいかないのだ。


『僕としては妹が本気でハンターになりたいと思っているんなら、このままでも構わないと思っている。でも、この場合は少し違うだろうね』


 まぁ、確かに明らかに嫌な事からの逃避だもんな。王族の立場に戻りたくないってのが、どれぐらい本気か俺達は理解していない。まあ、それは今後見極めるとしましょう。


 すると、ややあってセージがこんな事を言いだした。


『だが、ある意味で言えば好機と言えるかもしれない』


 え? なんかアンタがそれ言うと不穏な予感がするんですけど。

 ひょっとして、いつもの如くていよく俺達を利用しようとしていない?


『君達さえよければだが、そのままフィリアをかくまってくれないか。そうだね、期間は僕の戴冠式の日までという事で』


 やっぱりか。

 思わず「ふざけんな」と言いそうになったが、その言葉を飲み込む。

 まぁ、それが一番安全である事は間違いない。家出してきた以上、ルークが四六時中護衛するという訳にもいかない。

 何より、見知った女の子が命の危険にさらされているというのに、放っておく事は俺には出来ない。


「……仕方ない。だが、こういった事は金輪際無しだ。いつでも利用できると思われるとこっちも困るんでな」

『え? リーダーいいの?』

「別に、仲間になるという訳じゃない。一時的に保護するだけだ」


 アルドラゴで保護するというのは無理だが、《リーブラ》で一時的に生活してもらうのならば問題は無いだろう。

 俺達の秘密の一部も知られてしまうが、この際は仕方ない。記憶を消すのは一時間が限度だから、彼女の場合はそのまま記憶が残ってしまうだろう。

 それでも、《リーブラ》だけならまだ問題は無い。……いや、問題なくは無いけども、まだトンデモ魔道具だという事で誤魔化せるだろう。いや、誤魔化そう。半ばヤケである。


 通信を切り、俺はふかーく溜息を吐いた。


『これからは、他の人間との付き合い方もよく考えないといけませんね』

「だな。半端に関わると、色々と情が移って拒めなくなる。今後の教訓としよう」


 何より、セージもフィリアも王族なのだ。ルーベリーが今後もし戦争になったとして、関わりすぎると戦争に利用されかねない。いや、もし戦争になったとして、俺がそのまま彼等を他人事として見捨てられるのかどうか……。

 いやいやいや、まだそこまで情は移ってないから大丈夫……の筈。


 ともあれ、これから《リーブラ》に戻ってフィリア姫と話し合うとしますか。




◆◆◆




 あ、そういやルークとアルカの二人が揃っていなきゃ俺はゲートの魔法で移動出来ないんだった!

 と気づいたので、マイア近辺の砂中に待機させておいた《リーブラ》をアルドラゴへと自動運転で帰還させ、それに乗ってえっちらおっちらとまたマイアへと帰還。

 結局、マイアへと辿り着いたのは3時間後であった。


 まさか、その3時間の間に新しいトラブルが舞い込んでいたとは……


『「………」』


 俺とアルカは、頭を抱えていた。


 城壁の外を合流の場所に決めていたのだが、そこに居たのはルークとフィリア姫だけではなく、更に6人がプラスされた大所帯だった。

 その中心でルークが申し訳なさそうに縮こまっている。


「レイジさん! アルカさん! お久しぶりです!!」

「うほぉ! アルカちゃんやっぱり美人だな! つーか、フィルちゃんとかもすっげぇ可愛いし、俺やっぱりツイてるぜ!!」

「えーっ、ゲイル様居ないのぉー?」

「あ、あの二人とも……少し場の空気を考えて……」

「あの人達がルーク君のお兄ちゃんとお姉ちゃん? あんまり似てないね」

「うぅ……なんで僕がこんな場所に居るんだろう。やっぱり場違いじゃないのかな」

「………」


「お前等うるせぇぇぇっ!!!」


 ギャーギャーと騒ぎ出したので、とりえず一喝で場を静める。

 一同、ピンと背筋を伸ばして気を付けの姿勢となった。


 ……なんか、最近同じような事をやった気がするのだが、気のせいだろうか。


 ちなみに、合流の場にルーク達と共に待っていた者達は、全員俺の知っている者達だった。


 上から、このルーベリーに到着した際に助け出したアカデミーの懐かしき学生4人組。

 そして、先日ルークと同じ班員となったラグオ君、ナティア嬢。

 この6人であった。


 ……なんでやねん。


 すると、確かイーディスと言う名前だった少年が、バッと一歩前に飛び出し、そのまま勢いよく地に手を置き、頭を深く深く下げる。……所謂ジャパニーズ土下座スタイルである。


「突然押しかけたりして、無礼は承知の上です!! でも、どうか……どうか俺達に魔法を教えてください!!」

「わ、私も同じ気持ちです!!」


 続いてエステルという名前だった眼鏡少女が同じく土下座スタイルとなる。


「お、俺も教えてください……」

「あたしも……」


 ランドという名前だった調子こき悪ガキ、リアンという名前だったギャル風少女もしぶしぶといった様子で同じスタイルとなる。


「……えっと、これってアタシ達もした方が良いのかな」

「僕達はルークにすればいいんじゃない?」


 といって残り二人は土下座スタイルをルークに示す。

 当のルークは「え?え?え?」と、オロオロしている。

 フィリア姫はというと顔を真っ赤にして土下座スタイルのナティア嬢を起こそうとしている。


 俺はとりあえずルークをこちらに招集し、なんでこんな事態になっているのか説明を求める事にした。




 やっとこさ再登場の4章冒頭に出てきた学生達。最初のプロットでは学生生活中にもうちょっと絡む予定だったんですけど、物語の進行ペースが遅くなっているなと実感しましたので、飛ばして本筋を進める事にしました。

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