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107話 弟子入り




 ヴァイオレットという吸血鬼……いやあっちの世界ではヤクトだったか。その女から大体の事情を聞いた。

 黒い球に触れて転移。

 これは、どうも俺と同じような形っぽいな。未だに転移した前後の記憶は曖昧なんだが、今の話で少しだけ思い出せた。その黒い球……俺の記憶にもうっすらとだが残っている。

 しかし黒い球か……。なんかモヤモヤしたものが頭にあるが、今は考えないでおこう。俺は今するべき事をするだけだ。


 ヴァイオレットからの促しで、こちらサイドの事情とやらを説明。

 ……説明と言っても、明かしたのは特に当たり障りのない事情のみである。

こちらがどの程度の戦力があるかとか、巨大な宇宙船を有しているという情報は渡さない。

 下手に喋って、敵サイドに情報が漏れる可能性もあるからな。まぁ、向こうも肝心な情報は話していないし、お互いさまだと思っておこう。


 やがて、全ての話を聞き終えたヴァイオレットは、ギリギリと歯を食いしばっている。バイザーを通せば、ゲイルの眼鏡が捉えたものをこちらでも見る事が出来るので、こちらからもその様子がよく分かる。

 ええと、何か気に障る部分でもあったのかしら……と思っていたら、


『……ちくしょう。面白そうだな、てめぇらの方が』


 そんな事を言われた。

 俺は傍に居たアルカと顔を見合わせ、互いに首を傾げる。


『カオス・ドラゴンだぁ? でっかいスライムだぁ? 果ては帝国の聖騎士だぁ? なんだそのラインナップは!? くそぅ、羨ましい!!』


 羨ましがられた。

 そうなのだろうか? まぁ確かにゲームの主人公ばりにイベント目白押しではあるのだけど、楽しいかと問われると難しい所だ。

 ……冒険自体は楽しいけど、命を奪い合ったり、誰かが巻き込まれたりするのは嫌なんだよな……俺としては。


「ところで本題なんですけど……」


 未だにあーだこーだ言っているヴァイオレットの言葉を遮って、俺は切り出した。


『あん。本題?』

「俺達、協力する事は出来ませんか?」


 そう、話が通じる相手であるのならば、話し合いの余地もあるのではないかと思ったのだ。それに、それで済めば無駄に戦う必要もない。


『協力ってのは具体的にどんなんだ?』

「今、貴方達が請け負っている依頼をキャンセルしてください。その代り、俺達が知っている情報をもっと多く伝えます。場合によっては、この世界から脱出する方法も―――」

『ああ、そりゃあ却下だ』


 俺の言葉は無残にも切り捨てられる。


『ハンターとしての誇りは無いが、こっちにはこっちのプライドってもんがあるのさ。一度請け負った仕事は、最後まで引き受ける。そういうもんだろ?』

「……まぁ、やっぱりそうですよね」


 確かに、それで済む程甘くは無いよな。俺も、今セージの護衛をほっぽり出すという気はさらさらないしな。


『オレ達を従わせたかったら、力尽くで来な。それで負けたなら、言う事は聞いてやるさ。……まぁ、その時は相応の覚悟を持って来な』


 ゾクッとするような獰猛な笑みを浮かべる。


『とまぁ、仕事に関しては妥協できんが、話が出来て良かったぜ。んじゃ、後は戦いの場でな』


 ヴァイオレットはそう言うと、高く跳躍してその場から姿を消した。

 何処に逃げるのかとサーチしていたが、反応が市街地に入ったところでエラーとなった。第一都市の市街地全域がエラー表示となっている為、シグマが強力なジャミング装置でも有しているのではないかと思われる。


 こうなると、奇襲攻撃なんかは難しそうだ。やはり、あちらから動くのを待つしかないのか……。厄介極まりない。


『主よ……』

「あ、ハイ! 何だゲイル」

『あれで良かったのでござるか? 拙者達なら、後をつけて拠点を調べる事も難しく無かった筈』

「あーうん。それはそうなんだけどね……」


 そうすると、ジャミング地域にゲイル一人(正確には二人)で乗り込む事になり、こちらと一切連絡が取れなくなる。

 下手をすればゲイル達だけでシグマとヴァイオレットの二人と戦わねばならない。それはさすがに危険過ぎて許可できない。

 心配性だのなんだの言われようが、もう俺の采配ミスで仲間が危険な目に遭うのは御免である。


 そんな俺の心情を察したのか、ゲイルが話題を変えた。


『ところで、セルジオ王子の身辺事情について、追加情報があるのでござるが……』

「おお、聞く聞く!」


 聞いてみれば、やはりドロドロした跡継ぎ問題があるようだ。自分的にはそちら方面は得意ジャンルではないので詳しくないが、日本の徳川幕府等の日本史分野のお家事情はそれなりに知識もある。

 まぁ、知ってはいるが、実際に聞くとやはり面倒な事になっているようだ。


「本当なら、その大臣と王妃さんとやらを懲らしめればそれで終わりなんだけどなぁ」


 彼等がやってきた悪事や、これからしようとする事を暴露してやればいい。自分達の力があれば簡単だし、証拠集めるのだって可能だろう。何より、手っ取り早くて楽なのだ。

 だが、あの二人が居る以上下手な事は出来ない。自分達以上の科学力と魔法の力を持っている者達が相手側に居るのだ。あの二人の力が未知数な以上、迂闊に手は出せない。


「まぁ流石にアルドラゴみたいな戦艦は持ってないと思うけど」

『ござるな』


 とは言え、アルドラゴで戦うという案は無理がある。サイズが違いすぎるし。そもそも、まだこの世界で自分達がこのような艦を有しているというのは広めたくない。


「だったら、やはり正攻法しかないよな」

『ござるな』


 さっきヴァイオレットに言われた通り、真正面から戦って力尽くでなんとかするしかあるまいて。

 困難ではあるし、別にやりたくはないのだけど。


『主達の特訓は上手くいっているのでござるか?』

「まあ、そこそこだな。後はスミスのおやっさんの新アイテム完成待ちだ」

『例のヤツでござるな。お披露目が楽しみでござる』

「あ、はは……まぁ期待していてくれ」


 俺はやや引きつった笑みで答える。

 そう、今俺とアルカが何をしているかと言えば、アルドラゴにあるトレーニングルームにて誠意特訓中なのである。……特訓の内容については残念ながらまだ明かせないけども。

 なんでこんな事をしているかと言うと、シグマの持つ加速能力と超振動兵器は今までの自分達では全く対処が出来ないのである。

 その為の特訓と新兵器なのだ。


 最近の特撮作品やなんかは、一回負けたらすぐに新アイテムで挽回するパターンばかりだが、俺の場合は別におもちゃ会社のスポンサーは無いからな。特に定期的に新アイテムを出さなきゃいけないとか、そういう制約がある訳では無い。

 とは言え、今の戦力では勝てない相手に特訓だけで打開出来る事にも限りがある。その為の新アイテムであり、そのアイテムを使いこなす為の特訓でもあるのだ。


『では、拙者達はまた護衛に戻るでござる』

「ああ、また何かあったら連絡してくれ」


 連絡があればまた焦ると思うけどな。こればっかりは仕方が無い。

 プツ……と通信が切れ、俺はふぅーと深い溜息をついた。そして、頭を掻きむしった。


「あぁ……不安だ。不安で不安に不安だちくしょーめ」


 確かストレスとか抱え込みすぎると禿げるんだったか。ボロボロと髪が散っているのを確認してその手を止める。


 敵陣にゲイルとフェイを送り込み、こないだ狙われたばかりのフィリア姫にはルークを一人で護衛させている。

 勿論ゲイルもルークも信頼していますよ。

 信頼しているけども……脳裏にはフェイの身体が無残にも散っていく姿が焼き付いている。もし、他の仲間がああなったと思うと、とにかく不安で仕方が無い。


『嫌なトラウマが出来たもんですね』


 今まで隣に立っていたアルカが、改良されたアルケイドロッドをいじりながら話しかけてきた。


「本当にな。ゲイルやルークだけでなく、今回助っ人としてやってきたジェイド達の身に何かあったらと思うと、また胃が痛くなる」


 そう、ここ数日間何もしなくても胃がキリキリと痛むのだ。精神的なもんらしいから、治療薬を飲んでも完治はしないらしい。とりあえず薬を飲んだら痛みはなくなるけどな。


『ですから、私達が一番危ない橋を渡るのでしょう』

「ああ、でも悪いな。本来ならば俺一人で挑むべき問題なんだが……」

『何言ってんですか! ケイ一人であの二人と戦える筈が無いでしょうに』

「それもそうなんですよね」


 そう、来るべき日……あの二人と戦うのは俺とアルカの二人だ。アルカとは一番長い付き合いだから、コンビネーションも一番うまく出来る。

 ゲイル達には申し訳ないが、これは暫定艦長としての責務だ。

 それに、俺は対人戦で色々と問題を起こし過ぎている。いくら苦手と言っても、このままではいられない。


「でもアルカ……お前は絶対に無茶はしないでくれよ。もし、お前がフェイみたいなことになったとしたら、俺はどうなるか分からんぞ」

『む? それは悲しんでくれるという事ですか?』

「当たり前だろう! 何言ってんだお前は!!」

『え? あ、ごめんなさい。そ、そうですよね。私が居なくなったら、ケイのバイタルチェックをする係や、朝に起こす役割が居なくなってしまいますものね』

「あ、いや……そういう事じゃないんだが……って、バイタルチェックって何だそれ」

『毎朝やっている健康チェックですよ。体内をスキャンして、身体に異常がないかとか調べているんです』

「そ、そんな事やってたんかい。しかも、毎朝って……まさか、勝手に部屋に侵入していたとか……」

『え? ああ、はい』

「お前な。仮にも女の子の身体をした奴が男の部屋に勝手に……」


 いやいや。女の子の身体をしているけど、コイツは所詮AIではないか。何をドギマギしてるのだ俺は。


「と、とにかく! 今後は人の部屋に勝手に入るのは禁止! いいな!」

『ふーんだ。わかりましたよー』


 どこかふて腐れた顔でアルカは再びアルケイドロッドの調整を始めた。

 本当に、最近は普通に人間にしか見えなくなってきたな。

 ……ああくそ、あんまり見ているとなんか変にドキドキしてくるから控えよう。


「で、さっきから何やってんだお前は」

『ふふん。よくぞ聞いてくれました。このアルケイドロッド……ロッドモード、サイズモード、ライフルモードに加え、新たな機能を追加したのです』


 すると、アルカはアルケイドロッドを小さく折り畳んで剣の柄程のサイズにする。

 そして、トレーニングルームの何もない所に向けてその柄を振るった。


『やっ!』


 すると、その柄の先からホースから発射された如き勢いで水が出る。勿論、その水は空中で形を整え、一本の帯となる。アルカはその帯をまるで新体操でもするかの如くクルクルと回転させて見せた。

 やがて遠くにあったトレーニング用のブロックに向けて帯を放ると、器用に巻き付ける。そして、そのまま持ち上げて空中に放り、その放り投げたブロックを水の帯でもって何度も叩く。

 ブロックは床に落ちる事もなく何度も宙を舞い、やがて再び巻きつけられてアルカの手元へと回収された。


「なるほど、言うなれば……鞭か」

『そう、アルケイドロッドウィップモードです。鞭の先端は形を変えて、槍の穂先や鉄球のようにする事も出来ますから、蛇腹剣やフレイルのようにも扱えますよ』


 くそう、遠・中・近と全てに対応可能な武器かよ。なんか羨ましいが、俺の力では到底扱え無さそうな武器だもんな。

 そう、これも課題の一つであるのだが、いくら強力なアイテムがあったとしても、俺の力では使いこなすのが難しいのである。

 このアイテムの使用というやつはゲームのようなボタンをポンと押せば発動して勝手に命中するというものでもない。いや、ある程度は機械任せに出来るとしても、それを扱うのは自分の頭であり自分自身なのだ。

 フルアーマー時のように身体中に様々な武装を仕込んだとしても、咄嗟な事態となると使い慣れた武器や単純な素手での格闘頼みになってしまう。

 なので、今回の新アイテムはその辺の事情を考慮したものとなっている。


 さて、おやっさんに開発を頼んでから三日が経過しているが、果たして進行状況はどうなっているのか……。そう思っていると、隣に立つアルカが声を上げる。


『あ、ケイ! スミスから連絡が入って、新アイテム仮完成したそうです』


 ―――来たか!

 俺は笑みを浮かべて、おやっさんの工房へと足を運んだ。




◆◆◆




 一方その頃のルーク。

 彼は一人であった。

 一人で学校に通い、一人で授業を受けていたのだった。


『リーダー……アル姉ちゃん……ゲイルにーちゃん……フェイ姉ちゃん……皆二人で行動しているのに、なんで僕だけ一人なんだよぅ』


 今まで一緒についてきてくれたケイやアルカ……ここに彼らの姿は無い。

 それのなんと心細い事か。


 とは言え、ラグオは相変わらず声を掛けてくれるし、フィリア姫の友人であるナティアもそれなりに親しくなった。だが、護衛対象のフィリア姫は……。


 その席は空っぽだ。


 あれから、通学して良いという許可が下りないのだろうか。それならば、自分が此処に居る意味というやつが無くなってくる。

 ラグオ達との会話は楽しいが、やはり自分と言う存在はこの学校では異分子なのだとたまに実感する事がある。授業の内容は教えてもらうよりも前に理解している事だし、実技の勉強は簡単にこなせる。

 また、ラグオ達と共に食堂で食事は摂ってはいるが、食べたふりであり、実際に食べている訳では無い。

 本当に、何のためにこうして学校に居るのかが分からなくなってくる。


 そんな感じで一日が終わり、いざ帰宅……となったところでルークは気付く。

 荷物を置いてある自分のロッカーに、何やら紙切れが挟まっているのだ。しかも、何やら文字が書いてあるっぽい。

 何の気なしに紙切れを取り、書かれている文字を読んでみる。


―放課後に、校舎裏で待っています―


『!!!』


 思わずルークは辺りに誰か居ないかを確認する。

 誰も居ない事を再確認し、もう一度文章を読んでみる。


(こ、これって……リーダーの世界の知識にある……ララララ…ラブレターってヤツなんだろうか?)


 確かにルークは女の子のような可愛らしい顔の作りであり、男女問わずに人気がある。

 だが、同時に近寄りがたい雰囲気もあり、今までこうして直接接触してくるような生徒は居なかったのである。


(うああ……どうしたらいいのかなぁ。いや、お付き合いとかそんなの出来る訳ないんだから、断んなきゃいけないんだけどさ。それにしたってどう返事すべきかな……)


 溜息を3桁ぐらい繰り返し、それでもルークは人目を避けて校舎裏へと足を運んだのだった。

 時刻は夕暮れであり、誰もこんな場所に足を運ぶ者は居ないだろう。……人目を避ける目的がある者以外は……であるが。


(誰も居ない……だけど……)


 いざ来てみると、人影らしき者は誰も居なかった。

 ……目に見える範囲であれば。


 近くにある木の裏から、生体反応が感知できる。反応の大きさから言って、人間。そしてこの反応のパターンには見覚えがあった。


『ええと……ミラルさん……だよね?』

「!!」


 声を掛けられてびっくりしたのか、木の裏に隠れていた見覚えのある少女……フィル・ミラルことフィリア姫は慌てて飛び出してきた。


「よ、よく私が居る事が分かったのですね」

『ま、まぁなんとなくね』


 レーダーで感知出来るからですよん……とはさすがに言えない。

 しかし、この場に彼女が居ると言う事は、よもや自分をこの場に呼び出したのは……


『もしかして、僕を呼んだのはミラルさん?』

「!!」


 それならば少しだけホッとする。彼女ならば、愛の告白をする為に呼び出したという訳ではないだろう。その代わり、どういった目論見で自分を呼び出したのかが気にかかるが、それはこれから聞くとしよう。


「………」

『………』


 互いにしばしの沈黙が続く。

 今のモードであれば特に沈黙が苦ではないルークであるが、フィリア姫は身体をそわそわとさせて、口をもこもごとさせている。

 そのまま三分間は沈黙が続いたと思うが、いよいよフィリア姫は口を開いたのだった。


「ル、ルーク君……いえ、ルーク先生! どうか、私を弟子にしてください!!」


 と、綺麗に身体を折りたたんでフィリア姫は頭を下げたのだった。

 予想外の出来事に、ポカンとしたのはルークである。


『はええ?』


 いきなり弟子入りを頼みこまれて最初にルークが思ったことは、なんでよりによってこんな時にケイもアルカも同行していなく、自分一人きりなのだろう……という事だった。




 現在の章も、終わりに向けて着実に進んでいます。

 ずっと書きたいと思っていたシーンが近づいてきたせいもあり、モチベーションも高まってきました。


 なんとか週一で一話書けるように頑張りたいと思います。

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