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鋼鉄のアルドラゴ~SFアイテムでファンタジー世界を冒険します~  作者: 氷山鷹乃
第1章 ある日異世界で宇宙船と出会った
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09話 異世界の少年と少女




 カリムは油断していた。

 今日は朝からゴブリンの姿が見えないからと油断していた。


 ゴブリンの群れがこの村付近の平原に縄張りを作って1週間が経とうとしていた。

 こんな辺境へんきょうの村では行商人や冒険者も頻繁ひんぱんに訪れる事もなく、王都に向けて討伐依頼を出す事も叶わないでいた。とは言え対象は低級の魔獣まじゅうであるゴブリンだ。例え一般市民であろうと、頑張ればなんとか出来るレベルである。

 尤も、この場合は数の差がありすぎた。一体のゴブリンに対して、大体の計算で言えば、一般の成人男性が三人がかりで勝てるというレベルである。それでも、大きな怪我や下手をすれば命まで失うという危険すらある。

 その計算で考えると、この村は圧倒的に戦えるレベルの者達が少なかった。

 そもそも、若い者自体が少ないとも言える。

 農業くらいしか生産力の無いこの村では、若者は15歳の成人になると、さっさと村を出て行ってしまう。残っているのはほとんど老人と子供ばかりなのだ。


 確かにこの村に面白みは無い。娯楽の類はほとんどなく、子供達にとっては年に数回買い出しの為に王都へ訪れる事が唯一の楽しみと言っても良かった。

 カリム自身もまだ13歳。

 早い所成人して、王都で活躍する冒険者とかに憧れる歳なのだ。

 

 そんなカリムだからこそ、今の村の状況はチャンスと考えた。

 魔獣避けの結界があるから、村の中へ魔獣が侵入する事は無い。食料の備蓄だって、自給自足しているのだから十分持つ。一ヶ月後には行商人の団体が来る予定なのだから、それまで持たせば村人の誰一人欠ける事なく乗り切れる……予定ではあった。

 事実、村長の取り決めでは余計な手出しはせず、なんとか頑張って持ちこたえるつもりであった。


 だが、怖いものは怖い。

 家の外を出る者は目に見えて減ったし、特に一番大事な要素だが、自分を慕う年下の子供達のストレスがどんどん溜まっていっている。

 一度表に出して遊ばせてやれば、一気に発散もするんだろうが、その子供の親が外に出る事を禁じていた。

 親の気持ちも理解できる。

 子供なぞ、外で遊ばせていたら何処へ行くか分からないし、ちょっとした冒険気分でゴブリンを見に行こうとしかねない。その場合、待っているのは悲劇だけだ。


 だから、カリムは一人王都へと赴き、ゴブリンの討伐依頼を申し込みに行こうとしたのだった。

 15歳まであと2年。

 ここで大きな手柄を見せれば、早く村を出る事を許可してくれるかもしれない。

 何より、本職の冒険者達と同行し、その力を見る事が出来るかもしれない……。

 上手くいけば、その冒険者パーティーに見習いとして参加できるかも……。

 妄想の度に夢は大きく広がり、自分がここで行かなければならないのだと思い込んでしまった。


 そして、決行の日。

 その日は、朝から村の周囲にゴブリン達の姿が見えないでいた。これはチャンス。天気は良し、ここから王都までは歩いて10日はかかる。いや、今のカリムの脚力ならば7日で着けるかもしれない。

 何はともあれ、早く出るにこした事はない。

 最低限の荷物を持ち、カリムは朝早くに村を飛び出した。


 計算外だったのは、自分が見張られていた事に気づかなかったことだ。

 村を出て、数キロ。見通しの良い岩場で休憩を取っていた所だった。


「こらカリム! 何処に行こうって言うの!」

「リ、リファリナ!?」


 見張っていたのは、カリムの2つ年上の少女……リファリナだった。

 リファリナは、村の子供達のまとめ役であり、唯一15歳になっても村を出ないと公言した娘でもあった。

 彼女は村唯一の宿屋の跡取あととりでもあり、年に数回訪れる冒険者たちをもてなす為と幼い頃からきっちり育てられてきた子だった。

 よって、普通の子供よりも大人びており、決まり事に対するしつけも、厳しい事で知られていた。

 はっきり言ってしまえば、頭が固いのだ。


 どうも、村を抜け出すところを見て、急ぎ後を付けた……という事らしい。すぐに追いつきたい所だったが、悲しいかな両者の脚力には差があり、カリムが足を止めるまで追い付く事は無かったという事だ。


「なんだってこんな所に来てんだよ!」

「それはこっちの台詞よ! 村長から、子供は村を出ちゃいけないって言われてるでしょう!」


 確かに正論。

 だが、ここに来てカリムは頭を抱えたくなった。

 がっちり準備してきた自分に対して、リファリナは思いっきり軽装……はっきり言ってしまえば普段着である。

 そんな恰好で、よくここまで追い付けたものだと感心したくなる。……普通、途中で諦めるものだろう。


 そんな彼女をこの先王都まで連れていく事など出来る訳もなく、この場で放り出す事も出来る訳が無い。

 つまり、自分の旅はここで終わりという事だ。

 ……まさか、こんな事でつまづくとは思っても居なかった。


 その後、キーキーとうるさいリファリナの小言を流しつつ、項垂うなだれながらカリムは来た道を戻り始めたのだった。


 事件は、帰り道に起こった。




 ゾクッと、まるで誰かに見られているかのような悪寒が走った。

 慌てて辺りを見渡すが、視界には視線の正体は映らない。

 圧倒的に嫌な予感がする。


 カリムは自分のすぐ後ろをてくてくと歩くリファリナの手を掴んだ。


「こ、こら! いきなり何を―――」


 リファリナがまたキーキーとわめく前に、カリムは走り出した。

 直後、少し離れた場所の草むらがザワッとうごめき、その中からゴブリンが飛び出した。


 油断した。

 くそっ! 油断した。


 行きは大丈夫だったから、帰りも大丈夫だと無意識に思い込んでいた。


 これからの大冒険を邪魔されて、意気消沈していた事で警戒を怠っていた。


 リファリナに黙るように言うべきだった。


 ここは、奴らの領域だという事を忘れるべきでは無かった!


「イヤァァァッ!!」


 背後に迫るゴブリンを見たのか、リファリナが絶叫した。

 そんな声なんか上げている暇はない。

 今はとにかく走るんだ。

 だが、村はまだ遠くに見えるだけだ。自分一人ならまだしも、明らかに自分より遅いお荷物を抱えていては、到底辿り着けそうにも無かった。

 いっそ、手を離してしまおうかと考えた。

 だが、それをしてしまえば一生自分を許せなくなる。

 リファリナを犠牲にしてまで、生き延びたいとは思えない。それだったら、このまま一緒に殺された方がまだマシだ。


 そして、その時はやってきた。


 リファリナがつまづき、その場に転んでしまったのだ。

 カリムも手を引っ張られ、体勢が崩れてしまった。


 ―――あぁ、ここで死ぬのか。


 思ったよりもあっさりとしていた。

 死ぬ時は走馬燈とやらが見えるという言い伝えだが、たかだか13年の人生では、ろくに人生を振り返りようもない。


 ふと気づく。

 このままだと自分よりも先にリファリナが食われてしまう。

 さすがに、腹は立つものの親しい間柄の者が食われる所は見たくない。ならば、破れかぶれで立ち向かってみるというのも有りか。万が一にも、自分が戦っている間にリファリナが逃げられるかもしれないし。……無理だろうけど。


 そんな事を思っていざ行動に移そうとしたみたところ……。


 ボンッ! という音と共にゴブリンの背後で爆発が起きた。


 そして、一瞬だけゴブリンの行動が止まる。

 その一瞬間、一陣の風が駆け抜けた。


 その時の光景をカリムは一生忘れないだろう。


 身体を二つに斬られ、魔力素となって散っていくゴブリン。

 そのゴブリンの背後に、その者は剣を振り払った体勢のまま片膝をついていた。


 勇者。


 その存在は、カリムにとって物語に登場する勇者そのものだった。


 灰色の外套がいとうのような物を着込み、手には見た事も無い形状の剣を握っている。

 歳は見たところリファリナよりも少し上程度に見えるが、目元を覆い隠す仮面のようなものを付けているから、正確な所はよく分からない。


「あ……あ……」


 言葉が出なかった。

 リファリナもそうなのか、地面に腰を下ろしたまま動けないでいる。


 しばらくそうしていた所、やがて勇者が立ち上がってこちらを振り返る。

 驚いたまま動けないでいるカリム達を見て、困ったような顔をした。


「daijyoubukai?」


 喋った―――と思うのだが、不思議と何と言ったのか理解できなかった。

 それは異国の言葉か?


「あ、あの……」


「す……すま…ない。これ…で、ことば……は…つうじる……かな?」


 聞き返そうとしたら、今度は少しだとたどしい言葉で喋りかけて来た。

 ちょっと聞き取りにくいが、理解できる。

 やっぱり、異国の人なんだろうか?

 それにしても、異国の言葉なんて初めて聞いたよ。


 何はともあれ、カリムの最初の大冒険は、これで幕を閉じたのだった。



 次話、主人公視点に戻ります。


 魔物→魔獣表記に統一しました。

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