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105話 王子の帰還

遅れて申し訳ありません。




 ルーベリー王国内務大臣ラルド。

 彼は憤慨していた。

 第一王女フィリアを誘拐……もしくは殺害するという任務を失敗したとの報を受け、急ぎ第一都市ラクシャのとある場所へと駆けつけたのだった。


「どういう事だ貴様ら! 大金を払って貴様たちを雇ったと言うのに、殺しも誘拐も出来ず。挙句に負けて帰って来るとは!!」


 彼が訪れたのは、彼の愛人用に用意した屋敷だ。

 だが、その屋敷に現在愛人は住んでいなく、別の者達が拠点として利用していたのだった。


「ああん?」

「………」


 その屋敷を拠点しているのは、先日ケイ達を退けてみせた闇ギルドの二人……シグマとヴァイオレットの二人だった。

 最も、元々は豪華な内装だった屋敷の内部も、今は異様な有様となっている。ラルドにとっては理解も出来ない意味不明な機械がゴチャゴチャと並べられ、その部屋の隅でシグマは腕を取り外し、片手で何か作業をしている。

 ヴァイオレットは、元々の家具の一つである豪勢なチェアーに腰かけ、爪にヤスリをかけていた。


「聞き捨てならねぇな。オレ達は別に負けちゃいねぇぞ」


 投げつけられた言葉にヴァイオレットは顔を歪めて反論するも、ラルドも今は頭に血が上っている。そのまま罵声を続けたのだった。


「ハンッ! 何も成果も得ずに帰ってきたのだとしたら、それは負けと同じだ!!」


 その言葉に、左腕を取り外して修理していたシグマが軽く頷く。


「……なるほど。それも一理あるな」

「おいおいおっさん。アンタは奴等の仲間の一人を戦闘不能にしただろう」

「だが、こちらも負傷して、得た物は無い。……確かに敗戦と言われても仕方が無いな」

「まぁ、確かに想像以上に強かったのは認めるけどな」

「しかし……」


 そこでシグマはギロリと依頼主を睨み付ける。


「だからと言って俺達の力を過小評価してもらっては困る。俺達の力は、対面時に見せたはずだ。となれば……貴様が馬鹿でなければ理解は出来るな」

「あ、あぁ……」


 彼は愚かではあるが、馬鹿では無い。……と、シグマは認識している。


 当時の事を思い出し、ラルドの背筋が一瞬だけ冷たくなった。そして、頭も冷えた。

 一瞬にして自分の護衛を無力化し、デモンストレーションと称して巨大な大岩を文字通り粉々に打ち砕いて見せた。……あの光景を、ラルドは忘れる訳が無い。


「クッ! よもやそれほどの戦力をギルドが揃えているとは情報不足だった」


 元々、Bランクハンターのチームがルーベリーに入ったとの情報は仕入れており、その者達がフィリア姫の護衛になる可能性もラルドは考えていたのだ。

 だからこそ、万全を期してこの二人を実行犯として依頼した。実力だけで言えばAランクに相当すると言われているこの二人を。

 依頼する為の金額こそ高額だが、それに見合った仕事はする。

 そういう触れ込みであったし、その実力の一端を見てからはラルドも納得していた。


 だが、期待は残念ながら裏切られた。

 それは事実である。


「確かに、情報が少なかったために俺達も侮っていた。次に相対する事があれば、同じ展開にはならんだろう」


 勝つにしろ負けるにしろ、次の戦いはどちらかが消えるまでやる事になるだろう。

 ……少なくとも、シグマの中での戦いとはそうなっていた。


「その者達は何者だ? 金で動く者達ならば、こちらに寝返らせるという手も―――」

「無駄だ。奴等は正規のギルドのハンターで、Bランクにまで上り詰めた者達。そんな簡単に鞍替えするようなくだらねぇ連中じゃねぇよ」


 ヴァイオレットの指摘に、ラルドは舌打ちする。


「まあ、こっちも前金で報酬を貰っている以上はきちんとやるさ。まだ、依頼は有効だろう?」

「当然だ。こうなってしまっては、最早後戻り等出来んのだ。今度こそ失敗は許されんぞ」

「あいよ。任せときな」


 ヴァイオレットは妖艶な笑みを浮かべ、口元をペロリと舐める。

 扇情的な態度ではあるが、この場合はゾクゾクと身体の芯が震えるといった方が正しい感想だ。

 思わず視線を逸らし、視線の先に鏡がある事を確認する。


 その鏡には、すっかり歳を取った男が映っていた。

 今は染めているが、髪には白いものが混じり、顔には深い皺が刻まれている。腹こそ醜く出っ張ってはいないが、中年ではあるからそれなりの体型だ。


(歳はとった……だが、だからと言ってここで終わりでは無い!)


 ラルドは、僅か30代にして内務大臣の地位に上り詰めた男だ。

 元々は、彼も純粋にこの国を良くしようと思って王に仕えてきた。その志は嘘では無かったのだ。


 それが、欲に変わったのはいつの頃だったか……。


「ラルド様! 大変です!!」


 これからどうするべきかと考え込んでいたら、突然屋敷の外に待たせていた部下が部屋へ飛び込んできた。


「何事だ! 騒々しい!!」

「そ、それが……セルジオ殿下が……ご帰還されました」


「な……なんだと―――!?」




◆◆◆




 さてさて、ここがルーベリー王国の王宮という事でござるか。

 なんとなく、主の世界のシネマとやらで見たアラベ系? アラブア系?とやらの宮殿っぽい雰囲気でござるな。

 拙者ことゲイルとフェイ殿は、セルジオ殿下の護衛として彼に同行し、こうして第一都市ラクシャのその奥部に存在する王宮へとやって来たのでござる。


 なのでござるが、いざ王宮へ……となった所で問題が発生。

 セルジオ殿下がこうしていざ王宮に乗り込もうとした所、当然ながら衛兵に足止めを食らったのでござる。


「おいおい、次期王様が帰ったってのに、随分な扱いじゃねぇか」


 顔に刺青タトゥーの入った金髪短髪の青年……主が言う所のヤンキー野郎ジェイド氏が、突き付けられた槍の矛先を見て悪態をつく。


「黙れ! 突然現れておいていきなり通せるはずがないだろう!」


 正論でござる。

いきなり王子が帰ったから王に会わせろと言われて、はいそうですかとはならんでござるよな。

 とは言え、この場合はどうするべきか。力尽くで突破しても構わないのでござるが……。


『それだと、余計な問題を起こすだけなので、絶対にやめてください』

「分かっているでござるよ」


 フェイ殿の言葉に軽く頷く。

 ちらりとセルジオ殿下を見れば、平然と辺りを観察している。さすが、王族だけあって肝が据わっているでござるな。


 しかし、こうしていても埒が明かないのは事実。早い所、話の分かる者が現れるといいのでござるが……


 と思っていたら、何やら拙者達に槍を突き付けていた衛兵達がざわざわと騒ぎだした。

 そして、槍を突き付けられていたセルジオ殿下が、突然その場に膝をつく。座り込んだと言うよりは、跪いたのだ。


「お、おい!」


 目の前の衛兵は殿下の突然の行動に戸惑っている様子だったが、隣の衛兵が引きつった顔で肩を叩くので、恐る恐る背後を振り返った。


「―――!!」


「……お久しぶりです。……陛下」


 膝をついたまま言葉を発する殿下。

 その先に立っていたのは、体格は良いがかなり痩せてやつれた壮年の男……ルーベリー王国の現国王だった。……いや、陛下と呼んだから想像でござるけどな。拙者、王様の顔とか知らんでござるし。


 とりあえず、殿下に習って拙者も跪くとしよう。本音を言えば、ただ王と言うだけの理由で跪くのは嫌なのでござるが、これも形式でござる。拙者に習ってか、慌てて他3名も跪いたようでござるな。


 衛兵達は、急いで跪くべきか、それとも不審人物達を急いで拘束するべきか迷っている様子。

 だが、その前に国王が口を開いた。


「……良く帰ったな。セルジオ」

「ハッ」


 その言葉にまたしても動揺する衛兵達。今の言葉が真実ならば、自分達は本当に王子に向かって槍を構えていたのだ。

 とんだ失態。処罰も致し方ないとか覚悟しているかもでござるな。


「長旅で疲れているだろう。まずは休め」

「ハッ! ですがその前に陛下、この者達はエメルディアに滞在していた頃よりの大切な護衛にして友人。彼らの王宮に共に入る許可をいただきたい」

「構わぬ。部屋は空いている……好きに使うがいい」

「ハッ!」


 と、親子とは思えぬ会話を交わし、王はゆっくりとした足取りで王宮の中へと帰って行った。

 そして、周りを囲んでいた衛兵達は急いでセルジオ殿下の前に整列して跪く。


「も、申し訳ありませんでした殿下! こうなっては、いかなる処罰を受ける覚悟を―――」

「いや、それが君達の仕事なのだから何の落ち度もない。それに、王子だからと言葉だけを信用して簡単に通してしまう方が問題だよ。だから、君達を罰するつもりは無い」

「ハッ! ありがたき幸せ!!」


 とまぁ、これで我々は無事にルーベリーの王宮内部へ入る事を許可されたのである。

 ジェイド氏やミカ嬢は不満そうな顔をしていたが、特に問題は無いでござろう。






「エメルディアのお城にもチラッと入った事はあるけど……こっちの方が綺麗なのだな」


 物珍しげに宮殿の内部をキョロキョロと見ていたミカ嬢がそんな事を呟いた。

 その言葉に、セルジオ殿下は苦笑する。


 内側が綺麗だからと言って、国力で勝っているという訳では無い。むしろ、外観だけならまだしも、民衆からは見えない部分に金を使って何の意味があるのか。

 いや、国力が豊かな国ならばそんな余裕もあってもいいかもしれないが、話に聞く限りルーベリー王国の財政事情は明るい内容では無い。

 であれば、やはり無駄な金という事なのだろう。……嘆かわしい事でござる。


「にいさま!」


 王宮の廊下を歩いていた所、突然そんな声が飛び込んできた。

 ふと声のした方向を見ると、廊下の先にころころと丸く太った10~12歳程度の少年が、目を輝かせてこちらに向かって走ってきていた。

 一応警戒の為に前に出ようとすると、セルジオ殿下がそれを手で制す。


「にいさま! ほんとうにいきておられたのですね! うわぁい、よかったー!!」

「やぁ、ヤサル。君もすっかり大きくなったね」


 自分の胸へと飛び込んできた少年を、セルジオ殿下は優しく抱きとめる。

 その様子を、拙者達4人はポカンと眺めていた。


 ……ん?

 ヤサル?


 もしや、この少年が噂に聞く第二王子のヤサル殿下?


『どうやらそのようですね』


 マジか!

 ん? ん? んん?。

 確か、聞いた話では現在のルーベリー王国の宮中では、第一王子派と第二王子派で二分されていて、一触即発みたいな状況では無かったのでござらんか。

 それが、両2大派閥の旗頭二人が、こんなに仲良くしているというのはどういう事でござるか。




 今までで最長に間が空いてしまいましたが、ようやく続きを書けました。


 ちょいと現在、20話程度で終わる予定の新作小説を書いておりまして、それの執筆に時間を取られた事が原因です。そっちはまだ終わっていませんが、こちらもじわじわとブックマークと評価ポイントが嬉しい事に増えていましたので、一ヶ月が過ぎてしまう前に最新話を書き上げました。


 次話は新作の方が完成してから……とは思っていますが、フッとこちらが書きたくなることもありますので、その時はこっそりと投稿していると思われます。

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