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101話 ルークVSヴァイオレット

 長い事次話が投稿できず、申し訳ありませんでした。

 やっとこさ忙しい日々から解放されましたので、再開したいと思います。




 フェイについての話が一段落し、ゲイルの脳裏にふと思い浮かぶ事があった。

 シグマばかりが強敵と言う印象であったが、後に現れた紫色の髪の女の事も忘れてはならない。

 シグマの相棒だという話だが、現れてからの立ち振る舞いといい、あちらもかなりの強敵といった印象がある。また何より、自分達のようにアイテムも使わずに空を飛んでいたり謎の力を持っている。


「そう言えば、あのヴァイオレットとかいう男言葉の女。彼女はフィリア姫を誘拐しようとしたと言っていたでござるが、ルーク殿は無事だったのでござるか?」

『ああうん。その時のことはね……』




◇◇◇




 ケイとアルカが誘拐犯の存在を察知し、それを捕える為に飛び出してから数分が経過した時の事だった。


 ここから数キロ離れた場所で、激しい爆発音が響き渡る。


「キャッ! い、今のは何の音でしょう?」


 その音にフィリアは怯えたようにナティアへと寄り添う。ナティアもラグオも、辺りを警戒するように見回している。

 だが、ルークには音の正体は分かっていた。


 ……あれは戦闘の音だ。

 ケイとアルカの力ならば、誘拐犯如きすぐに対処する事が出来た筈だ。それが長引いているという事は、それなりの敵が誘拐犯の中に居たという事なのだろうか。


 ジリジリとした気持ちがルークの中に芽生える。

 ケイ達の事は心から信頼している。だが、信頼しているからこそ不安にもなる。怪我をしてほしくないし、万が一あの時のゲオルニクスのようになったとしたら、自分は一体どうなってしまうのか。

 叶うのならば、今すぐにケイ達の元へと駆けつけ、そのサポートがしたい。


 だが、忘れてはならない。

 今の自分の役目は、彼女達の護衛なのだ。

 自分がケイ達を信頼していると同時に、自分も彼等から信頼されているのだと言う事をしっかりと認識しなければ。


(ようし、僕は僕の出来る事をするぞ!)


 と、ルークが決意を改めた……その時だった。


「おう、アンタがお姫様かい? ……いや、アンタは男か。金髪の女だっていうから、そっちだね」


 突然、声と共にその者は現れた。

 気配も敵性反応も全く反応しなかった筈だ。


『え――――――?』


 最初はルークの顔を見ていたようだが、やがてルークが男だと気づいたのかフィリアへと視線を向ける。

 突然“姫”と呼ばれ、フィリアはポカンと口を開けていた。


 が、やがて言葉を認識できたのか、その顔が真っ赤に染まっていく。


「な、何の事でございますか? 申し訳ありませんが、人違いではありませんの?」


 なんとかそんな言葉を絞り出すが、言われた女は「はいはい」と生返事をして、ゆっくりとフィリアへ近づいていく。


「悪いけどこっちも仕事でね。あんたがこの国のお姫さんだって事はとっくに調べがついてんだ。だから、無駄な問答はよそうぜ」

「な、何をするつもりですの?」

「誘拐させてもらうわ。別に死体でもいいって言われてんだけど、子供殺すのは勘弁なんで、抵抗しないで捕まってくんない? そしたら痛い思いしないで済むよ―――」


 その言葉をルークは最後まで言わせなかった。

 ダンッと大地を大きく踏み込み、女とフィリア達の間に巨大な土の壁を作り出す。勝手に動かれても困るので、ドーム状に囲うようにして簡易的なシェルターとする。


「な、何!? なんですの!?」

「う、うわ! 真っ暗だよ!!」

「なんだよこれは! 何も見えないよ!!」


 突然の事にフィリア達は戸惑っているだろうが、女の方はすぐにこれをやった相手が誰なのか理解したようだ。

 ルークへ視線を向けると、ニヤリと獰猛どうもうな笑みを浮かべる。


「こいつはスゲェ。お前がお姫さんの護衛って事かい。全く、簡単な仕事かと思っていたら、とんでもねぇナイト様が居たもんだ」

『悪いけど、誘拐なんてさせないよ』


 ルークも気を引き締めて女を睨み付ける。

 肉食の獣を連想させる獰猛な笑みでこちらを見られるというのは恐ろしくてたまらないが、今は自分の役割を果たす事だけを考えるのだ。

 本来ならゴゥレムを出すべき状況なのだが、あれは取り出しと組み立てる事に少しばかり時間が掛かる。一対一という状況で、そんな大きな隙を作る行為は避けた方が良いだろう。

 ……ならば、魔法と格闘で攻めるしかあるまい。


『ぬんっ!』


 ルークは力強く大地を踏み込むと、左手を腰に溜めて右手を手刀の形にして前に突き出す。

 ケイの知識にあった、空手の型……のつもりである。


「ハッ! ガキが戦いの真似事か? 馬鹿な事やってねぇで―――!!」


 女が笑い飛ばそうとした頃へ、ルークが飛び出していた。

 拳を突き出し、女の腹部へと正拳突き。


「うぐっ!」


 続いてサササッと女の背後へと移動して背中に肘打ち。そのまま女の身体を駆けあがり、自身の身体を回転させてその遠心力でもって女の後頭部へと踵落しを決める。


「ダァーッ! いってぇーッ!! このガキ離れやがれ!!」


 ちょこまかと動くルークを捕まえようと女は躍起になるが、当のルークは側転とバック転でもってそそくさと距離を取ってしまった。


 このように、ルークはケイと同様に戦闘技能のインストールを済ませているため、格闘能力もそこそこのレベルで高かった。何故今まで披露しなかったかと言われれば、ただ単に機会が無かっただけの事である。また、体格が子供なせいで手足が短いのだ。その為にケイやゲイル達と組手がし辛いと言う難点がある。


『お姉さん身体すっごい硬いんだね。結構重くして打ちこんだってのに大して効いてないや』


 この場合の硬いは、関節が硬いのではなく単純に身体の表面が硬いという事だ。

 ルークの身体は土によって構成されている。よって、土を取り込む事で体積を変えたり、重さを変えたりと言った芸当も可能である。

 今のルークの身体は実は500キロほどの重さがあったりする。それほどの重さで打撃が加われば、相当な衝撃となるだろう。だというのに、女はビクともしていなかった。それもまた恐ろしい話だ。


 当の女はと言えば、苛々と髪を掻き上げてルークを睨み付けている。


「てめぇ何モンだ。この国にてめぇみたいなガキが居るなんて聞いてねぇぞ」

『……そうだね、名乗ろうか。僕はBランクハンターチーム……アルドラゴの一員にしてリーダーレイジの弟分……その名もルークだ!』


 サッとポーズを付けて名乗り上げた。効果音があるのならバーンという音が背後で鳴り響いていただろう。

 今は遠くで鳥の声が聞こえるのみである。


「あん? Bランクハンター? まさか、てめぇみたいなガキがBランクハンターだと?」

『ううん。Bランクなのは僕達のリーダーだけ』

「ああそうかよ。なら良かった……」

『僕はCランクハンターだよ』

「結局脅威じゃねぇかよ! その歳でCランクってバケモンか!」

『えへへ。よく言われる』


 それに、中身は普通の人間のケイと違い、ルークは人間ではないのだから仕方ない。


「まぁいい。そっちが名乗ったんならこっちも名乗ろうか。オレはヴァイオレット。闇ギルドに所属している裏ハンターだよ」

『裏ハンター?』


 聞きなれない単語にルークは首を傾げる。


「ガキにはまだ分かんないかもしれねぇが、お前等の所属しているハンターギルドが主に人助けをメインに活動しているなら、裏ハンターは表立って公表できない悪い事をメインにしているって訳だ。今回みたいな誘拐、盗み……時には暗殺とかな」

『暗殺……お姉さんやっぱり悪い人なんだね』

「まぁな。オレは元々の世界でも裏の世界で生きてきたからな、こっちの方が性に合ってんだよ」

『元の世界……?』

「無駄話は終わりだ! ガキを殺すのは嫌だが、てめぇが強いって事が分かったなら、こっちも相応に相手するまでよ!!」


 すると、突然ヴァイオレットと名乗った女の四肢の筋肉がボコンボコンと膨れ上がった。

 アーマードスーツ!?

 いや、これは装備による力ではない。ヴァイオレットの体内に宿るは膨大な魔力。あれは、魔法による筋力増加だ。


『お姉さん……魔術師!?』

「おうよ! だが、好きなのは……単純な殴り合いだッ!!!」


 ヴァイオレットは拳を振りかぶり、ルークに向けて突進した。

 かなりのパワーが込められた拳。あれを受ければ、ルークの身体も無事には済むまい。

 ……まともにくらえばだ。


 ルークは右の掌を大地へ置くと、大地そのものを吸収するように右腕に纏わせていく。

 やがて、ヴァイオレットよりも巨大な土の腕を精製し、同じように振りかぶって拳に拳で対抗する。


『メガトンパーンチッ!!』

「名前がだせぇ!!」


 拳と拳が激突し、辺りにパーンッという衝撃波が響き渡る。

 打ち据えた衝撃でルークの土の腕は崩れ落ちたが、ダメージは無い。

 続いて瞬時に足元に土を纏わせ、ドロップキックを浴びせる。ヴァイオレットはまともにくらいつつもその足を掴みあげる。


「うらあぁぁぁっ!!」

『わわわっ!』


 足を掴んだままジャイアントスイングの要領でルークの身体を振り回そうとするが、ルークは脱皮するかの如く足の土を解除してその場から離脱。

 離脱の最中に地面に手を置いて、ヴァイオレットの足元に土のトゲトゲを出現させる。が、そのトゲはヴァイオレットの肉体には突き刺さらず、彼女は「おらぁっ!」という気合と拳のみで次々に出現するトゲを打ち砕いていく。


『凄いな! お姉さん本当に人間!?』

「ハハッ! お互い様だろうが!! ちなみに、似たような事ならオレも出来るぞ!!」


 ヴァイオレットはそう言うと、拳をそのまま大地へと叩き付ける。

 すると、撃ちこんだ拳を起点として大地がボコボコと隆起していく。突然足場が盛り上がった事でさすがのルークもバランスを崩してしまった。


『わわわわぁーっ!!』


 その隙をヴァイオレットは狙っていた。

 大地を蹴って即座にルークの背後へと回り込むと、その身体を羽交い絞めにする。


『やめろー! 何する気だ放せー!!』


 やや大げさに叫んでジタバタと暴れてみるが、ヴァイオレットの身体はビクともしない。

 そして当のヴァイオレットは妖艶な笑みで口元を舐め、口を開いて鋭い犬歯……いや牙を露わにする。


「お前の事は気に入ったぞ糞ガキ。だから、オレの部下にしてやる」


 ヴァイオレットはそのままルークの首筋にガブリと噛みついた。

 その鋭い牙はルークの喉を貫き、血を溢れ出させ――――――無い。


 ガキッと、嫌な音が響いた。


「いってぇーッ!! なんなんだてめぇの身体!? むっちゃくちゃ硬ぇ!!」


 自らの歯を抑えてヴァイオレットがルークの身体を放り投げる。

 ルークは空中で身体をクルクルと回転させて着地。そして、噛みつかれた首筋に手を当ててみる。今のルークは500キロの土の塊が凝縮されたものだから、そりゃあ硬いだろう。

 それにしても、噛みついて何をするつもりだったのか。頸動脈を噛み切ろうとしたのなら、最初に言っていた子供は殺さないという言葉と矛盾する。

 いや、今の行為に近い知識をルークは持っている。

 主にケイの頭の中にあったサブカルチャーの知識で。


『……お姉さん、ひょっとして吸血鬼ってヤツ? そんで、僕にウィルスを流し込んで配下にしようとしたとか、そういう事?』


 ルークの言葉に、ヴァイオレットは顔を強張らせた。


「糞ガキ……なんでその言葉を知ってやがる。しかも、吸血の意味まで知ってやがるとはどういう事だ?」


『え、マジで吸血鬼さんなの?』

「その呼び名は嫌いだが……確かに、お前の考えている存在で間違いない。それにしても、へんてこな身体と言い、お前と言う存在にも興味がわいてきた。こりゃあ、捕まえるのはお前の方にチェンジしとくか」

『……ふんだ。やれるもんならやってみろよ。言っとくけど、僕は手ごわいぞ』

「みたいだな。こうなったらそれなりに本気でやるぜ……」


 二人は改めて構えをとり、戦いを再開しようとしたが、遠く……今まさにケイ達が戦っているだろう場所で激しい爆発音が響き、互いの視線がそちらへ向く。


『リ、リーダー!?』

「ああ、そうだった。こっちにお前さんみたいなのが居るんなら、あっちにも手ごわいのが行っている可能性があるか。オッサンはともかくして、あの依頼人は貧弱だからな。一旦退いた方が身の為か」


 ヴァイオレットはそう言うと、あっさりと構えを解き、ルークに背を向けてダッシュでその場から去って行った。

 その途中で一旦振り返り、


「おう、糞ガキ! つー事で続きはまた今度だ。じゃあ、また会おうぜ」


 という言葉を残して去ったのだった。

 当のルークはと言えば、一瞬追いかけるべき迷ったが、自分の仕事はフィリア姫や友人達を守る事だと思い直す。

 そして、先ほど言われた言葉を思い返す。


『出来れば二度と会いたくないな……』


 と、げんなりしていた。

 やはり、見た目が人間となると、いまいち戦いもしにくい。それに、もっとゴツイ男が相手ならまだしも、女の人だったし。……中身はともかくとして。


 やはり、ヒーローたる者、敵は分かりやすい化け物な見た目をしている方が良いな。

 ルークはそう考えたのだった。




 二週間ぶりの投稿になります。

 見捨てないでくれて本当にありがとうございます。


 本来ならばバトルはちょっとで終わる予定だったのですが、書いていたらいつの間にか一話分の文字数になってしいました。相変わらず構成が下手です。


 仕事の方も3月までの忙しさは無いと思いますが、まだ安心できません。次話の方もなるべく早く投稿できるように努力します。

 休んでいる間のブックマーク追加と評価、大変励みになりました。では、今後もアルドラゴをよろしくお願いします。

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