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100話 完全なる敗北

 またしても遅れて申し訳ありません。

 四月に入らないと、週2~3の投稿は無理かな……。とりあえず、出来る限り頑張ります。




 シグマとの戦いから半日が経過。

 チーム・アルドラゴの四人は、久しぶりにアルドラゴへと帰還し身体を休めていた。


 だが、メインルームであるブリッジに集まる面々の表情は暗い。

 そしてその中に、暫定艦長であるケイの姿は無かった。


「してアルカ殿、フェイ殿の容態はどうでござるか?」


 重苦しい空気が室内に充満していたが、まず口火を切るようにゲイルが尋ねる。


『生きてはいるようです。……ただ、この場合はデータが完全に消えていないという事になりますが。相変わらず意識は戻っていません』

『僕のせいだ……。僕が一緒に居れば、フェイ姉ちゃんがあんな事にならずに済んだのに……』


 部屋の隅で、ルークが体育座りのまま膝に顔を押し付けている。確かに、ルークが居れば相性の問題でもう少しスムーズに戦えたはず。あの場において、自分やフェイが参戦する事も無かっただろう。

 だが―――


「それならそれで、フェイ殿の代わりにルーク殿が今の状態になっていただけの事。自分を責めても仕方のない事でござるよ」


 あのシグマが放った黒い球の一撃。あれに対処する術は、全く思いつかない。何せ、あれほどの硬度を誇ったフェイの装甲を、いとも簡単に消し去って見せたのだ。対象がルークのゴゥレムであったとしても、まともにくらえば無事では済むまい。


『でも、リーダーは……』

「とは言え、そう簡単に割り切れるものでもないでござるからな。あるじの場合は少し時間が掛かるでござろう」


 今ここに居ないケイの事を思い浮かべ、ゲイルは軽く首を振る。

 恐らく、フェイがああなった事で一番ショックを受けているのは彼だ。この中では最もフェイとの繋がりが薄いというのに、あの打ちひしがれ様は酷いものだった。最も、それこそケイらしいとゲイルは思う。だからこそ、彼を主として認識しているという事でもあるのだが。


 またしばらく沈黙が続く中、それを打破するようにゲイルが常々思っていた疑問を口にする。


「拙者にはまだ完全に理解できてないのでござるが、元々フェイ殿がこの船の“えーあい”とやらであるならば、またこの船に戻す事も可能なのではござらぬか?」


 そうすれば、フェイの主とやらに今後引き渡す事もない。そのままこちらの仲間に取り戻す事が出来るのだ。

 だが、アルカは目をつむって首を振る。


『それは当然試しました。ですが、私達のように意識を収める本体とも言える魔晶に相当する物が、フェイの中に存在しないのです』


 アルカのその言葉にゲイルは首を傾げる。


「それだと何か問題があるのでござるか?」

『つまり、今のフェイは本体では無いという事です。私達はこの艦にあるコンピューターか魔晶を本体としています。そして時折移動端末であるバイザーに意識を移す事が出来るのですが、これはサブコンピューターという事で……』

「すまぬ。その辺の専門用語は拙者にはまだ難しいでござる」

『ぬ、そうですか。えーとそうですね。例えば、以前ゲイルはゲオルニクスさんと魂を共有していたと思いますが、その魂だけになって別の肉体に宿っている状態が今のフェイという事ですね』


 なるほど、それならば理解できる。


「……という事は、その肉体と言えるものが別にあるという事でござるか?」

『そういう事ですね。残念ながら、その本体がなくてはフェイをこの艦に戻す事は出来ません』

「ふむ……勝手に裏切らぬようにその本体とやらを人質に取られているようなものでござるか」


 ままならぬものである……と感じながら、ゲイルは医務室のある方向へと視線を向けた。




◆◆◆




 俺の目の前には、ベッドタイプの日焼けサロンマシーン……みたいな形の医療カプセルがある。その中に、物言わぬフェイが横たわっていた。

 身体の左上部分をぽっかりと円上に切り抜かれた無残な姿。顔も左半分が無くなっている為、見るからに痛々しい容姿となっていた。最も金属の肉体という事から、血や内臓が確認できる訳でもなく、身体の断面はまるで金属を機械で加工したかの如く綺麗である。

 そしてこの医療カプセルの中に置くという行為に意味は無い。俺にとって単なる気休めでしかない。


 あの戦い以降、フェイの意識が戻る事は無かった。

 アルカの話では死んでいる訳では無いようだが、意識が戻らない以上は安心できるものでは無い。


 それに、俺がこんな状態にしたも同然だ。

 あの時、戦闘をフェイに任せるのではなく、数人がかりで戦うべきだった。そうすれば、戦いはこちらの勝ちだった筈だ。何の犠牲も無く、戦いを終わらせる事が出来た。

 そうするべきだった。

 そうかるべきだったのに……。


 明らかに俺の判断ミスだ。

 だから言ったのに。俺にはリーダーや指揮官の才能は無いんだって。

 それでも、暫定艦長という立場から仕方なくやっていた。でも、こういった事態になると、本当に自分は器では無い事が実感できる。


 姉であるアルカや弟であるルーク、そして下手をすれば俺よりもフェイと付き合いの深いゲイルは俺を責めなかった。出来れば責めて欲しかったな。俺がフェイをこのような姿にしたのだと、本気でなじって欲しかった。


 どうしてこんな事になったんだ……。

 俺は、シグマとの戦いを思い返してみた。




◇◇◇




 俺とアルカは、シグマが左手に発生させた黒い球体によってフェイの身体の左上部分が綺麗に消し飛ばされた瞬間を目撃した。


「フェイ殿ーーッ!!」


 ゲイルの絶叫と共に、極太の光の矢がシグマへと放たれた。

 ゲイルの持つ風雷丸には、かつての聖騎士戦においての反省から、最大チャージ時のエネルギーを一発分だけストック出来る仕組みになっている。

 それを使用したのだろうが、加速装置のあるシグマは当然避けられる筈で――――――


「!!」


 ――――――シグマの腕が宙を飛ぶ。

 光の矢を避けようとしたシグマであったが、完全に避け切る事は叶わず、フェイを戦闘不能とした左腕に直撃を受け、その腕が宙へと放り出された。


 何が起こった?

 何故、避けられなかった!?


 俺達の疑問を余所に、衝撃に片膝をついたシグマ目がけてゲイルの弓の乱射が続く。


「チッ」


 シグマは軽く舌打ちし、やはり加速装置ではなく普通のスピードでゲイルの放つ矢を避けていく。そうしているうちに、シグマとフェイとの距離が開いた。


 今だ!


 俺とアルカはフェイへと駆け寄り、その無残になった身体を抱き起す。


『フェイ……フェイ! しっかりしてください!!』


 アルカは必死に呼びかけるが、フェイの瞳は虚空を見つめたまま反応する事は無かった。


 くそ! 間に合わなかったっていうのか!?


『まだです! まだ死んだわけではありません!! 急いでフェイをアルドラゴへ!!』

「アルドラゴ!? そ、そうか!!」


 確かにアルドラゴへ行けば、治療器具やなんかは揃っている。それに、フェイは元々アルドラゴのAIだ。艦に戻ればきっと助ける事が出来る!


 だが、それには……。


 俺は、ひたすらに最低限の動きのみでゲイルの矢を避け続けるシグマを睨み付けた。

 コイツが目の前に居る以上、その選択肢を選ぶ事は難しいだろう。それに、アルドラゴへ向かう為にはゲートの魔法を使うしかない。人間サイズ一人分を運ぶのであれば、やはりルークの力添えが必要だ。この場へルークを呼ぶにしても、こちらから向かうにしてもやはりコイツを何とかしないといけない。


 そのシグマであるが、加速装置を使用していないというのに、ゲイルの矢を避け続ける等、並大抵の反射神経では無い。またいくら目で矢の射線を読み取れたとしても、人間であるなら身体がついて行かないだろう。……それを可能とする機械の身体という事か。


 ……今度は見誤らない。


 さっきは援護すべき時に行動しなかった。

 ならば、今度こそ援護する為に行動する時だ。


 俺はトリプルブラストを構え、照準をシグマへ向ける。


「おおおおっ!!」


 銃口が炎を噴き、回避に徹していたシグマの胸部に命中する。だが、シグマはほんの少し仰け反っただけであった。ギロリと睨まれたが、対して俺はほんの少しだけ笑みを浮かべた。

 命中した。

 やはり、加速装置は使わない。

 使わないのか、使えない理由があるのかは定かでは無い。ならば、チャンスは今しかあるまい。とは言えボディに耐火機能でもあるのか、ファイヤーブラストの一撃もそれほどダメージを受けているように見えない。

 だとするならば、ゲイルの最大チャージ風雷丸で腕をもぎ取ったように、レーザー系の武器で攻めるしかないだろう。

 となると、現状の選択肢はハードバスターかハンドバレット。どちらも撃つまでの時間が多少かかる。あれほどの反射神経と回避速度……狙って撃ったとしても、命中するとは思えない。

 と、するならば……


『ケイ!?』


 アルカの声を背に、俺はヒートブレードを片手に飛び出した。

 そう、俺が援護をするんじゃない。


「ゲイル! 俺を援護しろ!!」

「! ……承知!!」


 フェイの代わりに、俺が接近戦を務める。敵に超振動があろうが知ったことか。

 まずはヒートブレードで一撃を浴びせる。シグマは避けるか防御するだろうが、その動きは限られる。その動きが止まった瞬間に、ハンドバレットのゼロ距離射撃……バーンフィンガーをぶちかましてやる。それさえ直撃出来れば奴を倒せる!


 そう判断し、初撃とばかりにヒートブレードを振り下ろしたのだが、その刃はシグマに触れる事無く空を切った。そう、目の前からシグマが消えたのだ。


「!!」


 加速装置を使えない以上、確実に当たるタイミングだった筈だ。だが、その手に手応えは無い。まさか、加速装置が復活したと言うのか?

 俺は急いでシグマの姿を探す。すると、意外な方向から声がした。


「無様だなぁ。よもや、こんなガキどもに後れを取るとか、耄碌もうろくしたとかそういうレベルじゃねぇぞ、おっさん」


 聞き覚えのない声。しかも、女だ。しかも、その声がしたのは上空だ。

 俺は慌てて視線を天に向ける。


「……あ」


 そこに、シグマと見知らぬ女が居た。

 いや、より正確に表現するならば“浮いていた”。


 見た感じの年齢は、20代半ばから後半といった所だろうか。身体は黒いライダースーツのようなものに包まれており身体のラインがよく浮き出ている。その頭部は短い鮮やかな紫色の髪に、アルカやフェイとは違う妖艶な美貌を持つ女だった。だが、その口元は獰猛な獣のように笑みが浮かんでいる。

 女は、翼が生えている訳でも無く、ただそこに平然と浮かんでいた。その手はシグマの肩を掴んでおり、シグマ自身の力で飛んでいる訳では無い事は理解できる。

 どういった理屈で飛んでいるか分からない。だとすれば、この女は何者だ?


「よう赤いガキ。オレの名前はヴァイオレットってんだ。一応、このおっさんの相棒って事になってる」


 ヴァイオレットと名乗った女は、まるで男のように荒々しく宣言した。

 シグマの相棒……やはり、敵と言う事か。

 俺は剣を構えようとしたが、その次の言葉を聞いて絶句する。


「ところで、あのお姫さんの護衛についていた子供はお前の仲間か? いやいや、こっそりと連れ去ろうとしたらとんでもないナイト様がついていたもんだ」


 お姫様の護衛……まさか―――


「ルークに何をした!?」


「お、落ち着けよ。ルークってのはあの黄色い髪のガキだよな。別に何もしてねェよ。……いや、ぶっ飛ばそうとしたのは事実なんだが、予想以上に手ごわいもんだから、とりあえず逃げてこっちの様子を見に来たんだわ。そしたら、おっさんも結構なピンチみたいだし、こりゃあ今回は引いた方が良いかなと判断して、今に至るって事。……理解したか?」


 その言葉を信じるならば、ルークは無事のようだ。

 それにしても、俺達があの場を離れている間に、まさか伏兵が襲い掛かっていたとは……。

 ああくそ! 色々と考えが甘かった!!


「ま、とりあえず今回は痛み分けって事で、諦めるから安心しな。ただ、一応受けた仕事は仕事なんでな。またいつかやり合う事になるだろうが、その時はマジでやろうぜ。あのガキにもよろしく言っといてくれや」


 ヴァイオレットと名乗った女は、それだけ言うとそのまま宙を飛び、岩陰に隠れていた誘拐の首謀者らしき男を連れて去って行った。


 俺は荒い息を吐きながら、その場にへたり込む。


 とりあえず、終わった。


 だが、なんだこれは。

 なんだこの結末は!


 痛み分けなんて話では無い。

 負けだ。完全なる負けだ。


 全て、俺の考えの甘さが招いたツケだ。


「ちく……しょう!!」


 苛立ちと怒りを込めて、全力で大地を殴りつけた。

 ……当然、淀んだ気持ちは一切晴れなかった。




 遂に100話達成です!

 記念すべき話で、スカッとしない結末で申し訳ありません。


 また、主人公うじうじばかりしていて重ね重ね申し訳ありません。これでも、まだ17歳ですから……。

 ちゃんとスカッとする展開は用意しているので、お待ち頂けければ嬉しいです。


 そして、新キャラもう一名追加。

 口の悪い女傑……ヴァイオレット! どういうキャラクターかは、後々明らかになっていきます。



 とにかく、去年の7月から投稿を開始して、遂に100話まで達成できました。

 正直、今にして思えばあそこはこうするべきだった……と思う部分は山のようにありますし、書きなおしたいと思う部分もあります。……まぁちょいちょい文章の追加はしていたりするのですが。

 それでも、なんとか途中で投げ出さぬよう、ゴール地点目指して完走できるように頑張りたいと思います。


 仕事が忙しくてなかなか続きが書けない日々ではありますが、どうか今後ともよろしくお願いします。

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