08話 現地人初遭遇
その後、3度程襲撃はあった。
尤も、今度は対話なんて事はせず、遠くからBANGBANGで終了である。
だけどその後、手を合わせて祈る事にした。
命を奪ってしまってすまん。
主に俺の罪悪感が僅かに減るだけの作業だが、自分の癖にしていこうと決めた。
そしてその都度、例のクリスタルのような物は手に入った。
調べてみた結果、やはり正体は不明のまま。同じくアイテムボックスの中へと収納してある。
こちらとしては、いつ卵が孵化するんじゃないかと戦々恐々なのだが、アルカが研究したいと言っているので仕方ない。
そんな旅が3時間程経過した頃―――
『ケイ! 集落らしき場所を発見しました!!』
「ええっ! マ、マジか!!」
期待はしていたのだが、こうやって現実となると喜びよりも混乱が勝るな。
「生物は? まさかあのゴブリンじゃないよね!?」
あ、ちなみにさっき計4度程襲ってきたゴブリンっぽい生物の事は、ゴブリンと呼称する事にした。
『目視出来る範囲では生物は確認できず。ただ、集落内に生体反応は確認できるので、屋内に居るだけかと思われます』
屋内……。つまりは建築物を作る知能はあるわけか。さっきのゴブリンにそんな知能があるかと問われると、無いと断言できる。
しかし、待望の集落だと言うのに、いざ見つけてしまったら心臓のドキドキが止まらないな。
外見の問題。
文化の問題。
考え出したら止まらない程に問題が露呈してくる。
ぶっちゃけ、挨拶の仕方だって相手の顔をぶん殴ったり、はたまたキスしたりしてくる可能性だってあるのだ。両方とも絶対に嫌だ。
『どうしました?』
突然ホバーボードを止めた俺を訝しんで尋ねて来た。
「一旦宇宙船に帰ってもいいかな?」
『……はぁ?』
あ、なんか呆れたような声が帰って来た。いや、文字なんで声の抑揚とか分かんないんだけどもさ。
「冷静に考えてみると、今の俺には荷が重すぎる……というか、もっと色んなシュミレーションしてから再度臨んだ方が良い結果を残せる気がしてきた」
あれだ。
高校の面接とかだって、何度も練習したじゃないか。こちとら初めての異星人間の接近遭遇なんだから、もっと練習するべきだと思うの。
まずは入念に下調べして、相手がどんな生態系で、どんな文化を持っているのか、それを研究してからでも遅くは――――――
『1キロ先に生体反応確認!』
「な! な! なにぃ!?」
文字通り飛び上がった。
またゴブリンか!? それとも……
『反応は三つ。反応の一つはゴブリンですが、もう二つはこの星の知的生命体……現地人かと思われます』
「――――――!!」
き、来てしまったこの時が!
まさかこんな状況で第一村人遭遇だってのかい。
やべぇ。どうするよ彰山慶次。今日のところは観察だけで終わるか? 何か、冷静に考えるとそれが一番無難な気がしてきた。映画とかでも、異星人との接近には相当な下調べが必要だった筈。下手にこじれると命に関わる事だからな。後、外交とか。……外交は今はどうでもいいけど。
うん。帰ろう。
そう決めたのだが、ふとアルカの言葉に気になる箇所があった。
「……反応の一つはゴブリンって話だったよな。それって、現地人がゴブリンと一緒に行動しているって事?」
『いえ、反応は三つとも走っていて、前方の二つを後ろの一つが追っているという状況ですね』
「当然、その後ろから追っているってのが……」
『ゴブリンですね』
つまり、襲われているって事かよ。
これって、助けに行くべきなんだろうか?
いや、ゴブリンみたいなのが普通に存在しているって事は、この星の現地人達だって相応の力を持っているんじゃないか? それを見極める為にも、ここは様子を見た方がいいのかも……。
あるいは、ここで助けて恩を売るべきか。そうすれば、集落にだってスムーズに入る事が出来る筈。
……地球人としての俺は、果たしてどちらを選ぶべきなんだろう。
『望遠画像にて、追われている者達をモニターに映します』
答えを出せないままに迷っていると、アルカがそんな事を言い出した。
そういえば、そんな事が出来たんだったな。
うん。ここからそれを確認するだけでも、十分な調査に――――――
「――――――これって、子供だよな」
モニターに映し出されたのは、必死の形相で走る二人の子供だった。
俺の目には、中学生くらいの少年と少女に見えた。前方を走る少年が、後ろに居る少女の手を引きながら、必死に駆けていた。
そして、そのすぐ後ろを追いかけるゴブリン。……姿形は、俺が屠って来たゴブリン達と何ら変わりは無いように見える。
俺の脳裏に、最初にゴブリンと遭遇した時の状況が蘇る。
……オレノ……ナワバリ……オマエ……クウ……
アルカによって訳された言葉だ。
はっきりとした言語能力を持っている訳では無く、大体のニュアンスだという事らしい。地球の動物達の吠え方みたいなもんだろう。
つまり、あのゴブリンは食おうとしているのか?
あの子供達を?
それは駄目だろう。
その結論に達するよりも早く、俺はホバーボードのアクセルを全開にしていた。
目標はここからおよそ1キロ。全開で飛ばせば、その程度の距離30秒もかからない! 当然、全開によるスピードとこちらを襲う風圧に、俺の身体は振り落とされそうになる。
が、ハンドルを握る手は離さない!
逃げる子供二人と、追うゴブリン。
その様子を目視で確認できるようになった。
子供は、地球人……日本人的な感覚で言うならば、小学校高学年から中学生くらい。顔立ちまではこの距離では分かんないな。ただ、二人とも黒髪だ。
見た目はどう見ても人間だな。
異星人だとか、文化の違いとか、あーだこーだ理由を付けて逃げていた自分が居た。振り返ると、恥ずかしくて自分をぶん殴りたくなる。
殺されそうになっている子供を、見逃して良い理由なんて無いだろう。
が、全力でホバーボードを飛ばしているにも関わらず、それよりも早くゴブリンの方が二人に接触しそうだ。
俺は咄嗟に片手でトリプルブラストを構え、ゴブリンの後方に照準をつける。
もし万が一当たればラッキーと言えるが、二人に間違って命中しないように、狙い自体は大きく外している。要は、注意さえ引ければいいのだ。
トリガーを引いてファイヤーブラスト弾を放つ。狙い通り、ゴブリンのすぐ後ろへ命中。突然の背後の爆発に、ゴブリンは動きを止めて振り返った。
が、止まったのは二人も一緒だ。爆発音に驚いたのか、後ろを走っていた女の子がその場で転んでしまったのだ。
マズイ!
俺とゴブリンとの距離は、もう10メートルも無い。
トリプルブラストをその場に放り投げると、左腰のアタッチメントに取り付けてあった高周波カッターを掴む。グリップ部分のスイッチを入れると、まるでカッターの刃のような刀身が伸びた。
『アーマードスーツ……10%起動』
スーツの青いラインが発光し、四肢が僅かに圧迫される。最大で100倍だというから、10%という事は10倍か。果たして俺に扱いきれるか……等と考えている暇は無かった。
ホバーボードを蹴り飛ばし、水平に俺は跳んだ。
一度の跳躍では足りない。もう一歩、着地と同時に大地が抉れるほど踏み込み、ゴブリンとの距離を詰める。
そして、目前へと迫ったゴブリン目掛けて、思い切りカッターの刃を振りぬいた。
感触は、例えるならば紙粘土。それをカッターで切り裂いたような感覚だった。
だが、いくら感触がどうであれ、ある程度人の形をした生物をこの手で殺してしまった事は変わりない。
この感触を、俺は忘れないだろう。
この世界の住民……確かに登場はした! 嘘は言ってないよ。
次話、初めて主人公以外の視点のお話です。